第43話 守戦

 普段なら、もう寝る頃だろうか… 

 打ち鳴らす板木ばんぎの音で、それぞれの家から出てくる領民たち

 何事かと不安な気持ちを抑えつつ、兵士たちの案内で坑道の方へ行く

 皆、初めての割には慌てず騒がず、意外とすんなり避難を終えた

 全ての領民が、移動を終えるのに4時間掛かった


 ノアは櫓に上り、セルトーアとフォランダたちの作業を確認する


「フォランダ、そこが少ないな… あとそこだ… 良し…

 セルトーア、そこを重点的にだ! 堀は少なくて… よし・・・

 これで・・・村の周囲… 全体が終わったな

 あとは、ワイバーン隊の4袋を、あそこに置いといてくれ!


 ノートン!地上部隊の5人を呼んでくれ!」


「はっ!」


 地上部隊の5人がやってきた


「エッジ、クロノ、ライズ、デイル、先ほど言った通りだ、覚えてるな

 あと4時間を切ってる筈だ それぞれの待機する場所へ散ってくれ」


「はっ!」「はっ!」「はっ!」「はっ!」


「レイン、お前は東の森を北に進み、敵の最後尾が過ぎた後に、2手に分かれてくれ

 こちらの攻撃開始後に、ケニーが合流する

 合流後、その方に逃げる者は殺すか捕らえよ いいな!王都方面には逃がすな」


「はっ! 心得ました それでは向かいます」


「頼んだぞ!」



 静寂の時は過ぎ、空が白み始めた頃 ワイバーン隊『エマ』が現れる


「ノア様、賊軍の先頭を確認致しました じきに到着致します」


「そうか… ケニーら『ワイバーン隊』に、村の中央にて待機するよう伝えよ」


「はっ!」


「ノートン、皆に伝えよ」


「はっ!」


 ノアは兵舎に戻った



「サリヴァン様!、あそこに見えるのが『ノア男爵』が治める

【ハルヨシ村】でございます」


「そうか、夜通しの行軍で疲れたわ… 早々に切り取って、眠りたい」


「は、…はい 左様でございますなぁ…」


 敵軍の先頭が、【ハルヨシ村】北門手前に到着した


「後ろからくる者たちで、村を囲め! 配置についたら知らせろ

 他の者は丸太を切り出し、簡単な『破城槌』を作れ 1本で十分だ!」


「はっ!」


 後ろから来る兵士たちは、北門手前で左右に分かれ、

【ハルヨシ村】を取り囲んだ


「なんだ?? この白い粉は?」「白い土? いや粉か??」

「白いから雪かと思ったけど違うな… なんだこれ??」


 村を取り囲む兵士たちは、『白い地面』を不思議そうに見ている


「サリヴァン様、配置が整いました」


「よし、参ろうか」


 サリヴァンは馬に乗ったまま北門に近づき、櫓の衛兵に話しかける


「私は『ヴァルガウス』領領主『マイヤーズ伯爵』の家臣、

『サリヴァン』と申す 閣下にお会いしたい 開門願いたい」


「暫しお待ちくだされ」


 ノアが呼ばれ、櫓にて面会する


「私がノアだが、用件は何かな?」


「私は『マイヤーズ伯爵』の家臣、『サリヴァン』と申します

 先刻王都が、『グラ・ディオルカ』に攻められました

 閣下に援軍をお願いしたく参上しました」


「これは可笑しい話だな 王都から参陣要請の急使は来たが、

『オルキニース』が軍を進めてると聞いたが・・・

 援軍要請で… 2千も兵隊は要らない気がするが… どうなのだ?」


「これはこれは失礼した 全てお見通しであったか

 私としてはこんな小さい村と、戦闘などしたくないのでな

 どうだろうか開けてくれないか? 何事も穏便に済ませたいのでな」


「家中の意見は真っ二つだ、少し待ってもらいたいが、どうかな?」


「私は早く眠りたいのでな… 今、『破城槌』を作っている 

 とは言え、ただの丸太だがな これが出来上がるまで待とうか・・・」


 数十分が過ぎ、


「ノア殿、もう限界だ… 力尽くで頂こうか 丸太を前に出せ!」


 その時ノアは、櫓の板木ばんぎを何度も打ち鳴らした

 それに呼応したケニーのワイバーンが、上空に向け炎のブレスを一吐きする

 紅蓮の炎が火柱となり上空を燃やすと、控えてたワイバーン4頭が、

 旋回しながら上昇する


「サリヴァン様、村より魔物が飛び立ち、上空を回っています」


「何だと!? 魔物だと・・・」


