第40話 また釣りですか

 快適すぎる空の旅、真っ最中です。

 こんにちはブロワリアです。

 ユッカ爺の自由過ぎる改築が進んだ飛空艇の内装が、快適過ぎてダメになりそうです。

 倉庫として空けていた階下の空白部分にユッカ爺が作ったロフトですが、ちゃんと個室になっているし窓もありフカフカのベッドに室内はロフトとは思えないほどの内装が完備されていて、ドワーフ国から着いてきたユーコミスが居着いてしまいそうになっています。

 「もう、ここに住みたい」

 ダメですよ、何言ってくれてやがるんですか。

 金糸の髪にスラリと高い身長に新緑の瞳のエルフのお兄さんであるユーコミスはドワーフ国で助けたノーム族のサルビアさんが寄越してくれた案内人なんですけどね、案内されていませんね。

 「エルフ国までどれくらい?」

 「全力で翔んだら一日二日で」

 「全力は出さなくていいから」

 「ならのんびり行って一週間だな」

 今は全員で会議室に集合して先行きの相談です。

 「そういえばさ、」

 プルメリアが地図を見ながら首を傾げました。

 「世界地図ってどの国のを見ても中心は帝国なんだね」

 マジックバッグから数枚の地図を取り出してプルメリアが不思議そうな顔をしてるけど、それ村に居る時に習ったよね?

 「プルメリア、村で習ったよね?」

 「そうだっけ?」

 「地図の中心になっている帝国が女神の加護と精霊の加護の丁度真ん中になるから、帝国から東に行くほど比率が女神の加護に西に行くほど精霊の加護が、北は瘴気が強くなり南は全ての影響を受けない代わりに独自の生態系になっているから、わかりやすく世界地図になる時は中心に帝国を置くようになったって」

 プルメリアは首を傾げてるけど、習ったからね!

