第25話 バオバブに到着です!

 帝都の空港と違い、バオバブの空港は国境沿いを囲む砦の外側にあり砦と空港の間に各施設が並ぶ町を形成しています。

 商売などは認められていないのですが、行政が運営する宿や商店などの施設があり、国境を越えれない操縦士やエンジニアなどの船員が数日から数ヶ月滞在しても良いようになっています。

 とはいえ彼らにも冒険者ギルドや商業ギルド、または行政機関への滞在登録は必要なのだけど。

 こんにちはブロワリアです。

 今私たちはバオバブという獣人族の国、その玄関口とされる空港町にいます。

 着いて早々に冒険者ギルドに向かいフィカスさんとユッカ爺の滞在許可を申請、そのままギルドの紹介で二人の宿を取り今は飛空艇の操縦室に戻ってきました。

 というのも、定期連絡以外に無事入国した報告をパフィオさんにするためです。

 通信用の魔導具を作動させて船と連携すれば操縦室の真ん中にある操縦用の大きな魔導石に向こうの映像が浮かび上がる仕様になっています。

 「無事にバオバブに到着しました」

 「そうか!よかった!船の具合はどうだ?不備はないか?」

 「すごく快適!」

 「本当ならもっと大きな飛空艇を用意したかったんだが」

 「今の飛空艇でも充分ですよ!」

 「パフィオさま!パフィオさま!マーガレットもお姉ちゃんたちと話したい!」

 「パフィオさま、僕も!」

 ぴょんぴょんと跳ねる薄茶の髪はマーガレットだろうか、パフィオさんがマーガレットを抱き上げて膝に乗せるとパフィオさんの後ろ側にキュラスさんやラナンさん、カクタスくんにカルミアさんの姿も見えます。

 背後から押されてパフィオさんが怒っていますが、すごく懐かしい賑やかさで私たちは思わず笑ってしまいました。

 「バオバブか、城下まで行くならラピス商会を訪ねてみるといい、話は通しておく」

 パフィオさんが取引のある商会を紹介してくれました、馴染みのない地ですから何があるかわからないので現地の方を紹介して貰えるのは心強いです。

 「パフィオ様、ブロワリアに話したいことが」

 「ラナン、どうした?」

 「ブロワリア聞こえるだろうか、バオバブは獣人族の中でも種族が多種多様で魔法が使えないまたは魔力がかなり少ない者も多い、そういう理由から君が気にしていた内に作用させる身体強化の魔法もそこが発祥と言われている」

 「そうなんですか!」

 ずっと魔法を上手く扱えずに悩んでいた私にコリウスさんから聞いた身体強化、内に作用させる魔術を帝都にいる間密かに調べていたことをラナンさんは覚えていてくれたようで、バオバブでの私の目的がひとつ増えました。

