第47話 春ですよ

 吹雪の時期が過ぎ、ゆっくりゆっくりと春に向かって足音が聞こえるようになりました。

 こんにちは、ブロワリアです。

 鈍った体を解すように依頼を幾つかこなして、今日はいよいよ空港町を出ます。

 仮住まいの家はまだしばらくユッカ爺が使うので借りたまま、イベリス国内へ向かうのは私とプルメリア、ユーコミスとフィカスさんの四人です。

 パーティとしてはバランスの良い組み合わせではないでしょうか。

 向かうのはユーカリという街です、ユーコミスの話では結構大きな街だと聞いているので楽しみですね。

 ここからユーカリまでは平坦な道が続くので乗り合い馬車に乗ります。

 小さくなる空港町を見送りながら馬車に揺られていきます、ユーカリまでは一週間ほど。

 道中には幾つも宿があり、馬車旅の客は野営ではなく宿に泊まるらしいです。

 ちゃんと宿泊費も運賃に含まれています。

 冬が明ければ交易が始まるため道中は早々に安全の確保をされている上に護衛の冒険者もBランクの方々が揃っていてかなり安心です。

 特に何もなくユーカリまでは楽しい馬車の旅が出来ました。

 町を囲う高い塀を抜ければ、賑やかな街が広がっています。

 空港町に比べて高い建物が多く、ひとつの建物に複数の入居者があるアパートメントが住居の主流らしいです。

 白い土壁に屋根はカラフルで街全体がポップな印象を受けます。

 冒険者ギルドに向かい手続きを済ませて周辺地図を貰ってから宿を探しました。

 宿は冒険者ギルドか商業ギルドのそばにかたまっているようで、どれも大きな宿ばかり。

 私たちが宿泊する宿は熱い砂に埋まる砂風呂が人気だとか。

 早速旅の疲れを癒すために砂風呂へ。

 部屋に戻る頃にはすっかりモチモチつるぴかのお肌になってました。

 部屋で着替えて街に出るため、宿のロビーでフィカスさんとユーコミスと待ち合わせています、私とプルメリアはロビーに向かいました。

 ロビーに着くとちょっとした人だかりがあります、その少し離れた場所で困っているユーコミスを見つけました。

 ユーコミスが私たちに気づいて人だかりを指差します、おや?

 「フィカスさん、囲まれてるね」

 「お姉さんばっかりにな」

 へえ。

 モヤっと重たい何かが胃の奥に生まれた気がしますが、気のせいでしょう。

 私たちに気付いたフィカスさんが慌てて囲んでいた女性たちを掻き分けてこちらに向かって来ました。

 「助かったわぁ」

 「随分人気でしたね」

 「なんや獣人が珍しいらしいて、ってブロワリアちゃん?」

 「なんですか?」

 目を合わせないようにしていた私に気付いたらしいフィカスさんと、ちょっと戸惑っているプルメリアやユーコミスを置いて私はロビーを足早に抜けて宿をさっさと出ました。

 スタスタと歩き出した私を三人が慌てて追って来ます。

 まあ、私が機嫌を悪くする権利なんてないんですよね、わかってますが何故か苛々します。

 そんなこともたまにはあります。

 苛々の理由なんて知りませんよ。

 足を止めて三人が追いつくのを待ちます、小走りに追いついた三人にいつもと同じ顔をして振り返りました。

 「そういえば泉までってどのくらい距離があるの?」

 「そんなに遠くはないかな、一日あれば行って帰れる程度だ」

 「卵ってすぐ孵るわけではないですよね?」

 「お前らずっと連れてたんならすぐじゃないか?一定の魔力をずっと与えられてたはずだし」

 「連れてるだけで?」

 「ああ」

 一日あればというなら明日にでも行きたいですね、プルメリアを見れば同じことを考えていそうだし。

 「明日行ってみよう」

 「今日はもうゆっくりしようぜ」

 ユーコミスが大きな欠伸をしました、私たちも入浴を済ませて休む準備は出来ていますから、明日に備えるべきでしょう。

 何よりお腹が空いています。

 「お腹も空いたしね」

 「じゃあ明日は朝宿のロビーで集合しましょう、プルメリアご飯食べに行こう」

 「うぇ?あ?う、うん」

 戸惑うプルメリアをぐいぐい引っ張って足早に通りを渡り小走りにその場を去りました。

 「あれ、お前のせいだと思うぞ」

 「せやったらええんやけどねえ」

 「タチの悪い奴だなぁ」

 そんな会話が背後で聞こえた気がしますが!知りませんよ!

 手近にあったやたらと可愛い装飾のされたカフェに入り適当に注文して夕食です。

 「ブロワリアさ、その、ね?さっきの」

 「何も!ないからね!」

 「あー、うん、何もない、そっかぁ」

 言いたいことの察しはつくけど、あんまり考えたくない気がするので今は何も聞かないで欲しいと思っていればプルメリアもそれ以上は深く聞いてこなかった、こういう所はずっと変わらないし好きだなと思う。

 プルメリアは昔から無理に聞き出したり詮索したりしないで、私が話せるようになるまでいつだって待ってくれる。

 そんな彼女に何度も救われた村での生活を思い出す。

 「早ければ明日にはこの子と会えるんだね」

 プルメリアが腰に下げている巾着に入った卵をポンとなでました。

 「楽しみだね」

 夕食を終えればもうすっかり暗くなっていました。

 今日の態度はなかったなとか、可愛気ないことしたなとか色々と過ぎる思考を振り切るようにベッドに入ります。

 モヤモヤとした気持ちの正体はまだ気付きたくないのです。

 

 

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