第41話 開通

 6月の末から開始した、タカミ村の拡張工事

【ハルヨシ村】をモデルにして作られたものだ

 通常は防壁と呼べる物は無く、あっても柵や杭などで囲う程度だが、

 両村は木製の壁で囲われ、四方には門を構えている

 村としては珍しく、大仰だが『城塞都市』のシンプルモデルのような作りだ

 11月24日午後 外側の壁と四門、村の家屋を同時進行で建築してたが、

 着工してから約5ヶ月のこの日、外側の壁(城壁)と四門が完成した

 大工の棟梁『シーク』が、ノアの元へ報告に来た


「ご領主様、外壁(城壁)と門が完成しましたぜ」


「なんと、完成したか!」


 兵舎を出て、2人で北門へ向かう 門の両側にある櫓へ上り、内外を見下ろす


「しっかりとした出来であるな… お主が棟梁になってから、見違える早さだ!」


「ありがとうごぜぇやす 後からきた連中が、経験者ってぇ~のが助かりましたぜ」


「あとは家なんだが、その前に… 村の周囲に『堀』を掘ってくれないか?

 四門の入り口はそのままで、それ以外の壁の外側は、お主の身の丈ほど掘る

 いいか、向こう側から村を見た場合だ、その『堀』の手前側は『緩やかな下り』

 そして、村の外壁に対して垂直だ つまり壁に取りつけないようにして欲しい

 分からなければ【ハルヨシ村】を参考にしてくれて構わないが、どうだ?」


「いえ、その説明で十分でさぁ~ 3日で終わらせますんで、お待ちくだせぇ」


「うむ、頼んだぞ」


 完成した城壁と門を視察したノアは、兵舎へ戻った

 兵舎には、ティセ訪れていた


「おぉティセ、遊びに来てたのか?」


「あっ領主様、こんにちは! 今来たばっかりよ でね、これをどうぞ」


 このフロアにいる『役付き』は皆、何かを食べている


「ティセ、これは何なのだ?」


「これはね『アイス』と『シャーベット』って言う『お菓子』なの

 冷たいお菓子を確か『氷菓』って言うんだけど、まぁどうぞ」


「冷たい菓子か、では頂こうか」


 器に入ったアイスを一掬いし、口に運ぶ・・・

 乳の濃厚な味、甘味、未だ嘗て嗅いだ事のない甘い香りが鼻を抜ける

 年を通して暑いこの地域で、一口毎に涼しさが喉を通り過ぎる

 そしてこの甘さ… まるで、疲れた体が回復するようだ


「ティセ… これはとても美味いぞ… これが『あいす』と言う物か?」


「はい、そうです 結構前に『送魔鏡』でバニラビーンズを見つけて

 エッセンスって液体なら知ってるんだけど、ビーンズだとちょっと分からなくて

 このいい匂いが『バニラ』なの

 牛の乳もね、生クリーム… 脂肪分とか何か上手くやると、

 もっと美味しくなるんですけどね よく分からないから、ここが限界です」


「まだ美味しくなるのか?? それでも十分に美味しいぞ!

