第26話 思わぬ出会いと懐かしのあの人
土色の壁が無骨ながらも無駄のない洗練された長い階段で陸から繋がる巨大な城が地上からほんの少しだけ浮き上がった浮島に聳え立ち、密集した街並みに時折混じる油の匂いと白い煙。
混み合った家が重なり連なる独特の景観に私とブロワリアは圧倒されている。
こんにちはプルメリアです。
今私たちは獣人国バオバブの首都に着いた所。
巨大な煙突があちらこちらから突き出した家屋の隙間を縫うような通りを抜けて、一先ず目指すは冒険者ギルドだね。
良く言えば活気のある騒々しい街は帝都より小さいながらも活気だけなら首都の方が明らかにあるんじゃないかな。
通りがかった獣人の女性に冒険者ギルドの場所を聞いて向かう。
飾り気のない灰色の箱型の建物、窓はあまり多くなく鉄の扉とその上に冒険者ギルドと書かれた錆びついた看板がある。
「ここかな」
「そうみたいだけど」
うん、ブロワリアがちょっと引いてる。
わかるよ、わかる。
だってすっごく入りにくい!
けれど突っ立っているわけにもいかないので私は思い切って鉄の扉を開いた。
ギィィィと油の足りない金属が擦れる音の後、濁流のような喧騒が耳に届いた。
一歩中に入れば、帝国の木や石で作った建物の内部より圧迫感が強い室内に少ない窓のために暗い室内を魔導具をが代わりに明るく照らしている。
左手に見慣れた掲示板があり、右手には幾つかのボックス席がある。
冒険者風の人々が思い思いに過ごす風景は見慣れたもの。
中はそう変わらないかと私とブロワリアは受付カウンターに向かった。
「滞在手つ……え?マリーさん?」
滞在手続きのためにカウンターに声をかけた私たちを見上げた受付の女性を見て私は声を上げた。
白いウサギ耳に赤い瞳が眼鏡の奥からこっちを見ている。
びっくりするほど知った顔だ。
「マリー?いいえ私はデイジーです」
「あ、す、すいません、以前寄ったギルドでソックリな方が居て……」
心当たりがあったのか、デイジーさんは眼鏡の奥の瞳を瞬かせた。
「もしかして港町プラム?帝国の」
「は、はい!そうです!」
うふふとデイジーさんが笑った。
「それ、双子の妹だわ」
「双子の……どおりで」
「マリーは元気にしてた?」
「はい、私と彼女と初めて行った冒険者ギルドですごくお世話になったんです」
そう、そうなの、と嬉しそうに笑うデイジーさんは確かにマリーさんとは笑い方に多少の差異がある。
「滞在手続きかしら、すぐ終わるからちょっと待っててね」
デイジーさんは私とブロワリアから冒険者証を受け取りサクッと手続きをして冒険者証を私たちに返した。
「依頼受ける?」
「んん、先に商業ギルドとあとラピス商会に行きたいんですよ」
「ラピス商会に?」
「私たちのスポンサーから紹介されてて」
そう言うと冒険者証からデータを見ていたのかデイジーさんが納得する。
「地図持ってる?まだ?じゃあねぇあったここが今いる冒険者ギルドでこの路地を行ってここが商業ギルド、派手だからすぐわかるわ、で商業ギルドの向かいにある路地からこうでここにラピス商会があるわ」
デイジーさんが地図を取り出し丸を付けて説明してくれた。
私たちはありがとうと礼を言ってそれを受け取る。
「あ、よかったら帰りにまた寄ってね」
「はい!」
商業ギルドとラピス商会の帰りにデイジーさんに会う約束をして私たちは商業ギルドに向かった。
言われた通りにカラフルな目立つ建物の商業ギルドで幾らかの素材を売却して私とブロワリアはラピス商会に向かった。
建物自体はシンプルな灰色の壁の建物でショーウィンドウに大きくラピス商会の文字があるその商会の扉を潜る。
手近に居た職員にペディルム伯爵家の紹介でと話すとすぐに上階にある応接室に通された。
「これはこれは!素敵なお嬢さま方!パフィオ殿から承っております、私ラピス商会の商会長をしているオーガスタと申します」
応接室に入るなりそこに居た小柄などう見てもタヌキの獣人が大きなお腹をゆさゆさ揺らしながら握手を求めて来た。
私たちは握手を返しながら「プルメリアです」「ブロワリアです」と自己紹介をする。
「パフィオ殿には随分贔屓にしていただいてるんですよ、くれぐれもよろしく頼むなんてパフィオ殿に言われたら張り切るしかないですからな、何かあればいつでも仰ってください」
そう言うとオーガスタさんは部屋の真ん中にあるソファに私たちを座らせた。
「こちらには何か目的とかあるんですか?」
「あ、はい。一応調べ物と」
「身体強化魔法の発祥地とい話を聞いたので是非その関連も知りたいんです」
「なるほどなるほど、調べ物だとまあ大体は図書館ですかな、身体強化魔法というとあの村かな、ちょっと詳しい者を探してみましょう」
ふぅふぅと息を吐きながら興奮気味に話したオーガスタさんがにっこりと笑う。
