第38話 トレントの花って見つけにくいんです

 感動?の親子、婚約者とサルビアさんの再会を終えて私たちはサルビアさんの家にお邪魔してます、こんにちはブロワリアです。

 サルビアさんのお父さんはこの里の長だったらしく、私たちの旅の目的を話したところ里で一番長寿のお婆さんを紹介してくれました。

 「あの婆さんなら多分詳しいはずだ」

 そう言いながら長からすぐに遣いを出してくれました、話しは通してくれるらしいので私とプルメリアは少し休憩させてもらってお婆さんの所へ向かいました。

 気の良さそうなお婆さんに迎えられて家にお邪魔する、案内されたテーブルにドンと卵を置いた。

 「あらあら随分懐かしいこと」

 卵を見て開口一番そう言って目を細めたお婆さんは精霊の卵について話してくれました。

 「卵、というのはその見た目のせいで実際は繭に近いのかもしれないの、純粋な精霊の加護がある泉に七日七晩漬ければ生まれてくるのだけど」

 「純粋な精霊の加護?」

 「そう、精霊の加護のみの力が付与された泉。昔はこの里の泉でも精霊がうまれたのだけど、今はすっかり精霊の力が弱くなってしまったから」

 里に向かう道中にサルビアさんも言っていたなと思い返します。

 ドワーフ国の発展と引き換えに大地は削られ水は奪われて緑は減る一方、すっかり精霊の力は弱くなっているらしい。

 「エルフ国ならまだ精霊が生まれるらしいのだけどねぇ」

 私とプルメリアはお婆さんに礼を言ってサルビアさんの家に戻りました。

 「どないやった?」

 「うん、エルフ国まで行かなきゃいけないかな」

 「そっか」

 サルビアさんが用意してくれた部屋に入り今後の作戦会議です。

 プルメリアは早くエルフ国に行きたいみたいですね、でも私としては。

 「サルビアさん次第なんだけど、ここにしばらく滞在出来ないかな」

 「なんで?」

 「森の探索をしてみたい」

 プルメリアは暫く考え込んでいるけど、私をジッと見て頷いた。

 「トレントの花が欲しいの」

 私はプルメリアにそう告げる、とフィカスさんも「ああ」とわかったみたいです。

 「え?トレントの花?」

 「トレントの花から抽出するなんかで剣にな付与効果をつけれるんよ、自分のもそういう加工はされてるし、かなり丈夫にもなるしな、ブロワリアちゃんは剣士やから欲しいやろうなぁ」

 なるほどとプルメリアは頷いてくれました。

 サルビアさんからしばらく滞在して良いと許可をもらい、更にサルビアさんの婚約者であるサフランさんが鍛治師らしくて、話を聞いたサフランさんが今回の礼にとトレントの花を見つけれたら長剣に付与をつけてくれるらしいのです、これは出来る人を探すことも考えていたから大助かりの至れり尽くせりですよ、何としてもトレントの花を見つけたい。

 「で、トレントの花ってどんなものなの?」

 プルメリアが不思議そうに聞いてきましたが、里までのトレントは全て葉しかなかったですからね。

 「私もツタさんから聞いた話だけになるけど白銀色に光ってるらしいんだ」

 獣人国バオバブのパイン村で私がツタさんに聞いたのは今の愛着ある長剣をカスタマイズすることでした。

 帝国の港町プラムで購入した私の長剣は特別な何かがあるわけでも珍しくもない、その上魔鉱石を嵌める場所には普通の真珠があるだけなんです、何の変哲もないよくある長剣は替えが効きやすい利点があるんですが、私が買い替えを渋る理由を聞いたツタさんから魔法付与を付ける方法を教えてくれました、が、普通に鍛冶屋さんに持ち込んでも出来ない鍛冶師さんが大半なんだそう。

 ドワーフ国ではこれが出来る鍛冶屋さんの目星をつける目的もあったんです。

 ドワーフ国は鍛冶の国と言われるくらいですからね。

 では先ず行くべきは、精霊の加護ですよね。

 私たちはサルビアさんに案内をしてもらい里の隅にある泉の傍らに大きく枝を伸ばした立派な古木に来ました。

 いつものように祈りを捧げると柔らかな温かみがふわりと体を駆け抜けていきます。

 私が新しく得たのは「跳躍」でした、これは加速や瞬発のように慣れるまで時間がかかりそうです、プルメリアは防御壁になるシールド魔法のようでした。

 「だからなんでやの、なんで隠蔽なんよ」

 フィカスさんは騎士なのに貰える加護がどうにも合わないようでまたしょげています。

 が、隠蔽はいいですね冒険者としては羨ましい加護です。

 無事に加護をもらい、私たちはサルビアさんの家へ。

 ノームの里には宿屋さんがないのです、なので大体は長の家に泊まるとか。

 その流れでサルビアさんとサフランさんは知り合ったらしいです。

 そんなサルビアさんのお家に戻り食事後の団らんの中でトレントについて聞いてみました。

 花が咲く条件などはわからないけど、稀に花をつけたトレントが混じることがあるらしい、弱点である火を使えばトレントには簡単に勝てるのですが、森で火とか絶対使っちゃいけないやつじゃないですか、そもそも燃やしちゃったら花も炭になるわけですし。

