第60話 食事

 貸家業者との交渉で、王都の物件を管理仲介させる事に成功した

 まだ先の話しだが、毎月の収入がある程度確保される

 避難民を受け入れつつ、定住者確保と金策に飛び回るノアは、

 その帰りに、呪われてしまった『勇戦団』のメンバーを託され、

 王都で『祓う』事ができる者を探すが見つからない…

 ティセは『大丈夫』だと言うが・・・


「ご領主様!大丈夫です 宿屋に戻りましょう!」


「!? 何故… 宿屋なのだ??」


『大丈夫』だと言われても、何が『大丈夫』か分からないノア

 ティセと共に、宿屋へ帰る

 

 宿屋では、任務中の数人を除き、任務を終えた役付きたちが寛いでいた


「ティセ、それでどうするのだ?」


 ティセは周りを見渡し


「領主様、その『呪われた』人はどこにいますか?」


 ノアは2階へ上がり、『勇戦団』のメンバーを連れて来た


「あれ!? 確か… ルダさんですよね?」


 喋る事ができないルダは、大きく頷く


『勇戦団』メンバー ルダ:ネクロマンサー LV36


「ティセ、彼女が持っているその『杖』が、呪われてるそうだ…

 だから絶対に触るんじゃないぞ」


「(絶対に触るなって言われると、フリみたいに聞こえる・・・)

 はい… 絶対に触りません!

