第42話 到着!エルフの国

 眼下に広大な白樺の白い枝葉と真っ白な景色を堪能しながら飛空艇を走らせるとやがて緑と白の見事なコントラストを描いた森が広がっていきます。

 見渡す限りの森の隙間を幾筋もの川が流れて重なりながら網目のように森を縫っています。

 見事な景色に私は口を開きっぱなしです、こんにちはブロワリアです。

 既にエルフ国上空なのですが、停泊出来る空港町に向かいまだ空の旅をしています。

 夕方までには空港町に着くので早々と降りる準備を整えて、窓の外を眺めています。

 森の外周は白樺の森になっていたのにエルフ国に入ると緑が目立ちます、不思議な光景ですよ。

 「あれがそうかな」

 プルメリアが指差した方向に飛空艇が幾つも着陸し離陸しているのが見えました。

 「二人とも、防寒用のフード着て降りるんやで」

 操縦室からひょっこり現れたフィカスさんが会議室の片隅に置かれてある物置を開いて二着のフードを取り出しました。

 プルメリアには薄い緑のグラデーションが付いた白いローブを、私には淡い空色のグラデーションの付いた白いローブを渡されました。

 フードにはプルメリアに金の、私には銀の糸でライン状の刺繍がされています。

 「可愛い!」

 「せやろ?自分とユッカ爺の見立てやからね」

 確かにセンスが良いんですよね、フィカスさんもユッカ爺も。

 飛空艇の内装だって煌びやかではあるけれど重厚感と柔らかさが混在した統一感がある素敵な内装だし、個室の方は居心地の良い素朴な風合いながらも上品、私やプルメリアはどちらかと言うと飾るのは苦手で実用主義なところがあるから二人のこういう少しの気遣いは気恥ずかしいながらも嬉しいです。

 「ローブ自体に暖かくする魔導石を練り込んであるらしいんでちゃんと着て出るんやで」

 そう言って操縦室に戻っていきます。

 ガクンと方向が変わり、飛空艇がゆっくりゆっくり着陸し始めました。

 扉が開くとビュウと強く冷たい風が吹き込みます、私は身震いしてフードを被りました。

 「うわっこのローブあったかい!すごい!フィカスさんもユッカ爺もありがとう」

 「ほんとに温かい、ありがとうございます」

 二人に礼を言えば笑いながら手を振ってくれました。

 二人も防寒用のローブを纏っています。

 フィカスさんは真っ白に金の刺繍が、ユッカ爺は濃い緑に銀の刺繍があります。

 ユーコミスは流石にないようで自前のローブを引っ被っています。

 空港に降り立ち、ゲートに向かいます。

 ゲートで手続きをして町に入ると先ずは商業ギルドに足を向けました。

 白や赤、黄色の外壁は煉瓦造りでしょうか、屋根は青や赤とこれまたカラフル。

 カラフルな街並みを通りに沿って歩くと赤茶色の煉瓦を積み上げた建物が見えました、商業ギルドです。

 中に入り案内の方に半年弱一軒家を借りたい話をすると、すぐに斡旋をしているカウンターに通されました。

 条件などはフィカスさんが交渉してくれて前金で家賃を払ってくれたので、思うより早く家が決まりました。

 「資金はパフィオさまから貰ってるから気にせんでええよ」

 本当にパフィオさんには頭があがりません。

 といっても、行った先々の情報や新しい取引などパフィオさんは通信でやり取りしながらフィカスさんやユッカ爺と商談をまとめているらしく、私たちの旅の支援をしても黒字なのだとか。

 結構なやり手なんですって、出会った頃の横暴ぶりはなんだったんでしょう。

 「ほな、冒険者ギルド寄って家に向かいましょ」

 商業ギルドで滞在登録をフィカスさんとユッカ爺がして、私たちは冒険者ギルドで手続きです。

 冒険者ギルドはすぐ向かい側にありました。

 閑散としているのは季節柄、旅人が少なくなる時期だからだそう。

 私とプルメリア、フィカスさんとユーコミスはここで手続きです。

 フィカスさんはエルフ国のみの冒険者ギルドに登録らしいです、ユッカ爺が欲しい素材があるらしく、採取や討伐をしなきゃいけないということらしいのですが、その間動きやすくするためにパフィオさんと相談してこの手続きをすることにしたらしいのだけど、詳しくはわかりません。

 ただこれでエルフ国でフィカスさんが単独でも依頼を受けたり出来るらしいです。

 そして私とプルメリアはここまでの討伐数が規定を越えたので冒険者ランクがEからDにあがりました。

 Cまではかなり道のりが長くなるらしいのですが、Dランクになれば受けれる依頼の幅がぐっと広がります。

 まあ危険度の高い討伐依頼は受けたくありませんが。

 ひと通りの手続きを終えたら既に夕刻になっていました。

 ポツポツと街灯が点りハラハラ舞う雪の中、街は幻想的な雰囲気を醸し出しています。

 私たちは冒険者ギルドから出て街の南側に向かいました。

 住宅街のようで似たような建物が並ぶうちのひとつにフィカスさんが鍵を開けて入りました。

 三階建ての長方形の建物、入り口から入りリビングダイニングとキッチン、シャワー室など水回りが一階に、二階は三部屋に分かれていてここに男性陣が、三階の三部屋のうち二部屋を私とプルメリアが、空いた部屋は会議室として使うことになりました。