 「際立った弱点となると他はないんですよね」

 「むしろ花だけどうにかしたいところですよね、トレント自体は傷つけずに」

 うむと悩んでいたらフィカスさんがそろと手をあげました。

 「自分の隠密ならいけるんちゃうかな」

 フィカスさんの協力を得て私たちは明日からの作戦を練ります。

 トレントからの攻撃は里の古木から加護を受けたので、こちらから襲わない限りされないみたいです。

 迷子にならないようにしながら数多いるトレントの中から白銀色の花を探すというミッションになりました。

 その間、プルメリアはここでしか見つからないような薬草なんかの素材を集めるみたいです。

 ただ、やっぱり期限は必要です。

 一週間、一週間で見つけられなければ諦めると決まりました。

 「明日からブロワリアとフィカスさんはトレントの花探し、私は素材探し頑張ろう!」

 翌日、良い天気の中私とフィカスさんは里の入り口を少し出た辺りでトレント観察です、迷子になりかねないので入り口が見えなくなる位置に移動するのはナシです。

 プルメリアは村で素材を採取するとのことでサルビアさんと一緒に出かけました。

 「この中から白銀色の花探すん、かなり難易度高いね」

 「そうですね、しかもトレントの移動がわかりにくいですし」

 「まあのんびり待ちましょ」

 時折トレントが動くのを眺めながら花を探します。

 すぐに見つかるわけもなく、一日目二日目は過ぎていきました。

 「見つけにくいのはわかっていたけど、体訛りそうで」

 と私が言えばフィカスさんもプルメリアも首を傾げます。

 「ブロワリアは動かしすぎじゃないかな」

 「たまの休暇のつもりでええんやで?」

 どうにも暇があれば特訓したい私は二人から見ると、やり過ぎに見えているみたいです、心外ですね。

 三日目から四日目は雨です、土砂降りの。

 流石にこの雨ではトレントの花を探せません、視界も悪いし万が一トレントとの戦闘になると足元の不良もあり危ない上に雨でトレントが活性化するらしく絶対避けるべきなので二日間は大人しくサルビアさんの家で待機。

 五日目、二日間の雨もすっかり上がりました。

 「今日から探索再開!」

 むんっと気合いを入れて里の入り口に向かいました。

 雨上がりの匂いが立ち込める中、キラキラと雫を垂らすトレントの枝葉の隙間にその輝きが見えました。

 「フィカスさん!」

 「任しとき」

 フィカスさんは息を潜め「隠密」を使いました、私の視界からもその気配がスッと消えます。

 カサリカサリとトレントの枝が風に揺れています。

 すいっと視界から白銀色の花が瞬きのうちに見えなくなりました。

 えっ?と思う間に肩をポンと叩かれます。

 「取れたで」

 「ありがとうございます!」

 振り返るといつもと変わらないフィカスさんが多分笑っていました。

 フィカスさん、あんまり表情の違いわからないんですよね、いつも笑ってるので。

 花を手に戻ると、サフランさんに私の長剣と花を渡しました。

 「よし、ここからは俺の仕事だな」

 ニッと口角を上げたサフランさんかま作業場にこもりました。

 ぽかんと時間が空いてしまったので私は前からお願いしたかったことをフィカスさんに頼んでみることにしました。

 「手合わせ?うん、ええよ」

 そう、手合わせ。

 ドワーフ国に入ってからずっと気になっていたんですよね、絶対強いですもの。

 「ほな木剣借りてきますわ」

 飄々としながら出かけたフィカスさんを見送り、私は準備をして拓けた場所に向かいました。

 結果ですか?フィカスさんはやっぱり強かったです。

 三日ほど経った頃、サフランさんから手渡された長剣を受け取り溜息が出ます。

 「凄い!こんなに変わるんだ」

 付与されたのは雷の魔法、これは花ごとに変わるらしく今回採取出来た花がその性質を持っていたらしいです、雨上がりのせいかもしれません。

 微弱な魔力を長剣に流せばパチパチと雷撃を纏う刃の周辺に白い火花が走ります。

 かなり丈夫になったらしい長剣に私は何度もサフランさんとフィカスさんに礼を言いました。

 プルメリアはついでとばかりに鉄球付きのメイスをパワーアップさせてましたが。

 少し伸びた鎖と鉄球に棘が増えていました。

 これ、刺さるんじゃないの?

 私たちは名残惜しみ惜されながら、翌日にノームの里を出発しました。

 森を出て山を越えて里を出てから四日目、ようやく町が見えました。

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