第43話 昔話をしようか

 こんにちはプルメリアです。

 朝早くから部屋に来たブロワリアが小さくなってます。

 「まあ機会があれば話してもいいかと思ってたし、いいんじゃない?」

 昨夜、寝付けなくてフィカスさんと話すうちに私とブロワリアの村での話をしてしまったらしく、朝から懺悔しているブロワリアだけど私としてはあまり気にはしていないんだよね。

 こき使われてきたって所はあるけどそれだけだし、むしろ私より身売り同然でエロジジイに嫁入りさせられそうだったブロワリアの方が大変だったはずだしねぇ。

 「そうだね、一回パフィオさんやユッカ爺も入れてちゃんと話してもいいかも、ブロワリアが大丈夫なら」

 「うん、私は平気」

 思い立ったらと言うわけで、フィカスさんとユッカ爺、何故か着いてきたユーコミスと飛空艇に来ました。

 フィカスさんも話して大丈夫なら帝国での安全のためにパフィオさんには話した方が良いと言ってくれたので事情を含めて話をするためにパフィオさんに時間をもらいました。

 内容が内容なので今回はマーガレットを同席させないように言ったせいで随分と手の置き場に困ってるけど、習慣的にマーガレットを膝に乗せてるんだろうか。

 「まあ、産みの両親から引き離されて教会に引き取られた後は田舎だからね、よくある話だよ、擦り切れるまで使い潰して体よく言いくるめてって、ブロワリアが居たからね色々教えてもらううちにおかしいって気付けたんだけどさ」

 「だが、聖堂でそれは違反だろう」

 「うん、らしいね、でもあの頃はそんな事も知らなかったし勿論教えられなかったし」

 「ふ、ふざけるな!そんな奴らなんて俺がぶっ飛ばしてやるよ!」

 勝手に着いてきたユーコミスが一番怒ってくれてる。

 「終わったことだよ、私は今冒険者として楽しくやってるしね」

 パフィオさんもかなり難しい顔をしている。

 「私は、まあ父が家族を人だと思っていなかっただけで」

 「だとしても十六の娘に爺さんを充てがうなど、貴族でもやらないんだぞ?」

 「まあね、それがきっかけで具体的に逃げる算段と決心が出来たから」

 「うん、あれがなければまだ迷っていたかもしれない」

 ポンポンとブロワリアの頭を軽く撫でてフィカスさんがパフィオさんに進言をした。

 「一応、村の状況調べてみたらどないですかね、尋ね人なんて出されてたらたまらんし」

 どうしてかな、ブロワリアとフィカスさんの距離が近すぎる気がするんだけど?

