第34話_8月18日ラスボス討伐戦
8月18日日曜日、午後8時を過ぎていた。
陽は完全に落ち、周囲は闇に包まれていた。息を殺し、気配を殺し、歩道を使わず木々の間をぬって、山に登っていく。
涼介の額に汗が浮かび、頬を伝い、あごから滴る。だが、夏に感じる汗とは違う。どこか冷たくも感じた。
涼介が通っている崎山高校がある崎山町と操田町の境に位置する山。標高は低く、中腹から山頂にかけて墓園として活用されている場所で、天王墓園と名がついていた。
ラスボス討伐案を出した藤田一郎が、この場所を指定した。
ラスボスを呼び出す方法は、あえて「果たし状」という古風で、分かりやすい方法を選んだ。これは、生徒会長の木下のアイデアで、木下が過去のコロッセオを調べているなかで、前回のコロッセオのラスボスの情報も手に入れていた。
「ラスボスはただの戦闘狂よ。強い人と戦いたいだけみたいだから、小細工は無し。たぶん、笑いながら来ると思うよ」
木下の話によると、ラスボスを討伐するために、この天王墓園にかなりの人数が集まっている。大きく分けて3グループ。
まずは、木下率いる、崎山高校生徒会8名。
生徒会に顔を出していた赤髪の男、火神直樹率いるグループは10名。
ラスボス討伐案発起人の藤田一郎率いるグループは7名。
合計25名が集まっている。
だが、敷地に入る前に藤田グループの1人が現れ、「ラスボスもチームを作っている様子。ラスボスを入れて4名がこちらに来ています。ご注意ください」とだけ言い、去っていった。
木下が副会長の世良の方を見た。
「ラスボスグループも含めると29人もいるんだね。密度高いねぇ。でも、まあ、問題ないでしょう」
木下の言葉に、世良が小さく頷いた。
ラスボスに対して、一斉に飛びかかっても邪魔なだけである。木下、火神、藤田3名の事前の打ち合わせで、第一陣として、ラスボスと直接あたる人員を、火神、藤田、生徒会の武闘派の久原の3名に絞られた。
残りの者は各グループを3分割、合計9チームを作り、同じグループ同士が隣り合わないように、ラスボスを包囲するような配置とした。これで、火神、藤田、久原が劣勢に陥った際の加勢が可能、また、ラスボスの退路を断つことも可能という布陣を藤田は提案し、木下、火神は了承した。
天王墓園に入る直前、木下が笑顔を見せながら口を開く。
「なんで、藤田さんがグループを3分割にしてバラバラに配置したか分かる?」
生徒会メンバーの上田琴音が「グループ同士仲良くなるため?」と首を傾げる。
木下が「そんな理由だったらいいのにね」とほほ笑む。だが、その間に世良が割り込み、首を横に振る。
「抜け駆けなしと釘を指しているんだよ」
「さすが、世良君。今回のラスボス討伐作戦には、コロッセオ参加者が多く集まっている。結果、参加者の半数以上集まったわけだよね。だったら、よからぬ考えをする人がいるかもしれない」
「よからぬ考え?」と上田が言葉を返す。
「うん。そう、よからぬ考え。この作戦でラスボスを倒す。当然、ラスボスのアニマも倒れる。目の前にラスボスのアニマがあるわけよね。そのアニマは誰が食べる?」
上田が目を見開きながら、「そっか。ラスボスのアニマを食べたら、その人が今度は最強になっちゃう」と言った。
「そういうこと。事前打ち合わせでは、ラスボスのアニマは、最前線で戦う火神さん、藤田さん、久原君を多めにして、残りは等分に分けるっていう約束にしているの」
「じゃあ、例えば、その火神さん、藤田さんのどちらかがラスボスを倒したあと、すぐに全部食べちゃったら……」
上田の言葉に、木下は首を横に振った。
「おそらく、藤田さんはその気はないと思う。たぶん、藤田さんと仲の良い火神さんとも話はついていると思う。でも、今回参加しているのは、グループといえども、コロッセオというつながりだけの仲間。優勝者はひとり。例えば、ラスボスを倒した直後、琴音が駆けよって、ひとり占めしたら……」
上田が目を輝かせる。
「私が……さ・い・きょー」と両手を上げた。
木下が笑みを浮かべながら、「そういうこと。だから、お互い抜け駆けしないよう監視しあおうということ。今回は、強すぎるラスボスを倒すのが優先。だけど、藤田さんも含め、不正はなしだよっていう意思表示なのよ」
「なるほど。でも、私もワンチャンいけそうよね。最強目指しちゃおうかな」と上田は笑った。
天王墓園を登り始めたあと、すぐにみんなと別れた。
今は、美馬と2人で木をかわしながら、事前に指示された通り墓園の東側へと移動し、その場で息を潜めて、静かにその時を待った。
どのグループの人間かはわからないが、涼介のアニマが反応しているので、近くに同じように潜んでいるのだろう。子供の時に遊んでいたかくれんぼと違う。潜んでいることの緊張感が、この天王墓園を包んでいるのではないかと思えるほど、空気が重く感じていた。
予定の時間が来た。
涼介は美馬を見た。すでに美馬の目元から後頭部にかけて、黄色いマスクのようなものに覆われていた。美馬のアニマ「千里眼」が顕現されていた。
「始まったぜ」
涼介は、「久原さんは?」と声量を努めて抑えながら聞いた。
「久原ね……」と言いながら、美馬は鼻で笑う。
「いきなり、ぶっ飛ばされて……リングアウトだ」
<登場人物>
■崎山高校
・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生
・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。
・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。
・桜井千沙:高校1年生。同級生
・笹倉亜美:高校1年生。同級生
・小森玲奈:高校1年生。同級生
・池下美咲:高校1年生。同級生
・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。
・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長
・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。
・上田琴音:高校3年生。生徒会総務
・美馬龍之介(千里眼):生徒会2年生。生徒会会計
・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査
・古賀星太(ベルゼブブ):高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生
■株式会社神楽カンパニー
・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長
・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス
・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。
・斎藤真一:スカウトマン・テタルトス。崎山高校生徒会顧問
・石田:スカウトマン・ヘクトス
・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス
■コロッセオ参加者
・田中一成:予備校生
・火神直樹:赤髪
・藤田一郎:黒髪パーマメガネ
・桜井敏弥:桜井千沙の弟。中学生
■国防省
・K:国防省、特殊武装部隊関係者
■特殊武装部隊(十二神将)
・日高司:特殊武装部隊隊長
・名前不明:特殊武装部隊隊員
・花村美咲:特殊武装部隊隊員
・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄
・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員
・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身
・鈴木翔:特殊武装部隊隊員
・名前不明:特殊武装部隊隊員
・名前不明:特殊武装部隊隊員
・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア
・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア
・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア
■不明
・水野七海:日本刀を持つ女
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