第2話 一日目
土曜日。俺は、百人面百足の世話のバイトを始めた。ケージの掃除から始まるらしい。俺はゴム手袋をはめ、作業に取り掛かった。
「百人面百足は攻撃的だから、黄色い液を掛けられないように注意してね雪夫君」
「分かりました。鈴木さん」
百人面百足の飼育のバイトをすると聞いて俺に教えてくれるのは鈴木さんという方だった。背が高く普通の顔立ちだが、声がはきはきとしていて好印象の人だった。そんな人がなぜこんな場所でバイトをしているのかは分からないが、作業を教わった。百人面百足が早速俺の手袋に黄色い液を掛けようとしていたところを避ける。このケージは糞や尿で汚れるのもあるが、このスキンヘッドのような部分の口から出る黄色い液が、主な原因で汚れているようだった。その液も専用の雑巾でふき取り掃除を終える。次は餌である、鶏肉を切って与えることだった。虫相手に鶏肉と思うかもしれないがなんせ50センチくらいある百足なのだ。聞いたところによると鶏肉を半分は食べるらしい。それを百足の一口サイズに斬り鶏肉を消費した。こんな作業を何分も続けた。そうしている時に黄色い液に手袋がかかってしまう。長い間の作業で集中力が欠けたせいだろう。とても臭く、納豆を強烈にしたような臭いだった。
「かかっちゃったか。まあ、それくらいは雑巾で拭いて我慢して続けてね」
「分かりました」
俺はその鼻に来る臭いを我慢しつつ残りの作業をした。これで時給2000円なら安いものだ。俺はその日、百人面百足の世話を10時間で終えたのだった。
「頑張ったね雪夫くん」
「今日はありがとうございました鈴木さん。明日もよろしくお願いします」
「君も大変だね。家が借金してるんだって。本来なら親が何とかしなきゃならないことなのに」
「いえ。お母さんにはよくしてもらってますし。俺は何しろ稼がなければなりませんから」
「今夜はおごるかい?」
「いいんですか?」
「ああ、いいとも。牛丼屋に行こうじゃないか」
こうして、俺は鈴木さんに牛丼屋でおごってもらった。俺はチーズ牛丼を頼み鈴木さんはダッカルビ丼を頼んだ。
「それにしても、君は家族に対して献身的だね。うちの子にも見習ってほしいよ」
「鈴木さんは何歳くらいなんですか」
「40歳くらいだね。結婚はしてて、俺はこの会社の正社員だよ」
「そうだったんですか。俺は、父親が癌で亡くなってて母と二人です」
「ああ、こういう時君が飲めたらビールおごってあげたのにな。そんな辛い気分を吹き飛ばすように」
「まだ飲めませんが気遣いありがとうございます」
こうして、たわいもない会話を進めていき時間が経っていった。俺はメールを見る。母からメールが入っていた。
「やべ、おごってもらってるの伝えるの忘れてた」
「それはいけないね。送ってこうか」
「何から何までありがとうございます鈴木さん」
「いやいや。君は若い。だからその健気さを社会に出て生かしてほしい。今は中学生だけどいずれは正社員になって借金を返すつもりなんだろう。俺のところのバイトは高いけど正社員になればもっと稼げる。君の将来を応援してるよ」
こうして、最初の一日目のバイトは終わった。明日もバイトだが月から金は授業で稼ぐことはできない。このお金を借金返済のために使って少しでも借金をなくしていこうと思った。
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