第29話 遺言

翌日、ノアがティセの元へ訪ねて来た


「ティセ~!いるかー!」


「はい? 領主様!何ですか?」


「何ですかって… ティセが募集した職人たちが、兵舎で待っているぞ」


「あぁ~ 昨日あれから行くの忘れてた・・・」


「おいおい、忘れてたって… まぁそれは置いといて

 職人と一緒に【ジュリア】の使者が来ただろ?

 その使者に聞いたのだがその前に、

 ギルドの窓口の一番左に何があるか知ってるか?」


「ギルドの窓口の一番左… えぇと… 確か立入禁止になってて、

 壁に… 黒いのが貼ってあったような・・・感じ?」


「そうだ!その黒いのが『送転幕』と言うそうだ

『送転幕』を使ってギルドと【ジュリア】で物のやり取りをするのだが、

『送魔鏡』と『送転幕』を2台ずつ持ってるとするだろ・・・

 例えば【タカミ村】と【ハルヨシ村】だ

『送転幕』を使って、お互いの村を行ったり来たりできるそうだ

 ただ3台以上の場合は、そうだな…

 王都を加えて、王都から【タカミ村】と【ハルヨシ村】なら、

 どちらか一方だけを登録しないと行けないらしい」


「・・・ そんな便利な物が、意外と身近にあったのね…

 私がいた世界の読み物に、行き来できる魔法が必ず出てくるの

 だからスキルや魔道具としてあるのかと思って昨日聞いたんだけどね

 それは絶対に手に入れないといけないわ!

 移動でかかる時間が全く無くなるって、最高だわ!」


「ただな、その『送転幕』も金が掛かるそうだ…

 ギルドの『送転幕』が中で『荷馬車2台』ほどの大きさなら移動できるそうだ

 大だとその4倍の大きさまで可能らしい

 中で1,000万ヨー、大で3,500万ヨーだと言う事だ… 兎に角金が掛かる」


「それじゃあ、1つ買うのも大変よね… 地道に貯めるしかないか~」


「確かにそうだが、そんな物があったと知れた事が重要なんだ

 これでティセも、選択肢が増えてしまって大変だが、好きなようにしてくれ

 情けない話だが、我々の頭では既に理解を超えているのだから」


「領主様が、好き勝手な事をやってる私を怒らないでいてくれるから…

 大好きなみんなが、普通以上に幸せになれれば良いなって… ただそれだけなの」


「あぁ、だから協力する…

 さあ、職人の皆が来たのだ 会って来るがよい」


「はい! 行ってきます!」


 ティセは職人たちに会いに行った



 一方その頃【泡沫国最北部 ベネディアード侯爵領 ビザルラス城】

 ベネディアード侯爵とその部下


「ええい・・・くそがぁーっ!! 王都からの援軍はどうしたーーー!

 ウェルソンは何をしておるぅう!!」


「申しーー上げまぁーーす!!

 ウェルソン閣下が反旗を翻しー、敵方の包囲に加わっておりますーー!」


「ウェルソンがぁぁ裏切っただとぁーーー!!

 許さんっ!絶対にぃーーー 許さんぞぉーーー!!」


「閣下にーー申しーー上げまぁーーす!!

 ウェルソン閣下よりーーー、書状てがみがぁ届いておりますぅーーー!」


 ベネディアード侯爵は、届いた書状てがみを読む


「我が領地【アイルザット】は、既に『グラ・ディオルカ』の手の者に落とされ、

 此度の戦闘に参戦しております

 我が『義兄上あにうえ』も早々に門を開き、

『グラ・ディオルカ』の末席に名を連ねる事を、切に願う・・・・・・・・・」


「おのれーーーー!! ウェルソンーー! 絶対にぃ許さん・・・

『グラ・ディオルカ』に降る事などぉぉ、決して決してーーありえんわーー!

