第2話 ギルドに行きましょう
おはようございます、ブロワリアです。
魔法は得意ではないので戦士職を目指しているポニーテールの方です。
昨夜はたくさんの屋台に見たこともない食べ物で大興奮のあまり買い込みすぎて本日は朝からまだ胃が重い気がしますが、今日は幼馴染の白属性魔法使いでもあるプルメリアと冒険者ギルドに登録へ行きます。
いよいよ夢の冒険者デビューですよ!
緊張でドキドキします。
プルメリアはマジックバッグの中から旅に必要だった着替えやらなんやらをクローゼットに、投げ込んでますね、大丈夫でしょうか随分と派手な音がしますが。
私たちの育った村は帝都からずっと離れた山に囲まれた盆地にある小さな農村で、マジックバッグはそんな小さな村では珍しい上にかなりの高額アイテムです、旅の行商人から二人で貯めたお金でやっと見た目も容量も小さな古いバッグがひとつ買えた大事な宝物です。
なので、プルメリアの腰にあるバッグには私ブロワリアとプルメリア二人分の荷物が入っています。
何故プルメリアが持っているかといいますと、私一応これでも前衛職なので魔獣の攻撃を受けやすいのです、ですから前衛である私が持っていると下手をすれば魔獣に落とされたり壊されたりするかもしれないので、後方から支援回復が担当のプルメリアが持つ方が良いだろうと冒険者になるべく、山であまり強くはない魔獣の角鼠を相手に修行しながら二人で考えたのですが、まあその内わかるでしょうから多くは語りませんが本来はそういうポジションなのですよ。
さて、プルメリアの準備が整ったようです。
「お待たせぇ、さっ行こうか!」
明るいプルメリアの声に私の口元も綻びます。
いよいよギルドに向かいますよ。
階段を降りると、昨夜の買い込み具合から察して朝食を軽めに作って部屋に運んでくれた宿の女将さんであるダリアさんが「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
宿屋を出て昨日教えられた道を進むと時計塔の付いた三階建ての白い煉瓦の建物に着きました。
入り口の扉の前に三段ほどの階段があり私たちはゆっくり階段を上がり木の扉を開きます。
喧騒が一気に押し寄せてガヤガヤとたくさんの人が入り混じる声に活気が伺えます。
少し、荒っぽい方が多いのか結構な声量でがなるように話される方々があちらこちらと目立ちます。
皆さん、壁にある掲示板に貼られたあれは依頼書でしょうか、それを眺めて相談したり情報の交換を設置してあるテーブルでしていたり、戦利品を分けあったりと色々なことをしています。
冒険者も筋肉質で体の大きい方やふさふさの耳と尻尾の生えた獣人族の方、ローブを着た華奢な方などさまざまです、ああ、緊張してまいりました。
緊張に震える私の前をプルメリアが顎を上げて歩いて行きます、少し踏ん反り返って見えるのはきっとこの場の空気に飲まれないための気合いみたいなものでしょうか。
「すいません」
受付のカウンター越しにプルメリアが中にいる女性に声をかけた。
長い耳が頭からひょこと動いている女性が顔を手元の書類から私たちに向けました。
獣人族の女性でしょうか、いわゆる兎耳のお姉さんです。
黒縁の眼鏡をくいと片手であげて私たちを見ました。
「本日は依頼でしょうか」
まあ、見た目は多分村娘ですから依頼をしたい側と思われても仕方ないのですが、冒険者にはまだ見えないらしいと少しショックです。
プルメリアは首を横に振り振りグッと前のめりにカウンターに乗り上げるくらいの勢いで話し出します。
「い、いえ依頼じゃなくて冒険者の登録に来ました!」
気合いが入りすぎたのか通る声に一瞬ギルドの受付のある室内ががシンと静まり返りました、ちょっと空気が怖いです。
「あらあら、では此方に記入してください」
兎のお姉さんがにこりと笑って二枚の紙と羽根ペンを渡してくれました。
私たちはそこに名前と年齢、魔法属性や希望する役割などと出身地を記入していきます。
現状使えるスキルの登録もこの段階でするらしく記入スペースに書き込んでいきます。
