第 2話 初めての依頼
異世界から自分の部屋に戻ったちせは、時計を見て驚いた
「!? え、何で? 全然時間が経ってないじゃん???
1時間以上経ってるはずだけど…」
テレビを観るが、壁掛けの時計と合っている
しかし、スマホの時計と今の時間は狂っていた
「時間が止まってたんだ…!? まぁいいや… そういう仕様なら大助かりじゃん
腕時計の時間がまた止まってる…!? 向こうも今は時間が止まってるんだ…
なるほどねぇ~ 次はどうするか 向こうでやるのは冒険者か商人か…
とにかく向こうのルールとか常識を知らないとな」
ちせは早々に宿題を終わらせ、異世界での生活をあれこれと考えるのであった
2日後・・・ 土曜日 学校から帰宅
ちせは鉄の短剣を持ち、準備を整えた
「さぁ2回目の異世界 行こうか!」
ちせはコソコソと村に侵入した…
「こんにちは~」「こんにちは~」
すれ違う人たちに挨拶をする 入ってしまえば、村人気分♪
「君、待ちたまえ!」
野太い声は、間違いなく自分に向けられている… ちせは振り返る
「私でござんすか?(ありんすとござんす間違えた…)」
「君は初めて見るな… この村の住人じゃないだろ?」
「左様でござんすが、長老さんと顔見知りでして…」
「・・・ 長老の名前は?」
「確か… エドガーさんでござんす」
「君の名前は?」
「人の名前を尋ねる前に、先に自分の名前を名乗るのが… 筋でござんすねぇ」
「これは失礼した… 私は衛兵のアレハンドロ
ここに駐屯する兵士は、村の住人の顔と名前は全員記憶しているんだ
見知らぬ君に声を掛けた次第で…
なんせこの村に、冒険者や旅の者が来る事は無いからね…」
「そうでござんしたか… わっちは"ちせ"と言いますぅ~(※お芝居をしている)
何か最近… 冒険者でもやろうかなぁ~つって思ったりして
そんで… ズッ友の長老さんにご相談しにきたんでやんす」
「冒険者って… 見たところ… 11~12歳くらいだろ?」
「ムキー! 14歳でござんす!」
「14歳…? はははは!本当に?
ギルドには登録できるけど、15歳にならないとスキルの習得はできないよ
当然知ってるだろ?※」
※異世界の常識として、古くからそう教わり伝わっている
本来は年齢に関係なく、条件さえ満たせばスキルの習得はできる
「… そ、そりゃあ知ってますってば… そ、そんなの… 常識ざんしょ!
15になるまでの… ねぇ… 予行演習みたいな… アハハ!」
「へぇ~冒険者の予行演習… じゃあ困ってる事があるんで、
ちょっと頼まれてくれないか? 冒険者の見習いさん」
「困ってる… 何ざんしょ?」
「この辺りの地域は、1年中気候は良いんだが虫が凄いんだ…
夜警なんかで外にいると、かがり火に虫が寄ってくるんだよ
虫を殺すためにやる
そもそもただの虫なら問題ない… う~ん… とは言え煩わしいけども…
"蚊"とか"G×××"みたいなの、嫌いなんだよね 向かってくるし
この先をまっすぐ行くと畑に出る その柵を越えてちょっと行くと森がある
畑まで行けば、すぐに分かるよ
その森の中に、独特な白い木が混じってあるんだ
その木の枝や白い葉っぱをかがり火で燃やせば、虫よけの効果があるんだ
ただし嫌な臭いだから、毎日使えないんだ… 気持ち悪くなっちゃうんだよ…
でも、無いよりマシって程度なんだけどさ
ストックももうすぐ無くなるんだ 頼めるかい?」
「虫よけねぇ… 嫌な臭いってどんな臭いざんしょ?」
「どんな臭いかって? 酔った翌日の○〇みたいな臭いだよ」
「マジっすか… それ直ぐに止めた方が良いよ… ざんす
それなら… それよか… レモングラスって分かりますざんしょ?」
「れもんぐらす? ちょっと分からないけど…」
「それなら… 柑橘系の果物… レモンやミカンとかオレンジとか…
何かあるざんしょ? 黄色くて酸っぱいのとか…
オレンジ色の甘くて、皮をこうむいて食べるヤツ」
「あぁ~! 酸っぱいのはレモネン(レモン)だ!
