第12話 おぼっちゃま降臨(面倒ごとはごめんですぅ)
明らかな敵意を見せる金髪の少年、お付きの老紳士も周囲の騎士も私たちを鋭く睨んでいます。
現在睨まれ真っ最中の片割れプルメリアです。
睨まれたところで私たちがどうする話でもないはずなんだよね、でもこっそり様子を伺ってみたブロワリアは小さく震えている。
は?何でブロワリアを怖がらせるの?
「何ですか?」
イライラしたまま問いかけると少年の脇に立っていた騎士が私に掴みかかってきた。
「貴様!不敬だぞ!」
「痛っ」
騎士に掴まれた肩に痛みが走ると、少し後ろにいたはずのブロワリアが騎士の腕を掴んだ。
「いきなり暴力を振うあなたの方がずっと失礼じゃないですか、離しなさい」
静かに騎士へと怒りを滲ませるブロワリア、普段ならこんな時は前に出ない、それもさっきまで震えていた彼女が私のために怒っているって感動しそうになったけど、ちょっと空気がやばくないかな。
「結局何なんですか?」
とりなすつもりが更に険悪な色を孕んだ言葉が口を突いて出てしまった。
「ああ、すまないな。こちらさんが自分たちの船室が気に入らないと言い出してな、でもあれが一番いい船室なんだわ」
はぁとため息混じりに船員さんが騎士の腕をブロワリアと共に握って私の肩から強引に剥がしながら経過を説明してくれた。
「一番いい部屋だと?あれがか?窓ひとつないではないか!俺をあんな所に閉じ込めるつもりか!」
金髪の少年が鼻息荒く船員さんに食ってかかっている。
「安全のためじゃないんですか?」
ブロワリアが口を開いた。
「事故や海獣対策も兼ねてるんでしょう、窓があればそこはどうしても弱くなりますから」
船員さんがブロワリアの言葉に目を見開いた。
「さすがダリアの友人だな、うんその通り一番安全な部屋だ」
「私たちには窓のある部屋を充てがうつもりだったのでしょう、私たちはFランクとはいえ冒険者ですから自分の身を自分である程度は守れますし」
ブロワリアの言葉に金髪の少年がバツの悪そうな顔をした、ようやく部屋の意味がわかったらしい。
そんな顔するくらいなら大人しく自分の船室に入ればいいのに。
「でも、私たち大部屋でいいですよ?」
船員さんにそう言ったら首を横にぶんぶんと振られてしまった。
「ダメダメ、アンタたちをよろしく頼むって言伝られてんだ、タコ部屋になんか行かせらんないよ」
ただでさえタダで乗せてもらっている(駄洒落じゃないのよ?)のにと思うものの、頑なに譲らない船員さんに私たちは押し負けた。
「ああ、其方さんあの部屋が気に入らないならタコ部屋にでも行きな、窓はあるから外は見えるさ」
金髪がやたら拘る窓だけど、海上には陸がなく海だけその上に浮島がぷかりぷかりと浮いているんだ。
まるで空と地が逆転したような景色は圧巻、だから窓のある部屋がいいって気持ちもわからなくはないけどさ。
船員さんと金髪の取り巻きが睨み合っている、先に視線を外したのは船員さん。
「さて、お二人の船室に案内しますよ」
私たちは扉を開けて微笑む船員さんに半ば強引に船内へ案内されてしまった。
背後からまだ何か怒鳴り声が聞こえていたけど、船の上のルールは船員さんたちだからね、陸でどんなに偉くてもここでは関係ないんだ。
この船員さんはそれを言って突っぱねることも出来たのにしなかった、優しいのかもしれないな。
船員さんに連れられて来たのは幾つか階段を上がった先にある部屋で言っていた通り見晴らしがいい。
並ぶ丸い窓から空と海が、浮島が見える。
「うわぁ、絶景!」
「本当、すごく素敵」
私たちが窓にへばりついたのを船員さんが笑って見てる。
「甲板の下二階がタコ部屋、下一階に談話室や休憩所がある、上二階に食堂と談話室、最上階は船長らがいる、んでここは上三階の客室になってる」
船員さんが私たちの背中に話しかけだしたので、慌てて振り向いた。
「まあゆっくりしてくれ、甲板は危ねえから基本的には立ち入り禁止だから気をつけてくれ」
