第3話 勇者の使命

 城下町中央広場。

 13世紀漂う中21世紀な服装の二人。

 目立たないはずもなく...。


 お互いありとあらゆることを話したり聞いたりすべきと判断し、ゆっくり話せてかつ『人目が付かない場所』を探す。

 召喚者に宿代を出すと言われているため、遠慮なく雰囲気や見た目がよさそうな宿を選ぶ。

 その間ガイドを名乗る少女はちょこちょこと一歩後ろを付いてきていた。


 「いらっしゃい、何泊のご予定で?」

 「あー...2泊3日辺りが妥当か...?」


 いくら勇者でも国からお金が出る以上、贅沢禁止は暗黙の了解。

 妥当ラインを探りつつ少女にヘルプの視線を送る。


 「勇者様のご希望の日数で構わないのですよ」


 勇者様。その言葉でマスターの表情が一変する。


 「こ、これは失礼いたしました勇者様!ガイド様!ご自由にお泊り下さい!」


 違和感。

 尊敬や畏怖ではない。


 恐怖や怯えを感じた。


 「いや、そうもいかねえだろ。そっちも仕事なんだから」


 マスターの表情を見てか、空気を読んでか、少女が一つの提案をする。


 「では、私たちは好きな日数泊まるので、その日数に見合った支払いをチェックアウト時に申し付けてください♪」

 「か、かしこまりました...!」


 鍵を受け取り、部屋に入る。

 2つのベッドにドレッサー。

 大きめなロッカーに大きな窓。

 何より木製のものが多く落ち着いた雰囲気。


 「おお!いいね...!気に入った!」


 どうして宿・ホテルの部屋を一望した瞬間ってこうも高揚するのだろう。

 いい大人がベッドにダイブしたくなるような。


 ひとまず部屋の間取りや手洗い場、アメニティを確認し、ベッドに座る。


 「まぁ、聞きたいことは多々あるんだけど...って、どうした?」


 少女は部屋の隅でただ立っていた。

 アニメや漫画で見る秘書やメイドさながらだった。


 「あー...そうだな...。デリカシーは大切にしたいんだが...その...手洗いぐらい好きに行ってきて良いんだぞ?」

 「なっ!ち、違います!」


 頬を赤らめながら反論する少女。


 「勇者様のご指示があるまで待機するのがガイドの常識ですから!」

 「冗談だよ...場がちょっと緊張してたから...」


 聞きたいことは多いが、まずは。


 「俺は壊原創也かいばらそうや。破壊の能力を持ってる。ついさっき召喚されたばかりだ。あんたは?」

 「わ、私は『ウサ』と申します。見ての通りうさぎの獣族で、家庭魔法や治癒は得意です!」


 自己紹介。

 名前も知らないままは不便だし、信頼も築けない。

 サクッと紹介も終わったので、気になっていた事を。


 「召喚者もここのマスターもそうだが、なんか勇者に対して警戒してないか?」

 「それはもちろんです。勇者様なのですから!」


 勇者だから。か。

 やはり勇者そのものを知らないといけないな。


 「無知で悪いんだが、そもそも勇者って何なんだ?実は転送の儀の二日前に勇者に選定されたもんだから分かってなくてな」

 「そうだったんですね...では説明させていただきます!」

 「あー...できれば簡潔に...」


 「現在この国、世界は魔獣に悩まされています。魔獣は大小さまざまで、一般人でも倒せるようなものから神に等しい存在までいます。動物とは違い、知性が高いので悪さをする魔獣が多く、酷な話...間引かなければいけないのが現状です」


 俺のいた世界でも、魔獣こそいないものの動物が山を下りてきて困ってるから狩猟する。ってのはある。


 「そこで、勇者様の出番なのです。勇者様の固有能力と魔法、身体能力で魔獣を駆除して頂くのです!」

 「要は魔獣駆除係ね。でもなんでわざわざ一年に一回しか召喚しない勇者を使うんだ?」


 魔法に長けている国なら魔法で魔獣を駆除すればいい話。


 「それは、この世界では固有能力が生まれないからです」


 固有能力。

 生まれて5年ほど経つと宿る能力。

 能力は様々だが、固有能力を持たない者はいない。

 と、思っていたが、この世界では違うらしい。


 「もちろん魔法でも魔獣を駆除できますが、魔法を使うには魔素が必要です」

 「つまり、街を離れれば離れるほど魔素が少なくなっていくから強い魔法は使えないと...」

 「はい...」


 固有能力は魔素を使わない。

 その代わり魔法や魔素と関係のないデメリットを背負うことになる。

 デメリットもまた様々だ。


 「勇者の存在意義と役割は分かった。だが、恐れられてる理由が分からねぇ」

 「それは...」


 ウサもまた警戒した表情を見せる。


 「いや、言いたくないなら構わない。ただ、何もしてないのに怖がられるのは異常だと思ってな」

 「言いたくないわけではございません!ですが...」


 察して欲しそうな顔をするウサ。

 だが、申し訳ないことになんの察しもつかない。

 いや、一つだけある...。


 「まさか...」

 「...。」

 「やっぱりこの服装か...!」

 「違いますね。全然」


 違うのか...。

 俺のいた世界では、良いスーツといい時計、良いネクタイをしていればとりあえず偉そうに見えるため、思わず畏怖の念を抱くのはあるが、今回は違うようだ。


 「その...先程申した通り、勇者様は勇者様にしか持っていない能力があり、この世界では唯一無二かつ必須の存在です。なので...えっと...勇者様が...行った行動を咎められないと言いますか...その...」

 「あぁ~。理解した」

 「し、失礼な言葉になり申しわk...」


 「自分の地位を利用した傍若無人なが多いのか」


 ウサは思わず口が開きっぱなしになる。


 「はぁ~...うちの世界がバカばっかりなのが露呈して恥ずかしいね...。申し訳ないけどいくつかそのバカどもの事例を挙げてくれるか?」


 ウサはどうオブラートに包もうか必死に言葉を探す。


 「え、えっと...賃金の支払いを断ったり...」

 「犯罪だねぇ」

 「他人の家に勝手に上がり込んだり...」

 「犯罪だねぇ」

 「壺を割って周ったり...」

 「ドラ〇エだねぇ」


 知りたくもない事を知ったが、この世界の勇者の立ち位置を知ればそんな愚行に走るやつがいるのは想像に容易い。


 しかし幸か不幸か、自分はそんなクズどもと同じ地位にいる。

 勇者として働き、成果を上げればクズどもより少し地位が高くなりかけることはできるかもしれない。


 「はぁ...ひとまずの目標は、『ちょっとの名声を獲得する』だな...」

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