 それでこちらが『しゃーべっと』か… では頂く…」


「(『あいす』と違い果物… りんごの甘酸っぱさと甘味の汁、

 これを凍らせ半分溶けた見た目、喉を通る清涼感はこちらの方が格段に上

 いや、比べる物では無い 似て非なる物 別物なのだ)」


「こちらはまた違った味わいだ 一口毎に体温を冷やしてくれる

 また、果物の酸味と甘みが、口に心地よい 凄く気に入ったぞ!」


「ホントに? 良かったわ… 私ね、中途半端にしか覚えてないから…

 本当ならこれよりももっと美味しくできるんだろうけどね…」



「この2つ(氷菓)は、はっきり言って十分、いや十二分に美味しいぞ

 そもそも、冷たい菓子なんて無いのだから、とても美味いぞ!」


「ありがとうございます! そう言ってもらえたら嬉しいです」


「・・・ティセ… この『しゃーべっと』に使ったりんごは、

 スコットからくすねた物ではないのか?」


「!?あれ… バレてましたか・・・ まぁ、、、そんなところですかねぇ~」


「まぁ私は別に構わないが、スコットに作り方を教えてやってくれ」


「はい・・・仰せのままに…」


 こうして『アイス』と『シャーベット』を堪能したみんな

 これ以降食事やおやつで、食べる機会ができました

 ※こちらの季節感などは、皆様の世界とは違います 果物もその1つです


 11月28日 午前11時過ぎ【タカミ村】

 城壁廻りの堀が完成したので、確認を終えたノア

 兵舎に戻ると、役付きの(幹部)『アズディニ』が待っていた


「おぉアズディニ、何かあったか?」


「ノア様、先ほど坑道が開通いたしましたので、ご報告に参りました

 岩や破石を除く作業がまだ残っておりますので、もう少々掛かりますが…」


「そうか!!・・・ やっと開通したか、、 今日が28日… そうだな・・・

 1日は王都へ(換金に)向かうので、その時にそちらへ向かう

 最後の最後まで、気を抜かずに作業を終えて欲しいと伝えてくれ」


「はっ! それでは戻ります」


 アズディニは【ハルヨシ村】へ戻って行った


「スタン! 棟梁のシークとティセを呼んできてくれ!

 ノートン!『有翼のユニコーン』を2頭を用意してくれ お前のを借りるぞ」


「はっ! 只今!」


 大工の棟梁シークと、ティセが兵舎外に呼ばれた


「実はな、お主に見てもらいたい場所があるのだ 来てくれ」


「見てもらいたい場所ですかい? 行きましょうか」


「ティセ、乗り方を教えてやってくれ」


「はい シークさん、これをこうこうこう、そう!

 それをそうそうそう、はい、もう大丈夫ね!」


「では行こうか!」


 3人は【不越山山頂ふえつのやまさんちょう】へ向かった

 到着した3人は、山頂に降り立った

 ノアは、眼下に広がる希望の大地を指さし、今後の展望を語る


「棟梁、ここは先だってティセが見つけた、我々の安住の地だ

 ここに村… いや街を作ろうと思ってな、『坑道』を掘っていたのだが、

 とうとう今日、開通したと報告があってな・・・

 見てもらった通り三方を山で囲い、両側の山が原野を包み込むような自然の形

 まるで天然の城塞にどうだ… 王都の6倍以上あるだろうか・・・

 ここに王都以上の街を作ってくれないか?」


「こんな場所見せられたら、断れませんぜ… ご領主様

 ただ、村の方(家屋の建築)は、どうしますかい?

 さすがに両方は厳しいですぜ」


「村の方は、あの感じで大丈夫よ! あの村は、作業専用の場所にするから・・・

 だから、こっちの方にお家をたくさん作って欲しいのね

 だからその前に、今ある冷蔵冷凍庫の巨大なのを・・・ ちょっと待ってね」


「領主様、冷蔵冷凍庫の巨大なのを作ってもらおうと思ったんだけど、

 あの兵舎をちょっと改造して、丸ごと『冷凍庫』にしちゃいましょうか?」


「まぁティセ、落ち着け! あれ以上のペースで保存しても、食べ切れないぞ

 新鮮なうちに、売る事を考えた方が良いんじゃないか?」


「そっか… じゃあ、それはまた今度考えます」


「【タカミ村】は本来、有事の際に【ハルヨシ村】の領民たちを避難させる、

 もう一つの場所にするつもりだったのだ

 だがここに、安住の地を見つけたのでな、方針を転換する事となったのだ

 ティセが言ったように【タカミ村】は、狩った魔物の処理施設にする

 そして【ハルヨシ村】の領民たちをこちらに移し、空いた村は職人たちの村にする

【ハルヨシ村】も【タカミ村】も、畑を持つ者がおる

 移りたくない者は、そのまま住ませる事になるがな そこは自由にさせる」


「分かりやした、まずどうしますか?」


「そうだな… 1日から、作業する人足たちの、寝泊りする建物を作ってくれ

 それは後々に、何かに転用できるような作りにして欲しい 

 ただ作って壊すのは、勿体ないのでな

 一々村に戻ってはこれないだろう それができるまでは野営になってしまうが…

 食事は村から運ばせる」


「承知しましたぜ では1日の朝ここへ来て、まずは宿泊所を作りますぜ」


「あぁ、よろしく頼む!

 今日から3日間、作業に従事してた人足たちは、休養させてやってくれ」


「休みはありがてぇ お言葉に甘えて、皆休ませてもらいますぜ」


 こうして、新しい村作りの計画がもうすぐ始まる



 次回 第42話 『急使』

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