 「まあ確かに分かりやすいよね」

 うんうんと一人で納得してるけど、ちゃんと習ったでしょう。

 地図を改めて見るとエルフ国までは小さな山や渓谷が多い様子。

 「渓流釣り……」

 ポソっと言ったけど聞こえてるんだよなぁ、仕方ないなぁ。

 「この辺りで釣りに向きそうな休憩スポット探してみる?」

 「森が近い場所は魔獣も増えるから避けたほうがいいだろう、山の方もこの辺りならワイバーンが棲息していたりするからな」

 地図を指差しながらユーコミスが教えてくれました、となるとこの辺りの渓谷から続く川の近くの平原が良さそうですね。

 「マッドシープが居るが、それくらいならどうにかなるだろう」

 マッドシープ、魔羊ですか。

 凶暴ではあるけれど、無理ではないかな。

 「じゃあこの辺りで一回飛空艇を着陸させるか」

 ユッカ爺が張り切っているし、行き先を確認したフィカスさんは操縦室に向かいました。

 残された私たちは休憩のための準備です。

 倉庫に向かい天幕や携帯型のテーブルセット、何故かユッカ爺が携帯用調理魔導具も揃えてくれていました。

 「これくらいでいいかな、足りなかったら飛空艇に戻ればいいし」

 「そうだね、プルメリアは釣りの準備があるでしょう?」

 「それは常に準備してあるから大丈夫」

 プルメリアがマジックバッグから釣竿をチラッと見せましたが、いつも携帯しているのね。

 私は簡易キッチンに向かい、マジックポットにコーヒーをいれました。

 時間を置かずに平原に着いたらしく私たちは飛空艇を降りました。

 「地面だ地面だ」

 「釣りはプルメリアとユッカ爺でいくの?」

 「うん」

 「じゃあ自分とユーコミスくんは周囲の安全確保してくるわ」

 「私は天幕の準備ですね」

 それぞれ持ち場を決めて散開です。

 天幕の下に休憩しやすいよう簡易テーブルをセットして、調理魔導具も出しておきます。

 遠くにフィカスさんとユーコミスが見えます、ユーコミスが手にしているのは弓ですかね。 

 弓は帝国の冒険者ではあまり見かけませんでした。

 同じ弓でもボーガンを持った方はたまに見かけましたが、遠距離攻撃は魔法師が主流です。

 マッドシープの影は見当たりませんし、遠くにワイバーンが飛んでいますが山の方ですね、此方まではかなり距離もあるのでしょう黒い小さな影しか見えません。

 「周辺は大丈夫かな、ああワイバーンやね」

 いつの間にか見回りを終えたフィカスさんが私が見ていたワイバーンに気づいたようです。

 「飛空艇で行く時はあれより高く飛ばすから気にせんでええよ」

 はいと答えて持ってきたコーヒーを三人分用意しました。

 「マッドシープは三体ほど狩ってきた」

 「見える限りは他におらんみたいやし」

 底抜けに青い空、緑の香りにうとうとと船を漕いでいるとプルメリアが走ってきました。

 「大漁!」

 ドンっと置いたカゴに川魚がたくさん入っています。

 「下処理して塩とハーブでオーブンかな、ええサイズやん」

 「でしょ!」

 ユッカ爺も後から上がってきました、やれやれと椅子に座り私がコーヒーを渡すと自分のマジックバッグからミルクを取り出して加えます。

 私はフィカスさんを手伝って魚の下処理です。

 結構な数をテキパキこなしていくフィカスさんはペディルム家護衛隊に入隊したあと、パフィオさんの隊に所属して辺境近くで訓練をしていたらしく、その頃新人が食事を作っていたという事で大量の下処理はお手のものだとか。

 フィカスさんと下処理を終えた魚を天板に並べ塩を振ってハーブをのせていきます。

 その間にあたためておいたオーブンに入れて、魚の準備はオッケー。

 残った魚はコンロに大鍋を置いてスープにします。

 ざっくり切った野菜と魚を充分煮込んで味を整えたら出来上がりです。

 スープと天板ごと魚の香草焼きをテーブルに置いて豪勢なディナータイムですよ。

 まだ夕方ですけど。

 「今日は交代で見張りしながらここで泊まって明日朝から出発しようか」

 「そやね、見通しもええし見張りはしやすいやろし」

 一泊決定です。

 二つの太陽が沈むと辺りは満天の星空に包まれました。

 冷え始めたので見張り組のためにユッカ爺が携帯型暖房魔導具を設置してくれて最初の組み合わせで私とユーコミスが見張りです。

 まだ早い時間は二人で大丈夫でしょうし。

 夜中から朝にかけてはプルメリアとフィカスさんとユッカ爺が見張りになります。

 私はユーコミスと静かな平原を眺めています。

 「こ、この間はその、悪かったな」

 「私よりプルメリアに謝ってください、きっとプルメリアの方が怖かったと思うので」

 ユーコミスが押しかけてきた日、私が見た最初の場面は扉を挟んで必死に閉じようとしていたプルメリアでした。

 普通に考えて怖いですからね。

 「本当に悪かった」

 「もういいですよ」

 間が持ちませんね、気まずい空気が流れている気がします。

 「サルビアとはさ、あれがまだ赤子の頃からの付き合いなんだ」

 「幼い馴染ですか?」

 「ちょっと違うかな、母がサルビアの祖母の教え子なんだ、その縁で数年に一回訪ねたりしてた」

 「そうなんですね」

 「馬鹿だからさ、サルビアが小さい頃に俺の嫁になるって言ったのを間に受けて……」

 ユーコミスの声が震えています、泣いているのでしょう。

 式の招待状が届いてショックを受けているうちに、出席を躊躇っていたらサルビアさんが拐われたらしいです。

 「後悔なんてもんじゃない、くだらない意地を張らずに式に駆けつけていたら守れたはずなんだから」

 慌ててノームの里に着いたら、サルビアさんはとっくに助けられていてサルビアさんから私たちのことを頼まれた、と。

 「いろんな後悔とか苛立ちとか、本当にただの八つ当たりだったしこんなんだからサルビアも……」

 「そこはサルビアさんは関係ないでしょう」

 「そうだな」

 悪い人ではないんでしょうね。

 まあ私にとってはプルメリアに怖い思いをさせたってだけで悪い人なんですけどね。

 そんな話をしているうちに交代の時間になりました。

 プルメリアから卵を預かって飛空艇に入ります。

 「それが精霊の卵か?」

 「そうですね」

 「力は強くなさそうだけど、元気そうだな」

 「わかるんですか?」

 「独特の魔力があるんだ、精霊には」

 へえ、と話しながら私は部屋にユーコミスは階下のロフトに向かいました。

 卵を撫でているうちに私は夢の中へと落ちていきました。


 

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