第39話 失礼な人は要りません

 ひと月以上かかったドワーフ国の探索、空港のある街に着いて三日。

 エルフ国に旅立つ前にギルドで幾つかの依頼をこなしていた、フィカスさんは街に着いて一旦ユッカ爺と合流するため飛空艇に戻った。

 そろそろエルフ国に行くことも考えなきゃならないので、明日は飛空艇に行くとフィカスさんに連絡をした。

 こんばんは、プルメリアです。

 卵の正体が精霊の卵、繭?だとわかったのでちゃんと孵化なのか羽化なのかさせてあげるためにもエルフ国に行って精霊の加護のみの泉を探さなければならない。

 ドワーフ国とエルフ国は国境を開いているものの、エルフ国はあまり帝国と仲が良くないらしく人族に対しては良い顔をしないらしい、幸先不安だね。

 夕食を終えて宿に戻って二人でお茶を飲みながら話をする。

 「エルフ国かぁ、どんな所だろう」

 ブロワリアが不安と期待の入り混じる顔で卵ちゃんを突いている。

 「帝国で見たお芝居はあんまりエルフ国の中の話もなかったよね」

 「うん、ここら辺で聞いてみても良くわからなかったし」

 コンコンと軽いノック音がしたので私とブロワリアは顔を見合わせゆっくり扉を開いた。

 「えっと?」

 見知らぬ青年が目の前に立っていた。

 「不用心だな」

 「はあ」

 しばらく無言で私を見る青年をよく観察してみた。

 金糸の髪は長く緑の瞳を宿した目は不機嫌そうに吊り上がっている、背の高いけれど優雅な佇まいの彼の耳は尖っていた。

 「ノーム族のサルビアを知っているな?」

 「なんです?」

 「彼女から頼まれた、お前たちがエルフ国へ行くなら協力してやって欲しいと」

 「はあ」

 サルビアさんが?よく分からずに生返事になったのが気に入らないのかすっごく不機嫌に舌打ちをされた。

 「聞いているのか?」

 聞いてはいる、いるけど何故初対面の相手にこんな横柄な態度を取られているのかわからない、すごく不愉快だ。

 「サルビアさんのご厚意なんですね、わかりました、ご遠慮します」

 そう告げてドアを閉めようとすると青年が慌ててドアを押さえた。

 「プルメリア?大丈夫?」

 「大丈夫だけど大丈夫じゃないしめっちゃ腹立ってるからブロワリアはこなくていいよ」

 そう言ってグイグイとドアを閉めようとするのを青年が開けようとする。

 「いや、どういうことなの」

 不審に思ったのだろうブロワリアが私の後ろに立ち、状況を確認するなり横から見事な前蹴りを入れてサッサと扉を閉めると鍵をかけた。

 「さっきの何?」

 いや、怖ぇよ。

 ドンドンとブロワリアが蹴り出した青年が扉を叩いているけど、ブロワリアの方の圧が強い。

 え?なんで私が責められてるの?

 って言うかしつこいな、まだ扉叩いてるけど私断ったよね?

 理不尽な状況にプツリと頭の中で中かが切れた私は思い切り鍵を開けて扉を開いた。

 勢いに押されてつんのめった青年が部屋に転がって転けた。

 「いった……何をする!」

 「何もしてないわよ」

 ヨロヨロと起き上がった青年が咳払いをして仕切り直した。

 「サルビアに頼まれたから仕方がないがお前たちにエルフ国での協力をしてやる」

 「お断りします」

 私より先にブロワリアが口を開いた。

 あ、ダメだ滅茶苦茶怒ってらっしゃる。

 私はゆっくり後ろに下がる、笑顔を貼り付けたブロワリアがついっと前に一歩出た。

 「初対面の相手に礼も尽くせず失礼で乱暴な物言いをなさられる方とパーティは組めません、サルビアさんには申し訳ありませんがどうぞお帰りください」

 ひと息だよ、ひと息で言ったよ。

 なんなら青年ちょっとだけ涙目だよ。

 「いや、失礼な物言い、あの」

 「おかえりはあちらです」

 有無を言わさない迫力のブロワリアに私も苦笑するしかない、がブロワリアの言う通りなので私も彼を連れてはいきたくない。

 尚も動かない青年にブロワリアがあからさまな溜息をつくと、青年がピクリと肩を震わせた。

 「わかりました」

 ブロワリアの言葉に青年がパッと明るい顔をあげる。

 「サルビアさんにお断りの一筆を認めますのでそれを持ってお帰りください」

 うわぁ青ざめちゃったよ、一回希望を持っただけにこれはキツいよ、ブロワリア。

 「私はプルメリアの側に信用出来ない誰かを置くことはしません、責任があります。逆にプルメリアも私の側に信用出来ない誰かを置かないでしょう」

 取り付く島もないってやつかな。

 流石に気の毒になってきたな。

 「す、すまない」

 すごく小さな声が聞こえた。

 今にも泣き出しそうだな、大丈夫か?