 「詳しくは知らないが、身体強化魔法に特化した集落があると聞いたことがある、ブロワリアの役に立ちそうなら調べてみてはどうかと思ってな」

 「ありがとうございます!調べてみますね!」

 私は意気込んでラナンさんに礼を言いました。

 「バオバブはドワーフ国と同じくあまり魔法には頼らない代わりに帝都にも輸出するほど魔導具の技術は発達しているんだ、そこでしか見れないものも多いだろう」

 パフィオさんの話に私とプルメリアはまだ見ない景色へと胸が踊るのを抑えれません。

 「気をつけてな、君たちに旅の女神の加護があるよう」

 「ありがとうございます」

 賑やかで短い通信が終わると艇内が静かになりました。

 バオバブに関しての前情報が帝都の図書館にあった旅行記ぐらいしかなかった私たちは今の通信で今回の目的を大きく二つ決めました。

 先ずは卵の情報を調べながらこの地の珍しいものに触れる、もう一つは身体強化の魔法について調べてみること。

 とはいえ急ぐ旅ではないし、フィカスさんとユッカ爺も暫くは空港町でのんびりするようです。

 時間や期間は気にしなくていいけどたまに連絡はするようにと言われました。

 報連相は大事らしいです。

 その後空港町で一番大きな食堂に向かいました。

 「まあ暫くはここで飛空艇の改装もしたいからなぁ」

 留守を任せること、待たせることが気がかりで食事をとりながら話しているとユッカ爺がそう切り出しました。

 「改装、ですか?」

 「せやねぇ、実際飛んでみて気になるとことかあるから自分もちょっとユッカ爺と相談しながら手ぇ加えて貰ったりする時間は欲しいんよ」

 うんうんと細い目を弓形にしてフィカスさんが人差し指を立てながら話しています。

 「気になるところって例えば?」

 「せやね、操縦に関してもやけど一番の気がかりは防御にも攻撃にも不安があることやねぇ」

 「速度ももう少し上げれるようにしないとダメだな」

 バオバブの名産である黒い麦酒を大きなジョッキで煽りながらフィカスさんとユッカ爺が話すのを聞いています。

 「空にも魔獣はでるんやで?今のままやとちょっと心配やね」

 「新しく搭載したなんて伯爵が言ってたが、実際のところ機銃なんて豆鉄砲じゃねえかと思ったしな」

 「豆鉄砲……」

 「まぁ自分やユッカ爺もまさかここまで旧式やと思ってへんかったしな、改装にかかる費用はパフィオさまが出してくれる言うてたからそこら辺も気にせんで甘えとき」

 ケラケラ笑いながらフィカスさんが言います。

 「まあ、だからのんびりして来ても問題はないぞ、飛空艇は任せとけ」

 「はい」

 私もプルメリアも飛空艇のことは詳しくないため、二人に任せるのが最善なのでしょう。

 私たちは食堂を出るとフィカスさんとユッカ爺に「行って来ます」をして砦に向かいました。

 砦には門があり、跳ね橋がかかっています。

 門の前には深い堀があり、砦からバオバブ国内へ入るための検問所に列が出来ていました。

 私とプルメリアは冒険者証を提示して砦の門を潜ります。

 冒険者証を持たない渡航者はここで荷物検査などがありますが、冒険者証があると確認するだけで終わります。

 なので私とプルメリアはすんなりと入国です。

 門の向こうは空港町と似た造りの簡素な町になっていて、門から続く大きな通りは草原にずっと伸びているのが見えました。

 「さぁいよいよだね!」

 プルメリアが振り返って笑います。

 「近い町は、この道の先にある町っぽいねえ」

 砦の検問所で簡易的な地図を貰えたのでそれを広げながらプルメリアと相談します。

 「ラピス商会があるのは城下町らしいから行くならこの町から北に向かう方が早そうだね」

 「町は遠くないみたいだし、乗合馬車より歩いてみない?」

 私の提案にプルメリアが頷きました。

 私たちは道なりに歩いて砦を抜けて両脇を草原が広がる砂利道を歩いていきます。

 途中すれ違う人々は様々な種族がいて少し驚きです。

 後ろから猛スピードで走っていったウサギ獣人の方を見ながら、港町プラムの冒険者ギルドで受付をしていたマリーさんを思い出しました。

 マリーさんもあんなに速いのでしょうか。

 向かい側から来る荷車にはネズミ獣人の親子一同が賑やかにすれ違っていきます。

 ほんの二時間弱で町の入り口が見えて来ました。

 ぐるりと木の柵で囲まれた町は数軒の宿屋と雑貨屋がポツポツ、町中央の広場に食材のマーケットがあります。

 夕方近いのにかなり賑やかで、見かけた出店の主人に聞いてみるとマーケットはかなり夜遅くまでやっているらしいのです。

 空港町の砦があるため人の出入りが多い町の重要な収入になっているだけではなく、陽が暮れた後の町を照らすマーケットの灯が煌めく風景は観光名所だとか。

 そう聞いたら俄然興味が出て来たらしいプルメリア。

 慌てて宿を探しに向かいました。

 マーケット近くにある赤煉瓦の宿屋が可愛く見えて私たちはそこに部屋を取ると、マーケットに戻ります。

 夕暮れのマーケットは時間的にも軽食を出す出店が多く見られます。

 通貨は帝国と変わらないらしいと聞いていたので、出店のひとつで串焼きを買ってマーケット探索です。

 プルメリアが足を止めて目に付いた出店に向かっていきました、私も慌ててプルメリアを追います。

 「魔導書?」

 「珍しいね」

 魔法を精霊や女神の加護でいただくため、魔導書というものは話でしか聞いたことはありませんでしたが、プルメリアは興味深そうに手にした本をパラパラと捲っています。

 「これ自体で加護が得れるわけじゃなくて、描かれた魔法陣を使って魔導石に魔法付与するのね、なるほど」

 サッパリわかりませんが、プルメリアには何か琴線に触れたようで数冊の魔導書を買ってマジックバッグに入れています。

 「うっわぁすごい!」

 買い物を終えたプルメリアが振り返って感嘆の声をあげました、私もプルメリアが見ている方へ視線を動かします。

 「すごい、これ全部灯りの魔導具?」

 振り返った視線の先で陽が落ち暗くなった町並みの真ん中でマーケット全体に小さな星のような灯がポツポツと点りまるで地上が満天の星のようです。

 「あらあら見るのは初めて?」

 声をかけて来たのはさっきの魔導書屋さん。

 「バオバブはこういう細工物が得意な種族もたくさんいてね、この辺りでは灯りの魔導具を作る細工所がたくさんあるのよ」

 「凄いですね」

 何が凄いって、帝国では魔導具そのものが高額で街灯だって帝都の行政区域ぐらいにポツポツあるくらい、それがマーケット全部を包むように灯りが点在しているの、あり得ない。

 「綺麗だね」「うん」

 圧巻としか言いようがない、私とプルメリアはマーケットをひと通り回って宿に戻りました。

 気の良い女将に迎えられて部屋に入ると窓から見えるマーケットの灯にまた驚かされます。

 「明日はここから乗り合い馬車で城下町へ向かおう」

 プルメリアが地図を見ながら言います、私は頷いてプルメリアが取り出した卵に向かい二人で旅の報告です。

 城下町までは乗り合い馬車で二日。

 今日はゆっくり寝て明日に備えようとベッドに入りましたが、獣人族のサイズで作られたベッドが大きくて思わずプルメリアと顔を合わせて笑ってしまいました。

 まるでお伽噺の小人の気分です。

 疲れていたのか私たちはあっという間に睡魔に襲われてバオバブでの最初の一日が終わりました。

 

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