オランジとタンジェン(オレンジとみかん)ね、分かった」
「それの仲間とか… 給食みたいな… 兵士さんの食事で出たりしませんの?」
「オランジとタンジェンは、しょっちゅう出るよ
だけどレモネンは酸っぱいだけでしょ… 誰も食わないよ はははは!
そんなの森にたくさん自生してるよ 誰も食わないんだから」
「そしたら… そのオランジとタンジェンが食事で出た時に、
食べ終わって残った皮を全部取っといて欲しいんでござんすが
中の薄皮は要らないから… 外側の皮ざんすよ」
「外側の皮・・・ はぁ、それを取っといてどうすんの?」
「村長さんじゃなく… 長老さんの家に置いといて
あ~できれば、これはどの皮か分かるように分けて置いといて欲しいのでやんす
長老さんには、”この皮を天日で干して乾燥して”って伝えて
それと… このくらいの小袋と麻紐が欲しいな 結構多めに」
「革袋は無理だよ そんなに用意できないよ…」
「いや… 通気性のいい不織布… 違う 麻袋とかないんでござんすかね?」
「麻の袋… このぐらいの大きさかい?」
衛兵のアレハンドロは、自前の革袋(財布)を懐から出して見せた
「そうそう、このぐらいの大きさので」
「この小ささで麻の小袋は無いよ… 元々麻袋は、穀物とか野菜とか入れるんだ
小さいのを使う場合は、このような革袋になってしまうから…」
「なら・・・ 麻袋1つ欲しいでがんす… いや、ござんすかね?」
「あぁ… それなら ちょっと待ってて」
そう言うとアレハンドロは走ってどこかに行ってしまった・・・
数分後、戻ってきたアレハンドロは、空の麻袋を2つ持って来た
「これで良いかい? 結構大きいだろう
麻紐は、10糎(センチメートル)の長さで50本1組だ」
「(デカッ!!)・・・ ま、まぁ良いでしょう 何とかしませう
では… 今後の食事で出たそれらの皮は、全部取っておく
長老の家に持って行く 干すように指示する よろしい?」
「分かった そのようにしよう あの臭いから解放されるなら…」
「では… もう一つ… レモネンとやらは、どちらにござんすかね?」
「そんなのこの界隈の森に入れば、直ぐにでも見つかるよ
黄色いから、遠目でもすぐに分かるよ」
「あざーす! それでは… 出来上がったら、どこに行けば…」
「そこを真っ直ぐ行って、左に行けば兵舎がある
この村の中では一番大きい建物なので、一目で分かるだろう
私の名前を言ってくれたら、分かるように伝えておくよ」
「そうでござんすか では私からも長老に伝えておきますゆえ…
これで失礼つかまつる それではまた」
「お願いする では」
ちせは急いで、長老の家に向かった
「こんにちは~ 長老さん!」
「おぉ~ ティセか よお~く来たな まぁ上がんなさい」
「長老さんごめんね 急いでるんだ… 衛兵さんからち~と頼まれてね
そんでね、 ごにょごにょ その皮を天日でカラカラに干して欲しいの
兵士さんの食事に出た時の翌日だと思うんだよね
だから、いつ持って来るかは分かんないけどさぁ…」
「ふ~ん じゃあ、その皮をカラカラに乾かせば良いっちゅう事じゃな
長老の私に任せなさい 知らんけど」
「ありがとう 雨には絶対に気を付けてね」
「雨か… 分かった」
「そんで、レモネンを採りに行きたいから、
カゴとかあったら貸して欲しいの」
「レモネンじゃと? そんなもんどーすんのじゃ まぁ良いがのぅ
カゴか… それなら小・中・大・特大とあるがのぉ どれをご所望じゃ?」
「小じゃせいぜい十個くらいか… (大と特大はムリムリ)
そんじゃ中を借りて良い?」
「遠慮せんで、いつでも貸すぞ てか、やるから持って行きなさい 鎌もな
何倍にもなって、返ってくるんじゃろ? 知らんけど」
「う~ん… そうなれば良いけどね じゃあ借りるね ぴゅ~」
長老の家を出たちせは、太陽園に向かった
「こんにちは~ ピコはいますか~」
「あらあら、ティセさんこんにちは
ピコ~! ティセさんがいらっしゃったわよ」
「ぴゅ~ ティセ! 今までどこにいたのよ? どうせ森で寝てたんでしょ」
「まぁね… そんな事よりお嬢さん、僕とパトロールしない?」
「えっ、パトロール!? 行く行く!」
「じゃあ行こうか」
「うん、園長先生 ティセとパトロールに行ってくるね」
「はいはい、気を付けて行ってらっしゃい」
ちせとピコは、太陽園を出た
「そんで~ パトロールなんだけどさぁ…
実はレモネンとか欲しいんだよね 森にあるらしいじゃん
オランジとタンジェンもあれば採りたいんだけどさ」
「ゲゲェ~ レモネン… そんなの採ってどうすんのよ?
