第21話_合流
同級生の高山明の暑苦しい話が終わるころ、狙ったように同じく同級生の長谷川蒼梧が顔を見せた。
蒼梧は誰から見ても美形のお手本のような男だ。そのうえ、高身長。今回の夏祭りの発起人は明だが、裏の立役者は蒼梧だ。
明が「オレがきっかけを作る。だから……」という言葉に、蒼梧が「わかっているよ。オレがフォローすればいいんだろう?」と頷いた。
どうやって目的の女子と2人っきりになるかという打ち合わせに入っていた。
「ほんとにいいのか?そんな役回りで」と明が申し訳なさそうな顔をしている。が、蒼梧が顔を横に振る。
「いいよ、いいよ。今日は友達優先だから」
明は相互の手を掴み、「ありがとう、友よ」と目頭をおさえて、涙をこらえるふりをした。
涼介と星太は2人の会話についていけなく、静観していた。明と蒼梧が話を進めていく。
「それで、どういう組み合わせ?」
蒼梧の言葉に明が頷く。
「オレは笹倉さんを。涼介は桜井さんを」
涼介は、明の口から躊躇もなく涼介が好意を寄せる桜井千沙の名前が出てきたので慌てた。明から誘われた時に「でかした」みたいなことは言ったような気がするが、直面すると尻込みしてしまう。
「えっと……ちょっと、今日は、みんなで楽しま……」と言いかたが、涼介の言葉を遮るように、蒼梧が「了解。伊藤君はそういう趣味なんだね」と言葉を言い切った。
蒼梧は、星太の方に視線を向け「古賀君は?」と聞いた。
星太は「僕は特に……今日は、涼介と明のフォロー係だと思っているよ」と笑った。
涼介は星太の方に顔を向けた。星太はニヤニヤしている。絶対、俺をおもちゃにして楽しんでいる。
蒼梧は星太の言葉を受けて「オッケー。じゃあ、オレと同じだね。じゃあ、古賀君は小森さん。オレは池下さんにしようか。いい?」
星太も「いいよ」と笑顔で返した。
待ち合わせの時間に近づくにつれ、だんだんと気温が上がってきた。時々吹く強めの風が心地いい。
待ち合わせ場所は会場となる神尾公園の入り口。大通りから祭りの会場へと続く通り。アスファルトから石畳へと変わる辺りとしていた。この石畳をさらに進めば、芝生が生える広大な広場が見えてくる。
神尾公園は大きな池に浮かぶように芝生の広場がある。正確は敷地を囲むように掘りがあり、川から水が入り込み流れができている。その水が、神尾公園の敷地に潤いをもたらすだけでなく、近隣の田畑に水を送り込めるように治水されている。
石畳は、その広場へ続く橋のようにも見える。さらに奥の一角に林があり、そのさらに奥には神尾神社の小さな社がある。芝生の広場と林を含めて、ぐるりと囲むように遊歩道があり、普段は散歩を楽しむ人が多い。
夏祭りの会場は、その大きく開けた芝生の広場を囲むように多くの屋台が並ぶ。遊びに来た人は併設されたテーブルとイスを陣取っていた。
この辺りでは二番目に大きなお祭りである。
待ち合わせ時間まで30分ある。日陰を探そうとしたが、大通りに面した入り口には、そんな都合のいいものは存在していなかったので諦めた。
どんどんと奥へと歩いてく人。幼い子供をつれた家族や、幸せそうなカップル。祭りになると出てくる派手な格好のヤンキーの男女が騒ぎながら奥へと吸い込まれていく。
ざわざわとした雰囲気と、奥から匂ってくる色々な食べ物の混ざった香り。立ち込める熱気が、夏祭りらしさをより演出する。
待ち合わせ10分前に「おい、来たぞ」と明が、遠くの方に向いて手を振った。
桜井千沙、笹倉亜美、小森玲奈、池下美咲の4人の姿があった。いつもは決められた学校の制服姿しか見たことがないが、今日は私服である。初めて見る私服姿の桜井がさらに女性らしく見え、涼介の鼓動がはやくなる。
女子4人もこちらに気づき、笹倉が手を振り替えした。
「待った?」
笹倉の言葉に明が「全然待ってない」とテンション高めで返事した。いつもの声より1オクターブ高い。
2時間待ってましたよ……
と涼介は思ったが、幸せそうな顔をしている明を見て、まあ、いっかなぁという気になった。
8人はゆっくりと公園の方へと歩いていった。明は笹倉の隣に並び積極的に話をしていた。
ここに来る前のファミレス会議では、明はお気に入りの人と2人になるきっかけについても思案していた。
「やはりベタなやり口だが、何かをみんなの分をまとめて買ってくるみたいな流れが自然だと思わないか?」
「じゃあ、たこ焼きでも買いに行けば?」と涼介は適当に話を合わせた。