 か…斯くなる上は… この命ぃーーー!尽きるぅまでぇえーーー

 一人でも多くぅぅ冥府に送ってえぇぇ  やるわーーーー!!!

 先王・・・ベネディアード最後のご奉公ぅぅぅっとくとご覧あれぇぇぇ!」


 城門が破壊され、なだれ込んでき敵兵に突撃する『ベネディアード軍』

 降伏する者は一人もおらず、全て散った・・・

 こうして、ベネディアード侯爵領 ビザルラス城は

『グラ・ディオルカ』の軍勢に落とされた


 それから2日後 王都

 ウェルソン伯爵領【アイルザット】の南に隣接する

【レビド】領主:ラディアーガ子爵 より4度目の早馬が到着する


「申し上げます、ラディアーガ子爵より 使者が面会を求めております」


「よし、通せ」


「はっ!」


「どう致した?」


「我が主、ラディアーガ子爵より申し付かりまして、お目通り願いました

『グラ・ディオルカ』の軍勢により包囲され

 ベネディアード侯爵は討死 【ビザルラス城】は敵の手に落ちました

 また、【アイルザット】のウェルソン伯爵は敵の軍門に降ったとの事です

 迅速な援軍の派遣と、善後策を是非とも 王様には重ねてお願い申し上げます」


「・・・分かった、協議してみよう 下がってよいぞ…」


「・・・・・・はっ…」


 王様への手ごたえが無いと感じた早馬の使者は、馬を南へ走らせる

 使者は【ハルヨシ村】を経由し【タカミ村】へ到着した


「ノア様! ノア様! ラディアーガ閣下より早馬が参りました!」


「何! 早馬だと!・・・ 良し通せ!」


 早馬の使者は、ノアと面会した


「閣下、初めまして 私はラディアーガ子爵配下:ゼルと申します

 2日前の事ですが、ベネディアード閣下の【ビザルラス城】が

『グラ・ディオルカ』の軍勢により包囲され、閣下は討死

【ビザルラス城】は敵の手に落ちました

【アイルザット】のウェルソン閣下は敵の軍門に降ったとの事です

 我が主は王都へ4度早馬を遣わしました 私で4度目です

 しかし王様は何故か援軍を渋っておられ…」


「何だと…!閣下が討死!? 

 ウェルソン閣下は義弟おとうとではないか!

 何故援軍で出なかったのだ!」


「【ビザルラス城】が包囲されてからも、ベネディアード閣下は応戦し、

 しばらく粘ってたようです

 しかしその間に【アイルザット】が包囲され、ウェルソン閣下が先に降ったと

 そして閣下も【ビザルラス城】の包囲戦に加わって、攻め落とした次第です

 王都への早馬も無視された形です」


「なんて事だ・・・ 王様も何故援軍を出さなかったのだ・・・」


「そしてこれは、最悪な場合に際しての、我が主から閣下への遺言です


『王都が落とされた場合、お主の居は位置的に一番最後だ

 王都へ『グラ・ディオルカ』の進軍が始まったら、包囲される前に逃げてくれ

 その準備は、直ちにしておいてくれ

 敵も、敵方2つ落としてすぐに【レビド】に向かってくる事は無いだろうが、

 それでもいつまで持つかは正直分からない

 だから備えておいて欲しい

 民を置いて逃げる訳にはいかないので、私は城を枕にするつもりだ』


 と、我が主は申しておりました」


「いや!それは…それだけはいかん! ダメだ

(どうする… どうすれば助けられる??? )」


「それでは私は戻ります」


「少し… もう少しだけ待ってくれ・・・誰か! 誰かいるか?」


「はっ!」


「スタン、何人かでティセを探して連れて来てくれ 直ちにだ!」


「はっ!」


 10分少々でティセが到着した

 今までのゼルとの会話を端的に話した


「ゼルさん、【レビド】の兵士さんは何人いますか?」



 次回 第30話『貸借』

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