第4話 従者
クエスト。
魔獣による被害が発生し、その被害が今後も発生する見込みがあった場合、国から討伐依頼が来る。
また、国や領土付近で強大な魔獣が確認された場合にも国からの依頼となる。
その他にも、国民全員が自身の状況によって、討伐対象・報酬金・被害エリア・依頼者氏名などを記入することにより、個人で依頼を制作する権利を持っており、討伐対象の個体数次第で認可される。
なお、個人が討伐依頼を作る際の報酬金は任意だが、10割依頼主負担となる。
このようなクエスト形式で勇者は生活金、武具費用、治療費を稼がなくてはならない。
ひとまず宿を確保した。
食料・水分はまだお金はあるので確保できていると言える。
後何が必要なんだっけ...?
衣・食・住...。
衣...衣服ね...。
「どうしました?...勇者様?」
「あぁ...いや...大丈夫...」
正直13世紀風のファッションなんて分かるはずもねぇ。
とはいえ、これから魔獣と対峙していく上で動きやすさは大前提だ。
スーツなんて論外だ。
そういえば...。
「ウサはその服どこで手に入れたんだ?」
ウサの服。
街を2時間ほっつき歩いてもそれらしい服すら見かけなかった。
作れる技術はあるだろうが、ニットのオフショルダーなんてそもそもこの世界にあるのだろうか。
スカートもワンピースやドレスのようなものではない。
いわゆるミニスカートだ。
「これは、武具屋で仕立ててもらいました!」
「武具屋?」
服屋でもアパレルでもなく武具屋...。
「はい!いつどこで戦闘になるかもわかりませんから...。性能は私の力不足でそこまで良いものにはできませんでしたが...少しはお役に立てると思います...!」
「性能...てのは伸縮性とかか?」
「えっと、ダメージ軽減と魔素消費減少、支援魔法強化と移動速度強化です」
ん~...。
つくづく無知蒙昧でこの世界に降り立ったことを後悔している。
「なるほど...」
「勇者様の装備はどんなスキルがあるのですか?」
「え!?あぁ...えっと...」
きっと勇者の側近に成れて嬉しいのだろう。
自分の主になる人を知るべく目がキラキラしている。
あぁ...心が痛い...。
「示談・交渉成功率UPと、仕事効率強化と、タイピング速度上昇と、電話対応強化かな...。デバフで残業発生率上昇が付いてるよ...」
「あんまり聞いたことのないスキルですね...」
「そ、それより!ガイドについて詳しく聞いておきたいカナ!?」
きっと、俺には衣服に関する呪いがかかっているのだろう。
ゴリ押し話題変換をしたが、ウサはむしろ嬉しそうに耳を立て、誇らしげに語る。
「お任せください!私たちガイドは、勇者様をお支えさせて頂くのが使命であり喜びであります!」
「ひと昔前の軍人さんみたいになってるが...」
「もちろん生活から戦闘、健康管理、何から何までお手伝いさせていただきます!」
「ふむ...でも、俺は使用人を雇うほどの金はねぇぞ?」
「勇者様からお金を頂くなど...!そんな恐れ多いこと私には...!」
金はとらないけど使用人としての役割を果たす...か。
「怪しい...」
「んぇ!?」
どう考えたって怪しい。
そもそも広場で偶然会ったんだ。
これは...。
「最悪尋問が必要になりそうか...」
「ふぇ...お、お望みとあらば...」
が、はっきり言ってこの子から悪そうな気配は一切感じない。
勇者、ガイド、いや、それよりももっとこの世界の常識レベルまで知らなくてはならない。
一問一答形式で全体を掴むのがよさそうだ。
「よし、じゃぁ一つ目。ガイドはみんな勇者に仕えるのか?」
「皆が皆がなれるわけではありません...」
「二つ目、ガイドの収入源は?」
「クエスト報酬の10%がガイドに当てられると法律で決まっています」
「三つ目、ガイドは皆動物みたいな耳とか尻尾が生えてるのか?」
「はい、他にも牛や犬、ドラゴンの獣族なんかもいらっしゃいますよ」
「四つ目、勇者はガイドを連れていないといけないのか?」
「い、いえ...ご命令とあらば...勇者様に従います...」
四つ目の質問の回答だけ、酷く悲しそうな表情を見せた。
「じゃぁ、最後。なぜ俺のガイドをしようと思った?」
「えっと、固有能力管理局から適性のありそうなガイドが選ばれ、固有能力管理局曰はく私が勇者カイバラさまと適性があると判断されたようです」
なるほど。
ガイドは他にもいる。この子が俺を選んだわけでは無く固有能力管理局とやらが選定した。ガイドの収入源も分かったし、うさぎのような見た目はガイドの証。必ずしもガイドを率いる必要は無いが、ガイドは勇者の手伝いがしたい。というより、四つ目の回答の反応から見て、それが自身の存在意義なのだろう。
ついでに勇者の収入源が"クエスト"ということも分かった。
後は...。
「よし、じゃぁさっそくクエストやらを見に行くか」
もう少し観光していたかったが、収入源確保が優先だろう。
「あの、良ければ私も一緒に...」
あぁ、四つ目の質問で解雇の可能性があると思ってしまったのだろう。
いくら知らないことが多いとはいえ、言葉選びをミスったな。
「色々質問してるのをみて分かったと思うけど、俺はことごとく無知なんだ。ウサが良ければこれからも一緒にいさせてくれないか?」
その言葉を聞き、ウサは涙目になり応える。
「よろしくお願いいたします...!」
そうだ、さっきから気になってたモヤモヤを解消しておこう。
「"勇者様"って呼ばなきゃいけない決まりとかあるなら仕方ないけど、好きに呼んでいいからね?」
「えっと、じゃぁ『マスター』とお呼びしたいです!」
ん~。
まぁ、本人が望むならいっか...。
宿の扉が優しく閉まった。
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