オランジは多分無いよ タンジェンはたまに見つかるけど…
だけどね… 園長先生から"森に入ってはいけない"って言われてるから…」
「じゃあ、森に入る手前だったら良いでしょ?
ピコは入んなくて良いよ 兵士さんに頼まれたんだよ
レモネンって、いっぱい生えてるんでしょ?」
「う~ん… ! この前行った井戸の… あっちに…」
「左?」
「そう… 左に行くと兵士さんのお家があって、その裏にあったよ確か…」
「じゃあ行ってみようか」
ピコが先導して、兵舎裏へと向かった
「ほら、あった!」
そこにはレモネンが14個実を付けた木が生えていた
「おぉ~、これよこれ では… 全部頂きますか」
ちせは14個のレモネンを採り、カゴに入れた
「ねぇピコ、このレモネンだけどさ、森にはいっぱいあるんでしょ?」
「うん、いっぱいあるよ 動物も虫も食べないんだから…
そんなの何に使うのよ…」
「そりゃあ、食べるでしょうが!」
「えぇ~… よくそんなの食べれるね… 信じらんない」
「他にどこにあるか知らないの?」
「あとは… え~と… あっちの倉庫の横にあったような・・・」
「じゃあ今度はそこに行ってみよう」
ちせとピコは、倉庫へ向かった
「え~と… ほら、あった!」
そこには、先ほどの実より幾分小振りな実を付けた木が生えていた
「これはさっきのよりほんの少し、黄色味が薄くて気持ち緑が残ってる…
試しに1個だけにしておこう 大きさと色で見分けもつくし」
ちせは1個だけレモネンの実をもいだ
「ねぇピコ、普段はどんなもの食べてるの?」
「色々だよ 毎日兵士さんが作ってくれるの お肉とかスープとか
"ご領主様に感謝して頂きます"って言ってから食べるの」
「兵士さんが毎日作ってくれるの? へぇ~ 良いねぇ
どうなの… 美味しいの?」
「うん、凄く美味しいよ ピコが一番好きなのは、
バナ~ネ(バナナ)とナップル(パイナップル)だよ」
「その語感で分かるけど、それって料理じゃなくてフルーツだろ・・・
しっかし暑いよねぇ~ 猛暑って感じでもないけどさ 梅雨は?」
「"つゆ"ってなぁに?」
「つゆってのは… 毎日雨が降る季節よ 毎日なんだから」
「雨は降るけど、そんなの無いよ ピコが生まれてからず~っとこんな感じだから」
「生まれてからずっとって… 梅雨がないの!?