書き終わるとプルメリアと目を合わせてから二人で同時に紙を兎のお姉さんに渡しました。
お姉さんは受け取った紙をよくわからない機械に読み取らせて、カウンターに顔ぐらいある透明な石の結晶のようなものが乗った細工のある箱を置きました。
「順番にここに手をかざしてね、プルメリアさん、うん上手ねぇはい、もういいわよぉ、次はブロワリアさん、手をかざして」
言われた通りに石に手をかざすとポゥと石の中に幾つもの文字が浮かび消えて流れていく、不思議な光景に見惚れていると「はい、終了」とお姉さんが石の箱をカウンターの奥に運んでいきました。
幾らも待たないうちにお姉さんが二つのペンダントを私たちに渡してくれました。
「身分証みたいなもので、これにあなた達の情報が入ってるの、無くさないようにしてね、ちょっと特殊な登録制だからあなたたち以外が使おうとしても使えないけど、再発行の罰金は結構お高いから」
そう言われてふるりと震えながら受け取ったペンダントを改めて見る。
直径が親指ほどの長さの四角い半透明の乳白色の石がぐるりと金属で囲まれて首にぶら下げられるようになっている。
特別変化も何もないように見えた石の部分に触れるとポゥと発光した文字が浮かび上がった。
「ブロワリア、ランクF」そう書かれてある。
「常に身につけておいてね、討伐依頼や配達なんかの依頼の達成状況や倒した魔獣に関する記録なんかは自動でやってくれるから」
「わかりました」
プルメリアと二人で頷いて首にかける。
「おめでとう、今からあなた達二人は冒険者です」
お姉さんが居住いを正して私たちにそう言うとニコリと微笑んだ。
冒険者、もう私たちは小さな村のただの少女ではなく冒険者なんだと胸に暖かいものが込み上げて来る、ふとプルメリアを見れば同じようにペンダントを握って少し涙目になっていた。
「さて、慣例でもあるし知ってることもあるだろうけどひと通り説明させてね、冒険者ランクは今Fだと思うのだけど、うん、冒険者ランクはFから始まってEDCと上がっていくわ、大体の冒険者はDからBで落ち着くことが多いけどもちろん上を目指しても良いのよ、ランクが一番影響あるのは受けれる依頼の制限、Fランクなら採取や配達がメインになるけど、簡単な害獣討伐なんかもあるわ」
「なるほど」
プルメリアが壁にある掲示板に顔を向ける。
「但し!入ったばかりの冒険者はランクに関わらず最初はDランク以上の冒険者と一緒に依頼をこなしていただきます、これはあなた達の安全のためでもあるの」
お姉さんはそれまでのにこやかな顔つきから変わり真面目な強い視線を私たちに向けました、気迫に背筋が伸びるようです。
「一番に覚えてほしいのは戦い方でも依頼の手順でもなく、引き際です」
「引き際」
その言葉に私はポツリと言葉を反芻した。
「そう、実践における引き際は現場のベテラン冒険者に習うのが一番ですから、ギルドでは何処のギルドで登録してもビギナー冒険者には暫く中級以上の冒険者と依頼を受けてもらいます、冒険者は国には囚われません、色んな国を渡ることが出来、色んな国で依頼を受ける自由があります、代わりに守ってくれる国もありません、全ては自己責任となります、だからこそ一番最初だけは戦闘の基本、逃げることをギルドでは先ず教えています」
なるほどと思う、けれどそう都合良く初心者の面倒を見てくれる冒険者がいるのかなと心配になる。
Fランクの依頼は程度に合わせて報酬もかなり少ない筈だし、DランクやCランクの冒険者なら相応の依頼を受ける方が得になる、わざわざ手間暇のかかるFランクの引率込みの依頼を分け前すら減るのに一緒に受けてくれる人を探さなければならないのか。
そんな私の不安を見て取ったのか、お姉さんが柔らかい笑みを浮かべた。
「丁度ソロの女性冒険者でランクがCの方が先日から街に滞在しているので彼女が来たら紹介するわね、それまで掲示板でも見ながら待ってて」
そう言われてプルメリアと私は掲示板に向かった。
「薬草採取が多いけど、チラホラ角鼠退治とかあるんだね」
「配達系は言うほどないって言うかランクが高いのね、配達先が遠方だからかな」
配達関係は手紙が多く、どれも長い船旅や浮島へのものばかりで空挺に乗れるような上位の冒険者向けのようだった。
Fランクが受けれる依頼は思ったより多いがどれも簡単なものばかり、どれも似通った内容がたくさんある。
「これなんか良いと思うな」
背後から突然声がしてスッと目の前の一枚の依頼書を指差した。
びっくりして振り返ると赤髪に緑の瞳の少々派手なお姉さんが立っている。
ふわふわの長い髪に黒いマントのようなローブを羽織り、お姉さんはふふと笑った。
「えっと」
「プルメリアちゃんとブロワリアちゃん?」
「は、はい」
プルメリアが一歩前に出て背に私を隠すように立った。
「なんでしょう」
「新人さんのお世話係をたのまれた冒険者で占術師のコリウスよ、冒険者ランクはCよろしくね」
笑いながらそう言ったコリウスというお姉さんが先に指差していた依頼書を掲示板から剥がした。
「害獣討伐依頼、討伐対象は角鼠十体以上と、これ受けない?」
角鼠なら村でずっと修行しながら狩っていたから十体であればいけるはず、チラッとプルメリアが私を振り返ったので私は小さく頷いてみせた。
「受けます」
「よし、じゃあ二人ともこれを持って受付に行ってきて」
背中を押されて私たちは受付へ向かった。
「はい、害獣討伐ですね、期限は特にありませんが依頼数の討伐が終わったら早めに結果を申告してくださいね」
受付で先のお姉さんに依頼書を見せるとそう言われてニコリと微笑まれる、コリウスさんのことを聞きたいのだけれど聞いて良いのかわからない、戸惑う私を尻目にプルメリアはお姉さんにコリウスさんについて聞いていた。
「あの人がさっき言ってた?」
「はい、Cランクで十年近く冒険者をやってるベテラン、同じ女性だから気兼ねなく色々聞けるんじゃないかな」
「なる、ほど」
どうにも胡散臭く見えるコリウスさんに私もプルメリアも戸惑っていたが、そんな私たちをコリウスさんが引っ張ってそそくさとギルドを出てしまった。
「二人は商業ギルドに登録した?まだなら午前中に済ませちゃいましょ」
ギルドの扉を閉めながらコリウスが私たちに提案したのだけど、冒険者が商業ギルドに登録するの?
疑問に感じて何故と聞く前に歩き出しながらコリウスさんが話を続けた。
私たちは慌ててコリウスさんの後に続いた。
「別にしてもしなくても良いんだけど、しておく方がお得なことが多いのよ、特に討伐や採取で手に入れた依頼以外の素材なんかは冒険者ギルドより商業ギルドの方が高く買い取ってくれるし、冒険者ギルドの方に都合よく余った素材の採取依頼があるとは限らないしね、商業ギルドは登録者であればどんな素材も買い取ってくれる上に素材の状態に応じて売却額が変わるのよ」
ほうほうとプルメリアは興味を持ったようでコリウスさんの話に食いついている、あのプルメリアの目は久しぶりに見るほど真剣だ、まあ収入に関わるから仕方ないんだけど、それにしても食いつき良すぎてコリウスさんが少し引いてるよ、プルメリア。
「他にどんな利点が?」
「一番は鑑定かな、ギルド登録者以外は有料で登録者は無料。素材もたくさん持ち込む場合はかなり売却額が変わってくるわ、登録者以外だと持ち込んだ数だけ鑑定額がかかるからね」
「この辺は良し悪しなんだけどね、冒険者ギルドでの買取は素材ごとに一律で買取額が決まってるのよ、状態に関わらず。だからたくさんそう珍しくない素材を売ったり状態に自信がないものは冒険者ギルドに持ち込む方が良いこともあるけど、その一律の価格は商業ギルドより低めになってるの」
「え、何故ですか?」
思わず私もコリウスさんに聞いてしまいました、だって同じ街の中で買取額の基準価格が違うのよ、何故って思っちゃいます。
「役割が違うからね、冒険者ギルドのメインは冒険者の統括と冒険者と依頼人を繋ぐこと、各地の魔獣討伐とかね、他にもあるけど普段の役割はそんなとこ」
うんうんとプルメリアが頷いている。
「だから買取したものは結局冒険者ギルドが商業ギルドにまとめて持ち込むのよ、その手間暇の分差し引かれてるって考えたらわかりやすいかもね」
