第29話 それぞれの選択と決意
午前中は旅の疲れを癒しながら各々自由時間となりました。
私はソードディアとの交戦もあったので午前中は丸々長剣の手入れをしていました。
こんにちはブロワリアです。
激しいソードディアとの戦闘でも刃こぼれをしていない長剣に感謝をしながらピカピカに磨き上げ、ついでに革で巻いた鞘もしっかり磨きました。
ツヤツヤです。
長剣に取り付けた真珠を拭いていると港町プラムでの出来事が昨日のことのように思い出されます。
随分遠くに来てしまいましたが、思い出はまだまだ鮮明で少しホッとしますね。
朝から訪ねるのは流石に礼を失しているだろうと、昼食を取ってからツタさんの元に向かいます。
プルメリアは精霊の池があるらしく加護を貰うため早朝からそちらに向かいました。
この辺りはバナナという果物がたくさん取れるらしく、昼食はバナナを使ったサンドイッチです。
カスタードクリームとバナナに蜂蜜が混ぜ込んであるのでしょう、甘くてお腹に溜まる満足感に舌もお腹も大満足。
昨日の夕飯に出た包み焼きはこのバナナの葉を使って包んでいるらしいです、ちなみにこのサンドイッチもそのお店でテイクアウトしたものです。
私は最後の一口を食べ切ると長剣をマジックバッグに入れて宿を出ました。
落ち合う場所は村の広場です、昨日村長の所へ荷を届けた時にツタさんの家は聞いておきました。
村の端にある集落部から少し離れた場所に居を構えているらしいです。
プルメリアと合流して私たちはツタさんの家に向かいます。
尚、今回のことには関係がないということでアスターさんは留守番です。
畑を進んでいくと木立に囲まれたこじんまりとした木の家が見えてきました。
私たちは深呼吸してドアをノックしました。
「すいません、ツタさんはいらっしゃいませんか?」
ガタガタと物音がしてドアが開き中から小柄な女性が顔を出しました。
「はい、ツタは今畑に行っていますが、どちらさまでしょう」
私たちを見て女性が不審そうに顔を歪めました。
「帝国の港町プラムの宿屋の女将、ダリアさんから紹介されたのですが」
「え?あ!ダリアから?ちょ、ちょっと待ってね!すぐツタを呼ぶから!あんたー!お客さんよ!」
キーンとするほどの声を上げて畑に向かいそう言うと女性は私たちを家の中へと案内してくれました。
「客?」
勧められた椅子に座ると同時にドアが開きビックリするほど大柄な熊の獣人が入っていました。
「ダリアから聞いたんだって!」
「ダリアから?」
「はじめましてプルメリアです」「はじめましてブロワリアです」
挨拶は基本ですからね。
「俺はツタ、見ての通り熊の獣人だ」
「私はカモミール、ツタの妻よ」
「よく来たな、歓迎する」
朗らかな笑顔を見せた二人に私たちはホッとしました。
ひとつしかないテーブルを囲んで勧められた椅子に座ります。
「俺もカモミールもダリアの昔の冒険仲間なんだ」
「初めはね、ツタと二人で挑んだ塔の探索でどうにもならなくなってね、二人とももうダメだってなってた時にダリアに助けてもらったのよ」
「当時の俺とカモミールでも二人で挑んだ塔をダリアはソロで登って来たんだ」
懐かしがる二人ですが私とプルメリアは唖然としてしまいました。
何やってんですか、ダリアさん!