ある意味良いんだけど、あるものが無いのもなんだかねぇ」
「ピコ分かんない…」
「まぁ… じゃあ、太陽園に戻ろうか」
「うん」
ちせとピコは、太陽園に戻った
「園長先生、お台所借りて良いですか?」
「えぇ、炊事場はあちらよ」
ちせは採ってきたレモネンを1個切って食べてみた
「すっっぺぇ~… でもこれよ 正真正銘本物のレモン
タン塩レモン汁で喰いてぇ~」
「ねぇティセ、レモネンなんかで何すんのよ?」
「え? これって良い匂いでしょ ピコってば臭いじゃない」
「えぇ!? 臭いの…!? ピコは臭くない! プンスカ!」
「嘘だよ ゲラゲラ ここって虫が多いんでしょ
このレモネンで、虫よけを作るの」
「虫よけ? それで虫が来ないの?」
「それができるちゅ~の ん~なんか器 ピコ、器ちょうだい」
「はい… これで良い?」
「うん、それで良いよ」
ちせはレモネン数個を皮と果肉に分け、果肉を器にいれた
「ピコに重要な仕事を任せたいと… 思う
皮を剥いたこのレモネンから種を取ってほしいの やっといて」
ちせは包丁に水を掛け、元の場所にしまった
「えぇ~… ピコやだ」
「あ~あ… せっかく美味しいのできるのに… 残念だ
他の人は飲めるけど、ピコだけ飲めないんだね 仕方ない・・・」
「ちが… やってあげても良いかなぁ~って 思ってきたなぁ なんか…」
「じゃあよろしく すぐ戻って来るから」
「分かったよ…」
ちせは急いで "秘密の部屋"に向かった
「しかしあの包丁は切れ味悪かったな… 確か果物ナイフ置いてあったな…
他に色んな包丁もあったし、あれでもプレゼントするか」
部屋に到着したちせは、キッチンに置いてある備品を漁った
「え~と… ジップ式の袋と霧吹き… キッチンペーパーと…
キッチン用の手袋… シンク用排水溝のネット キッチン鋏と果物ナイフ
コップはあるか… じょうご(漏斗)とペットボトルの水とはちみつ
今日はこれで… 明日は… まぁ、それは後で良いか」
ちせは道具を揃え、再び太陽園に向かった
「どう? 終わった?」
「ピコの1日の仕事は終わりました・・・」
「種を取っただけで、大した事やってないじゃんよ・・・」
「ねぇ~ 美味しいのは~?」
「ちょい待ちんしゃい! こちとら忙しいんじゃ!」
ちせはキッチン用の黒い手袋を装備し、果肉をジップ式の袋に入れた
「じゃあピコ、この袋に入ったレモネンを揉んで潰して
あんまり力入れすぎると、破れちゃうからね… そんな力無いか ゲラゲラ!」
「キー! 力入れなくたって、破れちゃうかもね… 少し手加減しないと…」
「じゃあやっといてね」
「・・・」
ちせは剥いた皮を、キッチン鋏で細く切る
「(いやー… クリエイターチューブ(動画配信サイト)観てるけど…
ほとんど覚えてないんだよなぁ~… 全部の知識がうろ覚え…)
家(現在の拠点)に帰ってから、色んなバージョンを作ってみよう…」
「ピコ、できた?」
「ぜいぜい… こんなの… 簡単だって~の・・・」
「ごくろーさん」
ちせは持参したペットボトルの水を、凡そ半分霧吹きに注いだ
もう1本空のペットボトルに残った量の半分を注ぐ
そしてじょうご(漏斗)口に排水溝ネットを被せ、
果肉の入ったジッパー式袋の下部角を切ってそれぞれに果汁を注ぐ
今回は、"果肉を入れないレモン水"の完成だ
「片方のペットボトルの方には、蜂蜜を入れてよく振る シャカシャカシャカ
ほれ、飲んでみそ」
「これじゃあ大きくて、飲めないよ! 何かに入れてよ プンスカ!」
「めんどいやっちゃのぅ… スプーンは?」
「そこにあるよ」
ちせはスプーンに少し注いだ
「ゴクゴク! プ~ゥ、まぁ… まあまあね…」
「え~… 蜂蜜レモンがお気に召さないのかよ…
じゃあ、園長先生に飲んでもらおうか」
ちせは持参した道具を全て纏めて、シスターの元へボトルを持って行った
「園長先生、ちょっとコレ飲んでみて」
「なぁにこれは?」
「水にレモネンの汁を入れた "レモネン水" と蜂蜜を入れた"蜂蜜レモネン"です」
「水にあのレモネンを… じゃあ、頂いてみようかしら…」
シスター・テクラは、レモネン水と蜂蜜レモネンを飲んだ
「あら! さっぱりして美味しいわね レモネンの汁を入れただけなの?」
「はい、初めて作ったんで量は適当ですけど もっと濃いのも薄いのもできますよ
どんな感じですか?」
「えぇ、私には丁度良い感じだわ」
「ビタミン豊富だから お肌とかにも(多分)良いと思うの」
「びたみん? 美味しくってお肌に良いなんて… 凄いわねこれ…」
「また飲みたいと思います?」
「えぇ、こんなに美味しいなら毎日飲みたいわ」
「なるほど… 参考になりました」
「こっちは甘さも加わって、疲れがとれそうね とても美味しいわ
「ねぇティセ… 美味しいのは!」
「赤ちゃんのピコには早かったかもね」
「キー! ピコは赤ちゃんじゃない! プンスカピー!」
「明日、ピコが好きそうなの作って来るから 待っててよ」
「それが美味しくなかったら… ティセをピコの子分にしないからね!」
「(そんなん、こちらから願い下げじゃ! ワザとマズいもん作ったろーか!)