だから買取の面倒さを売る側に代わって行う分、相応にマイナスがあると。
確かにあれだけの冒険者が素材を売るのにカウンターを占拠したら他の業務にも影響がありそうです。
「あまり珍しいものは買取自体行ってないし、せいぜい依頼品の状態の良し悪しぐらいかな、冒険者ギルドで見てるのは」
一拍置いてコリウスさんが続ける。
「商業ギルドは買取る素材そのものが商売品でもあるからね、良いものはちゃんと相応の価格で買取り、相応の価格で販売する、冒険者ギルドではあまり価値のない角鼠のツノだってあれはあれで使う人によっては薬になるからね、商業ギルドはそういう需要の方に重点をって着いたよ」
コリウスさんが足を止めた、目の前には奥に長い建物が建っている、赤い煉瓦の建物は武骨に見えて結構可愛い。
私たちはコリウスさんに連れられて商業ギルドの扉を潜った。
明らかに冒険者ギルドとは違う空気、冒険者ギルドには冒険者を名乗るだけあり腕っ節に自信がある荒くれた人たちが目立つのに対して商業ギルドにはそういったタイプはあまり見当たらない。
大きな声を出したりする人も見当たらない、全体的に活気はあるが静かです。
私個人だと割と落ち着く雰囲気かな。
「あ、ねえギルド長いる?」
「ああ、コリウスさんじゃないですか、ギルド長ですか?生憎まだ出勤していないのですよ」
前髪が長い線の細い男性を呼び止めたコリウスさんがギルド長を呼び出そうとして私はギョッとした、え、何?
「あら、じゃあこの子たちの登録お願いしていいかしら」
コリウスさんに紹介されて男性が私とプルメリアに目を向けた、ついつい背中に力が入り緊張してしまう。
「新しい冒険者の方ですか?どうぞこちらへ」
そう言ってチラッと私たちを見た男性がカウンターの端にある椅子に案内してくれた、椅子あるんだ。
「こちらに記入していただいて、冒険者証は既にお持ちですか?でしたら記入していただいて後は冒険者証を預からせていただけば此方で登録を済ませますよ」
男性はカウンターの対面に座り並んで座った私たちに穏やかに紙を差し出した。
私とプルメリアは渡された紙に名前などを記入している、その間にちらっと見たコリウスさんは受付とは別のカウンターで知らないお兄さんと話をしていた。
「では預からせていただきます、登録はすぐ終わるので少しお待ちください、ああ、これ商業ギルドの手引きです、良かったらお持ちくださいね」
小冊子を二冊渡されて私はそれをペラと捲ってみる、が、字が多い。
「プルメリア、わかる?」
「うん、大体わかるかな、難しいところとかはコリウスさんに聞いたらいいでしょ、この辺は売れる物をまとめてあるみたい」
プルメリアが指差したページには簡単な絵付きで買取が出来る素材が案内されていた。
「へえ、これも素材で買取ってくれるんだ!」
プルメリアは楽しそうにページを捲っている、うん、任せよう。
暫く待っていると先程の男性が冒険者証のペンダントを持って戻ってきた。
「はい、登録終わりました。商業ギルドでは売買実績など多岐に渡り結果を出されれば総括して判断、のちにランクが上がります」
「売買実績?」
「ええ、たくさん持ち込みされても状態が良くなければランクアップにはなりませんが、状態が良く量も兼ねていたり市場で不足している素材や商業ギルドからの依頼達成など、でしょうか。大体はDやCランクであれば普通に売買する間にあがりますよ」
「へえ」
簡単に説明を受けたがほとんどは貰った手引き書に載っているらしい。
全ての手続きが終わったのを見計らってコリウスさんが戻ってきた。
「さあ、すっかり時間取られちゃったわね、うんお昼ご飯にしましょう」
朝からずっと手続きばかりでいつの間にか昼の鐘が鳴っている、無事に登録を済ませて緊張から解けたお腹が素直に空腹を訴えてクウと鳴った。
「じゃあ行きましょう」
コリウスさんが先頭に立ち商業ギルドを出る、二つの太陽が真上にありギルドの出口から遠く見える海原がキラキラと光を反射していた。
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