第27話 魔導列車でガタンゴトン
翌日、良く晴れた筈の空は街の煙突から登る煙で薄くぼやけていて朝靄と区別がつきません、今日はパイン村に行く予定です。
おはようございますブロワリアです。
昨日のダリアさんの話を受けて今日はパイン村に行く為にかなりの早起きをしました。
宿を出ると通りの向かい側から灰色の耳をキャスケットの両脇から出した青年が跳ねるように私たちに近付いて来ました。
「プルメリアちゃんとブロワリアちゃん?」
膝を折り目線を合わせながら小首を傾げた青年がそう聞いて来ました。
「どなたでしょう」
「僕、ラピス商会と契約してる冒険者でアスターって言います、オーガスタさんに君らに着いていくように言われたんですよ」
「オーガスタさんに?」
「はい冒険者ランクはD、父が灰色オオカミの獣人で母は君らと同じ帝国出身の人族」
アスターさんは冒険者証を出して見せてくれました。
そこには間違いなく彼の契約しているというラピス商会の文字がみえました。
「今日はどこに行く予定か聞いても?」
「あ、パイン村まで荷運びの依頼を受けたのでまずは冒険者ギルドに行ってからパイン村を目指します」
「パイン村かぁ、そこそこ距離はあるけど朝から行けば夕方前には着くかな」
「地図で見た感じだと数日かかりそうでしたが」
そこそこ長い道のりを考えていたので私たちは首を傾げました。
アスターさんがカラカラと笑っています。
「パイン村の少し手前の町までなら魔導列車で行けば昼には着くからね」
「魔導、列車?」
「そう、帝都でトロッコみたいな乗り物あったでしょ、アレの豪華版みたいな乗り物。見た方が早いからさっさとギルドで荷物受け取って来ましょう」
ニコニコしながら先を歩いてギルドに向かいます。
ギルドでは朝早い時間にも関わらずデイジーさんが荷物を用意して待っていてくれました。
「あれ、アスターさん?」
「デイジーちゃん、おはよう」
「何故プルメリアさんやブロワリアさんと?」
「タヌキのおっさんに頼まれたの」
カウンターに肘をつきながらアスターさんがデイジーさんに話しています。
「タヌキって……またオーガスタ商会長に怒られるわよ?」
「デイジーちゃんが内緒にしてくれたら大丈夫でしょ」
「……伝えておくわね?」
「ええっ」
何の漫才を見せられているのでしょうか。
「大体、オーガスタさんはタヌキの獣人じゃないでしょう」
「え?違うんですか?」
驚きのあまり声を出したのはプルメリアです。
いえ、私も驚いていますが。
「ククッほら、二人もタヌキだと思っ……ククッ」
アスターさんが目を丸くした後口に手を当てながら笑っています。
「えっとね、オーガスタさんはアライグマの獣人なの」
「え……」
「アライグマ……タヌキではなくて?」
「そう、アライグマ」
衝撃の事実です!
「まあ、どっちでも似たようなものだからねククッ」
「違うからね!オーガスタさんにまた怒られても知らないわよ、あ、荷物はこれ」
デイジーさんがパイン村に届ける荷物をカウンターに置きました、プルメリアはそれをマジックバッグに入れます。
「じゃあ行こうか」
「はい」
「気をつけてね」
「行ってきます!」
私たちはデイジーさんに挨拶をして冒険者ギルドを出ました。
ギルドから南に向かうと長い建物が見えて来ました。
「あれが駅舎になるんだよ、乗車券は冒険者証があればいらないから入口で冒険者証を見せれば大丈夫」
アスターさんに教えてもらいながら入口の係員さんに冒険者証を見せました。
「ここからパインに行くならビスカスまで列車に乗ってそこから歩いて山越になるかな」
「はい」
案内されるまま歩いて行くとやがて甲高いベルの音がしてガタガタと轟音を出した巨大な長方形を横倒しにした箱が幾つも繋がる黒々とした列車が到着しました。
「これが魔導列車」
「そう、バオバブが誇る魔導石の加工技術とドワーフ国の鉄加工技術の結晶」
「すごい」
迫力です、圧巻です。
黒々とした鉄の車体が重い客車を幾つも繋いで引っ張っていくそうですが、とてつもない大きさです。
「さ、乗ろう」
