第10話 私、杖(棍棒)を卒業します
こんにちはプルメリアです、今私は武器屋さんで聞いたロッドを扱うお店に来ています。
今目の前には素晴らしい杖がたくさん出されて並んでいます。
「だーかーらー!私はメイスを見たいんですって」
「いやいや、魔法を使うならやっぱりロッドが一番だよ」
なんなんだ、客のニーズは無視なのか?そうなのか?
「ロッドで殴れないでしょう?」
「殴るには殴れるぞ?」
ほらっと一本を持って素振りしているが、実際そんなことをしたらその飾りやら石やらなんやらが全部無くなりそうだ。
「おじさんの拘りとかはいいんで、メイスを見せてくださいよ」
段々疲れてきました。
この押し問答を彼此一時間は続けています、なんだがもう買わなくていい気がしてきたぞ?
「お嬢ちゃんは白属性魔法を使うんだろ?回復効果を高め」
「そういうのはいいんですよ」
「パーティーで回復を担うならやっぱり効果は上げたいよな」
話が通じないんです、ずっとですよ?もう本気で戻りましょうか。
メイス、他にも置いている店は探せばあるだろうし無ければ武器屋さんで今と同じ樫の杖(棍棒)をひとまず買っても良い、そのうち買い替えればいいんだから。
おじさんは私を無視して回復効果を高める魔石が付いた杖を次々テーブルに並べていく。
ガウラに聞いて興味を持っていたメイスだけど、こうなると諦めるしかないし旅をしていれば他で買う機会もあると諦め半分に断って帰ろうとため息を吐いた。
今回は縁がなかったんですよ、と。
嬉々として杖を並べる店主に冷めた視線を向け私は何度目かの堪えきれない溜息を吐いた。
「ちょっと父さん!何やってんだよ!」
ぱかーんと小気味良い音が鳴り店主が前のめりに倒れた。
びっくりする私の目前で店主の背後に肩で息をしながら鼻息荒く仁王立ちする少年が、少年の手には棍棒が握られて……これはなかなか良さそうな棍棒です。
「すまない、メイスだな?ちょっと待っててくれっと父さんは引っ込んでろ!」
少年は頭を押さえる店主を足で端に寄せるとテーブルの上にあった杖も端に寄せてスペースを作った。
「えっと、この辺りがよくあるタイプのメイス、柄が木製か金属製かと殴打部分の形状やサイズに違いがあるんだ」
少年!店主よりちゃんとしてますね!
「素材は鉄?」
「そうだな、うちにあるのは鉄だな、帝都にある専門店には色んな材質があるとは聞いたことあるけど」
「持ってみていい?」
「もちろん!使い勝手は大事だからな。買ったけど重くて振り回せなきゃ意味がない」
少年はにこやかにメイスを寄せてくれた。
私はじっくり眺めながら気になったものを幾つか手に持って振ったりしながら持ち心地を比べていく。
「うーん、軽い」
「軽いかぁ、そうかぁ」
殴打部分が拳大のメイスを手に取るが片手で振り回せてしまう。
「今の杖より攻撃力はありそうだけど」
私はマジックバッグから樫の杖を取り出した。
「杖ってかそれ棍棒」
「杖だよ?」
「そうか、杖……自分でも無理があるって思ってるだろ?」
チッ
少年は呆れたような目線を私に向けているし、私も思わず舌打ちをしてしまった。
私は腕を組みながら改めてメイスを見てみる。
「どれも見た目は綺麗なんだけどなぁ」
どうにもインパクトに欠ける気がする。
そんなものを求めるなって思うでしょう?でも予想外のものは魔獣だって驚いて隙が出来たりするんですよ?
特に知能が高いものほど驚きやすいんですよ。
「変わり種ってほどじゃないし、使い方にコツはいるけど、こんなのもあるよ」
少年は店の端にある木箱を漁り奥の方から一つのメイスを取り出した。
「鎖で繋いだ先に鉄球がって近い!見過ぎだろ」
少年がくつくつ笑ってますが、これ!これ気に入りました!少年が木箱から取り出した瞬間に食い入るように見たせいでいつの間にか少年の背後まで迫ってしまった。
私は少年からそれを受け取って軽く振り回してみる。
重さは問題ない、射程は長くなったけどピンポイントに当てる必要があるのか、確かに扱うにはコツを掴む必要がありそう。
「あんまり近距離は向かないし実用性を考えたら棒状が良いんだけどな」
どうしよう。
私は何度も見比べて悩みます、楽しい。
ワクワクしてくる、実用性のあるメイスか実用性は下がるけど威力や見た目の気に入ったメイスか。
「重さに問題がないなら両方買って使い分けたらどうだ?」
「二本分の料金かかっちゃうじゃない」
「そりゃあな」
でも両方買うのは悪くない、もう一つ棒状のタイプのこの羽根が幾重にも重なり蓮の花のようになったものも実は気になっているの。
しばらく悩んで私は両方を買うことに決めた。
武器は大事だからね。
「父さんが悪かったな」
「結果的に良いものが買えたからいいよ」
「自分が魔法使えないからかどうも夢見がちでさ」
そういうこともあるんだろうけど、商売には向いていなさそうだ。
少年がしっかりしているから大丈夫なんだろうけど。
「不備があったら商業ギルド通してくれたら修理とか受け付けてるからさ」
商業ギルドを通して多少の距離なら修理をしてくれるらしい、結構手厚い。
「ありがとう」
私は礼を言って店を出た。
ちなみに店主は隅っこでずっと拗ねていたが帰り際少年に蹴飛ばされて「ありがとうございました」と小さな声が聞こえた。
店を出て周辺を見渡すと、丁度ブロワリアが武器屋さんから出てきたところでした。
嬉しそうに口元が緩んでいるので良い剣を見つけたのでしょう、後で見せてもらおう。
「プルメリア!」
私を見つけてブロワリアが小走りにやってきた、こういうところは本当に可愛いんだよ。
「お腹すいたねえ」
買い物をしているうちに時間はすっかり経ってしまい、お昼ごはんには遅すぎる時間になってしまった。
「あのね、プラムに来てゆっくりしたのは初めてだし観光しながら食べ歩きはどうかな」
「いいじゃん!食べ歩き!」
「観光もね」
ブロワリアの提案に即乗りですよ。
だってね、ずっと依頼とか洞窟とか戦闘続きで休みは体を休めるのに使っていたから確かにこんなにゆっくりしたのは初めてなんだもん。
「とりあえずは大通りかな」
「雑貨のある店とか見てみたいかな、あと気になってた串焼きのお店も」
「あ、あのいっつも行列出来てる店だよね、行こう行こう!」
私たちは大通りに向かい歩き出しました。
大通りに向かいながらも私たちはゆっくり街並みを観察です。
港町プラムは白壁のお家が多い、屋根は青や黄で染められていてカラフル。
白壁は潮風が関係しているらしいのだけど、詳しくはわかりません!
因みに冒険者ギルドにある時計塔は青をベースにしたタイルで装飾されておりとても華やか。
停泊する船も輸出入がメインの大型船舶や漁船、観光用の観覧船に旅客船、先日の白貝の洞窟に向かった時のように個人所有の小型船が並んでいて、高台から見下ろすプラムの街はとても美しい。
大通りは今日も賑やか。
食べもの以外にも露店がたくさん並んでいる。
ブロワリアは串焼きの屋台に並び、私は異国の果物を使ったジュースの屋台に並んだ。
色とりどりのジュースから店子おすすめのジュースを二つ買って戻ると、ブロワリアも両手に二本ずつ串焼きを持って戻ってきた。
「鶏の焼き物だったよ!えっとこっちが塩ベースの香草焼きで、こっちはタレだって」
「こっちのジュースは南国の名産らしいよ」
お互いに買ったものを分けながら紹介、そして実食。
まずは味の薄そうな香草焼きから。
噛み応えのある鶏肉から甘い脂が口いっぱいに広がり、ふわりとまず香るのはニンニク、その後に嫌味のない香草の複雑な香りと爽やかさが鼻に抜けていく。
「美味しい!」
タレの方も濃い目のタレに噛むたび溢れる肉汁が口の中で溶け合う。
「ジュース、甘いのかと思ったらすごく爽やか」
黄色いジュースは確かパイナップルとか言ってた。
「デザートが欲しくなるね」
「あっちにドーナツの屋台があったよね」
まだまだたくさん食べたいものがあります。
満足するまで食べてから腹ごなしに散策。
雑貨やアクセサリーを並べた露店を眺めて回り浮き足立って二人ではしゃいでいた。
ふとブロワリアが立ち止まった。
「ブロワリア?」
「プルメリア……あれ……あのひと……」
真っ青な顔をしたブロワリアの視線を辿って私もヒュッと息を呑む。
「まさか……」
見覚えあるその人物に私とブロワリアの表情が固くなっていく。
村に唯一の商店、その店主のおじさんに間違いはない。
追手ではないのだろう、何かを探すような素振りはない。
しかし、村から距離のあるここまで彼が買い付けに来ている話は聞いたことがない。
背中に冷たい汗が流れた、私はこっそりブロワリアの袖を引き宿に向かい歩き始めた、不自然にならないように気をつけて。
ブロワリアも黙って宿に向かう。
「どうしよう」
震える声でブロワリアが呟いた。
「大丈夫、まだ見つかったわけじゃないから」
固くなる表情を無理矢理笑顔に変えて私は一刻も早く宿へと足を早めた。
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