 フェレンレン様、この『杖』って、フェレンレン様でも呪われますか?」


「私でも呪われるよ その上『沈黙』だからね

 喋る事も魔法も使えなきゃお手上げだよ」


「もしも『呪い』を祓ったら、『杖』は消えちゃいますか?」


「消えはしないよ 『呪われた人』は祓えるけど、『杖』自体は祓えないんだよ」


「へぇ~そうなんだ...... 」


「それでティセ… どうするのだ??」


「まぁまぁ、主役をお待ち下さい 領主様!」


「主役?? ・・・」


 暫くすると、アル・バトラーを連れ、ノートンが戻って来た


「ノア様、エリスに伝え、先に食事を摂らせています」


「そうか、では皆一息ついてくれ」


 3人が戻り、いよいよかとノアが再びティセに促す


「ティセ... 取り敢えず、今の所戻ってくる者は他におらぬぞ」


「では… 発表致しますよ! みなさん!注目して下さいね いきますよ…」


 何の話をしているのか、殆どの者が分からない中でティセは、

 セルフドラムロールを口で奏でながら、伸ばした指で次々と指していく


「ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル・・・」


 一同は、ティセの指先に釣られ、まるで猫のように、その先を追う


「ドゥルドゥルドゥル・・・ザン!!! 正解は......??? ノートンさんです!」


 意味が分かる者、分からない者、全ての視線がノートンに向いた


「ティセ??? 私が正解って・・・何がだ???」


「領主様! 正解はノートンさん ノートンさんは神父さんです!!!」


 全員の眼は丸くなり、次第に状況を理解していった

 ノートンの職が『神父』だったと分かった瞬間、役付きたちは一斉に沸き立つ


「イエェ~イ!」「神父さま~」「最高だ!」「ファ~ザ~!」「いいぞ!神父~」

「懺悔を聞いてくれ~!」「我々の神父だ~」「うぉ~!!」「ピュ~ピュ~!!」


 一同盛り上がる中、ノアは笑うのを抑えるのが精いっぱいだった

 ノートンは、顔を赤らめている 2人共、顔が真っ赤だ


「ノートン… お前は『神父』だったのか... 丁度居なくて助かったぞ…」


「は...はい... 以前ティセと王都に来た際に、変えた方が良いと言われまして…」


「ティセ、ノートンを『神父』にしたのは、どんな理由なんだ?」


「それはね領主様、理由なんて別に無いの」


「理由が無いのに『神父』に変えたのか?」


「そうなの ノートンさんが『神父』になったら、似合うかなって思ったの」


「・・・まぁ、確かに似合うな!」


「お主は兵士を辞めて、これからは『神父様』じゃ! 我々を導いて欲しいのぅ」


「そんな・・・ 勘弁して下さいよ~」


 一同は笑いに包まれた


「それでティセ、ノートンに祓う事ができるか?」


「はい! では… ルダさんはこちらへ ノートンさんは、スキルを使って下さい」


 ノートンは『神父』のスキル『解呪』を使い、ルダの『呪い』を祓った


「お主… どうなのだ? 喋る事はできるのか?」


「・・・ あ...あ...は...い・・・ 喋る...事ができます... ありがとう...ございます」


「そうか… それは良かった! 『勇戦団』の皆は、明日の朝出発と聞いた…

 王都には、昼頃に着くであろう ゆっくり待つが良い

 もうすぐ食事の時間だ たくさん食べて休んでくれ」


「本当に、何から何まで、ありがとうございます… 感謝致します!」


「ノートン、凄いじゃないか... まるで『神父』のようだったぞ!」


「そんな~ 確かに『神父』ですが… 」


「ここにはケニーとエリスが居ないが、一杯だけやろう 誰か!注いでくれ!」


 忙しさと緊張感で疲労が蓄積する中で、たった一杯の酒が体を潤してくれた


「ティセ『マジックバッグ』は、増やしてくれたか?」


「はい、今… 小さいのが16個と、大きいのが2個ありますよ」


「では、一度皆にも見てもらいたいので、出してくれないか?」


「はい! 今出しますね」


 ティセは増やした『マジックバッグ』を全て出した

 

「スタン、小さい方を皆に配ってくれ」


「はっ!」


 スタンは『マジックバッグ』タイプ:サコッシュを、役付きに配った


「皆に配った物が『マジックバッグ』だ、中に… 何個だ? あぁ…

 中に10個物が入るそうだ これをティセに増やしてもらっている

 増やしたら皆に配るから、もう少し待ってくれ


 ノートン以外の役付きは、初めて『マジックバッグ』を手にする

 その内『8人』が、怪訝な顔をしている中、ノートンが口を開く


「おい~!! ティセ! またこれが入ってるぞ!!」


 ノートン含め8人が、『マジックバッグ』から『ネズミの死骸』を取り出す


「あぁ~ 元のバッグから出すの忘れてた… みんなゴメンね」


 8人が取り出した『ネズミの死骸』を見たルダは、口を開く


「皆さま! で! それらをお貸しください」


 そう言うと、テーブルが汚れないように敷く物を探す


「それなら、この袋(ゴミ袋)が良いですよ」


「それではみなさん、この上にを置いて下さい」


 8人がテーブルの上に『ネズミの死骸』を置く


「それではご覧ください 私のスキルを!」


 ルダがスキルを発動すると… 死んでいたネズミが1匹2匹と…

 次々と起き上がり、8匹全部が


 皆、開いた口が塞がらない ポカンとしている中ノアが質問する


「これは一体… 確かに死んでいたが… 生き返ったのか??」


生き返りましたが、正確ではございません」


 ネズミは整列したり、隊列を組んだり、様々な動きをみせる


「他の魔物の『魂』を抜き取り、このネズミの亡骸に入れたのです」


「『魂』を抜き取り、このネズミに入れたと・・・ 理解できない話だ・・・」


「確かに理解するのは難しいですね 私でも理屈は分かりませんので・・・」


「これを利用して、お主達は討伐をしておるのか?」


「左様でございます 夜中はアンデッドがちらほら現れます

 その場合は私が操り、仲間が止めを刺します」


「確かに凄い能力だな... ただな… 効率が良い訳ではないな

 それでもレベルが上がった時の、新たなスキルは恐ろしそうだが・・・」


「ご領主様の仰る通りでして…

 私たちは10人で組んでますので、稼ぎが少なくて困っていました

 それで今回、彼女が誘ってくれましたので、仲間共々お世話になります」


「ティセの言う事を守っていれば、儲けさせてもらえるぞ」


「あはは!頑張らせてもらいます!

