第19話 竹の赤ちゃんは美味しいのです
おはようございます、今私たちは帝都の冒険者ギルドに居ます。
プルメリアです。
昨日は人生初の観劇にお洒落にと賑やかな休日を過ごしたので、しっかり充電完了!今日は帝都のギルドで初仕事をしたいねとブロワリアとギルドに来たのだけど。
「ブロワリア、おはようさん。今日はどうする?」
「おはようございます、今日は依頼を見てるんですよ」
「ブロワリアちゃん、おはよう」
「おはようございます」
ブロワリアがすっごく馴染んでる。
一週間、剣技指導に通っていたブロワリアはすっかりギルドで顔なじみを作ってた。
「お使い系が多いね」
そんなブロワリアが依頼書がたくさん貼ってある掲示板を眺めながら言う。
「しかも帝都内かぁ、悪くはないけど」
「体、動かしたいよね」
ブロワリアの返事にうんと頷いて依頼書を確認していく。
「帝都近辺は強い結界が張られてるし、大聖堂もあるからあまり低級の魔獣が出ないんだよ」
背後から声をかけられて振り返ると私たちの頭二つ分は背の高い中年と思われるおじさんが無精髭の生えた顎を掻きながら教えてくれた。
「大聖堂のおかげで女神やら精霊の加護が強いからな、まともな魔獣はまず近づかんのさ」
「なるほど」
まともじゃない魔獣とはスタンピードなどで正気を失った魔獣とかかなと考える。
「ブロワリア、アンタの相方ってこの嬢ちゃんかい?」
「あ、そうです。プルメリアっていいます」
ブロワリアに紹介されて私は頭を軽く下げる。
「プルメリアこちらドラセナさんって言って一番たくさん剣技指導をしてくれたBクラス冒険者の方なの」
「元、だけどな」
にっかりと笑うドラセナさんは元冒険者らしい。
今は引退してこのギルドで剣技指導を主にやっているとか、他にも簡単なギルドの仕事をしているらしい。
「慢心ってのかなぁ調子ぶっこいて入った洞窟でつまらん怪我をしてな、冒険者続けるのは難しくなっちまったんだ。若い連中には同じ思いをして欲しくないだけさ」
ドラセナさんが少し寂しそうに笑った。
「近場の村への使いなんかはどうだ?」
そう切り替えたように言われて幾つか依頼書を確認した。
「帝都から往復で三日ぐらいか、ここの山菜料理は旨いぞ」
ドラセナさんが指差した依頼書を見ると手紙の配達らしい。
いや、ご飯の美味しさ基準で依頼選ぶのってアリなのか。
「飯は大事だからな、特にその地方や国でしか食えねえもんをたらふく味わえるのも俺たち冒険者の特権ってやつだ」
ほうほうと感心しながら依頼書を取り依頼用の手続きカウンターに行く。
「これ、お願いします」
「はい、プラタナス宛の手紙ですね、これが手紙になります」
職員さん一瞬私たちを見て不審な顔をしたけれど、すぐにテキパキと手続きをして手紙を取り出した、私はそれを受け取りマジックバックに入れる。
「ドラセナさん」
「さんなんかいらねえよ、ドラセナでいい」
「じゃあお言葉に甘えてドラセナ、プラタナス?の村の山菜料理ってどんなの?」
「ああ、竹があるだろ?あれの芽?みたいなまだ土ん中にあるのを掘り出してそいつを料理に使うんだ、俺としちゃあそいつを焼いたものに豆で作ったソースを乗せたやつが酒に合うんで」
「竹って食べれるんです?」
ブロワリアがビックリしたように声をあげる。
「竹になったら食えねえらしいけどな」
へえっと話しながら私たちはギルドを出ます、ってかドラセナはいつまで付いて来るんだろう。
「ん?いや俺が出してる依頼だからな、一緒に行くぞ」
は?
「は?」
「え?」
何だって?と疑問符に塗れた私たちをハハハと豪快に笑っているが、さっきの職員さんが不審な顔をした理由がわかった。
そりゃあ不審だよね。
そんな私たちの視線を綺麗に無視してドラセナが乗合馬車の停留所まで案内してくれた。
「あんまり気にするな」
気にするわ!