 「サルビアが結婚したと、すまない八つ当たりした」

 「ああ、失恋したんですね」

 すまない、青年。

 こうなったブロワリアを止める術は持ち合わせてないっていうか下手なこと言ったら私まで被害に遭いそうだからごめん!

 「しつ、れん、」

 「サルビアさんから頼まれたということは、どうせ気持ちも伝えずに勝手に想いを寄せて身勝手に失恋したのでしょう、同情の余地すらありませんよ、しかも八つ当たりされる覚えもありません」

 そ、そろそろ止めたほうがいいかな、立ち直れなくならないかな。

 「いつまで女性の部屋に無断で居座るつもりですか」

 何度も振り返りながらすまないごめんと謝りながら青年がトボトボと部屋を出ていった。

 ブロワリアはふうと長い息を吐いた。

 「プルメリア、大丈夫だった?怖かったでしょ?すぐ助けに行けばよかった」

 いやいや怖かったのは彼よりブロワリアですよ?

 何故かドッと疲れた私は早々にベッドに入り眠ることにした。

 翌朝出発の準備を終えて宿を立つために部屋を出た。

 目の前に三角座りの青年が居た。

 「お、おはよう」

 「おはよう、ございます?」

 冷ややかな空気が背後から流れてくる、振り向けばきっとブロワリアが笑ってる、前には三角座りの青年。

 た、助けて欲しい。

 「おはようってどないしたん?」

 張り詰めた空気を破ったのはフィカスさんです。 

 「え?これ誰?」

 私はフィカスさんに昨夜の顛末を聞かせました。

 「あかんやん」

 「すまない」

 「あのね、ブロワリアちゃんって普段本当に怒らへんの、そのブロワリアちゃんに怒られるって君相当やで?ほんで自分もブロワリアちゃんと同じ意見やわ」

 青年は小さくなりながら手紙を差し出した。

 「あ、サルビアちゃんからや」

 開いた手紙にはエルフ国の案内に古い友人を共にと書かれてある。

 「サルビアさんの顔に泥塗って恥ずかしくないの?」

 もう、やめてあげようよ、きっと彼のライフはマイナスだよ。

 「二人とも、もういいんじゃないのかな」

 私がそう言うとブロワリアもフィカスさんも私を見て優しく笑った。

 唐突に理解した、最初に揉めたのは私だから私が彼を許さなければならなかったんだ。

 「あなたも、もうあんな態度はとらないでしょ?」

 私は未だに座っている青年に手を差し伸べた。

 戸惑いながら手を取った青年が私を見て「すまなかった」と口にした。

 「改めて私はプルメリア、彼女がブロワリアでこちらはフィカスさん」

 「サルビアの古くからの友でエルフのユーコミスだ」

 少しはにかみながら笑って名乗った青年を連れて私たちは飛空艇に向かった。

 「立派過ぎないか?」

 「待って?一カ月くらいでまた何か増えてない?」

 「止める人おらんかったからなぁ」

 飛空艇の外観こそそのままだが、中身が変わっている。

 レリーフや絵がかけられ、豪勢になった会議室には操縦用の丸い魔導石の小型版が乗っかっている。

 小型版?

 「よう、久しぶりだな」

 「お久しぶりです、パフィオさん」

 着いて早々にパフィオさんに通信を繋いで貰った。

 懐かしい顔にホッとしながらある程度の旅の話はフィカスさんからユッカ爺にユッカ爺からパフィオさんに伝わっていたらしい。

 「ああ、君たちが活躍した例の奴隷商のその元締め一派だが、先日最近帝国を賑わしていた空賊の一団に壊滅させらたらしいと情報が回ってきていたな」

 「仲間割れっすかね?」

 「アレは義賊の真似事をしているから仲間割れというわけではないのだろうが、まあ東の方の国で全員捕まったらしいしな、しばらくは治安もマシにはなるだろう、楽観的ではあるが」

 まあ自業自得だし、捕まったなら良かったのかな。

 「そちらは他に何かあったのか?」

 「あ、卵の正体わかりました!それで今からエルフ国に出発する予定です」

 「それは良かった、気をつけて行くんだぞ」

 「はい」

 短い通信を終えて私たちはユーコミスを見た、彼の部屋どうしようかな。

 所在なげにキョロキョロオドオドしているけど、そりゃあ型遅れの小型飛空艇に乗ったら豪邸並みの内装だもの、挙動不審にもなるよね、それより。

 「どないしよかな君の部屋がないんよ、ベッドは簡易ならあるから狭いけど自分とユッカ爺と一緒でええかな」

 フィカスさんが申し訳な、さそうでもなくユーコミスに言った。

 ユーコミスはそれで大丈夫と頷いている、それを見ていたユッカ爺が口を開いた。

 「それなら下に客間を作ってあるぞ」

 ユッカ爺……自由すぎるよ。

 客間って何よ、中二階とか聞いてないよ。

 「ロフトみたいなもんだ、俺の仮眠用に作った部屋もあるぞ」

 「なんか増えすぎですよ!」

 「やり過ぎです」

 「止める人おらんかったからねぇ」

 三人の溜息が漏れた。

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