第31話 閑話
閑話 留守番中
お久しぶりやね、自分フィカスですわ。
あれから何ヶ月経ったんかなあ、プルメリアちゃんもブロワリアちゃんも定期連絡は入れてくれるけどもう何ヶ月も顔見てへん。
時間がありすぎるおかげでユッカ爺は飛空艇を魔改造かっちゅうくらい手を入れてしもて。
三か月はバオバブに居るって聞いた日にはユッカ爺も自分も冒険者として登録するか考えたぐらいやで。
パフィオさまに連絡しても笑い飛ばされるし、冒険者になるなら国とは切らなあかんからペディルム家の騎士辞めることになるやん、そんなんしたら飛空艇の操縦技士入れ替えられるしな、泣く泣く留守番継続中や。
今日は久しぶりに定期連絡の入る日やからユッカ爺と二人、飛空艇の通信魔導具の前におる。
「そろそろちゃうかな」
ユッカ爺はプルメリアちゃんやブロワリアちゃんにはよく話しよるけど自分にはあんまり喋らへんから、この間が気まずいんや。
「聞こえる?」
「あ!プルメリアちゃんか!無事か?」
「あはは、無事だよ、今日ブロワリアと合流しました!お互いちょっと腕試ししたいから、もう少し滞在します」
「そ、そうか……わかった、二人とも元気なん?」
「フィカスさん?ブロワリアです」
「ブロワリアちゃん!大丈夫か?」
「ふふっ、大丈夫ですよ」
「ってわけだから、もう暫く飛空艇お願いします」
「……無事ならいい」
ユッカ爺がそれだけ言って操縦室を出て行きよった。
「じゃあ、パフィオさんにもよろしく伝えておいてください」
「了解!ホンマに気ぃつけてな」
「はい、そう遠くないうちに戻りますね」
それだけ言って短い通信は終わり、呆気ないね。
自分としては獣人が多いバオバブは過ごしやすいけど、二人は人族やから大丈夫や思ってても心配してしまう、ユッカ爺にも過保護過ぎるって呆れられてるけども、ユッカ爺かて心配してるくせにな。
「はよ無事な顔見たいね」
一人ごちて苦笑を浮かべる。
このまま真っ直ぐにエルフ国に向かうなら次はドワーフ国になるんかな、ほな下調べぐらいしといたらなあかんね。
まずは祖父がドワーフ族だったユッカ爺から話聞いて情勢とか、ああ先にパフィオさまに伝えといたら何かええ感じに手回してくれるやろか。
すぐにユッカ爺の後を追う。
ユッカ爺はこの間空港に着いた商人からなんや色々買い込んだみたいで、ここ一か月は機関室に閉じこもってる。
作業に入ってから話しかけたら、えらい怒りはるからその前に捕まえんと。
バオバブでひとつ丸々季節が流れてしもうたからね。
もうすぐ、戻ってくるって言っとったし、二人を安心して迎えれるようにしとかんとな。
「あ!ユッカ爺ー」
閑話 村の現状
「神父さま、お父さんがまた怪我したんだけど」
「神父さま、この間渓流から落ちた息子が」
顔だけは気の毒にと同情したように振る舞いながらこの村の神父である私ははイライラと苦虫を噛み潰す。
隣町でプルメリアが女神への奉仕活動として町人に施していた回復魔術はプルメリアが居なくなったことで出来なくなった。
実際は奉仕活動ではなく、きっちり隣町の教会と町長から金銭を貰っていたため教会の収入はすっかり激減している。
悪いことに自分が担当する教会がある村の人々はプルメリアをその辺にある薬草のように使い尽くしていて、旅の魔法師が回復を行うことに対価を支払うことすら拒否した。
回復は無料で施されて当たり前のものだと思っているのだ。
魔力がなくなるまで毎日毎日、プルメリアに回復魔法を使わせてきた村人に今更対価を支払えと言っても聞くはずもなく、本来ならすぐに帝都の大聖堂に要請をし回復魔法を使えるものを呼び寄せなければならないのだが、プルメリアの行方も対価を払わない村人もそれを追及されれば私の身を滅ぼしかねない現状もあり、要請など出来るはずもなかった。
回復魔法の使える者は、村にはプルメリアしかいなかった。
そのプルメリアはとうに居なくなったのに、村人には理解が出来ないらしい。
せめて対価を払わなければ回復など出来るわけもない、それを理解してさえくれれば帝都の大聖堂に掛け合いうまく話をすることも出来るが。
けれど一度根付いた価値観は簡単には変わらず、今は教会に毎日おしかけては私に回復を乞う。
残念ながら私には回復系の加護はない。
水属性や風属性にも回復魔法はあるが、私にはそもそも使えもしない程度の土属性と微弱な魔力しか有さない。
集まった村人に気づかれないように私はため息を吐く。
いくら村の有力者の娘の頼みだからとプルメリアを野放しにせず、地下牢に繋いでおくべきだった。
閉じ込めて反抗する気力を奪い、ギリギリで生かしておけば、逃げるなどという愚かな考えなど持たせずにいられたものを。
拐かした有力者の娘が恨めしい、有力者は娘の結婚が流れたため莫大な慰謝料の請求と支援を打ち切られたことを受け今は没落一途だ。
あの家が無くなるのは時間の問題だろう。
自業自得だ、娘を自身の分不相応ながめついだけの欲求を満たす道具にして、あんな爺ぃに嫁がせようなどとよく考えれたものだ。
殆ど売るように嫁に行かせるつもりだったらしいからな。
まだ十六になったばかりの娘に好色家の爺いを充てがう彼の気はしれない。
相変わらず傲慢な態度で私に不平不満を漏らす有力者のことを考えていると、突然騒めきが広がり慌ただしい物音が外から聞こえてきた。
「魔獣だ!」「早く逃げろ!食われるぞ!」
外から悲鳴があがっている、叫ぶ声を聞いて回復を乞うていた村人が我先にと出口に殺到している。
私も逃げるべく出口に向かうが誰かに突き飛ばされ転がるように後ろに倒された。
出口を見れば、そこに巨体を揺らせる炎を纏った獣が見えた。
「ああ、終わりだ」
いつかの冒険者が言っていた。
「この子の魔力があるから、ここら辺は強い瘴気が溜まらないんだ」
だから居なくなれば徐々に瘴気は山に森に溜まっていく、それはいずれ強い魔獣を呼び寄せる、と。
大事にしてあげなさい、そう言っていた女冒険者を思い出す。
血筋だろう、プルメリアの両親はプルメリアを奪うために村の者たちが赤子を取り上げる時に激しい抵抗をしたため村人たちに殺されて居ない。
プルメリアが生まれる前までは両親のどちらかにそういう加護があったのだろう、だからこそ今までこの村は無事だったのだ。
その両親もプルメリアも血を引く者が居なくなったのだから、いつかはこういうことになると何処かでわかっていたはずだった。
近くで魔獣の咆哮が聞こえた。
出口が崩れて埋まっている、隙間から抜け出すのは無理だろう。
窓に視線を移し外を見れば、村の有力者であったブロワリアの生家である屋敷が燃え上がっている。
村もそこかしこで火の手があがっている。
「ギャーッッッ」
すぐそこで村人の男が生きたまま足を魔獣に喰われている。
ああ、女神よと地獄と化した村の片隅、教会にある女神像に私は祈った、しかし私の祈りは届かなかったようだ。
梁の落ちた教会に火が燃え移っている。
黒い煙が周囲に立ち込める。
薄くなる意識の中で止まない悲鳴と人々の嘆きが聞こえた。
そうして私の意識は火の中に消えていった。
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