第6話 冒険に危険は付き物、そうは言っても安全が安心なんです
先程の交戦でコリウスさんにこんがりと焼かれたストーンクラブの焼きガニの如く芳しい香りにお腹の虫が騒いだため、安全そうな場所を探してお昼ごはんを兼ねた休憩タイムに入りましたが、今私は絶賛ガウラに叱られています。
こんにちはプルメリアです。
先の戦闘でブロワリアがストーンクラブの攻撃を受けてしまい、それを目の当たりにした私がちょびっと暴走しちゃって杖を振り回したのを今ガウラに嗜められています。
なんてこった、お昼ごはんじゃなく説教タイムだよ。
「プルメリア、聞いてんの?朝お前言ったよな?戦闘で背中を預ける云々ってやつ、あのな?本来後方から指示や魔法を受け持ってるお前が飛び出したら誰がお前の代わりをやるんだよ、俺たち前衛が安心して背中預けてらんねえだろうが!」
確かにそうですね、今回は私が短慮だったと言わざる得ない。
「棍棒使いの回復術師とか、お前一体何目指してんだよ」
「お、恐れながら反論するならアレは棍棒ではなく杖……」
「どっからどう見ても棍棒だわ!」
うっ、そろそろ杖と言い張るには限界が来ている気がします。
「この先は本当にやめろよ?」
万が一の時は仕方ないにしても今回の行動は私も反省すべきと大人しく口を噤んでいると、ガウラがはぁと溜息を吐きました。
「棍棒かぁ、ロッドや杖で魔力増幅や魔力制御付けないならメイスとかむいてんじゃねえか?」
「メイス?」
「うん打撃特化の武器だな、今使ってる木の棍棒と同種で素材も色んな組み合わせがあって金属製だったり鉱石とか、形状も色々あるんだぜ!こう殴打部分と柄があって……」
地面に転がってる石を使い色々な形のメイスを描いてくれている、ガウラの武器講座です、これはちょっと真剣に話を聞きたい!
チラッとブロワリアを見ればブロワリアも先の戦闘から同じ長剣を使うBランク冒険者のグラジオラスさんにアドバイスを受けている、なら私もガウラの話に集中しよう。
すっごい興味ある!
携帯食を食べながら、ガウラからメイスについて色んな話を聞いていた。
確かに私向きかも知れない、滞在中のプラムの武器屋にもメイスは置いているとか。
帰ったら見に行ってみよう。
のんびりと話して、充分な休息を取った私たちは再び洞窟探索に戻ります。
先頭は変わらずグラジオラスさんです、次いでブロワリアとガウラ、その後ろに私、最後尾をコリウスさんが固めています。
先のストーンクラブ以降、出会う魔獣は中型犬ぐらいの大きさのヤドカリ型の海獣が殆どです。
ストーンクラブ程の硬さもないけど、代わりに爪の挟む力がかなり強い海獣なんです、が、それさえ分かっていれば躱しようもあるし、基本的に群れにならないので三人がかりであれば問題なく倒せています。
グラジオラスさんとコリウスさんは戦闘にあまり参加しないようにしています、「引率がメインだからね、今後を見据えてあなたたち三人で頑張ってみなさい」ということらしいです。
私たちは時々出てくるヤドカリ型の海獣を倒したり地面や岩肌、洞窟の壁面に落ちている真珠や珍しい鉱石なんかを採取しながら奥に進んでいきます。
先頭のグラジオラスさんが足を止めました。
「分岐だな、どうする?」
振り返ったグラジオラスさんが私たちに聞きました。
「三択ね」
今日はあまり話さないコリウスさんが口を開きました、三択?二択じゃないの?
目の前にある道は二つに分かれてるのに、三択?