「そうだ!昼食はお済みですか?折角の機会です、旅のお話を聞きながら是非昼食をご一緒したい!ここらの名物である網焼きの肉の店で良いところがあるんですよ」
肉。
隣のブロワリアもピクリと反応した。
「是非ご馳走させてください」
オーガスタさんに押し切られて私たちは昼食をオーガスタさんにご馳走になりラピス商会を後にした。
話すのが好きだというオーガスタさんがこの辺りや国の紹介をしてくれたのでとても助かった、右も左もわからないからね。
そして名物の網焼肉は絶品だった。
新しい町に来たのならやっぱり新しい加護をと思い教会を探すことにした。
が、空港街にもここまでの村や町にも実は教会を見かけなかった。
首都ならばと思ったものの地図をいくら見てもそれらしい建物が見当たらない。
「教会ないのかなぁ」
ぽつり漏らした言葉が聞こえたのか、すれ違った犬耳の少年が「教会はないよ、かわりに精霊さまに祈りを捧げる泉が城の下の林にあるよ」
随分詳しいな。
「ありがとう、教会はないんだね」
「姉ちゃんたち冒険者だろ?他所から来た冒険者はみんな教会探すからさ、この先にあるからお祈りするなら行ってみたら?」
親切な少年に礼を言って私たちは城に向かい歩き出した。
「ブロワリア、嬉しそう?」
「あ、あのね」
そわそわしているブロワリアに声をかけるとブロワリアは頬を紅潮させてがばっと前のめりに掴みかかってきた。
「私たち、ちゃんと冒険者に見えるんだね!」
「あ、そうか、そうだね……あー」
ブロワリアに言われて私もニヤニヤが止まらなくなる。
冒険者になるべく村を出て数ヶ月、ちゃんと冒険者として見られるようになったんだと実感がジワジワと湧いてくる。
「もうただの力のない村娘じゃないんだね」
「そうだね、そうかぁちゃんと初めての人に冒険者として見てもらえるんだね」
嬉しい、素直にそう思う。
私たちは足取り軽く城下の林に向かった。
城のある浮島には長い階段があり、地上から歩いて行けるようになっている。
その階段の横に道があり林に繋がっているらしい。
林というか森林公園のように手入れされた林道の先に泉が現れた。
数人の獣人が祈りを捧げている、私とブロワリアもそれに倣い泉に向かい膝を付き祈りを捧げた。
ふわりと何かに包まれた気がして目を開ける。
「あ、あれ?これ、え?」
特に何の変化もなかった私と違い隣のブロワリアが戸惑っていた。
「え?か、加速ってなに?え?」
ブロワリア、それもしかして?
「身体強化魔法……」
「え?うそ!」
「いや嘘ついても仕方ないでしょ」
ええ?と戸惑うブロワリアの肩を叩き立ち上がって私たちは泉から冒険者ギルドに向かった。
「お帰りなさい」
うふふと変わらず良く笑うデイジーさんがカウンターを出て個室へと案内してくれた。
革のソファに座らされて、目の前のテーブルにカタリと丸いレンズの付いた箱が置かれた。
「聞こえる?マリー」
「聞こえる聞こえる!あっ!プルメリアさん!ブロワリアさん!」
丸いレンズからウサギ耳の眼鏡の女性が涙目で私たちを呼んだ。
「マリーさん!」「マリーさん!」
レンズには港町プラムの冒険者ギルドで受付をしていたマリーさんが映っている、その後ろからひょっこり顔を見せたのは……。
「ダリアさん!」
「二人とも元気そうだね」
懐かしい顔に私もブロワリアも涙が出そうになる。
「ギルド間の連絡用なんだけどね、この通信魔導具、許可もらって来ちゃったの」
うふふうふふと笑いながらデイジーさんが言う。
「ありがとうございます!マリーさんダリアさんお久しぶりです」
「元気そうでよかった、今バオバブなんだろ?あんまり長く話せないみたいだからね、手短に話すよ、ブロワリア強くなるんなら首都から南西にあるパインって村のツタを訪ねてみな」
「パイン村のツタさん?ですか?」
「そう、ダリアの紹介って言えばわかるはず」
「わかりました!ダリアさん、ありがとうございます!」
「わっわっもう時間がっ。ブロワリアさんプルメリアさん、またプラムにも帰って来てくださいね!」
「はい!」「絶対に!」
別れを惜しむ間もなくプツリと通信が途切れてレンズは何も映さなくなってしまった。
「デイジーさん、ありがとうございます」
「いいのよ、マリーから前に来た手紙にあなたたちのことが書いてあったからね」
ずっと気にしてくれていたという事に私もブロワリアも温かい気持ちになる。
「ちょうどパインまで荷運びの依頼があったはず、どうする?」
「受けます」
「じゃあ明日、荷物を渡すわね」
「はい」
私たちはデイジーさんに何度も礼を言って冒険者ギルドを出ると宿に向かった。
「卵ちゃん、聞いてよ」
その夜は私もブロワリアも卵への報告がいつもより長く興奮しながらたくさん話をした。
明日はパイン村に向かいます。
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