第1話 信用

 雷聖国ゼウサス

 雨季に降る雷の被害を抑えるべく建てられた大きな避雷針を中心にできたもっとも大きな国。


 いくらこの世界が魔法で満ちていようと魔法を使うにはエネルギーが必要になる。

 魔法は『魔素』というエネルギーを使用し構築される。

 当然魔法を使えば魔素が減る。

 魔素が無ければ魔法は使えない。


 この世界では当たり前の事。

 ならばその魔素はどこから来るのか。


 それは魔法から生み出される。


 まって、「何言ってるんだこいつ」みたいな顔しないで。

 最初に避雷針の話をしたのはこの後のためなんだ。


 避雷針に雷が落ちる。

 雷というのは膨大なエネルギーを持っている。

 ざっくりとした計算だが、一回の落雷で1億ボルトもの電力を持つ。

 これは一般人の約50日分の電力ともいえる。


 その雷のエネルギーをに変換し世界に放出される。

 それが最初に語った雷聖国ゼウサスの避雷針だ。


 魔法が当たり前な世界で魔法の源を司っている雷聖国ゼウサスは当然世界で最も発展しており、世界の中心的存在である。


 この物語の主人公。壊原創也かいばらそうやはそんな大国の王城『ゼウサス城』にある召喚場のど真ん中で微妙な空気感と共に立っていた。


 「勇者カイバラ様。どうか我々をお救い下さい...!」

 「...。えっと、具体的に何すればいい?」

 「え?」


 騒めき始める召喚場の人々。


 「いや、俺勇者転送の儀に推薦されたの一昨日だから、あんま勇者とかこの世界の事分かってなくて」


 とんでもない人物を召喚したかもしれない。と召喚者は顔を掌で覆った。


 「おほん...それは後に紹介するに任せましょう...」

 「はぁ...」


 相変わらず気の抜けた返事をする勇者。


 「まず、カイバラさまのを教えていただけますでしょうか?」


 一息置いて、壊原創也は召喚時に砕けた石レンガの一部を拾い上げ、召喚者に見せつけるように


 「俺の能力は『破壊』。触れたものをなんでも破壊出来る」


 再び召喚場が騒めきで響く。

 しかし、先程の不安の騒めきとは違い驚愕から来るものだった。


 「なんでも、とおっしゃいましたかな?」

 「はい。基本何でも」


 召喚者は少し考え恐る恐る口に出す。


 「この城を破壊することも可能ですかな?」


 「城の大きさによりますけど、まぁ余裕でしょうね」


 召喚場に緊張感が一気に走る。

 そして召喚士は、とんでもない人物を召喚したと確信した。


 「もちろんデメリットもある。知っての通り固有能力にはメリットと、それに釣り合うデメリットがある」

 「それは知っておりますが、それは固有能力保持者の弱点となります...。ここで話すのはあまり...」


 壊原創也は首をかしげて煽るように言い放つ。


 「いやwそれを今ここで話さないとあんたら信用しないでしょw」


 騒めきが一瞬にして静寂へ変わる。


 「い、いえ...勇者様の言葉を疑っているわけでは...!」

 「じゃなくて、今このまま解散したらここにいる全員が『いつでもこの城を崩壊させられる爆弾』が国を闊歩してるって思いながら生きることになるだろ」

 「...!」


 図星だった。

 城を破壊できると聞いたとき、その自信から疑いよりも先に危機を感じたのは確かだった。


 「俺の能力を詳しく話す。さっき言った通り触れたものはなんでも壊せる。フルオートじゃない。触れた後壊そうと判断し、能力を使用したときに破壊できる。破壊可能範囲は実質無限」

 「無限...!?」

 「あぁ。ただ、破壊範囲が一定を超えると『自分の体も壊れる』。つまり、さっき城を破壊できるといったのは嘘じゃないが、ってのが正しい情報だ」


 比較的にメリット・デメリットが釣り合っている。

 周りはある程度能力に納得し、次の問題点へ目を向ける。


 こいつなんかふてぶてしいな。と。


 しかしまぁ、正式な召喚により正式に勇者と認められたものではある。

 ちょっとしたモヤモヤを抱え勇者を見送る。


 「成程...能力については分かりました。では、ガイドを手配いたしますのでご自由に城内、城下町などを見ていただいて構いません。お気に召しました宿がございましたらご連絡ください。こちらで数日分の費用を手配いたします」


 流石勇者なだけある。宿代も国から出るのか。


 「それは助かる。恥ずかしい話お金はあんまり持ってないもんで」


 召喚者は深くお辞儀をし、「行ってらっしゃいませ。どうかよろしくお願いします」と残した。



 城の中を散策しても良かったが、やはり街に行って店や観光地を巡るのがこの国を知る最も手早い手段だろう。

 思ったならまず行動だ。

 適当に大きい舗装された道を歩けばそれなりの街に着くだろう。


 「インドアな俺でもさすがにワクワクするな...」


 この城のメイドと思われる人物に出口を聞き、ぶらぶらと歩く。


 かなり大きな城だ。

 ここまで大きいのにもかかわらず空気が温かい。

 空調魔法とやらでもあるのだろうか。


 床は綺麗に磨かれた石のタイル。

 壁はちょっとごつごつした石レンガ。

 ところどころに燭台が飾られてある。


 「まぁ...王城らしいか...」


 築けば門の前まで来ていた。


 「外出でございますか?」


 甲冑を着た門番が4人。

 チェストプレートにはこの国の紋章と思われる刻印が施されていた。


 「ちょいと街まで」

 「かしこまりました。...開門!」


 音をたてながらゆっくりと開いていく。


 「お気を付けて下さいませ」

 「どうも」


 明らかに対応が親切すぎる。

 そこまで勇者とやらはすごいものなのか。


 「おぉ!これは...!」


 思わず口角があがった。

 標高の高い位置に建てられている城を出てすぐに城下町の全容が見える。

 大小さまざまな建物。

 中央にはここからでも見える大きな噴水と広場。

 遠くには住宅街と思わしき建物の密集地。

 なんとなく予想していた通りの街だったが、いざ目の前にすると感動する。


 モルタルやレンガ、木材を使った建物からして、自分のいた世界よりも大きく文化が異なる...というか、ぶっちゃけるとそもそも文明がまだ発達していないように見える。

 しかし、『ミアギ』と呼ばれるこの世界は魔法の技術、文明がずば抜けてトップであるのは確かだ。

 文明の差異に不便を感じることもあるだろう。

 だがそれを文字通り魔法で補ってくれる。そんな気がした。


 広く長い階段を下り、先程とは違うフェンス状の門をまた門番に開けてもらう。


 さて、軽く街を散策するか...!

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