第36話 トラブルに出会いました
高度の高い山から吹き下ろす風が随分と冷たく、私は魔導列車を降りるなり身震いをしました。
こんにちはブロワリアです。
「寒いねえ」
プルメリアもかなり寒そうにしています。
「フィカスさんは平気なんですか?」
いつもと変わらない様子のフィカスさんに訊ねると茶目っ気のある笑みを返されました。
「自分、キツネ獣人の血がはいってるやん?」
そういうものなのでしょうか、よくわかりませんが大丈夫なようです。
「とりあえずギルドを探して宿と情報収集かな」
プルメリアがうーんと体を伸ばしながら言います。
「ほないつも通り自分は宿探してきますわ」
「私たちはギルドに行ってきますね」
落ち合う場所だけ話して私たちはギルドに向かいます、駅を出たら目の前にあったので探さないで良いのは助かりますね。
ギルドや町の雰囲気は空港があった街より素朴な雰囲気で赤い煉瓦の建物が目立ちます。
煙突の立派な家が多いのはドワーフ国ならでは、でしょうか。
今もあちらこちらから鉄を打つ音や加工をしているのだろう音が聞こえてきます。
煉瓦の建物に関してはギルドで聞いた話、吹きおろしの風対策もあるのだとか。
ギルドで諸般の手続きを終えてフィカスさんと待ち合わせている駅前の広場に向かいます。
今回は通過するだけの一泊しか予定していないため通りましたよという簡単な報告ですから、手続きも簡単で早いんです。
これが逗留するとなると色々あるんですけどね、してもしなくてもいい手続きなので普段ならあまりしないんですが、今回は明日から山越えとノームの森に入るので足跡として必要だろうという判断です。
ここは長閑な町です、広場のベンチにはたくさんの人がのんびり座っていて子どもたちがたのしそうに走る、風は冷たく強いけれど澄んだ緑の香りが心地良く感じます。
離れた場所には幾つか屋台があり、若い方が並んでいたりもします、デートスポットなのでしょう、私たちと変わらない年代の姿をよく見かけます。
私たちが空いているベンチを探していると急に町の奥の方が騒がしくなってきました。
「待て!」
「ひっ」
大きな濁声に小さな悲鳴、騒ぎの方を見れば人垣が割れて子どもが飛び出してきました、そのまま真っ直ぐ私たちに向かってきます。
え?なんで?
「た、たすけ……」
子どもの様子に私もプルメリアも咄嗟に体が動きました。
プルメリアが走ってきた子どもを抱き止め庇うように隠すと私の長剣の切先が追ってきた人相のよろしくない男の喉笛に突き付けられました。
「な、なんだ!きさまら!」
「ひうっあ、た、助けて」
震える子どもをチラッと見ます、泥だらけで汚れた体にボサボサの髪、痩せこけた手足が今にも折れそうです、そしてその裸足の小さな足首に枷が見えました。
「今しがた助けてとこの子から依頼をされたので今受けました」
「は?何言ってやがる」
私は瞬時にこの人相のよろしくない、なんなら素行もかなりよろしくなさそうな男の次の動きを警戒して息を止めました。
動かずに喉笛に切先を突きつけたまま動かない私に人相のよろしくない男がイライラと掴みかかろうと手を振り上げた瞬間、男の鼻先に私の長剣とは別の剣先が光りました。
「君らなんなん?」
特徴的な話し方に緊張して止めていた息を吐きました。
「二人とも大丈夫そうやね、で、この暴れん坊さんはどなた?」
「さあ」
「て、てめぇら何しやがる!ブッ殺すぞ!」
「口悪っ」
フィカスさんの軽口に男の敵意が私からフィカスさんに移りました。
「何ごとだ!」
人混みを掻き分けて真っ白な隊服を着た一団がこちらに向かってきます、それを目視した男が踵を返しました。
「くそっ衛兵か!チッ」
逃げようと走り出した男を追おうとした私の視界が一瞬遮られました。
「なんで逃げるんよ、寂しいやんか」
本当に一瞬でした、開けた視界には足首を斬られて転がる男とゆっくり剣を鞘に納めるフィカスさんが居ました。
「ブロワリアちゃん!プルメリアちゃん!無事か?」
くるりと私たちを振り向いたフィカスさんが細い目の端に涙を溜めて近づいてきました。
「フィカスさん、強いんですね」
「そうでもあらへんよ」
へらへらといつもの調子に戻っていますが、パフィオさんがフィカスさんを飛空艇に乗せるメンバーに選んだ理由がすごくわかります、絶対に強い。
身体強化の魔法なんて使っていない、あの速さは素の速さなんでしょう。
すっかりいつもの調子に戻ったフィカスさんが私たちをにこやかに見下ろしています。
「何があった」
慌てて駆けつけてきた衛兵さんに簡単な事情を説明します。
詳しく話をしなければならないらしく、子どもに声を掛けてみますが震える子どもはプルメリアに抱きついたまま離れません。
衛兵さんが子どもを保護をしようにもはなれないため仕方がなく全員で詰所に向かいました。
結論から言うと、子どもはノーム族の女の子で追ってきた男は奴隷商人でした、はい、違法です。
全世界から見ても違法です。
足枷に隷属の魔法がかかっていたらしく、プルメリアの浄化を使い枷にかかる呪いの類、それもかなり雑なものだったらしくプルメリアの浄化だけで解除が出来たためすぐに枷を外すと少女は泣きながら礼を言いました。
「私はノームの森に住むノーム族の族長の娘サルビアといいます、助けていただきありがとうございます」
子どもだと思っていた少女ですが私たちより歳上のお姉さんでした、結婚式をあげる前夜に先の男とその仲間に攫われたらしいのです。
お婿さんはこの町出身のドワーフ族の若者だとか、今はノームの森に居るはずと。
「急いで帰らないと」
だよね、とりあえず身体を洗って着替えをさせたあと詰所の奥の部屋で話し合っています。
「送って行くべきなのだが、今ここの衛兵隊は都の方で大量発生した魔獣の討伐に駆り出されていてな」
チラチラと視線がうるさいですよ、わかってますよ。
「プルメリア」
「うん、あの私たちノームの森に行くつもりでこちらに今日着いたんです、良ければ私たちがサルビアさんを護衛しましょうか」
プルメリアの言葉にサルビアさんが嬉しそうにしています、怖かったのでしょう、衛兵さんとわかっていても男性と再び山越えに森に入るなんて行きたくないですよね。
「お願いしてもよろしいか?ギルドにはこちらから依頼を出させていただくので」
「はい」
「サルビアさん、とりあえず宿に行きましょう」
私が手を出すとその手を取ってサルビアさんが微笑みました。
宿の警護もしてくれるそうで、そこは衛兵さんたちに任せて私たちは宿に向かいました。
途中、出来なかった準備の買い物をフィカスさんが代わりに買ってくるというので、お言葉に甘えさせてもらい私たち三人はフィカスさんがとってくれていた部屋に入りました。
二人部屋だったので簡易ベッドを借りて三人で眠れるようにします。
「ノーム族は成人しても見た目は幼いのでそういう趣向の方に高値で売れるそうなんです」
「は?」「は?」
あ、ハモっちゃいました。
いやいや、は?
聞けば、こういう被害はよくあるらしくそのためにノーム族は人が立ち入れないような森の中に集落を作って生きていると、あの男……何とは言わないけど切り落として仕舞えば良かったかしら。
「何とは言わないけど潰してやれば良かった」
流石相棒!プルメリアも同じ意見のようです。
コンと控えめなノックがしました。
「はい?」
「プルメリアちゃんブロワリアちゃんちょっといい?」
「はい、大丈夫です」
フィカスさんが遠慮がちに部屋に入ってきました。
「はい、これ買ってきたよ、携帯食も充分やね。あ、そうや、さっきの男の仲間はついでに衛兵に引き渡してきたから」
「は?」「は?」
にっこり笑ってますが、は?いつの間に?え?なにしてらっしゃるんです?
「元締めはこの国におらんみたいでな、ギルドの方から各地に情報流すみたいやで」
「は、はあ」
手際良すぎませんか?万能なんですか?なんなんですか!
「勝手にせんほうが良いんやろうけど、このまま逃げられて仲間呼ばれても困るしね」
それはそうなんだけど。
「それとコレ」
フィカスさんが三人分の夕飯を用意してくれていました。
考えることに疲れた私たちはそそくさとベッドに入り眠ることにしました。
翌朝、身支度を整えて宿を出ます、フィカスさんと合流したところで昨日の衛兵さんがやってきました。
「面倒を押し付けてすまないな」
「大丈夫ですよ、咄嗟とはいえ助けての依頼を受けてますから」
ああと苦笑いをした衛兵さんが家人に作ってもらったという軽食を持たせてくれました、いよいよ山に入ります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます