第49話 イエティ討伐隊

 とても、本当にとても浮かれていました。

 港町プラムで出会ったグラジオラスさんは私たちが冒険者見習い期の先生でもあるコリウスさんの友人で、私に初めてちゃんとした剣の使い方を話してくれた人です。

 さらに冒険者としてもBランクという実力者。

 冒険者になったからこそ、その凄さがわかります、私とプルメリアが冒険者になって一年近くになりますが、ようやく私たちはDランクです。

 Cランクにあがるにはかなりのノルマや試練があり、現状Cランクですら届く気がしません。

 そんな冒険者ランクでグラジオラスさんは剣のみの実力でBクラスですよ!凄い!尊敬しないわけないじゃないですか!

 興奮気味にこれまでの修練について話していたらツタさん夫婦とはグラジオラスさんも知り合いだったらしくて二人の様子を聞かれたりしました。

 ツタさん夫婦の話はプルメリアもあまり深く付き合いがあったわけでもなかったので、私が一方的にグラジオラスさんに話している状態でした。

 話すのに夢中で気づかなかったんですよ。

 お花摘みに立ち上がった私を追ってきたフィカスさんが席に帰る前に待ち伏せていました、そして現在壁際へと詰めよられています、ぴ、ピンチ!

 こんばんは、ブロワリアです。

 「随分と仲の良い方ですやん?」

 「そうですかね?」

 「あんなに喋るブロワリアちゃん初めて見たわ」

 「話したいことがたくさんあったので」

 「へえ、自分らと居る時はあんなに喋らへんやん」

 段々、いつもの丁寧な口調ではなくなってませんか?

 ぶわりと毛を逆立てたフワフワの尾が不機嫌そうにゆーらゆらと揺れていますし、耳が明らかに私に向いてますし!

 というか、何故私は問い詰められているのでしょう。

 「はぁ、油断したわぁ」

 何の話でしょう、というかこの所謂壁ドン?はいつ終わるんでしょう。

 「なぁ、ブロワリアちゃんはあの男のことどない思ってるん?」

 どうって……

 「コリウスさんの友人でツタさんたちの知り合いで、すごい冒険者?かな?」

 「そんだけ?ホンマに?」

 何なんでしょう、そもそも何故そんな風に聞かれているんでしょう。

 理不尽に問い詰められて不機嫌になり始めた私に気付いたのか私を見下ろしていたフィカスさんがはぁと長い息を吐き出しました。

 「ごめん、自分格好悪いな」

 「そんなことは」

 「そりゃあ自分が知らん付き合いだってあるしな」

 黙ってしまった私をどう取ったのかわかりませんが、フィカスさんが少し困ったように笑いました。

 「んー、なあブロワリアちゃん?」

 「な、何ですか?」

 あ、何か嫌な予感がします。

 この先は聞いちゃいけない気がします。

 しますが!止めれも逃げれもしません!どうしましょう!

 「ヤキモチ妬いた言うたらどう思う?」

 ふぇ?

 「ふぇ?」

 脳内がダダ漏れました。

 「はぁ、格好悪っ。もっと大人らしく余裕見せたかったんやけどねぇ」

 な、な、な、な、な、な、な?!

 どういう状況なんですか?何の話ですか!

 「そ、そんなのまるで……」

 「困る?」

 察しの良いひとです、私が今どう思っているのか気付いているんでしょう。

 小さく頷いたら耳み尾もぺたんって!なんなんですか!ぺたんって!

 「フラれてしもうたな」

 「ち、ちがっ」

 「違うん?」

 この間蓋をした筈の気持ちがぶわりと溢れてしまいそうです。

 「そうか、ならもうちょっと知らん顔しといた方が良い?」

 だから!なんでそう!察しが良いんですか!