そう言って船員さんは客室を出て行った。
私とブロワリアは早速客室を探検だ。
ベッドは二段ベッドになっている、狭くはなくそれなりに丈夫な作りで広々としてふかふかのマットレスが敷かれている。
部屋の中央には丸テーブルに椅子が四脚、ベッドと反対側の壁に二人掛けのソファと小さなテーブルが、そしてクローゼットが付いている。
窓は横並びに等間隔で五つ、ベッドの枕元にあたる部分には上下に二つ丸い窓が付いている。
夜は星を見ながら眠れそう。
広いわけではないけれど三日間過ごすには充分すぎる部屋、個室に泊まれるのはとてもありがたい。
簡易のシャワーがついていて確認してみたらお湯じゃなく水だった、冷たい。
魔石を利用したシャワーは水圧も水量も低いけれど、あるだけとてもありがたい。
大部屋にはシャワーはないんだよ。
二段ベッドは上に私が下にブロワリアが寝ることになった。
私はベッドに上がると腰に吊るした革の巾着袋から卵を取り出す。
「卵ちゃん!ほら、海だよ!」
窓に向かい卵に海を見せているとひょっこりブロワリアも顔を覗かせた。
「卵ちゃんあれが浮島、綺麗だねえ」
ブロワリアも卵に話しかけている。
グゥと私のお腹が鳴った、と続いてブロワリアのお腹も鳴った。
「ダリアさんのお弁当食べよう!」
「うん!」
私は卵をまた巾着袋に仕舞い、ベッドを降りると中央のテーブルにダリアさんから貰ったお弁当をマジックバッグから取り出した。
「手を先に洗わなきゃだね」
ブロワリアが先にシャワー室に行き手を洗い続いて私も手を洗う。
サッパリとした気分で椅子に座るとお弁当の包みを開いた。
籐籠のお弁当箱の蓋を開けると、小麦粉を使った生地をフライパンで薄く焼き中に色んな具材を乗せて包むように巻いた、プラムで一番よく見かけた軽食が並んでいる。
「あ!チキンだ!」
「こっちはポテトとベーコン!」
たくさんあるどれも、全部味が違う。
ダリアさんの優しさに触れてちょっと泣きそうだ。
「美味しい」
「うん、ダリアさんの味だね」
宿に泊まっている間、毎朝食べたダリアさんの料理を思い出す、旅立ったばかりなのにもう懐かしくて仕方がない。
「あ、これ野菜しか入ってない」
「ふふ、プルメリア野菜ちゃんと食べなさいってダリアさんのメッセージだよ」
「えー」
「だって私のには野菜だけの、は、あ、青魚だこれ」
「ブロワリアには魚も食べなさいだね」
笑いながら食べたお昼ごはんはとても美味しかった。
さて、折角だから船内も探検したい。
ブロワリアを誘って一階下の一番近い談話室に向かう。
階段を降り一本道の通路を進むと先が開けて見えて来た。
ソファが幾つか並んで……。
「全くどんな躾をしているんだ!この俺にあんな口をきくなんて」
「全くです!」
「帝都に着いたら伯爵家から抗議いたしましょう」
騒がしい声が聞こえてきた、ダメだ一旦階段へ向かおう、面倒臭い。
私はブロワリアの袖をツンと引っ張り合図を送ると通路を引き返し下一階へと降りた。
「危なかったね」
また巻き込まれるなんてたまったもんじゃない、伯爵家と聞こえた。
どうやら金髪の少年は伯爵家の子息のようだ、冒険者とはいっても平民出身の私たちは関わらないのが一番。
私たちは下一階にある談話室に向かった。
「お兄ちゃんお兄ちゃんすごいよ!」
年端いなかい少女が兄と呼ばれた同じく年端いかない少年に興奮気味に呼びかけながら窓に張り付いている。
「わかったわかったから、危ないから暴れるな」
懸命に興奮している妹を宥める少年の近くの椅子に女性が座り二人を見守っている。
お母さんかな。
「ほらほら、二人とも静かにしないと皆さんに迷惑ですよ」
「はぁい」「はい」
母親らしき女性の座る椅子の横に並んだ椅子に二人がちょこんと座る。
なんだあれ、可愛い。
「賑やかだね」
ブロワリアの言葉に周囲を見渡すとたくさんの旅人が思うままに過ごしている。