不思議に思ったのは私だけじゃなかったみたいでブロワリアとガウラも不思議そうにコリウスさんを見ました。
「三択よ、右に進むか左へ行くか……戻るか」
そこでやっと気付きました、先の休息から数時間は経っています。
ここからまだ進むなら洞窟内で一泊は覚悟しないといけない。
でも折角ここまで来て、とも思います。
私はブロワリアとガウラを見ました。
「わ、私は戻る方が良いと思う」
「でも、またここまで来れるかわかんねえんだぞ?」
「だけど、入ったら戻らなきゃいけないでしょう……」
「目的の色付き真珠も見つかってないんだぞ?」
ブロワリアとガウラが互いの意見を出しています。
確かに次にここまで来れるか、その時私とブロワリアだけなら?勿体ない、先に進みたいそんな気持ちが湧いてくるけど、だけど。
「無事に帰ることを考えたら、私もブロワリアの言う通り戻る方が良いと思う」
私も意見を出しました、ガウラがちょっと嫌な顔つきをしてるね。
不服、とは少し違うみたいだけど。
「なんだよ、お前らちゃんとわかってんじゃん」
ぷくりと頬を膨らませたガウラがそう言いました。
「ガウラは前に同じ状況で先に進む選択をしたんだよ」
グラジオラスさんがクスクス笑いながらガウラの頭をぐりぐり撫でてます。
「じゃあ戻りましょうか、今から戻れば陽が落ちる前に洞窟を出れるでしょう」
コリウスさんがにっこり笑ってます、正解だったんですね!良かった!
「じゃあ帰りはガウラが先頭に立ってみな」
グラジオラスさんが先頭にガウラを押し出してその後ろブロワリアと並びました。
あ、ブロワリアが固まってる。
私は変わらずその後ろに続き、最後尾をコリウスさんが担当します。
どうやらガウラは真珠を見つけるだけではなく、索敵なんかが関わるスキルを持っているとの話、少し進んでその恩恵がわかりました。
「前方にヤドカリもどき、上方からもなんか居るぞ」
ガウラは的確に遭遇する海獣の位置を伝えてくれるので、戦闘はかなり楽です。
前衛のブロワリアとガウラが怪我を負うたびに回復を飛ばしていきます。
複数を相手にするのは洞窟内で初めてですが、落ち着いてやれば大丈夫……。
「プルメリア!!!」
ガウラが私を突き飛ばした、勢いのままガウラが私に覆いかぶさり、後ろに倒れた。
そのガウラの背後からブロワリアがロングソードをさっきまで私が居た場所に振り下ろした。
「え?」
「おう、無事か?良かっ……」
押しのけようと触れたガウラの肩からぬるりと生暖かい何かが手に触れて。
「ガウラ!!」
「これは、毒か?」
既にブロワリアに倒されているが、さっきまで上方から私たちに向かって来ていたウミウシに似た海獣の触手がガウラの肩を貫いていた、私を庇ったから、もし庇われてなかったら?
じっとりと嫌な汗が吹き出し、震える体を起こしながらガウラの肩を見ました。
ぷっすりと貫通した触手が力なくだらりと肩から突き出て、割れた防具と破れた服の間から見える皮膚がじゅくじゅくと紫の泡に包まれて変色を始めている、グロテスクさに私は息を詰めた。
「ガウラくん、痛かったらごめんなさい!」
ブロワリアが力なく垂れた触手の片側を触れないようにロングソードの鞘にくるりと巻きつけ勢い良く刺さった触手を抜き取った。
ズルっと鈍い音を立てて触手がガウラから抜けたのを見計らい、私は震える口で「浄化」を唱えた。
緑色の淡い光がガウラの肩に集まってやがて収束したのを確認してヒールをかけた。
「ガ、ガウラ?」
「あー悪りぃ、手間かけた」
普段怒った顔ばかり見せていたガウラがへらっと笑って見せたせいで、力の抜けた私の目から水分がだばだばと流れ出した。
「え、ちょ、な、泣くな?」
「泣いてない!」
「いやいやいや、泣いてんじゃん」
「違う!」
くだらないやり取りをブロワリアが「まあまあ」と納めて、私たちはそれまでより少し急いで洞窟を抜けました。
ガウラの怪我となかなか泣き止まない私のせいもあり、それ以降は先頭にグラジオラスさんが立ち後方のコリウスさんと二人が戦ってくれたので、私たちは安全に出口まで辿り着きました。
二つの太陽が沈み始め、海と空の境界線が曖昧になり始めていた、私たちを待ってくれていた船頭さんに急かされて足速に桟橋を渡り船に乗り込みました。
回収した素材を五人で分けているうちに船はプラムの船着場に着きました。
「俺は念の為ガウラを教会に連れて行くわ」
毒の浄化は教会の仕事です、私も心配なのでガウラには早く教会に行って欲しい。
「大丈夫だって、プルメリアの浄化ですっかり抜けてるよ」
そう言って肩を回したガウラが私たちを見ました。
何度か言い淀んで決心したように私たちに顔を向けて口を開いた。
「俺たちは明日の朝にはプラムを発つんだ、もし、また会えたらさ」
俯いて何度か深呼吸したガウラが私とブロワリアを交互に見た。
「また一緒に洞窟探索しようぜ」
「うん」「ありがとう」
私たちは平気だと言い張るガウラを肩に担いだグラジオラスさんの背中を見送りました。
「私も今日はこの後ちょっと用があるから行くわね、二人とも明日は一日ゆっくり休んでね、お疲れ様」
「はい!」
片手をひらひらと振りながら街中に向かったコリウスさんを見送りました。
「なんか、すごく疲れちゃったね」
「でも、楽しかった」
今日一日で色んなことがあった、あんなに無愛想だったガウラは私たちと再会の約束をくれた。
ギルドで言われた引き際、今日はそれを実際に知ることも出来たし、初めての洞窟探索で手に入れたたくさんの真珠や鉱石、重さの変わらないはずのマジックバッグが重く感じる。
この重さはきっと今日の経験の重さだ。
「宿に帰ろうか」
私が言うとブロワリアも頷いて二人並んで噴水広場に繋がる通りを歩き出しました。
だって、夜ごはん買わなくちゃ!
