第59話 人捜

 敵を気遣いながら戦う、ティセの様子を聞いたノアは、

 改めて15歳の女の子だと実感する

 命のやり取りをする現実は、少女には酷だと憂い模索する

 王都で会議を終えたノアは、【タカミ村】へ向かう


 12月3日 午後1時33分 【タカミ村】近辺上空


「ねぇねぇ!ご領主様、見て見て!ねぇカワイイでしょ?

 ティセが10枚もお洋服買ってくれたの!」


「コラ・・・ 静かに座ってなさい! 危ない!ほら座って!」


「どれが今日は良いかな?? ご領主様! ねぇってば!」


「危ない…!うわっ! 『ウィッチ』君が決めてあげなさい・・・」


「ピコ様、私と一緒に選びましょうね」


「あなた… 話が分かるわね そうでなくっちゃww」


「・・・」


 ノア、ピコ、ウィッチの3人は、ケニーから借りた『ワイバーン』で

 村を目指していた


 12月3日 午後1時45分 【タカミ村】太陽園


「園長先生! ただいま! ピコは戻って来ました!

 ねぇねぇ見て見て、ティセがね~・・・・・・・」


「ピコ!? ピコなの?? あなた一体どうしたの???」


「ピコ… ちょっと園長先生と話をさせてくれないか?」


「えぇ~ じゃあ早くしてね!! ねぇみんな~ ティセがね~・・・」


「ご領主様??? ピコは一体??」


「私もちょっと急いでるのでな、端的に云うと… ピコは『進化』したそうだ

 それで体も一回り大きくなって、顔つきも少々変わったらしい」


「ピコが『進化』!? では… 大人に!?」


「まだそこまでは・・・ まぁ『お姉さん』くらいだろうか?」


「それでなシスター、今… 王都では大変な事になっておる

 避難民の受け入れ等、色々とあってな・・・

 どうだろうか… 王都に戻る気は無いか?」


「・・・・・・ 私は求められれば、お力になりたい気持ちはございます

 しかし・・・ ご領主様を前に何ですが・・・

 私は… 王族も貴族も 勿論ご領主様のお人柄は、存じ上げてありますが・・・」


「それが理由であるならば、もう問題は無い! この国には、貴族・・・

 爵位を持った者は、3人しかいないのだから…

 私とラディアーガ卿、宰相閣下の3人だ…」


「??とは、一体どのような意味でございましょうか?」


「シスター… 済まないが時間が無い… 王国と両村の現状は、

 ジェイソン達から聞いてほしい

 我が国は現状、存亡の危機どころではなく、それ以上にまずい状態なのだ

 それを聞いた上で、決断して頂きたい それでは失礼する」


 ノアとウィッチは【タカミ村】を後にした

 

 12月3日 午後2時47分 【ハルヨシ村】兵舎


「ギリギリ間に合ったな! レイリアン、状況はどうだ?」


「はい、移住希望者ですが、応募はまだございません

 飲食業希望者は、6名応募があります」


「本年度中の共同経営の件、その6名は飲んだのか?」


「皆理解しての応募です」


「良し、出発する日時は、メルゼインたちと全員一緒に、

 合わせて来てくれと伝えてくれ

 もしも合わせられなければ、後日でも構わないが、

 希望の店舗は、早い者に優先権があると言ってくれ」


「募集は取りやめてよろしいでしょうか?」


「いや、そのまま継続で構わない

 出発の期日に間に合うなら、一緒に来させよ

 それ以降なら、各々王都へ向かわせてくれ」

 

「移住希望者の登録をする者は、現在5名集まっております」


「今は当然仕事が無くても構わない 賃金は毎日払ってやってくれ」


「ノッカーの『護姻環』がこちらです」


「確かに… 良し!」


「別室に貸家業の主 4名がお待ちです」


「分かった・・・ では、その募集は締め切ってくれ」


「『ウィッチ』を連れて来た てっきりティセの眷属だと思っていたが、

 まさかレイリアンだとは思わなかったぞ」


「私もティセに頼まれまして… 」


「そうか… 休める時にしっかり休んでくれ それでは頼んだぞ!」


「はっ! お任せ下さい!」


 ノアは貸家業の主4人を連れて、近くの酒場に行った


「エールを5つだ!」


「は~い!お待ち下さい~!」


「忙しい中集まってもらって、申し訳ない 私がノアだ

 お主達の名前と、村での商売は何年になるのか、教えてほしい」


「うむ、ダグ、40年 メイ、38年 リズ、25年 ボブ19年だな…」


 ホール係の女性が「エール」を持って来た

 5人で乾杯をして飲む


「お主等は、王都へは行った事があるか?」


「全員あるのだな」


「ここからが本題だが、王都の家屋と店舗だが、一部を除いて大半を貸し出す」


「!」「!」「!」「!」


「貸主は国 それらの物件を、貸家業の其方たちに仲介と管理をしてもらう

 この件に関しては、国の仕事として従事してもらう」

 

「!?」「!!」「??」「…?」


「先ずは『前提の前提』だが、すぐに行動に移せる事 これが絶対的な条件だ!

 手の者をそれなりの人数揃えられて、自力ですぐにでも王都へ向かえる事

 すぐにとは… 今日が3日… 遅くても10日までに、来て欲しい

 10日着だとしても、21日で全部見て回れるのかと云う話しだが・・・

 王都の物件の多さを考えてみてくれ それらの大半を、お主達に任せるのだ

 早く到着すれば、それだけ数多く物件を確認できるがな… どうかな?

 向こうでの当面の食事と住居は、こちらで面倒みるぞ」

 現在ここに4名の貸家業の主が居る訳だが、担当物件は単純に4等分だな

 この件から降りる者がいれば、残った者は取り分が増えるがな…


「◎」「◎」「◎」「◎」


「聞き漏らしがないようにな、良く聞いてくれ 良いか?

 家屋の賃料は【ハルヨシ村】の同系統の家屋と同等にする事

 店舗の賃料は【ハルヨシ村】の同規模の店舗と同等~1.5倍までの賃料とする事

 賃料の1割5分を、お主等の取り分とする事

 毎月の賃料は先払いで受領する事

 月の途中での契約は、日割り計算で出た金額を先に受領する事

 退去時の修繕費用は、借主が負担する事

 賃料から取り分を差し引いた額を全て纏めて、翌月の15日までに納付する事

 

 とりあえずここまでは良いか? 納得できない者は、帰って頂いて構わないが?」


「◎」「〇」「〇」「△」


「なに?取り分が些か少ないと… しかしな、領民たちを使えば、

 本来お主達の手は借りなくても良いところだが、敢えてお願いをしているだ

 しかも、お主達も一度行ったであろう… 『不越山』の向こう側へ

 坑道が開通したばかりだが、あちら側に巨大な街を作る… いや、作ってる所だ

 出来上がるのはまだまだ先だが、王都が六つ以上収まる広大な場所だからな…

 今回のこの件に絡まなかった者は、そちらへの参加もできなくなるが...?」


「◎」「◎」「◎」「◎」


「ありがたい! 感謝する!」


「それで区割りなのだがな・・・

 北門から南門へ抜ける『中央通り』と、西門から王宮への『王宮通り』

 中央広場から十字に区切り、北東・南東・南西・北西の4つの区画とする

 その4つの区画を、実際に見てもらった上で、どこを選択するか決めてくれ

 その中で、『ギルド』や『買取りセンター』など、賃貸できない物件もある

 それだと、その区画は不利になる訳だが、どの区画も同程度の物件は、

 賃貸不可にして国で使う それである程度は、不公平感も無いだろう

 決め方は、各々区画を確認した後に知らせる それでどうだろうか?」


「◎!!」「◎!!」「◎!!」「◎!!」


「それでは決定だな!! 改めて乾杯だ!! 

 これで飲み食いしてくれ 釣りは4人で分けて、必要な物を揃えてくれ

 これで私は失礼する では早々に王都へ参られよ」


 貸家業者を迎え、物件の管理を任せる事に成功した

 それだけの収入では、当然国の経営はできない

 それでも実質、手は貸さなくとも自然と手に入る『不労収入』ができた算段だ

 勿論、ティセのアイデアだ


 12月3日 午後3時48分 【ハルヨシ村】領域内上空

 村を出たノアは王都へ向かう途中、眼下に馬車を見つけた

 何かのトラブルがあったようだ 声を掛けてみた


「どうした?何があったのだ!」


「あれ!? ご領主様!! これはどうも…」


「お主達は『勇戦団』の… こんな所でどうしたのだ?」


「はい… 出発まで少し間があるので、一狩行こうか?なんつって

 討伐依頼受けたんです そしたらこの有様で…」


「出発は決まったのか?」


「明日の早朝でございます」


「それでこの者は、いかが致した?」


「こんな時間にアンデッドがいたんで、倒したんです

 その魔物が持ってた武器を回収したら、呪われちまったんです…」


「深刻な状況なのか?」


「命の危険はございませんが、『呪い』によって『沈黙』の状態になってます

【ハルヨシ村】では難しいかなと… 王都なら何とかできるのですが…」


「そうか… 丁度王都に戻るところだ 私が連れて行こう」


「ご領主様!! ありがとうございます!! 恩に着ます!!」


「ではお主たち、明日は護衛も頼むぞ!」


 ノアは、呪われてしまった『勇戦団』のメンバーと共に、王都へ向かった



 12月3日 午後5時頃 【王都】宿屋

 王都に到着したノアは、呪われてしまった『勇戦団』のメンバーを宿屋へ運んだ


「フェレンレン様! ちょっとよろしいかな?」


「どうしたんだい? ・・・ あ~… 呪われてるね」


「祓う事はできませぬか…?」


「私じゃできないよ 『〇〇』じゃないと」


「困ったな... ここにはいないぞ どうすれば良いだろうか・・・

 とりあえず方法を探してみるから、其方は休んでいなさい…」


 ノアは、協力者を募ってる、マシューとエイデンの元へ向かった

 王軍兵舎内


「エイデン! どんな状況だ?」


「はっ! 皆やっと辿り着いたと云う安堵と疲労でしょうか…協力者は若干名です」

 兵舎に行って落ち着けば、今後増えると思われますが…

 何でも手伝うと言ってくれた者が2名で、炊事は3名です」


「良し、何でも良いと言う者は、炊事に組み込んでくれ

 その5名は、早速炊事場担当のアルかバトラーの元へ連れて行ってくれ」


「はっ!只今!」


「マシュー! ちょっと!」


「はい! 如何なされましたか?」


「いやな… 避難民の中に『〇〇』はいなかったか?」


「今のところいませんが・・・」


「そうか… 悪かった 続けてくれ」


「はっ!」


 ノアは、西門で避難民の管理誘導を行っている、エリスとギャビンの元へ向かう


「・・・どこだ? 大分増えてきたな・・・ 」


「ノア様~!! どうかしましたか?」


「おぉ!ミーアではないか! お前はここの担当か?」


「はい! そうであります!」


「アルゼはどうした?」


「あいつは... 総コストが低かったので、スタン様の方の回収作業です…」


「相変わらず、お前には勝てんのだな.......」


「・・・」


「ティセには会ったのか?」


「ティセも来てるのですか?」


「あぁ、我々が王都に入ってから、ずっといるぞ」


「ホントですか~! 今度会いに行きます!」


「ところで、エリスかギャビンはどこにいる?」


「西門を出た所にいます」


「そうか、ありがとう」


 ノアは、西門をくぐり、外に出る


「ギャビン!ギャビン!」


「え?はい?」


「すまんな、すぐに終わる 避難民で『〇〇』はいなかったか?」


「調べた中にはいませんでしたが… 」


