第12話 顛末

 拡張工事着工から半月後の早朝

 王国宰相テリーが約500の人夫を引き連れ、王都からやって来た

 領主ノアは、半月前に王から届いた『あの手紙』をテリーに見せる

『手紙』を持つ手は震えながらも、努めて冷静を装うテリーだった


「閣下もご存じではなかったのですか?」


「うむ… 知らんかったのぅ…」


「ティセは… とても… 見ていられませんでした」


「じゃろうなぁ… 儂も言ったんだがなぁ やりすぎるなとな」


「・・・・・・」


「特にケインとギルドの職員はのぉ 巻き込んだって気持ちが強かろう」


「近年の王様は… 本当にどうなされたのでしょうか?」


「気になるのは、あの裁判があったじゃろ? あの時の『護姻環』の件じゃ」


「はい… それが?」


「あの場で、魔物の名前を言わんかったじゃろ?」


「はい… 『護姻環』としか・・・」


「あの娘は王様を思って『敢えて』言わんかったが、魔物は『サキュバス』じゃ!」


「!?『サキュバス』ですと!」


「そうじゃ! ザースマもそうじゃが、悪どい貴族に良いようにされとるな・・・」


「国内の領地が、次々と落とされているこの状況でですか!」


「そうじゃのぅ・・・ だからこそこちらも備えておかんといかんじゃろ」


「はい・・・」


「でな、少し戻るがその『護姻環』じゃが、

 裁判のあと、ザースマを捕えた時の奴の言い分じゃがの、

 購入後に一度は帰路についたが失くした事に気づいて、

 ギルドに戻って職員を脅し【タカミ村】を聞き出したんじゃ 

 本来の計画した動きはこうじゃたんじゃ、

 まず、ザースマが『高いサキュバス』を買う

 他の誰かがそれを換金し『安いサキュバス』を買い、ザースマに渡す

 ザースマは『安いサキュバス』を王様に渡す…といった感じじゃ」


「ザースマが『高いサキュバス』を買ったと云う事実を残す為ですね… 

 しかし、その日の内に売ってしまえば良かったのではございませんか?」


「それがな、やつらは『競売』の終了間際に来たんじゃ

 固定売なら出品できたが、当日中に現金化できる『競売』に出す為に、

 後日にしたようじゃ 固定売で出品しとけば、バレんかったのになぁ」


「それでティセに『掏られた』とした訳ですね」


「そうじゃ しかし実際はあの娘が拾い、ケインに渡したんじゃ 

 そしてケインが詰所に持って行ったんじゃ

 受け取ったゲッカはその『護姻環』をくすねた

 その『護姻環』が何の魔物か分からんので、

 翌日『送魔鏡』で鑑定に出したんじゃが、

 まさか『送魔鏡の操作履歴』が全て出るとは、知らんかったようじゃ」


「何かと杜撰でございますね  子供でも、もっと上手くやれそうな・・・」


「どちらも、その場での思い付きじゃろうがのぅ」


「魔物としては大した事の無い『サキュバス』が、それ程大事でございますか?」


「低いLVならそうじゃろう、じゃが今回のは『夜伽用』でLV27が115万ヨーじゃ」


「!!!・・・・・・」


「しかしのぅ… 此度は捕えてから処刑が早すぎるじゃろ?」


「確かに・・・ 口封じでございましょうか?」


「王様もあの場で散々やられたからのぅ 

 引き渡しに対する、単なる嫌がらせかも知れんが… 断言はできんのぅ」


「最も解せないのは『ケインの反逆罪』です・・・」


「それこそ『正義漢』が邪魔な連中が、王宮内にいるやも知れんのぅ」


「王国を背負う『騎士』になれたかと思うと、残念でなりません…」


「そうじゃのぅ… 本当に勿体ない」


「・・・・・・」


「して、あの娘の『例の件』はどうじゃ?」


「はい、シスターや村人、衛兵にそれとなく聞いて回りました

 皆に共通するのは『知らない言葉』や『分からない例え』を『度度』使うそうです また、言いかけてる途中で『言い直す』事も多々あるようです」


「それは、儂と一緒にいる時もあったんじゃ

 馬車の中を見て『まるでキャンピングカーみたい』と言ったんじゃ

『すらいむ』とか、分からん言葉も使っとった」


「シスターの話しですが、初めて出会った時に、ティセは『道に迷ってた』そうで、『どこから来たのか』の問いに「アサクサ」と答えたそうです

 当時着ていた服は、村でも王都でも見た事がない形で素材との事

 履物も複数の色で彩られ、大きさの割に『非常に軽量』だとの事

 所持していた物は『綺麗な何かが書かれた紙製の板』『ガラスの板』

『腕輪型で数字が変化する物』『鋼の輪に通された銀色の物が複数』

『皮製の物入れ』『硬貨状の物』『同じ図柄と違う図柄の数字が書かれた紙』

『非常に薄い紙状の物』『不明な素材の板状の物を多数』だそうです」


「うんうん・・・」


「また、シスターと衛兵によると【ハルヨシ村】や【トーラ】に住む『同年代』から

 場合によっては『大人』よりも『知能は遥かに高い』との事です」


「もう… 間違いないじゃろ! 外乃者と呼ばれる『転移者』じゃ」


「私も所持品を拝見しましたが、どれも見た事がない、不思議な物でした」

 これで我々は救われるのでしょうか?」


「救われるかどうかは正直分からんが『色んな意味』で、助かるじゃろう」


「そう言えば、先だってティセには王国と領内の現状について話しましたが、

 それには『今から備える必要がある』と、説明しました

 ティセは『金は掛かるが、強くなるのは簡単だ』と言ってました」


「そうか… 金が掛かるか・・・ まぁ色んな意味でそうじゃろうな…

 では、本人に直接聞いてみるかのぅ」


 泡沫国宰相:テリーは、ティセと直接会話する為に、ノアに呼び出してもらった

 その際に『何でも構わない』ので1点、

 当時所持していた物を『持って来て欲しい』と付け加えるのであった


 

 次回 第13話『道理』

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