第33話 湯煙四人旅
「どどどどどういうこと?!」
数ヶ月ぶりに戻った飛空艇で私とブロワリアの第一声がこれだった。
外観は随分と磨かれてるなぁとか思ったけどね、中よ中!
入り口にあったスペースはどこぞの屋敷のエントランスですかってぐらい華美な装飾。
全ての廊下に敷かれた赤いカーペットと品の良い壁紙。
会議室は丸々居心地の良い応接室みたいになっていて簡易キッチンは別荘の厨房さながら、ついていなかった筈のオーブンやらなんやらが増えてるし、換気扇もパワーアップしてる。
何故か倉庫には冷凍室が生えてたし、食料は安心ねじゃないのよ。
操縦室こそあまり変わらないけど、一番の驚きはこの速さ!
なんなの?
速いのに揺れないし、そこそこの飛行系魔獣は弾き飛ばされるし、銃器は積まれてるし、極め付けはコレだよ!
「ああ、動力用の魔法石を五つ繋いだからな、回避時なら今よりまだ速く飛べるぞ」
ユッカ爺はどこを目指しちゃったの?
内装の張り替えはフィカスさんの悪ノリだったらしいけど、やるなら居心地良くしたかったとか言われちゃうし、そもそもこの飛空艇は借り物だから改造にパフィオさんがゴーサイン出しちゃうなら私たちは何も言えないんだけどさぁ?
「外装だがシールド効果のある魔法石で三重に塗り固めてある、多少の衝撃や魔法ならビクともしないぞ」
ドヤッとばかりのユッカ爺、湯水の如くパフィオさんからの資金を注ぎ込んでくれました。
結果、ミニ豪邸のような内装を手に入れた飛空艇は見た目こそ型遅れなものの、蓋を開ければほぼ最新式と変わらない機能がついていた。
「やり過ぎだよ、二人とも」
「まあ時間いっぱいあったからしゃあない」
細い目をさらに細めてフィカスさんは笑うけどね。
「安全には変えられないだろう、そもそも空の拠点なのだから居心地を良くするのは当然だ」
久しぶりの定期連絡でパフィオさんにまでそう言われたら、反対も出来ないし今更反対しても仕方がないし。
バオバブを出て丸一日、山脈を前に地上に降りた私たちは久しぶりの定期連絡をしている、こんにちはプルメリアです。
「なるほど、では身体強化魔法は問題なくということか、ふむ、それより魔導書だな」
「ですね、数があるわけではないし使い切りな分かなり貴重なので」
「手に入れば運が良かったぐらいだな、帝国内で魔導書関連は魔法省が取り込んでいるからなあ、目にする機会すらないな」
「だから不思議は不思議なんですよね、露店なんかで並べて売っていいものじゃないし」
私は首を傾げる、投影された石に映るパフィオも首を傾げている。
「それより、パフィオさん雰囲気変わりましたね」
「そうか?」
「なんだろう、安心感があるっていうか」
「ほら!やっぱりパフィオさま格好良くなってるよ」
マーガレットがひょっこり顔を見せると自然にマーガレットを膝に乗せてパフィオさんがマーガレットに微笑む。
微笑ましいというか、何を見せられているんだろうという気持ちになるのですが?
「パフィオさま、王子さまみたいでしょ」
「そ、そうなの?私は王子さまとか見たことがないからわからないなー」
「俺はマーガレットだけの王子だったらそれでいい」
さいでっか。
いや、本当に何を見せられているんだろうね!
「ラナンさんにもお礼を言っておいてください」
「わかった」
少し長めの定期通信を終えて、私たちは今後についての話し合いだ。
「次に寄るのはドワーフ国でええんやろ?」
「そのつもりです」
「ドワーフ国かぁ帝国とは距離があるからなぁ、ユッカ爺の方が詳しいんちゃう?」
フィカスさんの言葉でユッカ爺に注目が集まる。
「爺さんがドワーフってだけで、俺は帝国生まれだからな、知ってることはあまりお前たちと変わらんぞ」
ユッカ爺はチラッと視線を私たちに向けて会議室に向かった。
「爺さんが子どもの頃にはまだエルフ国との諍いが絶えなくてな、爺さんは逃げるように帝国に流れ着いた」
ユッカ爺の話に耳を傾ける。
「帝国で流行っていただろう、エルフの姫さんとドワーフの王子の話、あれは多少の脚色はあるが間違ってない。あの二人の婚姻からドワーフ国とエルフ国は手を取った」
そんな状況があったから情報らしい情報はユッカ爺にもあまりないらしい。
聞いたことのある町や村、そんなものが今もあるかはわからないと。
「まあ職人気質で扱いづらいとは言われていることだけは変わらないらしいぞ」
そうなのか。
その後はフィカスさんが調べてくれたドワーフ国の話なんかを聞いていた。
治安はここ数十年悪くないらしい、ドワーフ国の魔法石加工技術にエルフ国の魔法技術が合わさったおかげで安定した国勢らしく、ある意味では安全な国らしい。
「エルフ国に行くならドワーフ国から入ってもええんちゃうかな」
「だね」
「プルメリア、エルフ国なら魔導書についても探せるんじゃない?」
「そうだなぁ」
やりたいことが山積みだ。
ドワーフ国自体は鍛冶も有名らしく、ブロワリアはそちらも興味がありそうだ。
エルフ国に近いので卵に関することも調べたいけれど、最新の魔法具が生まれる国としたらやっぱり観光もしたいところ。
バオバブもかなり色々な魔法具があったけれど、ドワーフ国はさらに期待が出来そうだ。
「とりあえず観光かなぁ」
「ああ、観光で思い出したがここから少し逸れるが、温泉地があるらしいぞ」
温泉?本でしか見たことはないあの温泉?
