第2話 判断材料...それは服!

 ガイド。

 この『ミアギ』に召喚される勇者を支える者の事である。

 魔法の才能は大前提。ミアギそのものの知識や歴史を把握しており、礼儀や作法にも気を配れて当然の。いわゆる超エリートマネージャーがガイドと呼ばれるものだ。

 ガイドは職業ではなく、ガイドとして生まれてくる精霊が自ら名乗っているものであり、ガイド自体の歴史は分かっていないことが多い。

 なぜ人ではない精霊が勇者を支えるのか。

 いつから存在しているのか。

 そもそもどういう存在なのか。



 雷聖国ゼウサス城下町。

 ぶらぶらと散策している勇者、壊原創也かいばらそうやは目立っていた。

 それは勇者だからではない。


 「ねーおじさんなにこの服ー!」

 「へんなのー!」

 「兄ちゃん随分面白い格好してるなぁ、流行りかい?」

 「あなた何のお仕事してらっしゃるの?ファッションデザイナーさん?」


 服装が目立っていた。


 「はぁ...転送の儀とかいう名前だから正装で行けば怒られないだろうと思ってスーツで来たのに...ドレスなりマント羽織ってるなり...13世紀にタイムスリップした気分だ...」


 貴族からは注目され、庶民からは変な奴扱いされ、観光どころではない。

 郷に入っては郷に従え。

 服装から直すべきだろうか。


 「他の勇者に会いたい...俺と同じ世界の人物に会いたい...」


 心からの本音だった。

 精神的疲労に目を背け、2時間ほど歩いたからという理由で休むことにした。


 大きな噴水からは水の心地よい音。子供たちのはしゃぐ声。屋台の活気。

 治安もいい。景色もいい。景気...は分かんないけど、少なくともこの町は笑顔が多い。

 いい街だ。平和そのもの。

 もちろん偶然いい所だけを見ている可能性は大いにある。

 なんせまだこの町に来て2時間しかたっていないのだから。

 それでも、元居た世界よりは圧倒的に心地がいい。


 「あの...」

 「あぁ...すいませんね...変な服着てて...」


 またか...と思いつつベンチから離れようとする。


 「勇者様...ですよね...?」


 城で散々呼ばれた単語。

 しかし、城下町に来てからは一言も聞かなかった単語。

 城関係者しか自分の事を勇者とまだ知らないはず。


 「そうだけど、どちら様?」


 振り返ると、一人の少女が立っていた。

 まず目に入ってきたのは耳だ。

 頭の上に長く伸びた兎のような耳。

 このあたりでも珍しい真っ白な髪。

 オフショルダーにスカート。


 少なくともこの世界に似つかわしくない服装。

 似つかわしくない服装...。

 服装...。


 「あんたも服の選択ミスった勇者さん...?」


 ワンチャン...ワンチャン同類かもしれない。

 ちょっとした期待で心拍数が上昇する。


 「私、ガイドです...!服は...一応おしゃれしてきたつもりなんですけど...」

 「ガイド...?」


 そういえば召喚者のおっさんが言ってたような気もする。


 「えっと、現地の観光案内はぼったくり誘導とかあるし、自分で散策したいからまにあってます」

 「えぇ...!?そ、そうじゃなくって...!」


 それじゃぁ。と歩を進めようとすると、手をつかまれる。


 「観光案内ももちろんできますが!その、勇者様の補助をさせていただくガイドです...!」

 「補助?」


 お互いがお互い、ポカンとした表情で数秒の時が流れた。


 「が、ガイドをご存じない...?」

 「知らないかもですね...」


 再び、数秒の虚無が流れた。

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