第20話 訓練とは厳しいものなんです、主に体力が
先日のプラタナス村への依頼から帰宅後、五日経ちました。
その五日間、私とプルメリアはギルドの依頼を活動の中心にして日々を過ごしています。
こんにちは、ブロワリアです。
今日は久しぶりにのんびりしようと休日にしました。
このところ依頼をこなしてばかりで働き詰めでしたから。
プルメリアはまだベッドの中に居ます。
私はラナンさんにお願いしてペディルム邸の護衛騎士たちの日課である訓練を見学させてもらっています。
きっかけはカクタスくんでした。
朝食を離れでマーガレットやカクタスくんと食べている時に偶然窓の外を通りかかったラナンさんにカクタスくんが声をかけたんです。
「ラナンさん、ブロワリア姉さんに騎士の訓練、見学とかさせてあげられないの?」
と。
私が冒険者ギルドの有志から受けている剣術指導の話をすると、鼻息荒く「なぜ言ってくれないんだ!遠慮はいらない!是非!見学してくれ!」と言い出してしまい、朝食後あれよあれよという間に、裏庭にある護衛騎士さんたちの訓練のために作られている広場に連れて来られました。
二十人ほどいる騎士さんたちが声をあげながら打ち合いや型の訓練をしているのは壮観です。
ラナンさんが時折指導しながら皆を見ていますが、時々私とカクタスくんをチラチラと見てくるので気が散ります。
「ブロワリア、君も一緒にどうだろう」
小休止に入りそう声をかけられました。
「わ、私のはお見せできるようなものではないですから」
「皆、最初はそうだから気にしなくていいし、既に君は充分冒険者として討伐の実績をあげているじゃないか」
遠慮はいらないとラナンさんに多少強引に引かれて広場の中央、騎士さんたちのど真ん中に連れて来られました。
突然連れて来られた私に周囲の騎士さんたちが注目しています、騎士さんたち目線が怖いです!
ジッと見ているラナンさんに緊張しながら、私は自分の長剣をマジックバッグから取り出しました。
見よう見真似で構えるとラナンさんが細かい角度を直してくれました。
そこから剣を振り上げて直線に下ろす、ビックリするほどスムーズに体が動きました。
「え、こんなに変わるんだ」
「うちの騎士が扱う剣術は実戦向きなんだ、パフィオさまの母君の出自が辺境伯領に近くてな、魔獣の討伐も多いからきっとうちでの訓練はブロワリアの役に立つはずだ」
ラナンさんが得意げに顎をあげて話します。
確かにたった一振りでしたが全く動きが変わりました。
「では、素振り二百回!いくぞ!いーち」
いきなり二百回ですか?ラナンさん?で、出来るかしら……。
その日は夕方までみっちりしごかれました。
「う、腕が……背中が痛い」
ふるふると震える私を見かねた本邸のメイドさんたちが私を風呂に連れて行き、念入りなマッサージを施してくれました。
「ブロワリア、おつかれさま」
本邸のサロンに行くと優雅にお茶を飲むプルメリアが居ます、その膝に本が開いて乗っていました。
「何読んでたの?」
「魔法生物に関する研究って本なんだけど、魔獣とも違って面白いの」
「へえ、精霊も大きく分ければ魔法生物になるんだね」
チラッと覗き込むとそんな事が書かれてあり挿絵にピクシーと呼ばれる小人の精霊の姿が載っています。
「読み始めたら面白くって」
プルメリアが笑いながら本を閉じました。
「その本の著者なら知っているぞ」
背後から声をかけられてビクリと跳ね上がりました。
振り返るとパフィオさんがにこやかにサロンに入ってくる所でした。
「魔法生物の研究をしているアカデミーのはみ出しものだ、変わり者としても有名人だったからなある意味」
灯りに溶けるような金の髪を掻きあげ私たちの向かい側のソファに座りました。
著書はどうやらパフィオさんが通っていた貴族アカデミーに在籍する講師の一人らしいです。
「ああ、でも彼なら卵のことを何か知っているかもしれないな、よし!君たちが良いなら彼と面会の場を設けよう」
パフィオさんがキュラスさんに合図するとキュラスさんはサロンに置かれた棚から便箋などを取り出しパフィオさんに渡しました。
「良いんですか?」
「空振りになるかもしれないが、俺も卵の正体は少し気になるからな」
ふっと表情を緩めて便箋にペンを走らせる、サッと書いた便箋を封筒に入れ封蝋を押してキュラスさんに渡すとキュラスさんは大事にそれを持ってサロンを出ました。
「変わり者と言われてはいたが、彼の研究は独自の視点がありそれなりに認められていたからな、有意義な話が聞けるといいが」
その後、どうやったのか瞬く間に返信の手紙が著書である研究者から届き、研究者との面会が三日後に設定されたとパフィオさんから報告されました。
卵の正体がわかると良いのですが。
私たちはギルドの依頼を受けたりラナンさんの特訓を受けたりしながら三日後を待ちます。
ギルドで受ける依頼は帝都内で済む配達をメインに受けています。
観光のついでに丁度良いんですよ。
彼方此方を回りながら複数の配達をこなす、危険はあまりないだけで帝都も場所に寄っては治安が良いとは言えない区域もあり、緊張感はあります。
簡単な依頼ですが、冒険者でもない普通の民が治安が良くない区域に入るのはかなり恐ろしいから、こういう配達の依頼が結構あるんです。
ある程度は私たちも返り討ちに出来ますが、たまには危なっかしい時もあり、慌ただしくも楽しい日々を過ごしています。
研究者さんに会うために、夜はプルメリアと二人で彼の著作を読んでいます。
魔法生物に関する著書はどれも興味深く、教会や大聖堂に精霊が留まる理由なども言われなければそういうものと思ってしまう、そんな小さな疑問からたくさん枝葉を伸ばして研究が成されていました。
「へえ、エルフ国って教会以外に精霊がたくさんいるんだって」
「そうなの?」
「こんなの、加護受け放題じゃ」
「それは違うと思うけど」
「で、でも!どこにでも居るんなら加護放題が」
「食べ放題みたいに言わない!」
クスクス笑って嗜める私をプルメリアは口を尖らせて聞いています。
明日は研究者さんに会う日です。
どんな方なんでしょう、変わり者とパフィオさんは言っていましたが。
怖いひとじゃなかったらいいなぁ。
私は窓から見える二つの月を見上げながら明日に思いを馳せていました。
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