「で、ダリアが寄越したのはブロワリアの方だな」
「あ、はい」
「ダリアが自分じゃあなく俺にと言ったんなら身体強化魔法か」
「は、はい!」
「今使えるものはあるのか?」
「首都で加速を覚えましたがまだ……」
「まあな、身体強化は覚えたからっていきなり使いこなせねえしな、あーそうだな、ちょっと実力を見せてみろ、表に出るぞ」
ツタさんはそう言ってドアを出ました、私は慌ててそれを追います。
小屋を出るとツタさんは手近にあった棒切れを手にして私に向き直りました。
「いつも使ってる剣でいいからかかってきてみろ」
「え、でも」
私はツタさんと棒切れを交互に見ます、いくらなんでも私の長剣では棒切れを切ってしまいます。
「ふん、心配はいらん、全力でかかってこい」
そう言われて私は目を閉じ深呼吸をしてからマジックバッグから長剣を抜き出して構えました。
大丈夫というなら大丈夫なのでしょう。
万が一の時はプルメリアも居ます。
「いきます!」
「おう」
ダッと走り込んでツタさんに飛びかかりました。
長剣が当たる瞬間、目の前からツタさんが消えました。
空振りした私は前のめりに倒れ込みました。
「え?」
「これが加速だ」
何が起きたかわかりません、顔をあげれば長剣から一歩距離を取った場所にツタさんが居ます。
「よし、続けてかかってこい、ってかお前はちょっと大振り過ぎるな」
ふむと考え込んだツタさんに更に切り込みにいきますが、結局掠りもしないうちに息があがりました。
「そろそろ休憩しなよ」
「そうだな、ブロワリア明日から一カ月だ」
「え?」
「加速とこの村の池で手に入る加護に瞬発がある、その二つ使えるようにしてやる」
ニッと笑ったツタさんに私はヘロヘロになりながらも頭を下げました。
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
休憩にと軽食と飲み物を用意してカモミールさんとプルメリアが待っていてくれました。
それを頂きながら今後について話し合います。
「一カ月……」
プルメリアがツタさんに私の特訓にかかる時間を聞いて考え込んでいます、私は少し居心地悪くチラチラと二人を交互に盗み見ていました。
「最短で、だな」
「二カ月……いや三か月あればもっとブロワリアは強くなりますか?」
「そうだな、それだけあれば充分色んなことを教えれると思う」
「そっか。私もブロワリアも村で自分たちだけでどうにかやってきたから誰かにしっかり教わるってことは今まであまりなかったんです」
「そうか」
「はい、でも私は教会に預けられていたから基本的なことは教会の神父さまや隣町のシスターたちが教えてくれました、でもブロワリアは誰に教わることも出来ずにずっとひとりで頑張って来たんです」
プルメリアがそう言いながら膝の上で手をグッと握り込みました。
「だから、もしちゃんと教えを乞いたいとブロワリアが言い出したら、私は待つ覚悟があります!」
「プルメリア……」
知らなかった、そんな風にずっと思ってくれていたなんて。
私はプルメリアの思いに触れて鼻の奥がツンと痛みました。
「でも、三か月あるなら、私もちょっと気になることがあるからさ、ブロワリアその間に少し別行動にしない?」
「え?」
ずっと一緒に居るものだと思っていた私はプルメリアの思いがけない言葉に戸惑います。
「覚えてるかな、首都にいく前に寄った町で買った魔導書」
プルメリアはマジックバッグから魔導書を取り出しテーブルに置きました。
「白属性魔法には攻撃出来る魔法がすごく少ないんだ、今までは二人だったりしてもタイミング良く誰か戦える人が居合わせたり、どうにか二人で切り抜けたり出来たけどさ」
「うん」
「いつも運良く誰かが居るわけじゃない、それでねこの間のソードディアとの戦いで少し試したんだ、これなら私も今よりずっと戦える」
プルメリア、回復魔法は前線に出ないのが普通なんだよ、なんで戦おうとしてるのよ。
そう思うのに言葉が出ない。
「ブロワリアの背中を任せられるんなら、私は守られるんじゃなくてその背中を守れる力が欲しいんだ」
泣きそうな笑顔でプルメリアが私を見てます。
「今より強くなって三か月後にここで会おうよ」
「プルメリア……」
私は堪えきれずに涙を溢しました、話を聞いていたカモミールさんは既に号泣と言っていいほど泣いてますが。
おかげでちゃんと話が出来そうです。
逆に冷静になるよね。
