第52話 実験

 ティセが買ったのは、レアスキル『複製』だった

 食料問題のみならず、全てを豊かにする可能性を示した

 ノアは、今後の方針を相談する


「あぁ、お休み」


 ティセは2階へ上がって行った


「ノートン、各門の見張りは、今から4時間後・・・ 午前3時に交代だ

 各門2人で6名選び、伝えてくれ 今日来た兵たちは、適当に民家で休ませよ

 交代する者には、だと伝えておけ

 それが済んだらノートンも休んでくれ」


「はっ! 只今伝えて参ります!」


「うむ。頼む!」


 ノートンは伝えに行った


「閣下、やらねばならぬ事があり過ぎまして、何から手を付ければ良いのか・・・

 ティセが言った通り、金があれば何でも融通は効くのでしょうが、

 閣下なら、先ずどこに手をつけますか?」


「確かにのぅ… 優先する事は、食事と周囲の警戒と監視、これは必要じゃ

【モワベモタナ】と【ヴァルガウス】には、報復を決めておるじゃろ

 それも実行せねば、ただの口だけになってしまうからのぅ…」


「・・・閣下、王宮には金は残されてるでしょうか?」


「どうだろうかのぅ・・・ 置いて行く理由も無いが、確認せんと… 分からん…」


「それでは、王宮の確認を優先しましょう・・・ 多少でも残されてれば良いが…」


 その時、王妃が2階から降りてきた


「テリー殿、ノア卿・・・ もしも王宮に金銭が残されてなければ、

 金庫、宝物庫、調度品も全て売り払い、お金に換えて下さい…」


「王妃様・・・ 本当によろしいのでございますか・・・?」


「えぇ・・・ 私や王の罪は、それだけではとても・・・足りません

 その上貴方たちにもこうやって… 苦労をかけています・・・」


「王妃様、儂らは苦労だとは思ってはおらんのでのぅ…

 しかし謙虚なままではいられんので、有難く頂戴致しますぞ…」


「はい… 皆の良きように使ってくれれば…」


 そう言うと、王妃は2階へ戻って行った・・・

 2人は、再び金策の話しを始める


「それと・・・ 街の商店からも、集めるが良い・・・」


「しかしそれは・・・」


「街がこうなってしまった以上、仕方なかろう・・・

 連れ去られた領民は・・・ もう戻っては来ないじゃろう…

 もしもじゃ、嬉しい事に戻って来たら、色を付けて返せば良かろう」


「・・・そうでございますな、分かりました 商店でございますな」


「民家には大して無いじゃろう たんまり貯めてた者も居るかも知れんがの

 それらは後回しにするのじゃ 効率を考えれば、宿屋、酒場、商店じゃろう

 ただし、ギルドと買取りセンターのはダメじゃぞ!

【ジュリア】に支払う金かも知れないのでな、後から請求されても大変じゃ!

 王宮以外は、4人一組で8から10組ほどで良かろう」


「食料の調達も兼ねて行います

 先ほどティセが申してた通り、こちらでも狩りを始めましょう

 それで肉と、魔物の食事が賄えますので

 売却予定の『乱玉』と『素材』は、ございますので、

 手持ちと合わせれば、大分持つでしょう

 現在約100の兵が残っておりますが、呼び寄せた方がよろしいでしょうか?」


「【タカミ村】はどうなんじゃ?」


「僅かな衛兵は残し、鬼と共に警備しております」


「では【タカミ村】同様、鬼を増やして警備させれば良かろう

 ・・・ 領民の中には、手伝う者もおるのではないかのぅ?」


「そうでございますな… では衛兵で少し残し、鬼を追加しましょう

 そして領民から希望者を募りましょう

 明日【レビド】からも応援が参りますので、総勢150人前後でしょうか…」


「しかし、その人数ではのぅ… だが、それでも助かるのは確かじゃ…

 ・・・・・・ お主に【タカミ村】の拡張をしてもらったのは、

 王都からの避難に備えての事じゃったが、それも意味が無くなってしまったのぅ…

 ・・・・・・ 思い切って【ハルヨシ村】の者たちを、

 こちらに住まわせるのはどうじゃろうか? それも1つの手ではあるがのぅ…」


「そうでございますな・・・ 先ほどの街の件で実は閣下に・・・・・・」


 その時『あらくねーさん』が、一人の男を拘束して現れた!


