第3話 二日目
「オマエハダレダ」
何個もあるスキンヘッドの顔が俺へと近づいて言葉を掛ける。真っ暗闇の中無数のスキンヘッドが追いかけてきた。
「誰か、誰か助けて」
そう言った時に目が覚める。びっしょりとした汗。これは夢だった。百人面百足の世話をしていたからか変な夢を見てしまった様だ。俺はベッドから立ち上がり、バイトへ行く準備をする。
バイト先にたどり着くと何だか慌ただしかった。鈴木さんは急いでシャッターを閉めている。
「鈴木さん。何かあったんですか?」
「雪夫君。今は百人面百足の産卵の時期なんだ。中には入れられない毒ガスを吐いているから」
「今日は何かしなければならない感じですか」
「今日はいい。今の作業場は新人が入るのは危険だ。今日の分の給料も出すから帰ってくれ」
「グルオアー」
鈴木さんの声の後に人っぽい叫び声も聞こえた。いったい何事だろうと思うが帰るように指示されている。だが、鈴木さんが一生懸命閉めようとしている扉は力がかかって今にも開きそうだった。
「手伝います。閉めるんですよね」
「すまない。僕が力がないばかりに」
「グルオアー」
また、中から叫び声のような声が聞こえる。これは百人面百足が出しているのだろうか。それにしても扉が納豆を濃縮したような強い臭さが漂っていた。そこに更に力が加わり扉が開いた。
「駄目だ。もうおしまいだ」
「鈴木さん?」
「グルオアー」
シャッターの中には何匹もくっついた百人面百足の塊が一匹の大きな百足のように動いていた。
「逃げるんだ雪夫君」
「鈴木さんは」
「オマエハダレダ」
昨夜の夢と同じ言葉。いったいここで何が起きようとしているのだろうか。俺は鈴木さんを庇うため鈴木さんの前に立ちはだかった。
「俺は雪夫だ。化物め」
「ソウカ。ワレワレヲコウソクシテタダデスムトオモウナヨ」
「待て、この子は関係ない俺がお前らを拘束したんだ」
「ソウカ。ナラキサマヲユルサン。ナノレ」
「そう言っている間に殺虫剤だー」
そう言って鈴木さんが百人面百足に紫色の得たいの知れない液体をまいた。すると百人面百足の集合体は離散する。
「はあ、はあ。なんとかなった」
「鈴木さん。今のは何ですか。ここは一体何を飼ってるんですか」
「見られちゃったからなあ。ここは怪異を飼ってるんだ。あの虫は怪異なんだよ。化物さ」
「化物を飼ってるってどういうことですか」
「俺達は国の実験に参加していてその中に化物を飼うことを実験として行う作業があったんだ。あの怪異は自分を閉じ込めていた者の名前を聞く。その名前を拘束している人間は言ってはならないんだ。言ってしまうと拘束があの怪異の能力で解除されてしまうからさ」
「夢であの怪異らしきものが出てきたんですが」
「そうか。ならこの仕事はやめなさい。怪異を感知すると妙な霊感がついてしまうらしい。君は未来ある若者だ」
「鈴木さんはこのまま続けるつもりですか」
「ああ、国の命令だからね」
「そうですか。気を付けてくださいね」
「ああ、雪夫くん。短い間だったけどありがとう」
「こちらこそありがとうございました」
こうして俺は二日目でこの虫を飼うバイトをやめた。だが、この虫に向き合っていくことになることにこの時の俺は気付いていなかった。
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