第9話 今更粗悪品と言われても困ります!
おはようございます、ブロワリアです。
今日はまず商業ギルドに向かう予定です。
港町プラムは帝国の南西に位置する輸出入で成り立つ中規模街です。
街の中央にある噴水広場には乗り合い馬車の発着場があり、西に伸びる大きな通りには道を挟んで左右に出店が並びます。
輸出入も盛んですが漁や農場地区での農作物もあり、豊かな街らしく出店の種類もかなりたくさんあり、商業ギルドと組合が主体となって登録制にしているため、ほぼ日替わり週替わりで出店も変わります。
色んな地方の料理が並ぶ屋台は壮観で、村の小さな商店しか知らない私たちは珍しさもありこの通りを歩くのが好きです、ただ食べ過ぎてしまうのが困りものですが。
私たちの昼食や夕食はこの通りで買っています。
出店のある通りの先は大きな船着場になっています。
大小様々な船が停泊している光景は絶景なんですよ。
船体も他国の船は装飾が帝国とは違って、言うならエキゾチックといったところでしょうか、これまた船を眺めるだけでも楽しいのです。
噴水広場から北に教会があり、周辺には小さいながらも学術院や図書館、医療施設などがあります。
教会から東側の区域に冒険者ギルドを始め商業ギルドや魔法院があります。
この辺りには冒険者相手の店舗が建ち並んでいます、回復薬や薬草を扱う店や探索用の魔道具なんかはギルド周辺にお店が充実しています。
私たちが泊まっているダリアさんの宿屋は噴水広場の南側にあり、この辺りは住宅地にもなっています。
比較的治安の良い地区です。
そして北西にあるのが鍛冶屋通りです。
武器や防具を扱う店は殆どが鍛冶屋通りにあります。
街の外壁を出て東に広がるのが農場地区、その向こうに森が広がり森のさらに向こうに山があります。
簡単に説明するとこんな感じでしょうか、私もプラムに来てからそう日数も経っていないので恐らく知らないこともあると思いますが、ダリアさんにいただいた街のガイドマップからだとこんな感じが主要なようです。
さてさて、商業ギルドにやってきました。
事務作業をしている方々がたくさんいらっしゃって紙を捲る音やペンの走る音に潜めた声と独特の空気が流れています。
「鑑定をして欲しいんですが」
プルメリアが受付のカウンターに座る男性に話しかけました。
男性はプルメリアと私を見て鑑定の受付を手で示しました。
「あちらのカウンターが鑑定用の受付になります」
私たちは男性に礼を言って鑑定受付に向かいました。
朝早くだったので一番乗りのようです。
「卵、ですか?」
「はい、これが一緒に見つけた手記で」
「ふむ、少しおまちください、詳しい者を探してみます」
鑑定受付のカウンターに座る眼鏡の男性が私たちが持ち込んだ卵と手記を見て手記を持ち、席を立ちました。
商業ギルドの中を観察しているうちに眼鏡の男性が犬の獣人族の女性を連れてきました、何でわかったのかって?特徴あるフサフサの尻尾がくるりんと巻き上がっているからですかね。
お姉さんはカウンターに置いた卵をまじまじと見ています。
「卵ですねぇ、手記を見たんですが復元も難しいので肝心な部分はわかりませんねぇ、卵もぉ、こぉんな綺麗なグラデーションのある紫の卵は知りませんねぇ、手記の内容からするとぉ卵が置かれて既に三十年は経っているようなんですがぁ、魔獣の卵でも動物でもそんなに長くは、ねぇ」
犬のお姉さんが言うには、魔獣にしろ三十年も卵のままというのは聞いたことがない、かといって既に生命がないわけではなく微弱な魔力を感じるので生きてはいるようだと。
「わからないのでしょうか」
私は不安になり犬のお姉さんに聞きました、お姉さんは困ったように眉尻を下げてます。
不意にそれまで黙って聞いていた眼鏡のお兄さんが話に割り入ってきました。
「帝都にある図書館でなら何か見つかるかもしれない」
「帝都の図書館ですか?」
「世界中の知識を集めているって言われている巨大図書館ね!確かにぃあそこになら卵に関して何かわかる書物があるかもしれないけどぉ」
「ないかもしれないんですね」
プルメリアが付け加えるとお姉さんがまた困ったように笑います。
「帝都かぁ」
「コリウスさんも帝都に行ってるんだよね?」
コリウスさんは帝都に向かい空挺に乗るとダリアさんが言っていた。
帝都に行けばあわよくば会えるかもという期待が湧いてきてしまいます。
「それかぁ、帝国の北にあるテイマーを多く輩出している獣国にならわかる人も居るかもしれないわぁ」
かもしれない、が多い。
「少し考えてみます、あ、鑑定料を」
プルメリアがお金を出そうとしてその手をお姉さんに止められました。
「何も鑑定出来てないからいらないわよぅ、あら?アミュレット?」
プルメリアの腕にあるコリウスさんからもらったアミュレットにお姉さんが目を止めました。
そして私の腕にあるアミュレットを見てニコリと笑います。
「素敵ね、どちらもほんの少しだけ幸運があがる効果があるわ、細工はコリウスかしらね」
何故わかったのか不思議に思っているとお姉さんが虫眼鏡を取り出しました。
魔石部分を虫眼鏡で拡大してもらいます、小さな魔石の中に四枚の葉が付いた草?が見えました。
「魔力可視化の眼鏡なのよぅ、この葉はコリウスの印なのよぅ」
ふふふと笑ったお姉さんに礼を言って私たちは商業ギルドを出ました。
卵については結局何もわからないことがわかっただけでした。
でもアミュレットにはコリウスさんの優しさが込められているのがわかってついつい頬が緩んでしまいます。
噴水広場に戻りました。
「帝都の図書館かぁ」
プルメリアが考え込んでます。
「プルメリア、鍛冶屋通りに行ってみよう」
プルメリアに私はそう提案します、正直ロングソードの刃こぼれ具合があまりに酷く、これ以上使えば折れる可能性があります。
武器を使えない心細さが落ち着かないのです。
ソワソワとする私に気付いたのかプルメリアは切り替えたように笑いました。
「そうだね、わからないことを考えてもわからないもんね」
そして私たちは鍛冶屋通りに向かって歩き始めました。
途中で魔法道具を扱う店に入りました、目的は私のマジックバッグです。
交戦時、邪魔になりにくい小さめのマジックバッグずっと気になっていたんですよね。
これから先荷物が増えてくれば今のマジックバッグだけでは不充分だし。
ついでに卵をぶら下げれる革の巾着を買いました、これには衝撃を和らげる効果付きとかでなかなかのお値段でしたが卵に傷がついてはいけないので、思い切って買っちゃいました。
巾着をプルメリアがマジックバッグを付けているベルトに通し、私は真新しいマジックバッグを腰に付けます。
プルメリアに預けてある私の荷物とお金を自分のバッグに入れました。
ちょっと緊張します。
鍛冶屋通りは他の区域とは全く様相が変わります。
ほとんどの家には煙突があり、黒い煙が立ち上っていて鉄を打つ音がリズム良く響いています。
鍛冶屋と併設するように並ぶ店は武器を扱う店と防具類を扱う店に分かれています。
店頭には無駄な装飾もなく無骨な板の看板が扉にかかっているだけです。
コリウスさんに教わった通りに商業ギルドに加盟している印のある武器屋さんの扉を開きました。
「いらっしゃい」
上背のある逞しいおじさんが迎えてくれました。
「ロングソードとメイス?を見たいんですが」
因みに予算は結構あります、先日の白貝の洞窟や昨日の報奨金で懐はかなり暖かいんです。
村に居た頃には見たこともない大金を持っていると思うとドキドキして挙動不審になりそうです。
「メイスはうちにはないな、この先にあるロッドを扱う店に多少あったと思うが、どうする?」
「ブロワリア、どうしようか」
「私、ロングソード見てるからプルメリア行ってきたら?」