アスターさんに促されて客車のひとつに乗り込みました。
この車両は冒険者専用らしいです。
向かい合わせの長椅子が幾つも両端に並んでいます。
アスターさんはそのひとつに私たちを座らせて私たちの向かい側に座りました。
珍しさにキョロキョロしているうちに殆どの椅子が埋まりました、そして鐘がけたたましく鳴り響き列車がゆっくり動き出しました。
「パイン村で他に用があるの?」
「あ、はい、知り合いから紹介された方を訪ねる予定です」
「そう、なら着いたら荷物の配達してる間に宿を取っておくね」
「ありがとうございます」
礼を言って私たちは窓の外を見ました、思ったより早く走る魔導列車から見る景色はどんどん流れていきます。
放牧された牛や羊を眺めているうちにビスカス村に着きました。
「さて、山越の前に腹ごしらえと行こうか」
アスターさんが先導して食堂まで歩きます。
「ビスカスの名物は腸詰め所謂ヴルスト、旨いヴルストの店あるから案内するね」
そう言って連れて来られたのはかなりお洒落な雰囲気のお店です。
木の樽をテーブルに見立てて背の高い椅子があります、店内のあちらこちらに吊り下げた円形の鉢植えに可愛い形の葉が垂れ下がる草を植えています。
魔導石で光る灯りもランタンんを模した全体的にすごくお洒落。
アスターさんは木樽のテーブル席に私たちを連れて行き通りかかった店員さんに声をかけました。
「店長居る?」
「アスターさんじゃないですか、店長ですね呼んでまいります」
程なくしてカフェエプロンを腰に巻いた男性が奥から現れました。
「店長久しぶり、この子たちオーガスタさんの知り合いで僕が案内してるの」
「オーガスタさんの、これはこれはよくいらっしゃいました」
ニコニコと笑った男性に私たちは慌てて会釈をします。
「ヴルストの美味しいのお願いするわ」
「了解」
くるりと奥へまた戻って行く男性を見送ります。
「ここね、ラピス商会の系列の店だからね」
「そうなんですね」
「さっきの店長なんてヴルストを作る腕をオーガスタさんに見込まれてスカウトされたのよ」
「へえ」
「あの人、自称食通だから」
「自称」
「うん、自称」
くつくつ笑ってアスターさんが話しているうちに様々な種類のヴルストが乗った大皿が運ばれて来ました。
「さ、食べよう」
「うわぁ美味しそう!」
しっかりヴルストを堪能して店を出るといよいよ山越えです。
「山の方は多少魔獣が出るからね、二人とも気を付けて」
「はい!」
砂利道を進んで一時間もしないうちに山の入り口に差し掛かりました。
「あ、あの」
「ブロワリアちゃん、どうかした?」
「首都で覚えた魔法を試してみたいんですが」
「ああ、一応何か聞いても?」
「加速、らしいのですが良くわからなくて」
速度を上げる加護魔術は色々あるんです、例えば風属性のスピードブーストとか、加速というのは聞いたことがないのです。
「身体強化魔法かぁ、初めて使うなら戦闘前に慣らした方がいいね、ちょっとここで使ってみようか」
「こ、ここで?ですか?」
「うん」
「わ、わかりました」
私は一瞬目を閉じて魔力に意識を集中します。
「加速」
ブンっと耳鳴りのような音がして足元が暖かくなりました。
「ブロワリアちゃん、ちょっとその辺り走ってみて」
「はい」
私はアスターさんに言われた通りに軽く走り出しました。
「え?」
軽く走ったつもりでした。
一気に速度があがりびゅっと辺りの景色が流れて、気がつけば私は地面に倒れていました。
「え?」
「うん、慣れてないとそうなるよね」
アスターさん曰く、身体強化魔法は一時的に自分の能力を上げてくれるけど使いこなすには相応の慣れや訓練が必要らしいのです。
「通常の魔法と違って覚えたからすぐに使えるっていうわけじゃない、けどね、使いこなせれたら強いよ」
私はアスターさんの言葉に無言で頷きました。
「まだ戦闘では使わない方がいいよ」
私もちょっと怖いです。
使わないと約束して私たちは山に入りました。
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