第35話_ラスボスと呼ばれる所以(久原貴斗1)

 涼介たちが指示された場所に到着するころ。


 天王墓園の一番高い場所に位置する駐車場。

 生徒会メンバーの久原の目の前に、金髪の大男が立っていた。その男は外国人のようにほりが深く、見ようによっては男前に見える。だが、今の久原にとってはバケモノにしか見えない。対峙しているだけでわかる。その男から圧力を感じる。これがアニマの影響なのか、戦いの経験値なのかはわからない。その男は、どこか楽しそうな笑みを浮かべながら、舌なめずりをした。


 久原の横並びに、火神直樹、藤田一郎が立っていた。

「北上だな」と火神は、対峙している金髪の男に向って言った。

 金髪の男、「ラスボス」という異名を持つ北上がそこにいた。

 北上は笑みを浮かべたまま「北上さん……な」と返す。

 火神は、一歩前に進み出た。

「確かにセンパイだな。だけど、オレたち3人は、今日センパイをぶっ飛ばすために呼んだんだぜ」

「ああ、そうだったな。3人と言わず、10人でも、20人でもいいぜ。そんなことより、一番大事なのは、お前らはオレを楽しませることができるのかということだ。おまらはどうだ?」

「楽しませる?冗談だろ。アンタは、今日、オレたちに泣かされるんだぜ」

「アンタじゃない。北上さん……な」

「はいはい」


 久原は自身のアニマが騒ぐのを感じる。

 火神がアニマを顕現させた。火神の右手に、巨大な金槌が形成されていく。その頭の部分は、お祭りなどに使われる太鼓程度のサイズがあり、完全に形成された瞬間、その頭の重みでアスファルトに落ち、大きな音と振動が伝わってきた。

 火神は柄を両手で持ち、それを肩に担いだ。

 斜め後ろに立つ藤田が「なあ、なんで火神って名字のくせに金槌なんだ?普通、火とかで燃える感じのヤツだろ、普通。何か、興ざめするわ」と笑う。


 火神は「うるせえ」と言いながら、火神はさらに一歩前に進む。

「さあ、やろうか。センパイ」

「いつでもいいぞ。来いよ」

北上の手巻きを合図に、火神が野球のバッティングのように、金槌を水平にスイングする体勢に入った。近くにいた久原は巻き込まれそうになり、慌てて身体を仰け反った。

 北上はかわそうとはせず、腕を折りたたみ、足を少し開き、肩で受け止めようとした。金槌が接触した瞬間、北上の身体がずれた。そのまま吹き飛ばされ、アスファルトの上を滑っていった。

 火神は金槌を振り切った体制のままで、身体を止め、北上の様子を見守った。北上は仰向けになって倒れたままであった。



 北上は動かなかった。


 火神は金槌を肩に担いで、藤田の横に戻ってきた。

「終わったんじゃない?」

 火神の言葉に藤田は笑顔を見せる。

「ああ。もしかしたら、私たちは強いのかもしれない」

「いやいやいや。お前、何もしてねぇじゃねぇか」

「固いことを言うな」

 火神と藤田は声をあげて笑う。



「もういいか?」

 北上は家のリビングでテレビを見るかのように、アスファルトの上で足を延ばして座っていた。受け止めた腕は赤くなっていた。それだけだった。

「ハハッ。さすがはラスボス。異名通りだな」

 火神の顔は笑っていなかった。

 北上が立ち上がり、パンツに着いた埃を軽く払う。

 北上が首を回し、肩を回す。体をこちらに向けた。

 「こんばんは、さようなら」

 久原のアニマが暴れ始めた。北上のアニマは姿を見せていないが、北上の一言に、強制的に叩き起こされたようだった。

 北上が片足を引き、前傾姿勢をとる。右肩を前に突き出し、ラグビーのタックルを思わせるような勢いで、こちらに向かって突進してくる。

 火神と藤田が息を合わせたように、一歩下がる。


 え?


 火神と藤田が一歩下がったおかげで、久原が一歩前にいる状況。北上は目立つ久原に照準を合わせて、突っ込んでくる。

 久原は慌ててアニマを顕現する。皮膚から銀色の光沢が浮き上がり、それが全身を覆う。それと同時進行で、久原は防御態勢になる。

 北上の右肩が目の前まで来ていた。

 久原はあえて踏ん張らず、その衝撃に備えつつ、身を任せた。



 吹き飛ばされた。


 完全に交通事故レベルだった。数メートル吹き飛ばされた。久原は気が付いたときには、駐車場の敷地を外れ、斜面を転がっていた。木にぶつかり、その勢いが突然止められた。


「痛ててて……」

 久原はゆっくり立ち上がりながら、アニマを解いた。全身を包んでいた銀色がはがれて、足元に落ちた。

久原は斜面の上の方を見上げた。何か激しい音がしている。

「まあ、いっか。行こう……」

 久原は服についた汚れを払った後、斜面を下っていった。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生


・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。

・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生。同級生

・池下美咲:高校1年生。同級生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬龍之介(千里眼):生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査

・古賀星太(ベルゼブブ):高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・斎藤真一:スカウトマン・テタルトス。崎山高校生徒会顧問

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス



■コロッセオ参加者

・田中一成:予備校生

・火神直樹:赤髪

・藤田一郎:黒髪パーマメガネ

・桜井敏弥:桜井千沙の弟。中学生



■国防省

・K:国防省、特殊武装部隊関係者



■特殊武装部隊(十二神将)

・日高司:特殊武装部隊隊長

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・花村美咲:特殊武装部隊隊員

・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄

・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身

・鈴木翔:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア

・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア



■不明

・水野七海:日本刀を持つ女

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