第 9話 請求

 長い長い2人の弁明は終わった、しかしティセの狙いは追撃である


「王様、私と衛兵ガードマンさんの話を聞いて、今の感想は?」


「・・・・・・」


「お答えにならないのですか? お答えできないのですか?」


「この度は済まなかった ・・・」


「王様、王国の歴史は知らないけど、これは『前代未聞』の出来事です」


「先ず、一つ一つ片付けていきましょう」


「ザースマ様をいかが致しますか?」


「死刑にする」


「ゲッカをいかが致しましょう?」


「死刑だ」


「王様、この国には『死刑』しか無いのですか?」


「ではどうすればよいのだ?」


「死ぬまで働かせて下さい!」


「お主の好きなようにするがいい」


「了解いたしました! まだ終わりません」


「裁判が始まって、私はほぼ死ぬ可能性しかありませんでした」


「全部上げていきますから」


「先ほども言いましたが、王様は『指輪』と答えた事」


「ケインさんが犯人じゃ無かった事」


「ゲッカが『送魔鏡』を使ってた事」


「ゲッカが逃げてなかった事」


「これらが逆だった場合、私は死刑だった」


「不運が重なったけど、幸運も多かった」


「私の今回のケースは助かりましたけど、そんなのはたまたまなんですよ」


「実際、やってもいないのに容疑者にされ、最終的に犯人にされ、死刑になった事も今まで沢山あったんじゃありませんか?冤罪ですよ冤罪」


「人を殺したくらい重大な罪なら死刑も良いでしょう」


「罪にあった罰を与えるのが普通なんですよ」


「さらに事態を悪化させた原因は、ギルドのお姉さん」


「何故かと言うと、私の住んでいる村をバラしたせい」


「世界を代表する一国のギルドが、個人的な情報を漏洩させるなんて」


「仮に『国家の機密』が漏洩するのと同じくらい(※より大袈裟に)重大な事」


「これは考えられない問題です」


「しかし、擁護する部分もあります」 


「権力の立場を笠に着て、目下の者に対し傍若無人な振る舞い

 これはたまったもんじゃないです」


「貴族なんて肩書の人に、ブーブー言われれば、一職員に抗う術などございません」


「さらにさらに、落とし物の管理もできなくて、誰もがくすねられる環境」


「国民が落とした物は、どうでもいいと思わせる教育自体が間違ってるどころか、教育をしていないんじゃないかと思わせたり臭わせたり」


「王様、これをいい機会として、生まれ変わって古い体質を見直し、モラルある生活を約束できる国家となり、皆が住みたいと熱望する国作りをやってこそ、王様ではないですか!」


「以上の事を鑑みて、部下の失態は上司の責任 最終的な責任者は王様である事は明らかであります」


「よって私は王様に対し、損害賠償を請求致します」


「詳しい請求の内容は、後日送付致します」


「以上で終わります」


 ティセは言いたい事を言うだけ言って、王様の『次の言葉』も待たずに、ケインを促し共に広間を出て行く

 会議していた部屋に戻り、一息つく


「ふぅ~、何とかなったみたい」


「しかし…やりすぎたのではありませんか?」


「何を言ってるんですか? 死ぬ可能性だってあったんだから」


「ですが・・・仮にも一国の王様ですから…」


「ダメな事はダメ、いけない事はいけないって教えてあげないといけないの!」


「・・・・」


「これから帰って、賠償の内容も決めないといけないし、忙しくなるなぁ」


「…仕事やりづらくなりそうだな…」


「ケインさんは、何かやりたい事ないの?」


「… わたくしは、国民のお役に立ちたいと王国の兵士となりました・・・ 」


「うん」


「・・・しかし… もうちょっと頑張ってみます!」


「私はティセ これからもよろしくね!」


「はい!ティセ様、よろしくお願い致します」


 すると宰相おじいさんが部屋に入ってくる


「お前さん、あれはち~とやりすぎじゃぞ!」


「おじいさんまで… 私がやりすぎだって言うの?」


「うむ、王様が謝ったじゃろ… あそこで止めとくべきじゃった!」


「だって・・・」


「お前さんが言った事は、全部正しい事じゃったがのぅ」


「でしょう?」


「でもなぁ、良き所で止めて『逃げ道』をあえて与えるのが得策なんじゃよ」


「・・・・・・」


「しかし2人共疲れたじゃろ、ケインお主は今日明日2日休んでええぞ」


「しかし… 宰相閣下、宜しいのですか?」


「あぁ、儂が話を通しておくんでなぁ」


「はっ!ありがとうございます!」


「お前さんは、馬車を用意するからちょっと待っとれ」


「おじいさん、ありがとう!」


 こうして『冤罪裁判』は終わって、ティセは家路につく

【タカミ村】に着いたのは午後6時を過ぎた頃だった

 連行から32時間以上、とてもとても長い一日だった


 ティセは家に着くと園長シスターをひたすら探す

 園長シスターは、ティセの無事をただただ祈っていた

 お互いを視認した二人は、自然と涙が溢れ言葉もなく、ただきつく抱き合った


 それから2時間後、ノアとノートンが【タカミ村】に到着

 2人は『太陽園』へ赴く

 ティセは泣き疲れて眠ってしまったと、園長から聞かされたノアらは


「仕方ないな… あの状況から『死なずに』戻ってこれたのだから…」


「しかしは、ギルドの職員だったのですね」


「そうだな… それと『落とし物』を盗んだのが衛兵だったとは…」


「・・・・・・」


「窃盗事件と関係無い要素が、より難解にさせたんだ」


「ノア様、我々もくたびれました…」


「…そうだな ノートン、約束通り2日休んでいいぞ」


「『構いません』って言いましたけど、有難く頂戴いたします!」


「おう!」


 

 次回 第10話『手紙』

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