第61話 雇用

 呪われたルダを助ける為に奔走したノア

 ノートンが『神父』だと分かり、祓う事に成功した

『ハルヨシ村』から、メルゼイン一行が王都に到着する

『勇戦団』はティセと共にギルドへ

 食事を終え戻って来た『飲食業の主たち』は、何故か怒っていた…


「それでは… お主たちは、、、あの大きいテーブルの所に座ってくれ」


 飲食業の主8名は、何故か全員怒っている


「お主たち… 一体どうしたのだ??? いや… まず自己紹介をしてくれ」


 飲食業の主 8人

 ジョン、デビー、ネリー、パブロ、ルイス、リンダ、ケイト、ノリス


 ジョン「6人を代表して言わせて頂きます! 我々6人は、先に応募しました

    しかし… ケイトとノリスと言いましたか?

    この2人は後から来て、奥様の優しさでこの中に入れてもらったクセに…

    しかも出発を遅らせて それで店舗の優先権なんて…

    神経が図太いんだよ!!」


 ケイト「奥様が大丈夫だと言ってくれたのよ! それでここに居る訳だから

    当然優先権はあるじゃない!」


 ネリー「君らが遅らせたって理由があるだろ!」


 ノリス「遅らせてしまったのは済まないと思うが、間に合ってるのも事実だろ!」


 全員 「何だと!」「このやろー」「何よ!」いい加減にしろ!」「表でろ!」

    「ふざけるな!」「キー!!」「相手になってやるわよ!」「ワーワー!」


「これ以上騒ぐなら王都は素より、村でも…

 今開発中のあの新天地でも、商売はできなくなるが良いかな?」


 一同の喚き声が、一瞬で止んだ 


「どんな状況になっても、対応できるように想定している ※そうでもない

 お主たちは… 応募の順番は、互いに知っておるのか? (知らない事を願う)」


 ジョン「はい... 私たちは6人で一緒に参りました」


 ケイト「私たち2人は、確かに6人よりは遅かったです…」


「ケイトとノリスでは、どちらが早かったのだ?」 


 ケイト「私の方が、先でございます…


「(一緒に参った…のか)一緒に参ったお主たち6人は、各々誰が先か後か…

 それはどう考えておるのか? 」


 先の6名「確かにそうですな…」「言われてみれば・・・」「仰るとおりだ!」

     「一理ある!」「まぁそうですね…」「・・・」


「何かを決める時に、何を重要視するか...... 私の場合は『早さ』と『速さ』だ

 付き合いが深まれば、それ以外の『ファクター』も、勿論重要になってくる

 今の段階では、お主たちのウデも人間性も、私は知らないのだからな.....」

 

「その中で優先度が高いのは、先に応募してくれた6人で間違いない

 ではその6人だが、早さは同じだと申す…

 その場合私が試すのは、お主たちの『運』だ! 試す方法はいくらでもある

 それらを以て順番を決めるし、異論は認めない!」

 

「ただな、店舗が重要なのは、とても理解できる だから争うのだろう

 優先権1番目の者と、8番目の者では、店舗の差は如実に出るかも知れないが、

 そんな事で争うよりも… お主たち自慢の『料理』で争ってくれないか?

 わざわざ王都に店を出すほどの『料理のウデ』を持った者たちであろう?」 

 

「他の者に負けずたくさん儲けて、店舗を増やしたり何なりすればよかろう

 それとも『料理』ではなく、『店舗』でしか勝負できないようであれば、

 その店の客はやがて減っていき、いずれは閉める事になるだろうがな」


「私自身の考えだが、客として店の善し悪しとは、『店舗』自体ではないだろう?

 その店の『美味い料理』、客に対する店員の『対応』、価格の安さ、居心地の良さ 

 また来たいと思わせる、その店特有の『何か』を、作りあげていくものだろう?」


「お主たちは、先ほど王都に着いたばかりだ 店舗も見ていない 賃料も知らない

 他の者と重複するかどうかも分からないだろう?」


「近い内に、仲介業者も王都へ来る その者たちが、物件を検分して賃料を決める

 賃料が決まれば、実際に店舗の中を見ていくなかで、候補も増えていくであろう

 それでも重複した時は、『運』に任せて順番を決める 納得してもらえたかな?」


 全員「・・・仰る通りで...... 頑張らせて頂きます・・・」



 ノアの忠告と提案に、飲食業の主8人は返す言葉も無かった

 当然ティセの助言があったからだ ホワンホワンホワン


「・・・と云う訳だ 私は兵士の扱いは分るがな… 他の者はどうしたものか…」


「領主様、こっちの世界の人...  男の人は『煽られ耐性』が無い気がするのね」


「『煽られ耐性が無い』とは何だ?」


「貸家業の人とか料理人とかに限らないけど、その道でずーっとやってきた人ね

 頑固でプライドが高い人もいるでしょ? 棟梁みたいに優しい人もいるけどさ

 もしもの時は、煽れば良いの だってね、兵士さんだってきっと同じだと思うの

 大概、得した損した、順番がどうとか、しょーもない事でごねるの

 そんな時は、煽ってやる気を出させるの あれ?君できないのって 

 納得しないならじゃあサヨナラって

 残ったみんなで頑張るから、要らないよって言ってやるの

 そう言われたら仲間外れは嫌だから、納得するんだから

 ポイントはね~ 納得させてる途中で、こっちの要求をこっそり入れるの

 それと不公平感をなるべく出さない事 結局それで、こっちの思い通りだから」


 ホワンホワンホワン


「(ティセの言う通りだな… 私もここまで単純なのだろうか・・・)