 上空を旋回する輪が、徐々に広がり、4頭のワイバーンは急降下し、

 各城門前にいる兵士たちの頭上で、袋をぶちまける


「サリヴァン様、どうやら敵は『小麦粉』を撒いているようです」


「『小麦粉』など撒いて何とする!? 目くらましのつもりか?」


 地上の兵士たちは粉まみれになり、視界も悪くなっている


「ギース、エマ、ラナ、攻撃に移るぞ」


「よし来た!」「わかったわ!」「任せて!」


 ライルの合図で、四門に配置された『上官』らしき者を狙う

 上空からの炎のブレスで、敵軍は右往左往する

 兵士が一歩踏み出す毎に、地上の小麦粉が舞い上がり、視界を奪う

 そこに追い打ちの、炎のブレスとファイアの魔法

 地上は大混乱だ


「サリヴァン様、あの魔物を何とかしないと・・・」


「魔法と矢で応戦しろ! 早くあの魔物を落とすのだ!」


「ファイア!」バンッ 「ファイアボルト」バンッ

「狙いが… 定まらん」「当たる訳ねえよ」


「炎系の魔法は、発動直後になぜか爆発します 矢も狙いが定まりません」


「なんだ・・・この戦、、 こんなの戦じゃねぇだろうがーー!

 正々堂々とやりやがれ! こんなのは認めんーー! くそが・・・」


 地上の敵軍兵士は、上空からの炎攻撃、味方のファイア暴発で、

 なすすべなく逃げ惑う

 そんな兵士たち後方から、新たなワイバーンが現れ、追い打ちの炎責め

 更にその後方からは、鬼とアラクネーが、包囲を包囲で囲っていく

 逃げ場を失った兵士は、堀に身を屈め、ある者は武器を捨て、抗う事を止めた

 まだあきらめない者は、否応なく北へ逃げるしかなく進むが、

 そこには鬼やワイバーンがそっと待っている

 1対1で勝てる筈もなく、両膝を着く

 そして大勢は決した


 捕虜は1500人余り 鬼が監視し、全てがアラクネーの糸で縛られ逃げられない

 敵方の物資は乏しいが、武器・防具・馬等全て没収した

 兵舎に戻ったノアは、戦闘に関わった全ての人に感謝を伝えた

 ※ティセは兵舎で寝ている

 役付きたちに指示し、領民を戻したりと戦後処理を始めた


「フェレンレン様、ティセはなぜ『小麦粉』を撒けと言ったのですか?」


「あれはね『粉塵爆発』と言ってね、小麦粉に火をつけても燃えないんだが、

 あんな細かい物が、空気に舞った時に火を使うと、爆発するんだよ

 部屋みたいな密閉されてる所だと、もっと凄い爆発なんだけどね…

 あれはあれで十分だったね

 上からの攻撃に対して、下からの攻撃だと、氷系や石系の魔法は使えない

 なぜなら、撃った物が落ちてくるからさ

 となると、火系・水系・雷系・風系になるね 風系は余計小麦粉が舞うからダメ

 水系だとその水と粉で、足を取られるだろ? そうなると火系か雷系になる

 ワイバーンのブレスとファイアで、爆発の威力が少し上がる

 敵が火系・雷系を撃てば、暴発する 火花が出た瞬間に爆発だから

 弓矢なんてちまちま撃ったって、当たりぁあしないよ

 小麦粉勿体ないけどね、負けるよりましだろ?」


「ティセはそこまで考えていたのか… 」


「領主、あんたは、あの娘の掌でずーっと転がされているのよ」


「?・・・・・・」


 サリヴァンは縛られ、ノアの前に連れてこられた


「さて… マイヤーズは王国を裏切り、お主を寄越した… 間違いないか?」


「ああ負けちまった… 卑怯にもほどがあるってのはこの事だな!」


「何を言ってるのかは分からんが、王都を攻めているのは『オルキニース』か?」


「まぁ、そうだな そんなとこだ・・・」


「『マイヤーズ』はなぜ裏切った?」


「なぜ裏切ったかだと!? 王国は終わってただろうが!既に終わってんだよ!」


「・・・王様は生かしているのか?」


「さあな? 『オルキニース』のお偉方が何て言うか・・・多分死んでるだろうな」


「貴様… 一緒に来い!」


「ノア閣下… 『オルキニース』にゃあ、逆らわない方がいいぜ…」


「・・・一体何だと言うのだ?」


「ありゃあ… 本物のバケモノだ・・・」



 次回 第44話 王都編『感情』

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