別行動に不安はありますが、メイスも剣もどちらも大事なもの、じっくり選びたいので時間は惜しい。
私もプルメリアを気にしながらゆっくり探すのは気が引けます、やっぱりここは別行動にするべきです。
私の提案にプルメリアは「わかった」とメイスを扱う店に向かいました。
私は残って武器屋のおじさんが出してくれる長剣をじっくり見てみます。
「気になるのがあれば持ってみな」
「ありがとうございます」
いくつか手にして構えますが、少し大きくて長さがありすぎる気がします。
重いんです、今まで使っていたロングソードは村に来た行商から買った安いものでしたが軽く扱いやすかった。
うんうん悩んでいると、今まで使っていたものを見せて欲しいと言われました。
「刃こぼれが酷いんですが」
申し訳ない気持ちになりながら取り出した私のロングソードをしげしげとおじさんが見ます。
「軽いな、金属が粗悪なせいなんだろうが確かに振りやすい、だがよくここまで持ったなぁ」
粗悪なんだ、いやちょっとはそんな気もしてましたよ?でも、やっぱり玄人目にそう言われるとショックです。
「いつポキッといってもおかしくないんだが、手入れもしっかりしてるし、あんたかなりコイツを使い込んだんだなぁ」
おじさんが少し嬉しそうにしました。
「うむ、これだけ手を掛けてるんだ、修理って手もあるんだが正直この素材だとそれも難しいな、これに近い重さとなると」
おじさんは店の奥に向かいました。
粗悪な金属だからこその軽さだったのかと、ここに来て衝撃的な事実に私も苦笑しか浮かびませんよ。
よくもまあ今まで折れませんでしたよね、もし交戦中に折れていたならと考えただけでもゾッとします。
「軽さを重視するならちょっと値は張るがこれなんかどうだ?」
店の奥から出してきた長剣を見せてもらいます。
細身の長剣で、レイピアなどの痩身ではなくちゃんと長剣の部類で剣や柄の装飾は少なめ。
以前のものより少し重いけれど刃が薄いせいか抵抗なく振れそうです。
柄の馴染みも良い感じ。
「これおいくらですか?」
「ああ、それだけなら一万Gだが、石を埋める加工するなら作業代が二千G追加で埋める石が持ち込みならタダ、追加で買うならそれなりにだな」
石を埋める?よく見れば柄に小さな穴があります。
どうやらここに魔石なんかを入れるようですが、この穴の大きさなら。
「こ、これ使えますか?」
私は真新しいマジックバッグから布で丁寧に包んだ真っ白な真珠を取り出しました。
白貝の洞窟で仲直りにガウラくんから貰った真珠です。
「魔石にしなくていいのかい?」
魔石にすれば多少の魔法の効果を剣につけれます、けれど私はこの真珠を受け取った日をあの五人で冒険した日を忘れたくないんです。
うんと頷くとおじさんは真珠を受け取り店の奥に向かい作業を担当する技師に剣と共に預けました。
「他に何か見るかい?」
「飾ってある剣を見ていていいですか?」
実は店に入ってからずっと気になっていたんです、壁にたくさんの剣が並んでいます、中にはアックスと呼ばれる戦闘用の斧もあります。
見たことがないくらい大きな剣に細い刃の細工が綺麗なレイピア、本当に見惚れてしまいそうな武器が壁一面に置かれているんです。
おじさんから時々武器の説明を聞きながら時間が過ぎるのを待ちます。
「出来たぞ」
技師の方が声をかけて長剣をおじさんが受け取りました。
店のカウンターに改めて置かれた長剣、柄には白い真珠、それを囲むように月桂樹の金属の飾りが増えています。
「綺麗」
「良い仕事するだろ、うちの細工師は」
おじさんはニカッと笑います、私は一万二千Gを取り出しておじさんに渡すと長剣をマジックバッグに仕舞いました。
眺めるのは夜にしよう。
プルメリアは良いメイスに巡り会えたのかしらとおじさんに別れを告げて店を後にしました。
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