第5話 三日目から
俺は拾った子、美紅を連れて帰った。家では母さんが驚いたが、事情を聞いて納得してくれたようだった。
「仲良くするのよ」
「分かってるよ。俺はバイト行ってくる」
「行ってらっしゃい雪夫さん」
「ああ、行ってくる」
俺はあの後学校にあと4日行った後バイトにあの虫を飼育しに行く事になっていた。どんなことが起きるのかは分からないが、時給2000円のいい仕事だ。
そうして電車に乗り継いで倉庫に着いた。
「今日もよろしくね雪夫君」
「はい、よろしくお願いします鈴木さん」
俺は早速倉庫に入って作業をする。何度か臭い液をかけられたが特に問題もなく作業を行った。二日目の出来事が嘘みたいだ。俺は無事に作業を終えて帰ることになった。
「今日もお疲れ様雪夫君」
「ありがとうございました。鈴木さん。あの、二日目みたいなことはあんまり無い感じですか?」
「ああ、あんまりあんなことはないからそこまで警戒しなくても大丈夫かもしれない。確実にとは言えないことは申し訳ないけど」
「そうですか。それも含めての2000円なら仕方ないことですね」
「悪いね。でも、これからもよろしくね」
こうして俺は鈴木さんと別れ家に着いた。
「お帰りなさい雪夫」
「お帰りなさい雪夫さん」
母さんと美紅が出迎えてくれた。俺の帰りを待っていたようで夕飯が出来ていた。
「母さんも美紅も待っててくれたのか」
「そうよ。帰りを待ってたのよ。ね、美紅ちゃん」
「はい。雪夫さんの帰りを待ってました。一緒にご飯を食べましょう」
「ありがとう」
こうして、俺は二人と夕飯を食べて1日を終えるのだった。次の日の日曜日もバイトでその日も何の問題もなく終わった。そうして何日も百人面百足の世話をしているが今のところ二日目のような異変はない。バイト代は全て借金の返済に当てている。返済しきることは出来ていないがいつかは返そうと思っている。だが、順調に言っていたのが何回かした後事件は起こった。
「今日も行くのね。今日はバレンタインだから美紅ちゃんがチョコレート作ってるわよ」
「行くよ。俺は借金を返さなきゃいけない」
「今日も行くの、お兄ちゃん」
美紅は俺のことを何日もしてお兄ちゃんと言い出した。呼ばれ始めたころは何だか恥ずかしかったが、悪い感じはせずその呼び名を認めた。
「美紅。チョコ作ってくれるのはありがたいけど今日はバイトなんだ。美紅の生活のためにも必要なお金なんだ」
「ありがとう。でも無理はしないでねお兄ちゃん」
「ああ、行ってくる」
こうして、俺は家族に別れを告げてバイト先に向かう。そこでは二日目のように鈴木さんが扉を一生懸命閉めていた。よく見ると脇腹辺りに怪我をしている。
「大丈夫ですか鈴木さん」
「ああ、雪夫君か。悪いが閉めるのを手伝ってくれないか。全くバレンタインで娘からチョコを貰えるっていうのにこれじゃ大変だよ」
「オマエハダレダ」
百人面百足は多数が合体して大きな塊になっている。前のような薬があれば抑え込めるのだろうか。
「鈴木さん、前のかける奴持ってますか」
「もう使った。でも効かないんだ」
鈴木さんの脇腹には血が出ている。そこを止血するために俺の服を破いて使った。
「これで耐えてください。俺も閉めるのを手伝います」
「キサマハワレノジャマヲスルツモリカ」
俺は百足の塊になった怪異を押さえつけるため踏ん張った。だが、力が強くもう持たないそんな思いになった。
「雪夫君。逃げるんだ」
抑えきれなくなった時に鈴木さんが声を大きくして言い放った。
「いいだろう、俺の名前は鈴木健一だ」
「ソノコトバマッテイタ」
百人面百足の封印が解けた。百足の塊は外に逃亡しあっという間にいなくなった。だが、去り際に言った。
「オマエラノイチゾクミナゴロシダ」
俺はそれを聞いた時真っ先に家に帰った。鈴木さんの言葉も耳に入らず冷静さを失っていたのだった。
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