「ご領主様、お話の途中で失礼致しマス」


「どうしたのだ? その者はなんだ?」


「この者から了解を取りまして、念の為に拘束しておりマス

 ワタクシは西門に戻りますので、話はその者からお聞き下サイ

 それでは、失礼致しマシタ」


『あらくねーさん』は西門の警備に戻った


「さて・・・ お主は何者だ?」


「私は、先ほどご領主様に許され放された【ヴァルガウス】の兵士でございます」


「その【ヴァルガウス】の兵士が、何故また戻ってきたのだ?」


「『オルキニース』の国王に関して、お話がございます・・・」


「『オルキニース』の国王の話しとは… どんな話だ?」


「その前に、私の仮の名前は『アールミン』ですが・・・

 本当の名は『ファンべル・シング』と申します」


「あなたが『ヴァン・ヘルシング』さんなの?」


 ティセが2階から降りて来て話しかけた


「ティセ… まだ寝ていなかったのか?」


「お手洗いに行くところで、声が聞こえたの」


「ティセはこの者を知っているのか?」


「だいたいね・・・」


「!?」


「ティセ、この者は『ヴァン・ヘルシング』ではなく『ファンべル・シング』

 と言ったのだぞ?」


「私が想像するに… この兵士さんは、科学者かお医者さんか先生じゃないかな?」


「お主… どうなのだ?」


「見習いの医者でした・・・」


「(私の時のように、また当てたね)」


「ちょっと内容が・・・ 違うのよね~ まぁ大方、誰かの婚約者か奥さんか…

 眠り病だとか… ジャックとかルーシーとか… 多分少し名前が違うのよね?」


「そ・・・そうですね 恩師のチャックで、チャックの婚約者がリューシーです」


「(ブブッ… ジャックはチャックで、ルーシーはリューシーwww)」


「(また笑った)」


「つまり、『オルキニース』の国王は『バンパイア』って事ね!」


「・・・『バンパイア』って名前は知りませんが、人間の『血』を吸う魔物です」


「それを『バンパイア』って言うのよ!」


「そうですか・・・」


「『ミナ』って名前に似た人いますか?」


「『ミーナ』はいますが・・・」


「その人も周りの知り合いも、全員で王都に逃げてきて下さい なるべく早く」


「あ、はい・・・ 分かりました・・・」


「領主様、・・・私、今日中ならあと2回『複製』できるんだけど・・・

 さっきの半分と、その半分になるけど・・・ 何かあります?」


「急に言われてもなぁ… 先ほどの食料をやれば良かったな・・・」


「そうじゃ!ギルドの『送魔鏡』は、できんかのぅ?」


「おじいさん… 多分だけど【ジュリア】が作った物は、できないと思うよ」


 その時、伝達に行ったノートンが帰ってきた


「ノア様、完了致しました・・・ 何かございましたか?」


「おぉノートン、ご苦労であった! いやな、ティセが今日中なら『複製』が、

 あと2回できると言うのでな・・・ 何かあるかと考えていたのだ」


「・・・ それなら、村から持参した『素材』がありますが・・・」


「… そうだな・・・ それなら140万ほどいけるな・・・ それが良いな!」


 ノートンは両村から持参した『素材』を、テーブルに置く


「ティセ・・・ ティセの『マジックバッグ』も置いたら良いんじゃないのか?」


「あぁ・・・そうだった」


 ティセは『ストレージ』から、『マジックバッグ』を取り出し、テーブルに置く


「じゃあいきますよ・・・」


 ティセのスキル発動で、『テーブルごと』複製した


「じゃあノートンさん、『マジックバッグ』あげる」


「ティセ・・・ ありがとうな・・・」


「あぁ… 中身は返してね!」


「・・・ あ、あぁ… 分かった」


 ノートンは『マジックバッグ』を開き、中の物を全て取り出す


 ゴミ袋1P(20枚入)、ガソリン20リットル4つ ・・・・・・


「ティセ、これは水か???」


 ※『お湯』をゴミ袋に入れ、縛ってある


「入れた時の状態が変わるのかの実験をしてたの

 水になってしまったら、大失敗ね......」


 ノートンは、凄く嫌な顔をしている


「・・・ ティセ・・・ こんな物入れるなよ・・・」


 ノートンは、ネズミの死骸の尻尾をつまんで取り出す


「それも実験だったから・・・ 失敗だったみたいだけど・・・」


 ティセは、新しいゴミ袋を1枚取り出し、ノートンに渡す


「この袋に捨てて・・・ それでね、毎日ゴミが出るでしょ、生ごみとか

 それをね、この袋に捨てて欲しいの 全部のゴミを」


「ティセ、その袋に全てのゴミを捨てて何をするのだ?」


「う~ん・・・ 嫌がらせ!!」


「嫌がらせ?? 誰にだ?」


「『グラ・ディオルカ』よ」


「??? 意味が分からんが、まぁ好きにしなさい」


「ノートンさん、この袋ギリギリまで入れたらダメよ! さっきみたいに縛ってね

 私が全部回収するから、決めた場所に置いといて

 はいこれ、残りと新品ね ※20枚入4パックと、開封済残19枚を渡した」


「あぁ分かったよ 皆にも伝えておくよ・・・」


 ティセはノートンに、縛り方レクチャーを始めた


「ところでお主、先ほどティセが言ったように、早く帰って近しい者達を、

 連れてくるのだ! ティセが言うからには、急いだ方が良い」


「分かりました・・・ それでは一旦戻ります」


「その剣を持って行け!」


「ありがとうございます! 必ずお返しに参ります それでは」


 アールミンは再び帰って行った


「ティセ、子供はもう寝る時間だろ!」


「あれ??? 領主様! ティセはとても傷つきました・・・」


 ノア以外の全員が、同意する


「なんだ??? 皆どうしたのだ!?」


「ノア様、お嬢様に… 失礼です・・・」


「ケニー??? 何なのだ???」


「お主の子供達は、幾つなのじゃ?」


「私のですか・・・ 13と11と8ですが・・・」


「じゃあ子供じゃな…」


「ノア様、ではティセは、大丈夫でございます・・・」


「??? ノートン… 何がだ??」


「領主様!寝ろ寝ろ言いますけど、私は15歳ですよ!」


「!!! そ、そうであった…な・・・ ティセ… 申し訳ない・・・」


「まぁ、分かってくれれば良いですけどね・・・」


「領主はのぅ、お前さんを本当の子供のように思っとるんじゃ」


「じゃあ、許して・・・ あげる!」



 次回 第53話 王都編『子供』

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