「そうか・・・ ティセはどこにいるか分からんか?」


「私がこちらに来るまでは、ギルドにいましたが…」


「… 分かった、戻ってくれ!」


 ギルドに向かったノアは、ギルド前で慌ただしく準備していたスタンを見つけた


「これはノア様、もうすぐ整いますので・・・」


「(もう6時か......)いや… スタン、時間前だが変更する

 33名は、夜食の準備を手伝わせ、先に食事を摂らせて休ませてくれ

 明日は午前9時から午後6時まで、今日と同じく訓練をしてもらう

 スタン・エディ・ウィルは、宿屋で休んでてくれ」


「はい、畏まりました!」


 ノアはギルドに入る


「ティセ、ここにいたのか?」


「領主様、お疲れ様!」


「あぁ、ちょっと待っててくれ ノートン、報告を頼む!」


「はっ! セルトーアとハルザードが受け持つ『狩り』の部隊ですが、

 10名がそれぞれ、荷馬車を満載にして、戻って参りました

 セルトーアとハルザードは、宿屋で休んでおります

 10名の兵士は、それぞれが自主的に『鬼』との、

 相互理解や意思疎通を図っております


 保管場所はやはり、兵舎内炊事場のそばが良いとの事で、

 食料保管庫の一室を『冷蔵庫』として、保管しております

『冷蔵庫』の『雪ん子』は、アルが『護姻環』を着けております


 避難民の管理と誘導を受け持つ、エリスとギャビンですが、

 エリスが先に昼食まで、その後をギャビンが担当してます

 午後7時に、ギャビンからエリスに交代致します


 地上部隊とワイバーン部隊ですが、先ほど仕事を終えました

 合計で108体です 売却額は・・・ 52万2,300ヨーです

 初めの方は、2部隊の連携や一時保管場所の事もありましたが、

 徐々にペースがあがってきたそうです

 その辺りの工夫で、まだ増える余地はあるとの事でした


 避難民から協力者を募ってる、マシューとエイデンと…、

 南西地区の回収作業を受け持つ、

 アズディニ、グレーイズ、フォランダ、ジーンの4人、

 33名の訓練を受け持つスタン、エディ、ウィルは、

 午後6時に終了ですので、間もなく到着する頃です


 フランは、兵たちの登録が完了した後、人員の選別と受け渡し等終え、

 現在は宿屋で休んでおります 書面はここにあります


 乱玉と素材を売却しました 約150万ほどになりました

 ケニーは、まだ戻っておりません 以上でございます」


「さすがだノートン! では、職員の其方らも、ここを閉め宿屋へ戻られよ

 私とティセは、表で戻ってくる者を待っている

 エリスと15名の兵士の食事の時間がずれてしまう

 この16名は、早めに食事を摂るよう、炊事担当とエリスに伝えてくれ

 それで宿屋に戻ってくれ」

 

「はっ!それでは宿屋に参りましょう」


 一同は表に出て、職員はギルドを閉めた

 職員は宿屋へ戻り、ノートンはエリスの元へ向かった


「ティセ、実はな… お前が雇った『勇戦団』の一人が、呪われてしまったのだ…

 祓う為に『〇〇』を探してるが、いないのだ…

 ティセなら『送魔鏡』で、何か良い物が見つけられるのではないか?」


 ノアの質問が終わったと同時に、ぞくぞくと役付きが帰って来た


「アズディニ、グレーイズ、フォランダ、ジーン、報告を頼む」


 ノアは、4人から報告を受けた


「皆ご苦労であった 宿屋で休んでくれ」


「では、マシューとエイデン、報告を頼む」


 ノアは、2人から報告を受けた


「そうか、それで良い! 炊事希望なら、すぐに連れて行ってくれ

 今の所、いくらいても構わん では宿屋で休んでくれ」


「ティセ… 先ほどの続きだがな・・・」


「ご領主様!大丈夫です 宿屋に戻りましょう!」


「!? 何故… 宿屋なのだ??」



 次回 第60話 王都編『食事』

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