第14話 和解はいいけど余計なお世話までは良くないんですよ
金髪の少年が取り巻きを連れ、全員が神妙な面持ちでプルメリアの背後に立っています。
両手で大事そうに握っている手から少し鎖が見えました、あの時のペンダントでしょうか。
まだ周囲は被害の確認や早急な復旧、掃除に忙しくしていますが客であり門外漢には手を出せそうにないため被害の少なかった談話室の隣にある食堂に今は移動しています。
やっと緊張から解放されましたブロワリアです。
プルメリアは金髪の少年を冷ややかに見ています、私も同じ目をしているでしょう。
彼らの参戦が少しでも早ければと思わずにいられないのは、一番先頭に立ちひとりでマーマンたちの猛攻を防いでいた私からすれば当然の思いでしょう。
金髪の少年たちに近かったプルメリアにはもっと複雑な何かがあるようですが。
言い淀みながら居心地悪そうにしている金髪の少年にマーガレットが駆け寄りました。
「ペンダント、大丈夫?こわれてない?」
「ああ、お前……いや、君のおかげで無事だった。ありがとう」
眦を下げで笑った金髪の少年にマーガレットは安心したように笑っている。
「よかったね」
自分を見上げているマーガレットに金髪の少年は頭を下げている、悪い人じゃな「悪い人だからね?」プルメリアに釘を刺されてしまいました。
「何の用ですか?」
プルメリアが冷たく言い放ちました。
「すまなかった」
頭を一度上げてプルメリアに向き直ると金髪の少年は改めて私たちに頭を下げます。
「ブロワリア、いい?」
「私は別に」
「他のみんなは?」
周囲に目を向けるけど、他の人たちも怒る気力がないのかホッとしたからか苦い笑いをプルメリアにかえしました。
「まあ謝るなら私たちじゃなく船の人たちにじゃないかな」
プルメリアは呆れたように言いながらも頭を下げ続ける少年を起こしました。
そこで船員さんが顔を出しました、一旦各人各部屋に引き上げです。
船内の被害はたまたま窓のガラスが最初に割れたせいで談話室が一番酷く、次いで甲板。
重要な場所には問題もなかったので談話室の復旧のため、上階に部屋がある私たちはそちらに誘導されました。
返り血と埃でドロドロになった服を脱いで簡易シャワーを浴びると生き返ったような気持ちになります。
流石にそのままにするわけにいかないので服も洗ってシャワー室に干すと、私は椅子に座り鎧を丁寧に拭きます。
プルメリアもテーブルを挟んだ前の椅子に座りメイスを取り出して付着物を丁寧に拭き取っています。
「それ、凄いね」
プルメリアが持っている鉄球のついたメイスを指して言うとプルメリアも漸く口元を綻ばせました。
「悩んだだけあったよ、あの近い距離であれだけ威力出せたのはこれのおかげだね」
プルメリアは迫るマーマンに最初に入れた一撃を思い出しているようでした。
革鎧を拭き終えて私も長剣の手入れです。
前のロングソードではきっと折れてしまっていたんじゃないかと思えるマーマンたちの激しい攻撃に硬い皮膚、もしプラムで長剣を買い替えていなかったらと考えればゾッとします。
柄の根元に埋め込まれた真珠を綺麗に拭いているとそれに気付いたプルメリアがジッと長剣を見ていました。
「それ、白貝の洞窟でガウラに貰った真珠じゃない?」
「うん、そう」
「剣に着けたんだ」
あの日のこと、楽しいこともしんどかったことも忘れたくなかったなんてちょっと恥ずかしいから口にはしないけど、何かを察したプルメリアが柔らかい目を向けました。
「素敵だね」
「うん」
簡単な手入れでも長剣は輝きを取り戻していく、本当に前のロングソードは粗悪品だったんだなと思いながら鞘に仕舞う、と扉が遠慮がちにノックされた。
「はーい」
プルメリアがノックに答えると勢いよく扉が開いた。
「お姉ちゃん!」
「マーガレット!」
先程まで一緒に居たマーガレットとその兄と母、次いで現れたのは金髪の少年とそのお付きの人らしき老齢の紳士と騎士のうちやたらと態度が悪かったひとり。
ぞろぞろと狭い部屋に入ってきました。
狭いです!