 ユッカ爺のマジックバッグから最低限の家具を運び出して夕飯は飛空艇で作ってきたものを並べました。

 エルフ国で雪の季節が終わるまではここが私たちの拠点になります。

 食後は順番にシャワーを終えて会議室に集合、冒険者ギルドから貰った街の地図と周辺の地図を広げました。

 「この林は奥の洞窟を含めて魔獣も強いものが多い、依頼も避けた方が無難だな」

 ユーコミスが周辺の説明をしてくれています。

 「街の北側にある洞窟はあまり勧めないが、フィカスはここに行くのだろう?」

 「せやね、ユッカ爺の欲しいやつはそこにあるらしいし」

 「プルメリアとブロワリアは行かない方がいい、フィカスが一人で行くなら大丈夫だと思うが」

 多分私たちを守りながらだと足を引っ張るのでしょう、実力差があることは承知の上ですがやはり突き付けられると悔しいですね。

 「二人には俺が紹介したい人がいるんだが」

 ユーコミスが街から西に地図の上に置いた指を滑らせます。

 「白樺の森の奥に錬金術師がいる、コイツに会ってみないか?」 

 「錬金術師、ですか?」

 「今はあまり聞かなくなっただろうが珍しい回復薬なんかは彼らが作っている、その錬金術師だが古代文化に精通しているんだ、プルメリア魔導書を持っていただろう」

 「あ、じゃあもしかしてまだ解読出来てない部分とか」

 「うん、協力を得れると思う」

 「いきなり行っても大丈夫なのでしょうか」

 「先触は出すが協力は大丈夫だろう、俺の叔母だしな」

 「まかさの身内」

 ユーコミスがふふんと鼻を鳴らします。

 「俺は暫く飛空艇の修理だな、フィカス次第で外装に手を加えるつもりだ」

 「責任重大やん」

 当面の行動を話し合い今日はそれぞれの部屋に戻ります。

 不思議ですね、旅を始めてからプルメリアと別の部屋で過ごすのは初めてです。

 いつもなら治安のためにも二人部屋なので一人で部屋に居ると少し寂しく感じます。

 座りが悪くて一階にお茶を入れに行くため降りていきました。

 キッチンに入ると先客がいました。

 「あ、ブロワリアちゃん」

 「フィカスさん?」

 洞窟に入る準備のため携帯食を作っていたらしいです。

 堅めのクッキーみたいな感じでしょうか。

 香ばしい匂いというにはちょっと変わった匂いがします。

 「バターやら砂糖は入ってへんからねぇ」

 苦い笑いです。

 「寝つけそうになくてお茶でも飲もうかと」

 マジックポットに手をかけたところでフィカスさんに止められました。

 「寝つけんのやったらミルクにしとき、作ったるから」

 手早くミルクパンと呼ばれる小さな鍋を出して牛乳に蜂蜜をいれて温めているのを後ろから見ていました。

 「自分も飲むからソファ行こうか」

 そう促されてソファに座ると隣にフィカスさんが座りました。

 ちょっと近い気がします。

 「はい、ホットミルク」

 「ありがとうございます」

 温かいカップを両手で受け取り口に含むとホッとする甘さに、新しい環境で緊張していたと気づきました。

 「ブロワリアちゃんは強くなりたいん?」

 「強くというか、ちゃんと守れるようになりたいんです、昔のように守りきれないのはもう嫌なので」

 村に居た頃の苦い思い出が過ります。

 「話していませんでしたね、私とプルメリアは村から逃げたんです」

 カップに揺らぐミルクを見ながら私はポツポツと村での生活を私とプルメリアの育った、そして逃げるまでの話をフィカスさんに話しました。

 「秘密にしているわけではないんですけどね」

 「まあ、誰彼構わず話すこともないよな」

 ポンと頭に手が乗りました。

 「二人とも、よう逃げたね」

 えらいえらいと笑ってくれてますが、ちょっとフィカスさんの尻尾が不機嫌に揺れてる気がするんですが?

 「プルメリアちゃんのは田舎の村にありがちな話やけど胸糞悪いわぁ、ブロワリアちゃんも無事で良かったわ」

 そう、珍しい話ではないんです。

 回復魔法は使える人が限られていて、教会で回復してもらうには高額の支払いが必要になる、プルメリアのように幼いうちに才が開花した場合は擦り減るまで使い潰される、それを懸念して大聖堂では保護をしているのだけど結局は大聖堂の好きに使い続けられる、私にしても身売り同然に結婚させられてしまったり、それこそ労働力として売られてしまうのもよくある話ではあるんです。

 「ありがちやけど、それが当たり前とちゃうからね」

 逃げて良かったんだと言われたようでポロと涙がこぼれました。

 そのあとは黙ってポンポンと頭を撫でてくれていました。

 落ち着いた辺りで飲みかけだった冷たくなったミルクを飲み干してキッチンに持っていきます。

 フィカスさんは携帯食作りの続きをし始めながら私を見送り、私は階段をさっきよりずっと穏やかな気持ちで上がっていきます。

 部屋に入りベッドに座ると、先程の泣き出してしまった自分が恥ずかしくもあり頭を振ってシーツに包まりました。

 明日からまた忙しくなりそうです。


 

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