「ユッカ爺!詳しく!」
「うむ、ここから南に逸れた山岳地に温泉が沸いてるらしい、旅人相手の宿があると空港街で知り合った商人に聞いた」
「詳しい場所とかは?」
「わかるぞ、空から行けるらしいがどうする?」
「もちろん!」「行ってみたい!」
全員一致で向かったのは、休憩ポイントから南に飛空艇を走らせた火山を要する山岳地帯の麓にあるかなり大きな宿。
広い敷地に飛空艇が幾つか停まっている。
降りた私たちは飛空艇に厳重なロックをかけて、四人で宿に向かった。
「ようこそ」
広いエントランスの先にあるカウンターで宿泊するため部屋を二つ取る。
案内する女性は耳が長く尖っていて背の高いかなりの美人さん。
通りがかる宿の従業員の種族はかなりたくさんの人々がいる。
「不思議でしょう?ここは昔の諍いや魔獣に襲われたりで住むところのなくなった人たちが集まって出来た宿なの」
どうやら随分昔、まだドワーフ国との諍いが絶えなかった頃に女性はエルフ国から逃げてきたらしく、柔らかい笑みを浮かべながら簡単に宿の説明を受けた。
「だから色々な種族の方がここで働いているの」
「難民の受け入れって色々難しいてパフィオさまも昔話してはったなぁ」
「そうね、それもあるけどもう振り回されたくないというのも」
ああ、なんとなくわかるかな。
私たちは曖昧に返事をして部屋に入る。
「うわっえ?これ」
「ふふ、玄関で靴は脱いでくださいね」
土間?のような小さな小さなエントランスに靴を脱ぐ、青々とした香りは床からだろうか不思議な感覚の敷物から薫っている。
「たたみ、というらしいですよ」
平たいクッションをたたみ?に置いて私たちはそこに座らされた。
出されたお茶も緑の不思議な色をしている。
「温泉は各部屋に備え付けてあります、山を見ながらのんびりと旅の疲れを癒してくださいね」
そう言って従業員さんが部屋を出た。
「なんか、すごいとこだね」
見たこともない部屋の造りに私たちはため息を吐く。
「とりあえず、温泉に入ってみよう」
呆けているブロワリアを引っ張り温泉のあるところまで行く。
ゴロゴロとした岩で囲んだ池のような場所に湯気が立っている。
屋根はあるけれど、それ自体は小さな庭に作られているらしい。
私たちは服を脱いで温泉に向かう。
木桶で体を流し、頭の先からつま先までしっかり洗っておっかなびっくりしながら湯に入った。
山からの風が心地良い。
「ふう」
「気持ちいいね」
少し熱めの湯に体を預けていると全身から力がいい具合に抜けていく。
「すごいね、こんな場所があるなんて思わなかった」
「本当、村にあのまま居たら何にも知らないで居たんだろうなぁ」
正直、家族ももう居ないし村に未練のない私と違い、家族がまだ村にいるブロワリアが少し心配だった。
「プルメリア、ありがとう一緒に居てくれて」
「うん」
温かなお湯が体も心も温めてくれた気がした。
用意されていた宿の服に着替える。
前で合わせる独特の服を貼られた着方の手順を見ながら着込んで部屋を出る。
休憩所があり、そこで同じくサッパリして着替えたフィカスさんとユッカ爺と落ち合った。
「なんやすごいとこやねぇ」
フィカスさんの言葉に三人で頷く。
「地べたに座るなんて考えたこともなかったな」
そう、本当に不思議な感じ。
「初めてのお客さまは皆そういいますね、この宿を建てられた初代はずっと東の島国出身だったらしいんですよ」
休憩所のソファに座り話していた私たちに従業員の方が話しかけてきた。
「東の島国ですか?」
「ええ、神聖国より東は海が広がっていて、そのずっとずっと東にある島国、初代は事故でこの辺りに着いたらしくて帰れなくなったからと、あまり詳しくは知りませんが」
ふふふと笑って一礼をし従業員さんが去る、東かぁ。
「帝国より東側って今きな臭い話しか聞かないしね」
「行くならずっと先だろうね」
休憩所には他の客もチラホラと居て、それなりに宿は繁盛してそうに見える。
「夕飯は自分らの部屋で皆で食べへん?」
フィカスさんの提案に乗り、夕飯はフィカスさんとユッカ爺の部屋でとった。
初めて見る料理に興奮したり、留守番中のフィカスさんやユッカ爺の話を聞いたりと楽しい時間があっという間に過ぎて行った。
翌日、朝から温泉を堪能した私たちはいよいよドワーフ国に向かい舵を切る。
山脈を抜けると遠くに高い高い塔が見えてきた。
「ドワーフ国はね、浮島に首都を移さなかった数少ない国のひとつらしいよ」
「へえ」
「そういう意味ではエルフ国も似てるらしい、地上で生きていくって決めたひとたちの国やね」
少しずつ大きくなっていく塔に私たちの胸が新しい予感に高鳴っていた。
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