じゃあ・・・ もしも美味しかったら、私の子分になる?」
「それは・・・ 試してみないとねぇ・・・」
「分かった 試してから判断して下さいな」
「良いわよ…」
「そうだ、園長先生 これ、ナイフなんだけど 良かったら使って」
「あら凄い… 顔が見れる程にピカピカ… そんなナイフは見た事がないわ…
そんな高そうな物頂けないわ」
「全然高くないっす 貰った(勝手に)物だから はいどうぞ
これはスプレーと言って、中にはさっきのレモネン水が入ってるの
ここのレバーを指で引けば、中のレモネン水が出るの やってみて」
「ここをこうするのね… プシュ~ まぁ出たわ!? 良い香りね」
「レモネン水は虫よけになるから、窓とか出入口に吹きかければ寄せ付けないよ」
「まぁ… 本当に? それは助かるわ」
「無くなったらまた作りますね 作り方も今度教えるんで
じゃあ、明日また来ますね じゃあね~」
「ティセ! また明日ね~」
ティセは太陽園を出て、村の中でまだ見ていない方へ歩いて行った
「こうしてよく見てみると、桶みたいなのとかに水が溜まってるな…
確か"蚊"って、水がある所で生まれるって観たな…
金魚とかブラックバスがいたら、全部食べちゃんだろうけど…
まぁ、こうやって溜まってる水を全部無くさないと、ダメだろうな…」
ジョバー… ちせは、ボウフラが生息している溜まっている水を流した
「毎日暑い気温だけど、溜まった水が蒸発する前に次の雨が降るのか、
結構な量が溜まり過ぎてんのかだな、きっと・・・
森も近いし、虫も多そうだ… あぁヤダね~」
近場をさっと見たちせは、改善点を幾つか考えた
水の溜まりを完全に無くす
虫が極力部屋に入らないようにする この2点だ
そんな事を考えながらも、誰にも見られないように部屋へと戻った
「そんで・・・ ピコタローに、あれをつくってやろう
作った事ないけど… こーゆー物は感性なんだよ」
翌日
「こんにちは~ ピコの助いますか~」
「ティセさん、いらっしゃい ピコ~ ティセさんが来たわよ」
「ぴゅ~ ティセ遅い! 美味しいのちょーだい!」
「うっさいねぇ~ その前に、園長先生とお話があります
ちーと待っててくださ~い」
「イライラ! ムキー!」
「園長先生、昨日のスプレーについて…
それを作った経緯なんだけど、衛兵のアレハンドロさんから頼まれて
臭い木が虫よけに効くって言うから、それならこっちの方が良いでしょ?」
「それはそうね あれの臭いは… ちょっとねぇ…」
「レモネンは、"蚊"とか"G×××"みたいなのに効くから…
殺せはしないよ… ただの虫よけだし
それでこの袋… この中に、乾燥させたレモネンの皮を入れるの
持って歩いたりタンスに入れたりすれば、それも虫よけになるから
いっぱい作ったからどうぞ」
「ティセさん凄いわね… どこでそんな知識を得たの?」
「まぁ… クリエイターチュ… 家です」
「お家で… まるで "錬金術師" みたいね」
「はい、よく観てました」
「観てた???」
「やいピコタロー これを食べてみて」
ちせは保冷バッグから、2つのリモネンを取り出した
「・・・ これじゃあ普通のリモネンじゃんか~!」
「ノンノン 違うって ほら、これで食べてみなよ」
ちせは、コーヒー用のマドラー(先端が小さいスプーン状になっている物)
それをカットして、ミニチュアスプーンを作ってきた
「それ、ピコ用のスプーン?」
「そうですがな」
「頂きます キンキンに冷えてやがる… 甘くて美味しい!!!」
「園長先生も食べてみて」
「それじゃあ失礼して…」
ちせは、使い捨てのプラスチックのスプーンを渡す
「まぁ・・・ 凍っているわ… シャリシャリして甘い中に清涼感…
こんなの初めて頂いたわ… 果肉も入っているのね」
「はい、果肉と砂糖とはちみつを煮まして… 冷ましてから凍らせて
あっ!聞くの忘れてた… ピコは赤ちゃんじゃないんでしょ?