「お、馬車が来たぞ」
「プルメリア、私たち今日帰らないのをカトレアさんたちに言わないで良かったのかな」
あ、ダメかも……。
ブロワリアの心配を聞きながら既に馬車へ押し込まれてしまった私たちにはどうしようもないので、後で一緒に叱られる覚悟だけ決めた。
乗合馬車に揺られて帝都の外壁を出ると広大な草原が広がっている。
一本道を馬車が軽快に走る、結構揺れるけれど景色を楽しんでいると気にはならない。
「こっから馬車で丸一日、途中野営もあるからゆっくりしておいた方がいい」
野営……。
「野営の準備なんてしてませんよ?ドラセナさん!」
先に言えとばかりにブロワリアが声をあげるがドラセナはそれを笑って流している。
ブロワリアが私以外に割と素で話すのは珍しいな。
複雑な気持ちになりつつも私は馬車の奥に入り座り直した。
体を動かしたかったのだが、今回は馬車移動のためあまり体は動かせそうにないな、なんて思っていた私が懐かしい!
現在深夜、今私たちは山犬の魔獣に囲まれています!
野営のため山中の開けた場所に馬車が停まり、御者が天幕を幾つか張ってくれた。
用意された簡単な夕食を摂り、各々の天幕に入っていたのだけど、眠りにつく直前、唐突に笛が鳴り山犬の出没を知らされたのがついさっき。
数人の同乗者が肩を寄せ合い固まる中、馬車の護衛が二人山犬に対峙している。
護衛は手慣れた風に山犬に対処していたけれど、徐々に増える山犬たちに苦戦し始めた。
「加勢します!」
ブロワリアが立ち上がり護衛の方へと走り出した、私もそれを追い飛び出す。
「ドラセナさん!他の方々お願いします!」
「任せな!」
ブロワリアが言うなりシャラリと取り出した長剣を構えて近くにいた山犬を薙ぎ払う。
私は後ろから怪我をした護衛に回復魔法を飛ばした。
「回復か!助かる!」
「すまない、手を貸してくれ」
「もちろんです!」
私たちの会話を他所に、飛び出したブロワリアが山犬を次々に斬り払っていく。
以前とは明らかに違う無駄の少ない動きで素早い方向の転換を可能にしていた。
「プルメリア!」
ブロワリアを見るのに夢中になっていて山犬の接近に気付かなかった。
ダラダラと涎を垂らし大きく裂けた口に鋭い歯が二列に並ぶ山犬がぐわっとその口を開き飛びかかってきた。
「どぉりゃあ!」
私はメイスを振り抜いて山犬を弾いた。
「うわぁ……」
後方でドラセナの声がしたが知らぬ!
「ピューリファイ!」
転がって飛んでいった山犬に浄化攻撃の魔法を打ち込むと、山犬が纏っている瘴気が薄くなっていく。
動かなくなったのを確認すると、まだ周りを囲む山犬たちを睨みつけた。
回復魔法をかけられた護衛二人も戦列に加わると、私はブロワリアを振り向いた。
「あの!やたらと!態度がデカイのが多分ボス!」
「了解!」
先ほどから山犬たちの奥でひとまわり大きな山犬がこちらを睨んでいた。
私はブロワリアに指示を出してメイスを鉄球付きに持ち替えた。
「ええ……」
ドラセナがちょっと煩い。
「ブロワリア、任せて!」
私はブロワリアの前に飛び出し、向かってくる山犬を次々と叩き伏せ群れに裂け目を作る。
ブロワリアはその一瞬を突いてボスらしき山犬に飛びかかった。
ガキンっと鋭い金属音が響く。
大型の山犬と交戦するブロワリアに群れの山犬が飛びつこうとするのを、私が鉄球で殴りつけ、護衛たちが切り裂く。
「でぇぇぇい!」
ザシュッと低い振動のあと、山犬がゆっくりと倒れた。
「やった?」
「多分」
ボスが倒れたからか、残っていた山犬が散り散りに去っていく。
私はピューリファイを山犬のボスにかけて未だに燻っている瘴気を浄化した。
「一番大きな牙と爪は素材で売れたよね」
私とブロワリアはさっさと素材とされる部分を山犬たちから回収した。
「おつかれさん」
ドラセナが私たちに労いを言って、いつの間にか起こしていた焚き火に案内する。
温かい焚き火に当たりひと心地ついて肩から力が抜けた頃に隣に座ったドラセナがブロワリアに声をかけた。
「ブロワリア、まだ気持ちが先に出てたぞ」
「力むと難しいですね」
ドラセナが温かい飲み物を出しながらブロワリアに話している。
門外漢だから口を挟めないけど、さっきのブロワリアは強かったんじゃないかな。
でもブロワリアはあんまり満足していなさそう。
「プルメリアを前に出した時点でダメなんだよ」
ブロワリアが小さな声で呟いた、私が前に出たのは私のせいなんだけど?
「あ、プルメリアがどうって話じゃなくて、目標?みたいな」
不服が顔に出ていたのか、ブロワリアが私を見て慌てて言い訳をする。
「嬢ちゃんはすぐ殴りたがるのが課題だな」
くつくつ笑ってドラセナが言うのを頬を膨らませて聞いていた。
「いいコンビだと思うぜ」
クシャクシャとブロワリアと私の頭を撫でて豪快に笑っているが、私としては少しだけモヤモヤとした何か言い知れない気持ちが残った。
翌日昼前には馬車がプラタナスに到着、私とブロワリアは依頼のあった家を訪ねて手紙を渡した。
「昼飯にここの食堂に行こうか、俺の奢りだ」
遠慮する理由がないのでお言葉に甘えようと思う。
連れて行かれた食堂は村人の憩いの場らしく、賑わっていた。
適当に空いていたテーブルに三人で座る、壁に貼り出されたメニューを見るが見慣れないものが多い。
「これとこれ、こいつもだな」
ドラセナがサクサクと注文をしている。
「幾らか食ってから気に入ったやつをまた頼めばいいだろ」
早々に運ばれた酒を飲みながらそう言うと、また豪快に笑った。
「ドラセナはよく笑うね」
「難しい顔しててもつまらんからな」
確かにそうだ。
「嬢ちゃんは」
「プルメリア」
「嬢ちゃん」
「プルメリア」
ずっと嬢ちゃんと呼ばれているのが少々気に入らない、名前を繰り返すと諦めたようにドラセナが笑う。
「プルメリアはジッと待つのは苦手か?」
「苦手っていうか、自分が動いた方が早い?」
「ああ、なるほどな。まあ集団戦ならともかく、少人数なら回復役も身を守れた方がいいからな」
流石に元とは言ってもBクラス冒険者、その後は色々な戦術があるという話をしてくれた。
ブロワリアと二人であれこれとドラセナに聞いているうちに、ドラセナが頼んだ料理が運ばれてきた。
「うっわ!美味しい!」
「噛むたびに味が……すごい美味しい」
ドラセナが一番おすすめだという竹の芽なのかなんなのかをスライスして焼いたものを口に運んで感激の声をあげた。
「この、乗っかってるソースみたいなのがまたすごく美味しい」
「だろ?」
「小麦粉をつけて油で揚げたやつも美味しい」
次々に運ばれてくる料理を食べる、前日の野営で満足に食べていなかったせいもあり、お腹と舌が幸せになる。
「昼過ぎには馬車が出るからな、それまでしっかり食っとけよ」
「はーい!」
遠慮なくガッツリ食べてから食堂を出る、お土産になりそうなものを探して竹の細工物を幾つかブロワリアと一緒に買ってから帝都行きの乗合馬車に乗り込んだ。
帰り道はすんなりと帝都まで帰れた、ギルドに依頼を終了した報告と報酬をもらってドラセナとはここで一旦お別れ。
時間も手続きの間に夕刻になっていた。
ペディルム邸に帰ると、心配していたパフィオさんたちに連絡ぐらい入れろと叱られてしまった。
平謝りしながら土産話と一緒に買ってきた竹の細工物を皆んなに渡して私たちは離れに戻った。
「ってことがあってね!」
「そう!プルメリアの新しい魔法もすごくて」
「ザシュッザシュッってブロワリアがね」
私とブロワリアはベッドに潜り込み卵に向かい話しかけていた。
たくさん話すうちに睡魔がやってきて、二つの月に照らされながら私たちは微睡に意識を手放した。
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