幾つもマジックバッグを持つ行商のおじさんには護衛らしき冒険者が二人両脇に立ってるし、家族連れも居れば同じ冒険者らしき鎧やローブを着た人たちなどが和やかに寛いでいる。
私たちも空いているソファに腰掛けてひと息つこうとした所にドタドタと荒々しい足音が近付いてきた。
「何だここは!いや、窓から見える海が近いな、貴様らここは今から俺が使うからお前たちはどっかに行け」
金髪の少年と取り巻きたちだ。
「何だ?何か文句があるのか?」
騎士らしき(こんな理不尽な人たちを騎士と呼びたくはない)一人が入り口近くに居た行商人に睨みつける。
行商人を守るように護衛の二人が前に出た。
「何をしている!貴様ら平民どもと部屋を使うつもりはない!さっさと……」
金髪の少年の怒鳴り声を遮るようにカンカンカンカンカンとけたたましい鐘が鳴った。
「魔獣だ!」
誰かの声がした、途端に談話室がパニックに包まれる。
ガタガタと足音が響き何人かの船員さんが談話室に駆け込んできた。
「全員階下の船室に避難!Dランク以上の冒険者は出来れば甲板に来てくれ!マーマンだ!」
その瞬間、冒険者たちに緊張が走る。
マーマンは半人半魚の魔獣で知能が高く武器を所持している。
小規模の群れを作り船を襲う海獣だ。
好戦的な性格でもあり出来れば出会いたくない海獣でもある。
私たちは指定されたDランクより下のFランク、この場合の正解は。
私はブロワリアを見た。
ブロワリアは頷くとすくと立ち上がり談話室にいる人々の避難の手伝いに私と同時に駆け出した。
混雑する階段付近に同じく冒険者と思われる若い男性が三人、女性と子どもとご年配の方々を優先して階段に進ませる、割り込もうとする人たちを体を壁にして塞いでいる。
「ちゃんと降りれるから、押さないで!」
私たちも混乱する人たちを宥めながら列を成形していく。
「お爺さん、大丈夫ですか?立てます?」
ブロワリアが列から弾かれ転んだお爺さんに手を貸して立たせる、私はお爺さんが入れるように列に空間を作り階段に送り出す。
ガンガンと窓が叩かれる音がした。
ガシャンと割れた丸窓から滑る体を捩じ込んで青緑の肌色をした半人半魚が木の棒に石を蔦で括り付けた槍状の武器を手に談話室に侵入してきた。
「私が行く!」
避難を誘導する冒険者たちのうち談話室に一番近くに居たブロワリアが飛び出した、続いて私も後方から武器を構えてマーマンの前に立ち塞がった。
「ど、どけ!貴様ら!道を開けろ!」
散々聞いた怒鳴り声が背後で響いた。
「お前たち、俺を守れ!」
チラッと見た背後で金髪の少年が子どもたちを抱き抱えたお母さんを突き飛ばした。
「な!!」
私はそこに向かい飛び出すとお母さんと子どもたちを階段へ誘導しようとした、背後でブロワリアの長剣が甲高い剣撃の音を鳴らしている。
ブロワリア一人では荷が重い、だが他の冒険者たちは人混みに押されていてこちらには来られない。
そんな中喚き散らす金髪の少年にイライラが募る。
黙って避難するようにと怒鳴ろうとした私の袖が引かれた。
「お姉ちゃん、お母さんは私たちが連れてくから」
「お姉ちゃんのお友だちのとこに行って」
談話室で初めに見た兄妹だ、二人は母親を抱きしめている。
「うわぁぁぁ!どけえぇぇぇ!」
いつの間にか複数に増えたマーマンがブロワリアの懸命な防衛から抜け出した、二体のマーマンが小競り合いをする私たちに向かって槍を構えた。
少年を守るように立っていた数人が私と母子の前に駆け出し剣を構えた。
「護衛ども!他の奴らはいい!何が何でも俺を守れ!うわっ!く、来るな!」
割れた窓からどんどん侵入してくるマーマンを見た金髪の少年が叫んだ。
迷いながらも少年の命令に逆らえないのか騎士らしき数名がジリジリと下がりながら少年の周囲を固めた。
屈強に見える騎士に囲まれた金髪の少年からマーマンが私と母子に矛先を変え、槍を構えた。
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