 「そうだな、村の名前などはわかるのか?」

 「あの村自体は名前がないんですよね、近くにある小さな町はアカシアでしたけど」

 「アカシアより北にあったので北の村みたいに呼ばれてました」

 「ふむ、一度調べてみよう」

 村の状況は全くわからなかったので、パフィオさんが調べてくれるのはありがたい。

 ところで、ずっと泣きながら怒ってるユーコミスをどうしようか。

 「こ、こんなひどいことがあっていいわけ、ないだろ」

 まあ酷いと言われたら酷いんだけどユーコミスが泣く話ではないんだよな。

 「そうだ、十数年前のスタンピードの時に女の人の冒険者が一人で村を守ってくれたんですよ」

 「うん、私もプルメリアもその人に憧れて冒険者になりたいって夢を持ったんです」

 「へえ、一人で動いていたならAクラスだな、きっと」

 「いつか会えたら嬉しいなって思ってるんですよね」

 懐かしいあの日を思い出して私とブロワリアが笑顔になると重かった空気がやっと軽くなった気がした。

 話を終えて私とブロワリアはユーコミスを連れて冒険者ギルドに、フィカスさんは情報収集でユッカ爺は飛空艇の修理にそれぞれ向かった。

 ユーコミスからの話では今からひと月は雪の激しい日や穏やかな日が交互にあるらしく、その後は吹雪く時期がひと月ほど続くとか。

 その間には夜が明けない七日間があったりするらしく随分と厳しい土地なのだなと思った。

 動くならこの一ヶ月が良いみたいなので今日は精霊の加護を得たらギルドの依頼を確認に行く予定にした。

 「ああ、空港町には精霊の加護ももちろん女神の加護も得る場所がなくて昨日話した白樺の森の近くにある泉で受けれるんだ」

 町中にないのは初めてです、予定変更で冒険者ギルドに向かうことにした。

 黄色い煉瓦の青い屋根、可愛い建物に冒険者ギルドがある、すっごく可愛い。

 中は閑散としていて人が少ない、ユーコミスの話ではこの時期客船も少なく動きずらいことも重なって冒険者が少ないのだとか。

 依頼掲示板を見てもあまり多くはない様子。

 「近場の採取は少ないんだね」

 「まあエルフ族は魔法なり細剣なり弓なり大体皆使えるから、その程度の採取であれば自分で行ってしまうからな」

 なるほど、話を聞きながら少ない依頼をひとつずつ見ていく。

 ランクがあがったので少し難しいものも増えてはいるのだけど。

 「雪狼の被害が増えてるの?」

 ブロワリアが掲示板を見ながら指差した。

 そこには数枚の雪狼駆除が貼られている。

 「こいつら小規模の群を作るから単体での討伐がしにくいんだよ、賢いから罠も効かないし」

 「強さ的には?」

 「まあまあかな、お前らなら大丈夫だと思う」

 「受けてみようか」

 一枚を手にしてギルドの受付に行く、依頼の受注をしてからギルドを出た。

 ユーコミスに案内されて向かったのは道具屋の立ち並ぶ通り。

 依頼自体は明日から動くとして、防寒含めた買い出しをしないといけない。

 来るまでこうまで寒いと思わなかったからね。

 天幕も現在のものでは吹き飛び兼ねないので、この国の仕様のものが必要になる。

 アレコレと見て回るうちにすっかり時間が過ぎていたのか、周囲が薄暗くなっていた。

 「日が落ちるのが早い季節だからな」

 時間はまだ夕方にもなっていないらしいけど、この時間には日が傾くのを知らなければ明日の雪狼討伐でビックリするところだった。

 買い込んだものをマジックバッグに入れて私たちは仮住まいの家に帰った。

 翌日、依頼のあった農場に向かいました。

 農場近くの枯れた林から来る五匹ほどの群が今回の討伐対象。

 雪の中に足跡が付いているのを慎重に辿る。

 サクサクと雪が鳴り、吹き付ける冷たい風に身震いをする。

 前を歩くブロワリアが手が悴まないように頻りに指を動かしている。

 巣と思われる洞穴が見えると一斉に黒い影が飛び出してきた。

 鋭い前足の爪と灰色に真っ白なタテガミをもつのが特徴の雪狼が私たちを囲むように散開した。

 私は火の付与魔法を魔導書から取り出して自分の持つメイスの鉄球に唱える。

 長剣を構えたブロワリアが周囲の気配を探ってユーコミスが弓を構えた。

 焦れた雪狼の一匹が飛び出してきたのを合図にユーコミスが雪狼の頭を足場に飛び上がり枯木に登り弓をひいた。

 怯んだ雪狼をブロワリアが一閃すると他の雪狼が一斉に飛びかかってきた。

 上から矢が間断なく降り注ぎ、矢を掻い潜ったブロワリアが身体強化を上手く使いながら雪狼を斬りつける、私は漏れた雪狼をメイスの鉄球で叩き伏せていく。

 難なくして五匹の雪狼が倒れ私が瘴気の浄化を行う。

 その間にブロワリアが地上からユーコミスが上から他に雪狼が居ないから探っているが、どうやらこれで今回は全部らしい。

 雪狼の大きく硬い爪は素材として売却出来るので、手分けしてサクッと回収。

 始末を終えて洞穴を確認するも、何もない。

 ひと仕事終えてギルドに向かい依頼の達成を報告。

 うんうん、順調な滑り出しではないかな。

 


 

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