 他に何かある者はおるか?」


 デビー「では私から、全員の感想なのですが… 先ほど食事を頂きましたが…

     余り美味しくないので… 毎日の食事は、あんな感じですか?」


 ジョン「確かに美味い物もあった 作る方が、明らかに違いますよね?」


 ケイト「あのスープは美味でしたわ!それ以外は・・・ちょっとね...」


「そう言われてもな… 兵の食事だからな、あのようなものであろう・・・

 一食に掛かる費用も、それほど掛けられる訳ではないしな......」


 リンダ「ご領主様! あのような食事では、兵士の方々も力が出ません!

    美味しいものを食べて、我々を守って下さらないと困ります!」


 言いたい事はそれなりにあったが、ノアは一旦飲み込んだ

 その時ティセが、『勇戦団』と共に帰ってきた


「すまない、少々席を外す すぐ戻るので、暫し待たれよ」


 席を外したノアは、ティセを呼ぶ


「ティセ… ちょっと良いか?」


「はい! じゃあみなさんはちょっと待っててね」


 2人は店の奥の方へ移動し、ノアは助言を求めた


「・・・・・・と云う訳なのだが... 予算が… 経費が…

 そうだな… 余裕を持って… 800か?


「それなら… ・・・聞いて・・・・・ で、… あーしてこーして…」


「そうだな… なら… で、こうか? なら… それで…」


「色々とね… 儲けてるし… そしたら… あれでしょ… ならタダだし…」


「まぁ、そうだな…  面倒… あぁ、… まぁ仕方ないな…」


「それで… 乱玉… で、したら… 手間… だし… かな?」


「ティセ、ありがとう では、それで試してみよう」


 10分弱の相談を経て、ノアは紙とペンを取り、席に戻った


「いや、すまなかった ところでだ、唐突で申し訳ないが、ここに紙とペンがある

 私が質問するので、その答えを書いてほしい 質問は3つだ

 それを他の者に見られないようにしてくれ

 私はお主等を信用するので、嘘は無しだ!正直にお願いする

 ではいくぞ、先ず… ひと月の純利益は幾らか?

 良い月も悪い月もあるだろうが、平均的な純利益だ 売上ではなく純利益だ

 売上から仕入れ代、賃料、賃金を差しい引いて、手元に残る金だ

 次に、成人の男性が食べる、一食に掛かる平均的な価格は幾らか?

 酒は付けないでくれ 食べ物だけの平均的な一食の価格だ

 最後が、各々が連れて来た従業員の数は何人か?

 帳簿を見なくても、ざっくりと分かるであろう

 全て書いたら、私に渡してくれ」


 数分待ち、全員が書き終わり、紙をまとめた

 ノアは1枚ずつ目を通し、全ての紙に何かを書き込む

 

「ノートン、ちょっと来てくれ」


「はっ!」


 ノアはノートンに全ての紙を渡し、耳打ちをする

 するとノートンは外へ出て行った


「募集の内容だったが、一部変更しようと思う…」


 全員「???」


「変更するのは、本年度中の『共同経営』の部分だ」


 全員「??????」


「今年も残り、一ヶ月を切った そこでだ… お主たちを私が雇う事にした」


 ジョン「雇う…ですか...?」


「そうだ、今年いっぱい雇われてくれ

 兵士や避難民、我々の食事を、毎日作って欲しいと思ってな」


 ルイス「すぐに開業できるのでは、ないのですか?」


「勿論そのつもりであったが、状況は刻一刻と変わるものだからな

 ただ… 安心して欲しい その見返りは十分に約束する」


 全員「??????」


「先に仕事の話をしようか

 お主たちで、一日三食… 1回に800食を作ってくれ

 時間は、毎日午前8時、午後12時、午後8時の3回だ」


 ノリス「毎回800食なんて、手が足りませんよ」


「それなら、を作っている兵士が50名いるので、

 使ってもらって構わないぞ 避難民からの協力者もいるからな」


 全員「・・・・・・」


食事を出すだけではないぞ これはチャンスだと捉えてほしい

 開業前に、お主たちの『料理の腕』と『名前を売る』絶好の機会なのだから」


 ケイト「作って出しても、どれが誰で何を作ったかなんて、どう知るのですか?」


「それは大丈夫だ! 先ほど皆が行った兵舎の食堂だが、かなり広い

 その一角に、其方たちが作った食事を置いておくのだ

 食事に来た者は、その並んだ食べ物から、自分が食べたい物を取るシステムだ」


 ネリー「もう少し分り易くお願いします…」


「食事は基本的に、『主菜』『副菜』『スープ』『パン』であろう

『スープ』が主菜になる事もあるが、それは置いといてくれ

 それぞれがこの4種類を、各々100人前作って置いておくのだ

 食事に来た者は、自分が食べたい物を、選んで取っていく

 例えば『パン』なら、そこには各々が作った『8種類のパン』がある訳だ

 その『パン』の横には、作った者の名前か屋号が書いてある

 それで、誰が何を作ったかが分かる仕組みだ」


全員「!!!!!!!!」


「『主菜』『副菜』『スープ』『パン』それぞれが8種類あって

 皆が好きな物を選ぶ 人気の物は、当然少なくなる

 少なくなったら補充していき、100人分無くなれば売切れで終了だ

 皆最初は、料理の見た目だけで選ぶかも知れないが、

 次第に名前で選ばれるようになっていくのではないか?

 ただし、デメリットもある 最後まで残った『売れ残り』だ!

 味は美味くても、最後まで残る可能性は大いにある

 見た目の問題か、好みの問題か、先に食べた者の評価かも知れない

 兎に角その『売切れ』も『売れ残り』も、他の7人に知られる訳だ

 来年から客になる者たちに、己の腕を知らしめて、開業までに名前を売る

 ライバルたちの料理も、互いに知るし知られる訳だから、

 新たな料理の開発も、行わなければ取り残されてしまうだろうな…

 で、どうかな?」


全員「やります!」


「よし!皆、ありがとう!感謝する 仕事は、今日の夜食からだ

 トータルで800食 各々が作るのは100食分だ

 大半は兵士なので、気持ち多めでお願いする

 食料の備蓄は、各々後で確認して欲しい 小麦と肉は豊富だ

 北門を出て東側に畑がある 兵士に言って同行してもらってくれ

 それ以外の野菜と野草は、毎日森で採取しているが、それでも少ない

 どうしても必要な食材は、こちらで手配するので、早めに言ってくれ

 他に質問などないか?」


 パブロ「あの… 賃金の方は......」


「あぁ、任せてくれ もうすぐだ!」


 9人は雑談などで多少盛り上がり 十数分後・・・ノートンが戻って来た

 ノアは席を外し、ノートンと小声で会話する 

 そして名前が貼られた『8つの革袋』を受け取る


「ここに8つの革袋がある それぞれに其方らの名前が書いてある」


ノアは、革袋を全員に配った 8人は革袋を開いて中を見る


「先ほど皆に書いてもらった『月の平均的な純利益』の1.5倍の金が入ってる

 それが、私から其方らに支払う『賃金』だ! 受け取ってくれ」


 口を手で塞ぐ者、天を仰ぐ者、目頭を押さえる者、目を閉じる者、

 全員が感動している


「それでは… まだまだ夜食には早いが、在庫や炊事場の確認など…

 従業員の者たちと、色々と打ち合わせ等々やってくれ

 食材の注文は、翌日分も含めて… 

 遅くても午後5時までに、炊事場担当のアルに伝えるように

 少しくらいは早まっても、全然構わんので、午後8時には用意してくれ」


「ノートン、皆を兵舎へお連れしてくれ

 それとアルに、この者たちが今後の炊事場を担当すると伝えてくれ

 アルは、炊事場の監督者としてそのまま任に就き、食材の注文などを管理

 こちらに連絡・報告させるようにしてくれ 細かい話は追って相談する

【レビド兵】50名は、この者たちのサポートをしてもらう

 

 バトラーが率いる『モワベモタナ兵』18名と『ヴァルガウス兵』34名は、

 炊事場担当から外し、バトラーを含めて全員、ギルドで登録させよ

 ノートンの時と同じく、最初はバトラーが登録して『商人』にする

 ノートンからバトラーへ、53万を渡して、全員分の支払いをさせる

 職は… 『ヴァルガウス兵』34名は『狩人』にして、

 毎日狩って届く魔物の肉を処理させよ

 担当はいないが… !ケン殿に34名を指導させてくれ 乱玉と素材の確保も

 乱玉は皆知らないだろうから、ノートンからケン殿に教えてやってくれ

 ケン殿は、一時的に指導で入ってもらう 後任はすぐに探す


 バトラーと『モワベモタナ兵』18名は『戦士』にして、

 スタン等の訓練組に合流 バトラーはスタンたちと共に訓練の指導に当たる

 33名と18名の合計51名は、午後5時に訓練終了後ギルドに立ち寄り、

 己の総コストを申告させ、スタン等に帳面に記載させよ 以上だ!」


「はっ! それでは皆さん、兵舎へ向かいましょう」


 ノートンは、飲食業の主8名を兵舎へ連れて行った


「フェレンレン様、北門を出て左側の森で、兵たちの訓練をさせています

 今日より訓練をつけてやってくれませぬか?

 パーティやフォーメーションの類なのですが…」


「私は雇われた身だよ 働けと言われれば働くよ じゃあ行ってくるね」


「お願いします!」


話し合いを終えたノアは、安堵し一息つく その時・・・


「ノア様! 南門にダミアン様が到着されました!」


「ダミアンが… 一体何が・・・」



 次回 第62話 王都編『人材』

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