 それでは… ネズミを片付けますので、何か仕舞う物はございますか?」


「それなら、その敷いてる… そうこれをこうすると開くから中に入れられますよ」

 

 ルダは、敷いてるゴミ袋の口を少しだけ開くと、ネズミたちは次々と入っていく

 8匹全て入ったゴミ袋の口を掴み持ち上げ、スキルを発動すると・・・

 全てのネズミは生気を失い、元の『ネズミの死骸』になった


「今ので… 『魂』を抜いたのか?」


「はい、そうでございます 今回の場合は、ネズミの死骸でしたから、

 ほとんど何もできませんでした

 これが人型で大きければ、中に入れる『魂』次第で、

 もっと高度に… 人のように動かせます」


「なるほどな・・・ 不思議な事が、次から次へと・・・知らない事ばかりだ」


「これでおじいさんも… 何かの時は、ネズミに入れてもらいましょうね」


「ネズミはちと、嫌じゃのぅ...... 『鬼』くらい強ければ、儂も活躍するぞ!」


「残念ながら人間の『魂』は、扱えません…が もしかしたらですが、

 人間の亡骸に魔物の『魂』は入れられるかも知れませんけどね・・・

 試した事は、まだないですけど......」


「儂の体に魔物… それも何か嫌じゃな・・・」


「いやあ、面白いスキルを見せてもらった、きっとティセが何か考えるぞ!」


「ありがとうございます! 役に立てれば何でも仰って下さいね」


「はい!」


「それではスタン、『マジックバッグ』を集めて、ティセに返してくれ」


「はっ!」


 スタンは、配られた『マジックバッグ』を回収し、ティセに返した


「ではティセ、明日以降も増やしてくれ」


「はい!分かりました」


「もうそろそろ食事の時間だ! 皆で兵舎へ行こう」


 一同は食事を摂りに兵舎へ向かった


 一方その頃、『オルキニース』王都トラヴァニア:ブラム城

 プラウド王(バンパイア)の元に一報が届いた


「王に申し上げます! 『ヴァルガウス』で反乱が起こり、

 マイヤーズ軍と反乱軍とで、戦闘が行われてるとの事です

 その戦闘によって『ヴァルガウス』の民たちは難を逃れる為に、

『モワベモタナ』に避難してる模様です」


「何… 反乱だと!… まぁ養分食事が多少減ってしまうが構わん

『モワベモタナ』に逃げたとて、私の領地だから余り関係ないな…

 人間同士の醜い争い 勝手にやらせておけ!」


「はい、仰せのままに」



 翌日 12月4日 午前11時33分 【王都】宿屋


「ノア様、メルゼイン様ご一行が南門に到着したとの事です」


「おぉやっと着いたか… 一旦ここに呼んでくれ」


 10分後、メルゼイン一行は、宿屋に到着 ノアは外で出迎えた


「ちょっと遅かったではないか… 何かあったのか?」


「申し訳ございません… 応募の方がお二方、出発間際にいらっしゃったもので、

 折角応募して下さったのですから、無下にはできませんから」


「そうだな… 皆食事は?」


「お願いします」


「王妃様が2階にいる 今までここで休ませていたが、王宮へお連れして、

 お世話してくれないか?」


「勿論でございます」


「ノートン、王妃様とルダをお連れしてくれ」


「はっ!」


 ノートンは、王妃とルダを連れて来た


「それでは皆で食事を済ませてくれ メルゼインは王妃様を頼む

 他の仕事も後ほど伝えるので、手が空いた時にやってくれ

 食事が終わったら、飲食業の主と『勇戦団』は、ここに戻って来てくれ

 それ以外の者は、兵舎で休んでてくれ 私はここの宿屋にいるのでな…」

 

「ご領主様… 仲間を助けて下さって、ありがとうございます!!

 パーティを代表して、感謝申し上げます」


「何を云うか、ティセの仲間なら、我々にとっても仲間だ 仲間なら当然だろ」


「ご領主様・・・ うぅ....」


「これから色々と大変になる もう大変だがな・・・ 泣いてる暇などないぞ!」


「頑張らせて頂きます!」


 メルゼイン一行は、食事の為に兵舎へ向かった

 約40分後 飲食業の主8名と『勇戦団』が戻って来た

 

「ティセ、『勇戦団』が来たぞ!」


「は~い、それじゃあ… ギルドに行きましょう!」


 ティセは『勇戦団』と共に、ギルドへ向かった


「それでは… お主たちは、、、 あの大きいテーブルの所に座ってくれ」


 飲食業の主8名は、何故か全員怒っている


「お主たち… 一体どうしたのだ???」



 次回 第61話 王都編『雇用』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る