「どうしたんです?」
椅子をマーガレットの母と兄に譲り狭いソファに金髪の少年を両脇に紳士と騎士が立ち、私とプルメリアはマーガレットを挟んで二段ベッドの下のベッドに座りました。
「改めて謝罪と礼を」
「もういいですよ、みんな無事だったんだし」
幸いにも大きな怪我を負った人もなくマーマンの襲撃を凌いだ。
幸運だったんだろうと私もプルメリアに同感で、もう何度も謝らなくていいのにと思います。
「俺はパフィオ・ペディルム、ペディルム伯爵家の長男だ。こっちが俺の侍従長のキュラスと護衛隊長のラナン」
「改めて御坊ちゃまを守っていただきありがとうございます」
キュラスさんが頭を下げました、ラナンさんも黙って頭を下げます。
自分たちより年上の男性にこんな風に頭を下げられたことがないので落ち着きません。
「もういいですって、それに別に彼を守ったわけじゃないし」
プルメリアも同じく落ち着かないようで慌ててそう言います。
まあ、なんならちょっと邪魔だとか思っていたのは内緒にしておきます。
「私はマーガレット!」
私とプルメリアの間に座ったマーガレットが手を上げて元気に名乗ります、癒しですよ可愛いです。
「先ほどはありがとうございました、私はマーガレットの母でカトレアこっちはマーガレットの兄のカクタスです」
「カクタスです、妹をありがとうございました」
マーガレットとカトレア、カクタスは明るいブラウンの髪にグリーンの瞳をした母子で揃って控えめな優しい雰囲気を持っています。
「私はFクラス冒険者のプルメリア」
「同じくFクラス冒険者のブロワリアです」
「君たちは冒険者なのだな、まだ若いのに凄いな」
パフィオさんが私たちに言いますが、なんだと思ってたんでしょう。
普通の人は長剣も剰え鉄球のついたメイスも持ってないと思いますよ?
「自分たちの行く道をその歳でもう決めているのか、本当に君たちは凄いな」
パフィオは何か思うところがあるのか感心したように独り言ちます。
パフィオはふわりと緩い癖のある金髪に澄んだ深い青の瞳をしています、見た目だけなら王子様風でしょうか。
「それに比べて俺は本当にダメだな」
ポツリと言いましたが、そういうのは自室でやっていただけないでしょうか。
私は立ち上がり備え付けで部屋に置いてくれている菓子を取り出してマーガレットとカクタスに渡しました。
マーガレットとカクタスは嬉しそうに受け取ると菓子を口に運びます、お腹が空いていたんでしょう。
もう夕方はとっくに過ぎていますが復旧作業で夕食どころではなさそうですし。
私がマーガレットたちに菓子を渡したのを見てキュラスさんが一旦礼をし部屋を出ると直ぐにトレーに乗せた紅茶を持ってきました。
私たちはそれを受け取り口に運びます。
熱い紅茶の良い香りが鼻を抜けて、ホッとしました。
「情けない話、俺は自分のことしか考えていなかった」
パフィオさんがポツポツと話し出しましたが、貴族の方々とはあまり深く関わりたくないので正直なところ聞きたくはないし疲れているので出来れば帰っていただきたい、そんな気持ちを隠して私はマーガレットを見ました。
マーガレットは美味しそうにお菓子を頬張っています、和みますね。
「父は母以外の女を家に入れ帝都の浮島にある伯爵邸に女とその息子である腹違いの弟が住んでいるんだ、俺は母と帝国にある母の生家で生活していた。弟が伯爵家の跡を継ぐということが決まったと知らせを受けた後、母は父を待ちながら病で亡くなった、それから俺は自分を守ることしか考えられなくて」
思っていたより重い話です。
知りたくなかったなぁとか思ってませんよ?