 でも、まだ、そうしていて欲しい。

 ズルいとは私だって思ってるけど。

 「わかった、でもムカつくからあんまりアレと仲良くせんで?」

 「え、それは無理」

 チッ

 舌打ちしましたよね??あ、もういつもの顔で笑ってます。

 尾はまだ不機嫌そうなリズムで揺れてますけど。

 席に戻ると当たり前のように隣に座ったフィカスさんをプルメリアが笑ってみてます。

 「今ね、グラジオラスさんの受けた討伐依頼のパーティの話をしてたんだよ」

 「そうだ!何の討伐なんですか?」

 「雪人、イエティって言ったらわかるかな」

 イエティと言えば雪のある地方では定番の魔獣です。

 体毛に覆われた熊のような体躯に猿のように二足歩行をし、凶暴で狡猾。

 手を振り回したりするだけでもかなり高い攻撃力がある上に吐き出す吹雪のようなブレス攻撃は低級冒険者であれば氷漬けにされてしまうという。

 討伐ランクはB以上、群れる習性があるためソロでの討伐は推奨されていません。

 冬があけると人里に降りてきて真新しい畑や冬越しした家畜を狙って荒らしていきます、のでイエティが出る辺りでは春先に討伐隊が組まれるんです。

 「今年は数が多いらしいんだ」

 「そうなんですね」

 「ここ、ユーカリの町長は学生時代の友人なんだ、それで俺に依頼してきたらしい、お前ならイケるとか言って」

 グラジオラスさんがカラカラ笑っています、でもイケるんでしょう。

 「一緒に来るか?」

 「良いんですか?」

 「ブロワリアはいい?」

 「もちろん!」

 食い付きよく返事をしたら隣からピシッと空気が固まった気がしましたが、気の!せい!

 尾がぱしんぱしんと私の背中叩いてる気がしますが!気のせい!

 「ブロワリアさあ」

 プルメリアが何か言いたそうに私を見ましたが、私は聞こえないフリをしました。

 「ああそうだ、ソレ」

 パンジーを指差してグラジオラスさんが苦笑しました。

 「精霊だろ?独特の魔力だしな、従魔としてギルドに登録しておいた方が良い」

 珍しいと攫われたりすることもあるらしく、識別魔法で追跡もつけギルドに登録しておけば、そういうことも減るらしいのです。

 「あまり強い精霊ではないんだろう、何かあっても抵抗出来なさそうだし」

 時々、精霊や魔獣に好かれる人が居てパンジーみたいに着いて回ることがあるとか。

 そんな精霊や魔獣を守るためにギルドも協力しているらしいです。

 「じゃあこの後ギルドに戻って登録しに行きます」

 「ついでだからこっちの討伐パーティも手続きしておこう」

 話はするすると決まり、私たちは明日イエティ討伐に向かうことにして宿に戻りました。

 翌日町の出口近くでグラジオラスさんと落ち合いました。

 「山脈の方から降りてくるらしいから麓の山道から上がろうと思う」

 「はい」

 馬車に乗り拓けた山道を暫く登ります。

 中腹までは道が作られているそうで、ユーカリ町の警ら隊が見張りをする山小屋もあるため、最初の一日はまずそこを目指します。

 山小屋に馬車を置いて、翌朝からは徒歩になります。

 そのため、まだ安全な山小屋では休息をキッチリ取るようにグラジオラスさんに言われました。

 山小屋までは馬車で十時間ほど。

 整備されているとは言っても平された街道ほどではないため、かなり揺れます。

 山小屋に着く頃には身体に多少痛みを覚えましたが、山小屋にある温泉は疲労にかなり効いたようで山小屋での一泊はとてもグッスリ休めてしまいました。

 翌日からは本格的に討伐に向かいます。

 先頭をグラジオラスさんが、その後ろを私とユーコミスが、続いてプルメリア、最後尾にフィカスさん。

 今回は知能の高いイエティが相手なので、殿も大事なんです。

 後ろから襲われてしまえば挟み撃ちですからね。

 でも前にグラジオラスさんが後ろにフィカスさんが居るのはかなり安心です。

 私たちは慎重に雪山を登って行きました。

 

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