第23話_ヤる側の人間

 涼介は肚の奥底に眠らせているアニマが目を覚ましたのを感じていた。


 近くにいる……コロッセオの参加者が。

 めんどくさいことに関わりたくない。

 神尾神社の社で、堂々と絡まれている大学生っぽい人もおられるようなのっで……これを口実に逃げよう。


 「桜井さん、戻ろうか?」

 隣にいた同級生の桜井は、こちらを見ることなく頷いた。

 涼介は来た道の方へ振り返る。桜井が振り返ったのを確認したところで、桜井に前を歩かせようとした。

 「きゃあ」と後ろから悲鳴が上がった。その悲鳴とほぼ同じタイミングで、涼介の足に重たいものが強い勢いでぶつかった。足元には、鼻血を垂らした金髪の男が倒れていた。そのまま動かない。

 突然、腕を掴まれた。桜井がとっさに涼介の腕をつかんだ。


 桜井さんの手の感触……


 一瞬喜んだ。だが、本当に一瞬だけだった。

 すぐに我に返ることになった。アニマの動きが激しくなる。全身に血液が駆け巡る。体が熱くなる。完全にアニマが目を覚ましている。アニマがうなり声をあげている。

 涼介はゆっくりと振り返る。

 さっきまで絡まれていた大学生の背中から、4本の触手が伸びていた。触手の先は浮遊し、ゆっくりと漂っている。

 浮遊する触手の先は、大学生の目の前で腰を抜かして座り込んでいる同じく大学生くらいの男2人と女1人を狙っているように見える。さっきまで、絡んでいたはずなのに形勢が逆転していた。



 触手を背にしている大学生が笑う。

 「ああ……お前ら、またオレから金取ろうとしているよな?金を出さなければ殴るつもりだったよな?何様だよ、お前ら」

 腰を抜かしている男の1人が「そ……そんなことない。ないない。絶対ない。な、だから、許してくれ」と首を横に振った。

 「あっそ。でも、オレも高校のときに言ったよね。許してって……何度も、何度も。覚えてない?」

 一瞬だった。触手の1本がその男に伸び、吹き飛んだ。そのまま、動かなくなった。

 触手を持つ大学生は笑顔を崩さないまま、視線が女に向けた。

 「ひぃ」と短い悲鳴をあげる。

 「アイツの彼女だよね。さっきも……高校の時も、いつも笑ってたよな。あ、そうそう、お腹がへってるんだっけ?」

 4本の触手のうち、1本が女の方に向いた。

 女は悲鳴をあげながら、後ろに下がろうとする。だが、その手足をバタバタするだけで、思うように下がれていない。その女の腹部に触手が伸び、その場でうずくまり失神した。

 最後の1人。その男は「うわぁ」と叫び、這うように逃げようとした。

 触手を持つ大学生は「うるさい」と触手を上空に伸ばし、そのまま振り下ろす。大人が子供にげんこつをするように、男はその触手を上から叩きつけられた。威力はげんこつどころでない。たたきつけられた男の身体は、少しバウンドし、打つむせのまま動かなくなった。



 周囲から悲鳴があがった。

 その場が混乱した。多くの人が一斉に逃げ始めた。だが、逃げるようとする人ばかりではなかった。周囲の半分はその場にとどまり、スマホを向けていた。

 動画や写真を撮っていた。



 「あぁー、撮ってるの?ねぇ。オレいじめられていたの見てた?見てたよね。なのにここだけ撮ってるの?助けもしないで。あ、そっか。撮って、オレをさらし者にでもするのかなぁ。この映像、インパクトあるしねぇ。これを動画で撮ってアップして……再生回数が伸びるとうれしいよね。もしかすると収益化も期待できたりして……」

 触手を持つ大学生は笑いながら、四方に触手を伸ばし、スマホを構えている人を狙い始めた。

 「お前らも、同罪ね……」

 触手を止めない。4本の触手が別の生き物のように動き、周りの人たちを無差別に攻撃し始めた。




 ヤバすぎるだろ。アイツ……


 涼介は身の危険を感じていた。完全にヤる側の人間だ。

 生徒会長の木下は危惧していた。このコロッセオの参加者全員が好んで参加しているわけではない。アニマを手に入れて自暴自棄になったり、破壊を楽しむ人間が出てきたりしてもおかしくない。そのためにも、生徒会のような統制が必要であり、自衛をするという安心を手に入れないと暴走する人が出てくるかもしれないと言っていた。

 まさに、それが目の前で起こっていた。

 絶対に会いたくないタイプのコロッセオ参加者だ。

 ただ、肚の中のアニマは尻尾を振っているのが分かる。

 「桜井さん……逃げるよ」と手を取り、軽く引っ張るようにして、この場を離れようとした。


 「いるね……いるよねぇ……」

 触手を持つ大学生、今度は叫びだした。

 涼介は気付かれないように、そっと大学生の方に視線を向ける。その触手を持つ大学生とばっちり目が合った。こっちを見ていた。

 「ああ……そこのカップルだね。どっち?もしかして2人ともかな」

 触手の先が涼介と桜井の方へ向けられた。

 ゆらゆらと揺れた後、その1本が伸びてきた。

考える暇なんてなかった。

 涼介はとっさに桜井を抱えるようにして、背中を向けた。

 涼介の左腕から砂がこぼれ、その砂は涼介の全身を覆った。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生


・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。

・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬龍之介:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査

・古賀星太(ベルゼブブ):高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス



■コロッセオ参加者

・田中一成:予備校生



■特殊武装部隊(十二神将)

・日高司:特殊武装部隊隊長

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・花村美咲:特殊武装部隊隊員

・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄

・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身

・鈴木翔:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア

・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア


■不明

・水野七海:日本刀を持つ女

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