宿に着いてからすぐにシャワーを浴び、買ってきた夜ごはんを食べて真珠や鉱石を二人で分けて、お互い口数少なくベッドに潜り込みました。
二人ともやっぱり疲れていたんだろうな、私たちは直ぐに深い眠りに落ちていきました。
ザワザワと騒めきが聞こえ、薄く開いた目に眩しい光を感じて私は目を覚ましました。
「ふぁあ、よく寝たぁ」
上半身を起こしてグッと体を伸ばすと隣のベッドを見ました、がもぬけの殻です。
ガチャリと扉が開いてブロワリアが部屋に入ってきました。
「あちゃあ、寝坊しちゃった?」
「大丈夫、私も少し前に起きたとこ。朝ごはん食べ損ねたから近くのパン屋さんで昼ごはん買って来たの」
ブロワリアが手に抱えた紙袋の中身を見せてベッド脇のサイドテーブル二つを繋げてパンを取り出した、焼き立てのパンの香りにお腹が覚醒する。
私は直ぐにベッドを降り顔を洗って戻ると、ブロワリアが飲み物も用意してくれていた。
「グラジオラスさんとガウラくんはもうプラムを出たのかな」
少し寂しそうにブロワリアが呟く、折角仲良くなれたのに。
昨日のお礼だってまだちゃんと言えなかったのにな。
「近い町まで距離もあるしきっともう出発しちゃったろうね」
「もう少し、ちゃんと話を聞きたかったなぁ」
ブロワリアの気持ちはすごくわかる、私も同じだ。
今日は予定がないから午後からどうしようかとブロワリアと話しているとコンコンと扉がノックされてヒョコッと宿屋の女将のダリアさんが顔を出した。
「ちょっといいかい?」
「はい」
「預かり物だよ」
ダリアさんが一通の手紙と手のひらに乗るぐらいの紙袋を私たちに渡した。
「……コリウスさん?」
手紙の差し出し人の部分にコリウスのサインがあった。
私はブロワリアと目を合わせて手紙の封を切った。
『冒険者ギルドに二人の新人研修終了を報告しました。
私は本職の仕事が入ったので夜のうちにプラムを出立します。
またきっと二人には逢えると思うから、サヨナラより再会の期待を込めて修了のお祝いを手紙と一緒にダリアに託します。
今度会う時は同じ冒険者よ、その時はまたたくさんお話しをしましょう。そして二人の旅の話を聞かせてちょうだい。
元気で素敵な冒険者ライフを!またね』
手紙を読んで呆然としながら紙袋を開きました、中にはブレスレットが二本入っていた。
「あら、アミュレットね」
ダリアがにこりと優しく笑いながら言いました。
「きっとあなたたちを守ってくれるわよ」
ダリアが私たちに微笑んで部屋を出て行った。
私たちは紙袋から取り出したアミュレットをじっくりと見てみた、黒革の編み紐に魔石がひとつ編み込まれている。
緑の石はブロワリアに、空色の石は私にとメモが入ってます。
私とブロワリアはアミュレットを手に取り互いの腕に付けた。
「また、会えるよね」
「きっと会えるよ」
窓に目を向ければ真っ青な空が広がっている。
コリウスさん、グラジオラスさん、ガウラ……三人の顔を思い浮かべた。
優しく強い人たちがたくさん教えてくれたことを大事に抱えていこう。
そしていつか、立派な冒険者として再会したい。
同じ空の下、きっとまた会える。
そう信じてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます