第17話 箱に乗って走るんです
朝です、プルメリアです。
おはようございます、今日も晴天が広がる帝都ですよ。
昨日からお世話になっている使用人の高齢の女性はカルミアさんと言ってペディルム伯爵邸のメイド長でパフィオさんの乳母だったらしい。
メイド長自らお世話をされるのは恐縮すぎて、遠慮する私やブロワリアにカルミアさんは気さくな微笑みで「お世話させてくださいな」と言ってくれた。
支度を終えて案内されるままに食堂に着くと既にカトレアさん一家が席に着いていた。
「おはようございます」「おはようございます」「お姉ちゃんおはよう」
各々元気に挨拶です。
私たちが席に着くと同時にパフィオさんも食堂に現れた。
「その格好……今日は出かけるのか?」
私たちの服装を見てパフィオさんが聞いて来た。
「冒険者ギルドに逗留の手続きをしなきゃならないの、それに大聖堂で精霊の加護も貰いたいし」
「逗留に手続きがいるのか?」
パフィオさんが並べられた朝食のパンを手に取りながら不思議そうな顔をした。
「何処に誰が居るかって大体を冒険者ギルドが把握してないと指名依頼を出したり有事の際に戦力とするのに困るかららしいんだ、だからギルドのある町に着いたらギルドに逗留の届出を出来るだけしなきゃならないの」
「なるほど、確かに行方がわからなければ困ることもある、か」
うんうんと一人納得しながらスープを口に運んでいる。
昨夜の晩餐より気軽に食べれるようにしてくれている朝食に私も舌鼓を打つ。
ホッとするようなポタージュのスープで体に元気が蘇るよう。
「帰宅までに離れの準備をしておこう、ここより小さな建物だが君たちが帝都に居る間は自由に使ってくれて構わない」
金色の髪をふわりと揺らせて穏やかに微笑むパフィオさんは本当に出会った時と同一人物なのかな。
「うわぁ、王子さまみたーい」
マーガレットが素直な賞賛をパフィオさんに送ると、パフィオさんは顔を耳まで赤くしながらマーガレットに「ありがとう」と礼を言っていた。
本当、同一人物なの?
「冒険者ギルドと大聖堂か、キュラスあれを渡してやってくれ」
「畏まりました」
パフィオさんの背後に控えていたキュラスさんが私とブロワリア、カトレアさんに一枚の紙を差し出した。
「帝都の地図だ、主要な施設はそこに大体載っている」
「うわ、広っ!」
「あ、ありがとうございます、すごく、助かります」
ブロワリアが地図を受け取りパフィオさんに向けて微笑むとまたパフィオさんは顔を赤く染めて横を向きながら頷いていた。
「いってらっしゃいませ」
カルミアさんに送られて私たちは外出ですよ。
今日から本格的に帝都を探索したいね。
「まずは、ちょっと距離はあるけど冒険者ギルドと商業ギルドかな」
「そうだね」
貴族の住宅区を抜けて商業区に入ると一気に賑わいが押し寄せてきた。
活気のある街に珍しい建物、路面をレール通りに走るトロッコのような乗り物、プラムも賑わっていたけれどそれとはまた違った騒々しさがある。
「はぁ、凄いねえ」
「迷子にならないようにしないと」
トロッコのような乗り物は商業区と行政区とギルドなどが密集する区域を繋いでいるらしい。
私たちはおっかなびっくり乗り場にて係の人に話を聞き、ギルド区域に向かうためトロッコに乗った。
屋根と車輪の付いた赤い箱状の本体が三つ連なり先頭の小さな箱状の部分に魔導石とそれを動かす技師が乗っている。
箱状の部分が客車で椅子などはなく皆立って乗っている。
歩くより早いスピードで動き出したトロッコに私の胸が躍る。
「凄いね!」
他の人に聞こえないようにブロワリアに小声で言えばブロワリアも何度も首を小さく縦に振って流れる街並みを食い入るように見つめていた。
魔導石自体が高額なため、トロッコのような乗り物は帝国内でも帝都にしかない。
その存在は本や伝聞で知っていても帝都にまで来ないと見ることもましてや乗ることもない。
馬車も勿論あるのだが、基本的に馬車を使って移動するのは貴族や相当な金持ちの平民ぐらいで大抵は徒歩かトロッコで移動するらしい。
私たちも本当は徒歩で行くつもりだったのだけど、キュラスさんから「迷ってしまうより乗った方が良いでしょう」と勧められて、今回はトロッコに乗車することにした。
あっという間にギルド区域に到着した。
「トロッコ、すごいね」
「早いしたくさん乗れるし迷わないし面白いし楽しい!」
キャアキャアと騒ぎながら冒険者ギルドの扉を開いた。
朝早いこともありギルド内はまばらに人がいる程度。
私たちは受付で逗留登録の手続きだと伝えると二階のカウンターに案内された。
「はい、ギルド証確認しますね……あれ?プルメリアさんとブロワリアさん?」
手続きをしてくれていたギルド職員のお姉さんがギルド証を確認しながら私たちを見た。
「先日のプラムから帝都行きの船の船長から報告受けてるわ、マーマンの群れ相手に頑張ったって。今回の実績でEランクに昇格しますね」
お姉さんの言葉にブロワリアと顔を見合わせた。
「昇格ですか?」
「ええ、おめでとうございます」
にこりと笑ったお姉さんがギルド証を私たちに返すと船長からの報告があったことを教えてくれた。
「もう初心者というには、ね?」
私はにやけそうになる顔をパンパンと両手で叩いた。
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!」
二人で礼を言って今日は冒険者ギルドを後にする。
お姉さんは階段を降りるまで手を振ってくれていた。
そのまま商業ギルドに向かい、マーマンとの戦闘で得た素材を売却する。
「私この後大聖堂に行くけど、ブロワリアはどうする?」
「さっき、冒険者ギルドでね張り紙があったんだ。有志が戦術指南してくれるらしいんだけど」
ブロワリアは見かけた張り紙の内容を教えてくれた。
初級の冒険者向けに戦術の指南を中級以上の冒険者が有志として行なっているらしい、殆どが単発の指南になっていて今日申し込んで今日一日だけ指南してもらうらしい、その中に剣術指南があったらしくブロワリアは大聖堂に私が行っている間にそれを受けたいと。
「ずっと私たちだけで特訓してたからちゃんとした特訓受けてみたいなって」
恥ずかしそうに笑っているけど、ブロワリアが船での戦闘以来ずっと何かに悩んでいるのは知っている。
「他の冒険者さんたち見ててこのままじゃあって思ったんだ」
ブロワリアは充分強いと私は思ってるけど、強くなりたい気持ちを止める理由はない。
私たちは夕方この場所で落ち合う約束をしてブロワリアは冒険者ギルドに私は大聖堂に向かい歩き出した。
大聖堂まではまたトロッコに乗らなければならない。
商業区を抜けて行政区まで行く、そこから少し移動すれば広大な公園があり、そのずっと奥に大聖堂が建っていた。
「加護をいただきに来ました」
そう入り口に居た神官に伝えると中庭の女神の彫像がある噴水に案内された。
大聖堂の中にある女神像から加護をもらえるのは高位神官以上か聖女だけらしい。
一般人は平民貴族に関わらず噴水にある女神像から加護を受けるのだと説明を受ける。
私は噴水のそばにある石で出来た水の入った半円のオブジェにコインを入れて噴水に向かい膝を折り祈りを捧げた。
柔らかい光が噴水に溜まる水から輝き出しやがて体を熱いものが通り抜けた気がした。
「これ、は?」
脳裏に浮かぶピューリファイの言葉、それにこれは?
「ピューリファイですね、浄化魔法のひとつで魔獣などの瘴気を消し去る効果があります」
白属性魔法の中でも数少ない攻撃に使える魔法だ。
「アンデットなどには高い効果がありますよ」
案内してくれた神官が穏やかな微笑みを崩さずに教えてくれた。
ふと神官が首を傾げた。
「おや?不思議な感覚が……ああ、アミュレットですか」
腕につけていたアミュレットに神官の目が向いた。
「幸運、ですかね、素敵なお守りですね」
アミュレットを褒められて嬉しくなりながら私は女神像に向かい礼の祈りを捧げて立ち上がった。
神官に礼を述べ公園に戻る。
幾つが並ぶワゴンのうち、簡単に食べれそうなものを選んで買うと公園のベンチに座り昼食を摂った。
ブラブラと歩きながらギルド区域に戻るとすっかり夕方になっていた。
随分スッキリした顔をしたブロワリアとペディルム伯爵邸に戻る。
門で名前を告げるとキュラスさんが出てきて本邸に向かう小径から横にそれた脇道に案内された。
「こちらが離れになります」
木造りのこじんまりとした、でも随分と立派な家がそこにあった。
「お部屋は好きに使ってください、個室は八部屋、食堂に厨房とサロンがあります」
扉を開きながらキュラスさんが私たちを室内に通してくれた。
「お帰りなさい」
そんな私たちを出迎えたのはカトレアさんとマーガレット、カクタスだった。
カトレアさんの話では、紹介されたレストランが途方もない高級店でとてもじゃないが自分には務まりそうになく、レストランのオーナーと顔合わせまでしておきながら、仕事を決めれず帰ってきたらしい。
その話を聞いたパフィオさんがそれならばと私たちがここにいる間のお世話をしてみてはどうかと提案したと。
その間に他に仕事を見つけるも良いしこのままここで仕事をしてもいいと言ったとか。
カトレアさんは「暫くは私がお世話しますね」と嬉しそうに笑った。
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