「そうだな。でも、みんなの分を買いに行くみたいなきっかけを作らないといけないよな。どうやってその流れを作ろうか……」
明の言葉に蒼梧が笑顔を見せる。
「そんなの簡単だよ。まず、ベンチでも、芝生でも、どこでもいいから、ゆっくり会話できる場所を確保する。その次は?」
「食べ物と飲み物」
「だろ?これがグループで遊ぶときの基本的な流れだよ。それを高山君と笹倉さんとで買いに行けばいい」
「なるほど、じゃあ、オレは笹倉さんを誘ってたこ焼きでも買ってくるか」
明が目を輝かせる。
「じゃあ、飲み物は涼介と桜井さんの2人で行けばいいんじゃあない?」と星太が口をはさむ。
突然の星太の攻撃に、涼介は息を詰まらせた。だが、そんなことに構うことなく明が「星太。それはいいアイデアだ。じゃあ、俺が仕切るから、飲み物係頼んだぜ」と言っていた。
先頭を歩く明が、きょろきょろしながら笹倉と会話をしている。多分、席を探しているのだろう。だが、これだけのお客さんだから、そうそう空いているはずがないと涼介は思っていた。が、今日の明は強運だった。ちょうど8人が座れるスペースが空いていた。
席を見つけた瞬間、明は脱兎の如くその席を確保。満面の笑みでこちらに向かって手を振った。
席に着くなり、明が「せっかくだから、何か買ってこようか?」と男前な顔で言った。台本通り。
明がちらりと涼介に目配せをする。
分かったよ……
「だったら、さっきからたこ焼きのいい匂いがしているから、たこ焼き買ってきてよ」と涼介は棒読みで言った。
横で星太が肩を震わせているのがわかる。
「わかった、そうするよ。じゃあ笹倉さんつきあって」
笹倉が涼介の方を見た。涼介は亜美と目が合ったような気がした。
すぐに「うん、分かった。買いにいこっか」と笹倉が立ち上がった。
追い打ちをかけるように蒼梧が台本通りに「じゃあ、伊藤君。飲み物頼める?」
「お……おう」と涼介が返事をする。緊張が走る。
「じゃあ、涼介には、桜井さん付き合ってあげてくれない。涼介じゃあ心配だから」と星太が笑う。余計な言葉が追加されていたが、これも台本通り。
「うん、わかった」と桜井も立ち上がった。
意外にすんなりと明の望んだ展開になった。
「じゃあ、星太と小森さんはかき氷よろしく。蒼梧と池下さんは場所確保しといてね」と明が仕切った。
全て、台本通りだ。
明と笹倉の2人は、席を離れていった。
涼介もずっと座っているわけにもいかないので「じゃあ、俺たちも行こうか」と声をかけた。
桜井が「うん」と笑みを浮かべてくれた。かわいいという感情と共に強烈な緊張が体の中を駆けめくる。
その時、目の前に一筋の軌跡を感じた。目の前を何かが通過する。涼介の肚の中のアニマが反応した。星太が使役しているハエが目の前を通過して、涼介の肩に乗った。
星太がコロッセオ参加と共に手に入れた力。ハエを使役することで、広範囲の空間を把握することができる。使役できるハエは無数で、大量のハエを同時に使役することで、大きな力を生み出すこともできる。
生徒会長の木下は星太のアニマを「ベルゼブブ」と呼んでいた。本当は別の名前をつけようとしていたようだが、副会長の世良が間に入って名前をつけてくれたようだ。聖書や神話の世界で「ハエの王」と呼ばれる魔王だとか。まあ、星太に魔王という言葉は似合わない気がするが。
星太は周囲を警戒するために、また、常に自分とのネットワークを結ぶために、涼介の肩にハエを置いたである。まあ、もしかすると、話を盗み聞きするために置いたのかもしれない。
ただ、星太の前にも小森さんがいるのだから、星太自身盗み聞きできるほど、余裕はないとは思うが。
何を話せばいいのかわからない。涼介は焦っていた。中学時代は男友達と馬鹿な遊びをしているのが楽しくて、それが優先だった。気になる女の子はいたが、彼女どころか、女子と2人きりで歩くなんてことはしたことがなかった。
「の、飲み物の店、どこかあったっけ?」
苦しまぎれ。でも、精いっぱいの一言である。
桜井は「えっと……確か、社の向こう側に飲み物を置いている店が見えていたよ」と平然とした顔で返事をした。
こういうのに慣れているのだろうか?それとも、俺に興味がないのかなぁ?
涼介はそんなことを考えつつも「そっか。じゃあ、そのお店に行ってみよう。社を抜けた方が近いかな?」と頭を掻いた。
「そうかも。そっちに行ってみる?」と笑みを浮かべた。
吹いた風に乗って、桜井の香りを運んできた。