はちみつは、赤ちゃんは絶対に食べちゃダメだから」
「ピコは、いつもはちみつ舐めてるよ だから赤ちゃんじゃない!」
「あぁそうか… 昨日も蜂蜜レモン飲んだもんね なら良かった…」
「ねぇティセ… 私のと園長先生の量が違うじゃないか… ムキー!」
「その(体の)大きさで、そんなに食えるんかいな…」
「次は、コレ」
ちせは、2つのペットボトルを取り出した
「まずはこっち」
ペットボトルを傾け、ピコ専用スプーンで1杯すくった
「飲んでみそ」
「うん… ゴクリ ぎゃ~ うましー!!」
「はい、園長先生」
「ゴクリ … まぁ… これも甘い中に酸味もあって、口の中がすっきりするわ」
「材料は、レモネンと砂糖にはちみつと水を入れて鍋で煮詰めてます
その煮詰めた汁をお水で薄めて作ってます」
「砂糖ですって…!? そんな高価な物で…
ちせさんは何でもできるのね」
「いやぁ~ 適当にやってます そんじゃあ、次はこっちで」
「ゴクリ ピャ~! お口の中で、シュワッと弾ける 初恋の味・・・♡」
「ゴクリ ・・・ ビックリ… 口と喉が破裂したみたい… 美味しいわ」
「こっちは企業秘密となっております…」
「ティセ… もっと飲みたい」
「う~ん… あんまり飲み過ぎるのもねぇ… 園長先生、どうしやす?」
「ご飯が食べられなくなっちゃうわよ…」
「あと、スプーン1杯だから… ご飯もちゃんと食べる」
「じゃあ1杯ね」
「やった~♪ ガブガブ」
「園長先生、これお水とシロップ あとで、他の子たちにも飲ませてあげて
赤ちゃんには、絶対に飲ませないでね 病気になっちゃうから
あんまりシロップを入れ過ぎちゃうと、甘くなりすぎるんで、
その辺は水の量で調整して下さい」
「ティセさん、ありがとうね」
「いいえ では、ちょっくら急ぎますんで ぴゅ~」
太陽園を後にしたちせは、長老の家に向かった
「ちわ~ 三河屋で~す 長老さんいらっしゃいますか?」
「ん~ おぉ、よく来た 今日は何かのぅ~?」
「レモネンの皮を、家のこの辺で干したいの 良い?」
「あぁ~ ええぞ 好きに使ってくれて構わんからなぁ~
そんで夜にしまって、朝になったらまた干すんじゃろ?」
「その通り! お願いして良い?」
「あぁ~ 私に任せんか その大任… 果たしてみせようぞ」
「そんじゃあおなしゃす」
「衛兵さんは、皮を持って来てないよね?」
「まだ来とらんぞ」
「そっか… 分かりました」
その時、長老の家に2人の男が訪ねてきた
「長老… 今回も全然駄目だった… もう、この土地は終わりじゃなかろうか?」
「前回のどのくらいじゃ?」
「気持ち少ないくらいだった・・・」
「そうか・・・」
「いくらノア様が徴税を免除して下さっても、売る分が無けりゃあよ…」
「もしもの時は、私からノア様に申し上げる 心配せんでええ…」
「早よう何とかしないと…」
「ノア様がこちらに来られた時に相談してみるんでな… 大丈夫じゃ
戻って作業を続けてくれ」
男たちは戻っていった
「あの~ どうしたの?」
「今日収穫だったんじゃが、全然採れんかったらしい・・・
前回もその前も… 毎回毎回収穫量が落ちてしまってな…
食う分は問題無いが… 売りに行く分が少なくってな…」
「何を育ててるの?」
「じゃがたらいも(じゃがいも)じゃ その前は小麦でな…」
「(適温は分からないけど…)もしかして、毎回同じ場所に植えてる?」
「そりゃあそうじゃろ 畑はその場所にあるんじゃから…」
「長老さん、それってもしかしたら ”連作障害※” かも知れないよ」
※連作 同じ場所で同じ科の作物を続けて栽培する事
※連作障害 同じ場所で同じ科の作物を長期間にわたって連作することで、
生育不良や収量減少等の障害が発生する現象
「私も詳しく知ってるワケじゃないから、分かる部分だけで話すけど・・・
・・・・・・と言うワケで、 同じ場所で作り続けると収穫量が減っちゃうの
だから、何年か畑を休ませるとか、違う種類を育てるかしないと…