「マーガレットがあの時飛び出したのを見て、恥ずかしくなったんだ」
そりゃあそうでしょうよ。
「こんなんじゃあ伯爵家の後継なんて外されて当然だったんだよな」
パフィオさんは項垂れて両手を握っています。
「まあ、俺の事情は君たちには関係ないが」
眉尻を下げて笑うパフィオさんに、出会った時の我儘で険しい雰囲気はなくなっていました。
「君たちは帝都に行くんだろう?」
「そうですね、帝都にある大きな図書館で調べたいことがあるので」
プルメリアが答えます。
「ふむ、滞在する場所は決まっているのか?」
「特には、宿を取るつもりではいますが」
帝都には宿もたくさんあると聞きます。
パフィオさんはしばらく考えた風でしたが、こちらを見て微笑みました。
「なら、俺の邸に滞在するといい。キュラス、部屋はあるから問題はないだろう」
「はい、到着次第使いを出しましょう」
「え、いや、」
「邸にも書庫がある、帝都の図書館にない本も探せばあるだろう」
「ちょっと待っ」
「場所も中心区に近い、彼女たちが帝都にいる間の拠点にはちょうど良い筈だ」
「だから」
話を聞いてくれそうになく、どんどん決まっていきます。
「ちょーっと待てい!」
堪らずにプルメリアが声を荒げました、そりゃあ荒げますよね。
「ん?どうした?」
「私たちまだ何処に泊まるとか決めてないから!」
「なんだ、ガラにもなく遠慮しているのか?気にすることはないぞ、伯爵家のタウンハウスとは言っても充分な広さはある、君たちが何年泊まっても気にならないくらいには」
遠慮とかではなく。
「ガラにも、なく?」
あ、プルメリアの別の琴線に触れましたね?パフィオさん。
「遠慮するガラではないだろう?」
確かに多少そういう所はあるけども、とちょっとだけパフィオさんに同意した私に気付いたのか、プルメリアが私をじっとり睨みます。
ごめんって。
「勝手に決められても困るっていう……」
「いや、坊ちゃんの申し出受けた方が君たちにも損はないと思うぞ」
ラナンさんが話に割って入りました。
「帝都は他と比較しても極端に人が多い、それだけに色んな者がいる。年若い女性だけで宿を取るのはあまり薦められるものではないのだよ」
暗に宿も安全とは言えないと言葉を濁しながら伝えてくれています。
そんな会話を聞いていたカトレアさんが口を開いた。
「もし、二人に予定がないならパフィオさまの所にお世話になる方が良いかと」
どうやらカトレアさんもパフィオさんの味方らしい。
「帝都ってそんなに危ないの?」
プルメリアの言葉にパフィオさんもカトレアさんもラナンさんやキュラスさんまでもが首を縦に振りました。
「治安が良いのは貴族が住む辺りまでだ」
「うわぁ」
「そ、そんなに……」
生まれ育った小さな村とせいぜい隣の村ぐらいしか知らない私たちに、帝都の治安の悪さがわかるわけもなく、これ以上抵抗する気もなくなってきました、少なくともパフィオさんは邸があるくらいには帝都を知っている。
そのパフィオさんが危ないと言うのだから危ないのでしょう。
渋々ではありましたが、結局ご厚意に甘えることにしました。
仕事を探して帝都に向かっていたカトレアさんはパフィオさんの仲介で取引のある食堂に紹介するらしいです。
「君たちがもし良ければだが皆で今から夕食を摂るのはどうだろう、是非旅の話を聞かせてくれないだろうか」
パフィオさんの提案に一番乗り気だったのはマーガレットだった。
キラキラした目を期待に輝かせて私たちを見るので断れそうにありません。
私たちは夕飯を共にしながら長い一日の終わりを迎えた。
翌日は何もなく、ゆっくりとした時間を過ごした。
明日の昼過ぎには帝都に着くらしい。
プルメリアは卵に話しかけながら、のんびりとベッドに転がっている。
私は長剣の手入れをしながら、時々プルメリアに混ざり卵に話しかけていました。
船での最終日、甲板にぞろぞろと人が集まります。
中にはカトレアさんやマーガレット、カクタスにパフィオさん一行の姿も見えます。
二つの太陽が真上に昇り、遠くに陸が見えて来ました。
陸に広がる広大な都市、その上に浮遊している巨大な浮島。
さながら聖杯のように見えるその景色がどんどん近づいてきました。
「帝都だ!」
誰かの声がしました。
いよいよ帝都に参ります!
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