涼介は気の利いたような会話のネタが思いつくわけもなく、口数少なめ。学校のことや、好きな食べ物の話など、そんなたわいのない会話をした。
社がある林の中に入る。何気なしに周りを見渡すと、カップルの姿が目立つ。涼介は来てはいけないところに来たのではないかという感情が生まれる。
その様子に察したのかどうかはわからないが、「カップルばっかりだねぇ」と桜井が言った。
僕は思わず鼓動が高鳴った。「そうだね」としか返事ができなかった。それ以上の言葉が出なかった。
林の中の遊歩道をさらに進む。目の前が少し開けてきた。神尾神社。そこを通り抜けようと社がある敷地に入る。
複数の人影が見える。気弱そうな大学生くらいの男を、同じ年頃の複数人の派手な男3人と女1人に囲まれている。大声で威圧的にまくしたてている。誰が見ても気弱そうな大学生がからまれているような状況に見えた。
他に誰もいないわけではない。だが、誰もが見て見ぬふりをしてそこを避けた。もしくは、引き返していた。
涼介自身、桜井を連れている状況で巻き込まれるわけにはいかない。
「桜井さん、戻ろうか?」
その言葉に桜井も頷いた。そして、方向を変えようとした時である。
肚の奥底のアニマが唸り声をあげた。
<登場人物>
■崎山高校
・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生
・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。
・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。
・桜井千沙:高校1年生。同級生
・笹倉亜美:高校1年生。同級生
・小森玲奈:高校1年生
・池下美咲:高校1年生
・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。
・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長
・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。
・上田琴音:高校3年生。生徒会総務
・美馬龍之介:生徒会2年生。生徒会会計
・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査
・古賀星太(ベルゼブブ):高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生
■株式会社神楽カンパニー
・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長
・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス
・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。
・石田:スカウトマン・ヘクトス
・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス
■コロッセオ参加者
・田中一成:予備校生
■特殊武装部隊(十二神将)
・日高司:特殊武装部隊隊長
・名前不明:特殊武装部隊隊員
・花村美咲:特殊武装部隊隊員
・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄
・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員
・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身
・鈴木翔:特殊武装部隊隊員
・名前不明:特殊武装部隊隊員
・名前不明:特殊武装部隊隊員
・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア
・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア
・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア
■不明
・水野七海:日本刀を持つ女
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