違う場所に畑を作るってのも良いかもね 肥料もあげてないんじゃないの?」
「そんな事が… 君は物知りじゃのう… 何か解決策はあるのじゃろうか?」
「普通なら新しいのを植えたりして、畑を再生するんだろうけどね…
いっその事、畑止めちゃえば? 毎日管理だとか大変じゃん
買い物で済ませられるんなら、何か商売でもしたら良いんじゃないかな?」
「はぁ? 畑を止める!? 何とかなるんならええがのぅ…」
「色々と考えてあげるからさぁ」
「・・・分かったが、早うしてくれんと…」
「うん、じゃあまた明日来るから ぴゅ~」
長老宅を出たちせは、兵舎に向かった
「こにゃにゃちわ~ 衛兵さん 衛兵のアレハンドロ氏はいますか?」
「あいつは今日休みで、森に行ってるよ」
「森に… もしかして、虫よけの木を採りに?」
「虫よけ… あぁ
酒のアテを獲りに行ったんだよ」
「酒のアテ・・・ なるほどね・・・
そんじゃあ、ちょいと来て欲しいんだけど」
「何だい? おいロベルト! ちょっと外す」
「おぉ」
ちせと衛兵は、兵舎の裏へと回った
「ほら、こんな風に水が溜まってるでしょ 中をよく見て」
「中を… うん… なんか動いてる!? 気持ち悪い・・・」
「この生き物が"ぼうふら"って名前なんだけど、
こいつが大人になったら "蚊" になるの」
「へぇ~ これが蚊になるの……!?」
「村の中に、こんな風に水が溜まってるんだよね そこら中結構あるよ
それを放置してるから、蚊が大量に発生しちゃうの
だから、雨が降っても水が溜まらないようにしておかないと…
いつまでも蚊に悩まされるから 兵士さんたちが全部ちゃんとしてよ」
「それを言いに来たのかい?」
「そう、アレハンドロ氏に相談されてね
そんで、虫よけも今開発中だから もうちょい待っててくれれば」
「へぇ~… それはありがたい 水を無くす以外に、何かあるかい?」
「馬用のお水も少なくなったのを足すんじゃなくて、
毎日綺麗な水に取り替えてあげて それと… これを見て」
「この木は?」
「これはレモネンの木 実は昨日私が全部取っちゃったからすっからかんだけど、
レモネンの木も… レモネン自体が虫よけになるの
だから、森の中に生えてるレモネンの木を持って来て、家の周りに植えると良いよ
それを "移植" って言うの なるべく根っこは傷つけないように掘り返して、
また別の場所… 今回の場合は、各家の周り それで虫よけできるから」
「ふんふん… どのくらいの大きさが良いのだろうか?」
「この木くらいで良いと思うの もちろん、実はつけたままで」
「分かったよ 上官に言って、許可してもらうから」
「森の中にレモネンの実が沢山あるなら、それも大量に欲しいな
できれば… 移植するには大きすぎる木から採って、長老の家に置いといてよ」
「レモネンの実を大量に… それと溜まった水の処理、レモネンの木の植え替えだな
すぐにできるかは分からないけど、報告してみる」
「水の処理は、すぐにでもやった方が良いよ
蚊は、世界で一番人を殺す虫なんだから…」
「人を殺すって… 大げさだなぁ でも了解した 色々と教えてくれてありがとう」
「衛兵さんのお名前は?」
「私の名前はフェルナンド 君は?」
「私の名前はちせ」
「ティセか 覚えておく」
「じゃあね~」
フェルナンドに対処法を教えたちせは、部屋に戻った
「これで、レモンの木→虫よけ 皮→虫よけ 実→レモン水(スプレー)とシロップ
あとは何の商売をするかだなぁ~ 何にするか…
昨日作ったゆで卵でも食べながら考えるか…」
ちせがゴミ箱にゴミを捨てようとした時
「あれ・・・!? ゴミが無いじゃん 誰か来たのかな…?」
そして冷蔵庫を開け、ゆで卵を取る
「あった」
「塩、塩… これは! フフフ これで儲けられるんじぁね…? ニヤリ」
次回 第3話『バザ~ルでござ~る』
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