「わかった、私絶対身体強化魔法を使いこなせるようになるから」
「うん、私も絶対強くなるからね」
何となく方向性に疑問があるプルメリアと手を取り合って額を合わせるようにして笑います、だってまた会うために別行動するのに泣いてちゃおかしいから。
「明日、アスターさんに送ってもらって首都に向かうよ」
「早くない?」
「時間を置いたら決心が鈍りそうだからさ」
そんな私たちを黙って見ていたツタさんが私たちの頭をぐりぐりと撫でました。
「いい仲間だな、ブロワリアは俺が責任をもって鍛えておく」
こくりとプルメリアが強く頷きました。
ツタさんの家から宿に帰る途中で精霊の池に寄りました。
小さな池に膝を着いて祈るとふわりと身体が暖かくなります。
「瞬発……」
脳内に浮かび上がる言葉を不思議な感覚で受け止めました。
「私はライトをいただいたんだよね」
そう言ってプルメリアが手のひらを上に向け小さな光の球をポンっと浮かべました。
「洞窟内で灯の魔導石使わなくても良くなるね」
結構な光量があるらしく、薄暗くなり始めた池の周りだけが昼のように明るいです。
「お腹すいた!宿に戻ろう!アスターさんにも話さなきゃ」
「そうだね」
私たちは精霊の池を後にして宿に向かいました。
宿で合流したアスターさんと昨日の食堂へ向かい、今日決まった話の内容を伝えました。
「随分と急だね、うん、魔導書ね」
「露店だったからまだあるかわからないんですけど」
私たちの話を聞いてアスターさんがふむと考え込んでいます。
「じゃあ僕はプルメリアちゃんと三か月パーティを組む形になるんだね」
「出来れば……」
「その露店はわからないけど、魔導書は少し心当たりあるからね適材適所な判断だと思うよ」
私たちを見てアスターさんが頷いています。
「じゃあ明日からプルメリアちゃんよろしくね」
「はい、アスターさんよろしくお願いします」
夕飯の席でアスターさんとの話もまとまりました。
私たちは宿に戻ります。
その夜、私たちはたくさん話をしました。
ずっと二人で居たのでこんなに長く離れることはずっとなかったから。
三歳で知り合ってからずっと一緒だった、村の人々に使い潰されかけていたプルメリア、父からただ金のかかる道具としてしか生きられなかった私、二人で出会った憧れの冒険者、そして同じ夢を持った、いつか冒険者になって村を出るそんな目標を二人で立てて二人でその日のために強くなろうとした。
村での思い出の中にはいつもプルメリアが居た。
ようやく飛び出せた村から冒険者になれた、でも今のままでは世界中旅するには私は弱過ぎるんだ、もっとたくさんプルメリアと色んなものが見たい。
それを確たるものにするためにも、私もプルメリアももう少し強くならなきゃいけない。
「卵はどうしよう」
「ブロワリアが預かってて欲しい」
「わかった」
プルメリアが腰のベルトから革の巾着袋に入った卵を袋ごと渡してきました。
私は卵を受け取ります。
今日は二人で同じベッドに入りました。
「なんだか懐かしいね」
「うん」
二つの月が窓から私たちを見守るように輝いて見えました。
翌日、朝早くにアスターさんとプルメリアが村の入り口に居ます、私は二人を見送るため村側に立っています。
「じゃあ三か月、プルメリアちゃんのお供は任せてもらうね」
「よろしくお願いします」
「子どもじゃないんだから大丈夫だよ」
「ほっとくとプルメリアはすぐ暴走しちゃうからアスターさん本当によろしくお願いします」
「ブロワリアちゃんも頑張ってね」
「ありがとうございます」
「じゃあ遅くなるからそろそろ行くね」
プルメリアが握った拳を前に突き出しました、私もその拳に合わせるように腕を突き出します。
トンと拳が触れ合ってプルメリアはくるりと体の向きを変えました。
「ブロワリア!三か月後楽しみにしてて」
「プルメリアも!」
私は歩いて行く二人が見えなくなるまで手を振り続けました。
小さくなった影が見えなくなって腕を下ろすとポンと肩を叩かれました。
「行ったか」
「ブロワリアちゃん、大丈夫?」
私は振り返り笑顔を作ります。
「大丈夫です!プルメリアがああ言ったんだから絶対強くなってきます、私も負けてられません」
グッと腹に力を込めてそう言うとツタさんがニィッと笑いました。
「早速今日から始めるとするか!」
「はい!よろしくお願いします!」
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