第20話_8月4日午前9時ちょっと前

 8月4日日曜日。神尾公園夏祭りの日。

 同級生の高山明の『高校生なんだから、女子と夏祭りを楽しもう』企画。と、昨日、明が企画名をつけていた。その企画実行日。


 まあ、何でもいいけど……


 涼介は、昨日明から届いたメールを見直していた。

 明に言われた通り、朝9時待ち合わせに間に合うようファミレスへ向かった。そのファミレスは学校からも、今日の目的地の神尾公園からも比較的近い位置にある。明にしては、良いチョイスだと思う。だけど、朝9時集合というのが問題だ。女子とは現地で11時に待ち合わせだというのに。

 涼介はあくびをしながら、向こうの方で見えた星太に向って手をあげた。

星太も手をあげ、涼介の隣に並んだ。


 「涼介。わかっているとは思うけど」

 「わかっているよ。人が多いから気をつけろ……だろ?」

 人が集まる夏祭り。下心だけじゃなく、純粋に楽しみに来ている人も多くいる神尾公園夏祭り。

 ただ、涼介や星太と同じように、他のコロッセオ参加者も祭りを楽しみに来ているかもしれない。参加者同士面識がなくても、近づけば身体の中のアニマが騒ぎ、お互いのことに気付いてしまう。鉢合わせた時、何が起きるかわからない。こちらはやる気がなくても、相手がその気になればアニマを顕現するだろう。その時、どうすればよいのか?


 生徒会長の木下の提案により、夏休み中の予定は生徒会メンバー全員で共有することに決定した。これは、有事の際、お互いを助け合うようにするためである。

 神尾公園の夏祭りに行くことを伝えると、生徒会メンバー全員から怪訝な顔をされた。会長からは「関係のない人の前では絶対に戦わないように。絶対にアニマを出さないように」と釘をさされた。


 星太の「わかっていると思うけど」は、絶対にコロッセオ参加者がいても相手にするなということだった。


 「ならいいよ。どんなやつがいるかわからないから、注意していこうな」

 それが星太の返事だった。

 「でも毎日訓練しているから、もし、相手がやる気になっても何とかなるんじゃない?他の人にバレないように逃げるくらい大丈夫でしょ」


 これまでアニマを抑えること、アニマを思い通り動かすことを訓練した。また、戦闘についても星太が相手になってくれた。そして、星太が強いということも知った。


 涼介の言葉に、星太はうーんとうなる。

 「そう思いたいんだけどね。まあ、ヤバいと思ったら無理をしない。特に涼介は有名なんだから」

 「なんだっけ?『ラスボスを退けた唯一の男』だったっけ?」

 その言葉を聞いて星太は笑う。


 涼介は「その異名って、ほんとに効果あるのか?第一、その異名って広がっているのか?まだ、なにも聞いたことないけど」と首を傾げた。

 「まあ、噂って本人の耳には入らないもんだよ。会長ってあんな感じだけど、かなり頭は切れる人だよ。周りにはそういうところを見せないけど、みんなを守るために今回のコロッセオの情報収集だけじゃなく、過去の実績も調べているよ。極秘で行われているはずなのに、どうやって情報を集めているのかはわからないけど」

 「まじで?」

 「うん。会長がコロッセオを壊すって言ってたの覚えてる?」


 涼介は覚えていた。


 「確か、初めて生徒会に連れていかれたときに言ってたよな」

 「そうそう。あれって本気だと思うよ」

 「本気?」

 「うん。会長から教えてもらったんだけど……今回のコロッセオって10回目。これまで9回の大会は、それぞれ優勝者1名を決めているわけで……」

 「……そりゃあ、そうだろ。大会だからな」

 「それと優勝者以外の参加者は、全員意識不明。ほぼ全員そのまま意識が戻らないんだって。おそらく、今回も」

 「え?……」


 涼介は固まった。

 久原が倒した男と喰ったアニマがはっきりと浮かんできた。

 あの後、生徒会メンバーが、久原が倒した男のことをしゃべろうとしなかったのを思い出した。


 星太が言葉を続ける。

 「だからさ。今大会も優勝者以外、目を覚まさない意識不明状態になるわけさ。仮に会長が優勝したとしても、他の生徒会のメンバーが意識不明になったら意味がないって思っている……」

 「コロッセオを壊す……」

 「そう。だから、会長は本気で壊そうとしているみたい。生徒会のメンバーに自分のアニマを食べさせたのは、みんなの生き残る確率をあげるためなんだけど、それだけじゃなくて、会長自身みんなを守るための覚悟でもあるんだ」

 「なるほどね……」

 「多分、コロッセオの全参加者の中で一番弱いのは会長。だけど、会長はコロッセオを壊すヒントをつかんでいる。だから、みんな会長について行くことに決めたんだ」


 涼介は返す言葉が思いつかなかった。

 いつも笑っている生徒会長の木下がそこまで考えて、行動しているとは思っていなかったから……


 星太は気分を変えるために「今日だけでも『ラスボスを退けた唯一の男』って噂だけで、見逃してくれたら楽なんだけどねぇ」と笑った。

 「でも、まあ……涼介に何かあったら、すぐに助けに行くよ」と言葉を付け加えた。



 約束のファミレスに着いた。

 約束の9時ちょっと前だが、熱いのでファミレスの中で待とうと中に入った。目立つ浴衣姿がひとつ。

 浴衣姿の明が席を陣取っていた。

 明は、涼介と星太の姿を見たとたん「なんで浴衣じゃねぇんだよ」と深くため息をついた。

 その後約30分間、明のこの夏祭りというイベントの重要性と意気込みを、暑苦しいパッションを付加されて聞かされることになった。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生


・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。

・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬龍之介:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス



■コロッセオ参加者

・田中一成:予備校生



■特殊武装部隊(十二神将)

・日高司:特殊武装部隊隊長

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・花村美咲:特殊武装部隊隊員

・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄

・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身

・鈴木翔:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア

・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア


■不明

・水野七海:日本刀を持つ女

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