第37話 卵の正体
こんにちは、プルメリアです。
山に入ってから四時間、今は頂を前に休憩中。
サルビアさんは捕まってから結構な時間、アイツらに引き連れられていたらしく心労もあってかなり体力を落としていたみたいで、今はブロワリアが背負って進んでる。
最初はね、迷惑かけれないって遠慮していたんだけどフィカスさんに「気ぃ使うて歩く方が迷惑になるんやから大人しく背負われとき」と言われて申し訳なさそうに背負われてくれてる、普段はニコニコしてて優しいからねフィカスさん。
ああでも言わないとずっと頑張っちゃってたろうし、背負った方が早いペースで歩けるのも事実だしね。
先頭はフィカスさん、ブロワリアが続いて私が最後尾。
いつもの状態だけどサルビアさんを背負っているブロワリアは戦闘になると咄嗟には加われないからサルビアさんを守る方に舵を切ったみたい。
前衛の戦闘を任せたフィカスさんはびっくりするくらい強いから、ブロワリアはそんなフィカスさんの戦い方を随分ジッと観察してた。
「やっぱり強い上に綺麗ですね」
「え?なんなん?急に、照れるやん」
「私まだまだだなぁ」
ブロワリアがポツリと呟いた。
「ブロワリアちゃんはこれからどんどん強なるよ」
「えー、私は?」
「プルメリアちゃんはなんかもう鉄球マスター?」
「どゆこと?」
軽口を言い合いながら休憩を終わらせてまた山道に戻る。
時々出てくる魔獣はフィカスさんが危なげなく討伐して行くので、私とブロワリアはただ山登りに徹していた。
山頂から降り始めた辺りで突き出した岩が屋根になりそうな岩肌に窪みを見つけた。
「足場もいいし、見張もしやすいしここで今日は休もか」
「じゃあ天幕の用意しますね」
ブロワリアはサルビアさんを背中から下ろして天幕を窪みに設置する、私はフィカスさんと手近な枯れ枝を拾い焚き火の準備をする。
フィカスさんが町で買ってくれていた食材を取り出して夕飯の準備。
時々サルビアさんが手を貸してくれたから出来上がったスープはいつもより美味しく出来ていた。
「二交代で順番に一人寝るのがいいんじゃないかな」
「自分がと言いたいとこやけど、休める時に休まんと長丁場になったら困るし、そんでええよ」
というわけで、まだ寝るには早いので食事後は焚き火を囲んでのお喋りになった。
と言ってもブロワリアやフィカスさんは長剣や剣の手入れをしながら、私は切り出した木を組み合わせてロープで固定したりしながらサルビアさんを背負うための椅子を作っていた。
サルビアさんは焚き火を使い暖かい独特なスパイスや茶葉をミルクで煮出した飲み物を作ってくれた。
パチパチと焚き火から弾ける音だけが木霊する。
二つの月に照らされながらサルビアさんと先ずは私が眠るために天幕に入った。
「たくさんご迷惑をおかけしてしまって」
申し訳なさそうに言うサルビアさんに首を横に振った。
「私たちもあなたの村に用事があったの」
どうもサルビアさんは私たちの用事を口実だと思っていそうなんだよね。
相変わらず申し訳なさそうに縮こまるサルビアさんに、私は腰につけている革の巾着から卵を取り出した。
「これ、ずっと調べているの」
「これ?あれ?」
サルビアさんが卵を見て首を傾げている。
「精霊の卵じゃないんですか?」
「え?」
「多分、精霊の卵だと思いますよ?うん、父ならもう少し詳しく教えてくれるはずです」
サルビアさんの言葉に私は天幕を飛び出しブロワリアに先の話をした。
ブロワリアも目を見開いている。
「なんやすごいね」
その後、サルビアさんに卵について聞いてみたが、詳しいことはサルビアさんもわからないらしい。
ただ、サルビアさんに私たちがちゃんと目的があってノームの森に行きたいのは伝わったみたい。
良かった。
「精霊って卵からうまれるんだね」
そんな話をしたのは翌日の山下り中、ブロワリアが背負ったまま両手を使えるようにと背負える椅子のようなものを昨夜即席で作ったので、一列並ぶと自然にサルビアさんと私は向かい合わせになり、黙々と歩くには気まずく何気ない会話としてそう口に出した。
「卵、というのが正しいのか少し疑問ですが形状は卵に見えるので便宜上卵と呼ばれているんです、とは言っても私も精霊の卵の実物を見たのはずっと子どもの頃なので」
「やっぱり珍しいのかな」
「というより、通常精霊の力の強い場所でしか新しい精霊はうまれないんです、女神の力が強い場所では精霊が新しい命を得れないと聞いています」
これは予想しなかった、だから帝国には資料がいくら探しても見つからなかったのかとようやく納得した。
「ではドワーフ国で精霊は生まれたりするんですか?」
ブロワリアがサルビアさんに聞いた。
「残念ですが、今のドワーフ国では難しいと思います、鉱石を採るためとはいえドワーフ国はあまりにも自然を擦り減らしてしまっていますから、この地から生まれるのはもう難しいんですよ、ノームの森で数十年に一度生まれるかどうか」
溜息を吐いたサルビアさんが悲しそうに俯いた。
山に入り三日が経った頃、やっと見えてきたノームの森は見たことのない木々が繁る深い森だった。
「ここからは私が案内しますね」
サルビアさんがブロワリアの背負った椅子から降りてにこりと笑った。
「ノームの里までは私たちノームにしかわからない目印があるんです、それを辿るのが一番近道になるので」
サルビアさんが森を歩き出した、私たちもそれに続く。
「山には魔獣もいますが、森にはトレントが居るので魔獣は入ってきません、変わりに本来トレントは森の番人として害意があるものは排除しようとするんです」
やばい、知らなくて三人で入ってたらトレントに襲われていたじゃないの。
トレントとは樹の精霊の亜種らしい、今歩いている森全体がほとんどトレントと言われてゾッとする。
「敵意がなければ大丈夫なんですが、なくても悪戯に迷わせるので」
知らずに入れば幾ら目印を付けてもトレントが勝手に移動して迷子にさせちゃうということらしいけど、何それ!怖すぎ!
「あ、見えてきました!」
木々を抜けた先に荊に囲まれた巨石を抜けると、目の前に樹をくりぬいた家が立ち並ぶ集落に出た。
「うわぁ可愛い!」
ブロワリアが声をあげる、サルビアさんは小走りになりながら一際大きな樹に向かって進んでいく。
「お父さん!お母さん!」
サルビアさんが叫ぶように声をあげると樹に付けられた扉が開き、老齢の夫婦が飛び出してきた。
「さ、サルビア?」
次いで駆け出してきたのはドワーフ族の青年。
「サルビア!」
「サフラン!」
感動の再会が目の前で繰り広げられ、私とブロワリアは涙ぐんでそれを見ていた。
「あの」
ご夫妻の男性が私たちに気付いて声をかけてきた。
私たちは軽く会釈をして返す。
「お父さん!この方たちが助けてくれたの!」
「なんと!ああ、ありがとうございます何と礼を言えばいいか」
ぼろぼろと泣きながら両手を広げて私たちに抱きつこうとした男性をフィカスさんが腕を出して止めた。
「サルビアちゃん」
「お父さん!何してるの!あっあの、中に入ってください」
サルビアさんがお父さんを引き摺りながら巨木の家に案内してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます