第35話 ふたたび魔導列車に乗って
さてさて、図書館はいつも通りの空振りというか、ドワーフ国の図書館には鉱石に関する書物はたくさんあるのだけど、他は帝国より少なかった。
こんにちはプルメリアです。
朝から図書館に行って空振りしたので今は冒険者ギルドの依頼掲示板を眺めてる。
随分帝国から離れたこともあって、依頼書にある討伐依頼でも害獣の種類がかなり変わっている。
Fランク以上に指定されている毒犬とか、帝国だとCクラス冒険者向けだったりするからね。
要するに全体的な魔獣は軒並み高ランクになるんでしょうね。
まあ無難にこの毒犬駆除を受けますかね。
私の浄化があれば毒は怖くないしね。
という訳で来ました!毒犬が出るらしい峠道!
フィカスさんは久しぶりの実戦だとちょっと張り切ってる。
ブロワリアも長剣を腰に下げてピリピリしてるね、私も負けていられないから今日は鉄球付きメイスを手にしてるよ。
峠道から少し外れて見通しの良い空き地に出ると、瘴気の嫌な感じが周囲に立ち込めた。
グルルと唸る声が幾つも聞こえてくる、深呼吸をしてヒタヒタと近寄る気配に集中。
張り詰めた緊張感を破ったのは吹いた風に煽られ転がった小石のカツンという小さな音。
先に動いたのは毒犬の方、剥き出した牙を武器に数匹の群れが一斉に飛びかかってきた。
それをブロワリアが長剣で薙ぎ斬る、同時にフィカスさんの剣が残りの毒犬を斬った。
間髪入れずさらに毒犬の群れが飛び出してきた。
「はいはい大人しく斬られてやっと」
「加速するまでもないかな」
うん、私の出番はなさそう。
群れから外れた一匹が私に向かってくるが、鉄球が横っ面を殴打して吹き飛んでいく。
「相変わらずえげつない武器やねえ」
「威力はあるんですよ」
「二人とも油断しない!」
ブロワリアに諭されて向かってくる毒犬を次々と倒していく。
一時間もしないうちに毒犬の猛攻は終わり、目の前に積み重なっている毒犬を浄化する。
瘴気が消えた毒犬の牙だけを回収、毒犬は素材には向かないので牙だけ回収して討伐数を確認するの。
私たちは毒犬を燃やして峠を降りた。
ギルドで成果報告をし、今回の報酬を貰う。
「うーん、あんまり強くなかったね」
「それくらいが丁度ええんちゃうかな」
歯ごたえの無さに肩透かしを食った気持ちになっていたけど、確かにフィカスさんが言う通り丁度良いのかもしれない。
「Aクラスとか憧れはするけど、私もそんな才能はないし今ぐらいが丁度良いかな」
「確かにね」
命のかかるような戦いがしたいわけではないし、今回はフィカスさんも居るからこれくらいが良いんだろうな。
ペディルム家の騎士とは言ってもフィカスさんはパフィオさんの私兵に近い。
パフィオさんはお母様のご実家の領地を任されていて辺境に近いせいもあり魔獣の出没も多いからフィカスさんも魔獣相手は手慣れているらしいけど、だからって強い魔獣を態々相手にする必要はないわけで。
話しながら私たちは市場に来た。
賑やかな市場には加工物もかなりあり見応えがある。
中にはアミュレットもあって見て回るだけでも楽しい。
屋台で幾つか食べ物を買い込み広場に並んでいるテーブルの一つに三人で座る。
フィカスさんが手にしていたカップを一気に煽ってぷはっと息を吐いた。
「お酒?」
「そう、今日はもう戦闘せんみたいやし」
「まあ、しないけどさ」
「夜は自分ちょっと酒場の方で情報集めてくるわ」
「助かるけどいいの?」
「構わへんよ、自分も呑めるし」
それか。
その後は先の毒犬についての話をしたり、明日以降の話などをして早めに宿に戻った。
良い部屋にした理由は私とブロワリアが女の子だからだとフィカスさんは冗談めかして言ってたけど、確かにフィカスさんが泊まってる部屋のある階はなかなかに荒っぽそうな人たちや、私たちをニヤニヤ見てくるような人たちが居た。
うん、この階だと多少は安心だね。
のんびり過ごしているとドアがノックされた。
「プルメリアちゃんブロワリアちゃん、まだ起きてる?」
「フィカスさん?」
慌ててドアを開けるとフィカスさんが立っていた。
「酒くさい」
「すんませんな」
苦笑いをしながらフィカスさんが部屋に入ってきた。
「ノームの森の話し聞いてきたで」
「ホント?!」
どうやらノームの森はここからかなり北にある盆地の中にあるらしい、盆地は深い森になっているとかで山越えと森の探索の準備が必要になりそう。
「じゃあ明日は道具屋に行ってから魔導列車かな」
そう、このドワーフ国にも魔導列車があるの!
というか鉱石を運ぶのに魔導列車がないとかなり不便らしくて魔導列車が国中で走れるようになっている。
「列車で二日だったかな、寝台車取らないとだね」
「なら一室借りようか、冒険者証だと寝台車は別料金らしいで」
「え、別料金」
「一室借りるんやったらペディルムの名前で借りればええし、たまには贅沢しよ」
フィカスさん、いい笑顔です。
いいのかなと心配するブロワリアを尻目にウキウキと発見所に向かったフィカスさんがその後ちゃっかり一室旅券を買ってきました。
翌日、道具屋に寄りアレコレと買い足して魔導列車に乗り込んだ。
客車の一室、四人分のベッドがある部屋に入る。
「なんか新鮮だね」
「そうだね」
楽しい私たちとは違いフィカスさんはちょっと気まずそう、どうやらパフィオさんに報告をしたらすごく釘を刺されたらしい。
「自分、そんなつもりはないからね?」
「わかってるよ?」
はあとため息を吐いてるけど、わかってるよ?
「まあ護衛やと思て気にせんで」
「はーい」
そんなくだらない話をしながら汽車は街を抜けて荒地を走る。
「土が赤い」
「この辺は銅の採掘が盛んらしいからそのせいちゃうかな」
「そうなんだ」
「知らんけど」
知らんのかい。
見える景色はあまり変わり映えがしない。
簡易ベッドに乗り上げて足を伸ばすと私はごろりと寝転がった。
「なんか不思議な感じ」
「まあ飛空艇やと普通のベッドやしねえ」
「船も割と普通のベッドだった」
「ああ、あの船ん時はええ部屋やったみたいやね」
「うん」
懐かしいなと思い出す。
プラムから帝都に向かう船の夜、小さな小窓から見えた星。
「ふぁぁぁ」
「プルメリアちゃん、ちょっと寝たら?」
「うん、そうする、おやすみ」
クスクスとブロワリアが笑ってるけど、この心地よさは危険だわ、睡魔に負けちゃう。
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