第46話 明けない夜のある日の話
先日ブロワリアとフィカスさんが一緒に出掛けてから、ブロワリアの様子がおかしい。
春だね、まあ外は真冬なんだけど。
こんにちはプルメリアです。
昨日から陽の差さない一週間が始まりました。
ずっと夜です、外は真っ暗。
通常、二つの太陽が沈むと瘴気が増えて魔獣も活発になるのだけど、この時期は魔獣もあまり出てこないらしい。
それでも冒険者ギルドからは町に滞在するCクラス以上の冒険者に見回りとして召集がかけられています。
私もブロワリアもユーコミスもDクラスなので、召集には関係はありません。
冒険者として登録していない、してるけど仮登録のフィカスさんやユッカ爺ももちろん関係がないので、私たちは仮住まいの家に引きこもってる。
魔導書の解読はかなり進んだものの、実際に使用出来る魔法はそれほど多くはなくて肩透かしを食らった気がして、ずっと夜が続く現状も相まって重い溜息が出てしまう。
夜が明ければ一番厳しい雪の時期になるらしく、吹雪けば閉じ込められてしまうので、ひと月近くは引きこもっての生活が続くことになる。
ブロワリアは暗くても鍛錬出来るからと、ちょくちょく外に出てはいるんだけどね。
「本当に真っ暗だね」
窓の外をずっと見ていても変わるわけではないので、リビングに降りるため部屋を出た。
リビングにはユーコミスが弓の手入れをしていたし、ブロワリアとフィカスさんも剣の手入れをしていた。
「今のうちにね」
と笑うブロワリアの隣りをフィカスさんから奪い取り座ると私もメイスの手入れを始めた。
くつくつ笑ってフィカスさんがキッチンに向かいお茶を人数分用意してくれた。
「ユッカ爺は?」
「飛空艇に行っとるよ」
「無事に素材見つかったんだ」
「大変やったよ」
ブロワリアの前に座ったフィカスさんとブロワリアの様子をチラッと確認したけど、特に何もなさそう。
「プルメリア、魔導書の方はどう?」
「解読は進んでるけどね、実際に使えるかってなると半分もないかな」
「そうなんだ」
「私も白属性って珍しいだけで、魔力そのものは人並みしかないからねえ」
大量の魔力を消費するような魔法は使えない、下手をしたら発動出来なかったり失敗した上に魔力が枯渇しかねない。
魔導書は基本使い切り、一ページにつき一回だけしか使えない。
限りがある上に複数回使えないから試すことも出来ない。
解読の手間を考えると不便ではあるんだけどさ。
太陽が差さない、それだけで空気が重い気がする。
はぁと小さな溜息を吐いたのをブロワリアがくすりと笑った。
「夜がずっと明けないって長い雨の日みたいだね」
「あ、わかる」
パチパチと暖炉の火が弾ける音だけが響いていて、どうにも落ち着かない。
「なあ、雪止んでるしちょっと出ないか?」
ふとユーコミスがそう言って弓を仕舞って立ち上がった。
「商業ギルドが主催してこの時期の雪が激しくない日だけギルドの中にある会場を使って有志を集って室内で出店やってるんだよ」
「え?何それ!すごく行きたい!」
「へえ、面白いこと考えるんやねぇ」
「楽しそうですね、是非行きましょう」
早々に武器を仕舞い込み私たちは外出の用意を手早く行う。
暖炉の火をフィカスさんが消して外に出れば、夜の暗さにほの明るく街灯がならぶ。
サクサクと雪を踏みながらユーコミスを先頭にして商業ギルドに向かう。
商業ギルドが近づくにつれて、人がポツポツと増えて来た。
商業ギルドの入り口に立て看板があり、描かれた矢印の方向へ歩くと裏手に続く小径があり、その先は大きなホールのある建物になっていた。
中は外の暗さが嘘のように明るく照らされ活気に満ちている。
調理はその場で出来ないため作ったものを魔導具で温めて販売しているらしく、良い香りがあちこちから流れてくる。
警備のために町の警ら隊も在注しているため、治安もかなり良い。
私たちは広いホールの中にある屋台を巡りながら各々気になった食品を買って用意されているテーブルについた。
「結構色々あるんやねえ」
と手にしたカップを煽っているフィカスさんにブロワリアが「お酒じゃないですか」とツッコミを入れている。
本当に最近二人共距離が近いし、ブロワリアが私以外にも気を許せる相手が出来たなら、やっぱり嬉しい。
ブロワリアが買って来たのであろう芋を揚げたものをひょいとフィカスさんが取って口に入れるとブロワリアがぷりぷりと怒っている、そのブロワリアの口に自分が買ったのであろう串焼きを押し込んで黙らせながら上機嫌のフィカスさん、二人をほのぼのと眺めているとユーコミスがため息を吐いた。
忘れてたけど、ユーコミスは失恋したばかりのはず。
目に毒なんだろうなぁと思うけど、そこはブロワリアの幸せの方が大事なので気付かないフリをしよう。
私もブロワリアの買った芋をひとつ摘んで食べるとブロワリアが串焼きを食べながら「もう!」と怒ったフリをする、そのやり取りを見ていたユーコミスも芋に手を伸ばしたがそれはピシャリとフィカスさんに叩き落とされていた。
来れなかったユッカ爺へのお土産も買い込んで家路に着く。
「魔獣もやっかいだが、熊もなぁ」
「また出たのか」
「まあアイツらも今は森に飯がないからな」
見回りに加わっている冒険者らしき人たちが商業ギルドから出て来た、どうやら熊を売りつけた様子。
危険なほどの魔獣が出たとも聞かないので、私たちは足早に家に向かって歩いて行った、寒いしね。
戻った家にはユッカ爺がリビングで一人優雅に晩酌を楽しんでいた。
私たちはお土産を渡してそれぞれリビングに腰を落ち着けた。
「飛空艇の修理の方は今日で無事に終わったが、次はフィカスに頼んだ素材を使った作業になる」
「修理、結構時間かかったんですね、ありがとう」
「ありゃあ仕方ないさ」
飛空艇の修理の進捗を聞きながら温かいショコラを飲む。
明けない夜の一週間が終われば吹雪の激しい時期に入るらしく、飛空艇は建物の中に仕舞われたらしい。
吹雪の時期が過ぎれば作業に入れるということで、私たちはまだしばらく仮住まいのこの家で引き篭もることになりそう。
まあ、その間にブロワリアから色々いーろーいーろ話を聞きたいしね。
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