第19話_青春爆発、夏祭り

 同級生の高山明が腕組みをしている。威圧的な雰囲気。

 「なあ、涼介、星太。最近、生徒会で忙しいのは分かるが……おまえら2人、大切なことを忘れていないか?」


 涼介と星太は、明に学校正門前に呼び出された。

 涼介と星太は夏休みに突入しているにもかかわらず、生徒会長の木下に毎日呼び出されて訓練をさせられていたので、ほぼ毎日学校にはいた。

 明は、涼介と星太が生徒会の活動で学校に来ているということは知っており、わざわざ2人に会うために学校まで来たのだ。



 明は顔を近づけてきた。「忘れてないよな?」と。


 涼介は明の肩に手を置き、キメ顔で言う。

 「忘れているわけないだろ、ブラザー。ブラザーのおかげで、俺たちは参加させてもらえるんだぜ。女子との夏祭り。そう、女子との夏祭りだ。青春ど定番。青春爆発。あふれる下心。俺たちだって男だぜ。俺たち高校生男子。こんなチャンスを忘れるわけないじゃないか?」


 明は満足そうに頷く。


 「さすがだ。オレが見込んだだけのことはある。やはり涼介は言われなくても、牙を研ぐタイプなんだな。さすがは我がブラザー。ブラザーを称えよう」


 明は拍手をした。


 「ありがとうブラザー。俺の牙は磨きこんで、すでに名刀レベルだ。名刀信長と呼んでくれ」

 「のぶながぁー」と明は感嘆の声を上げた。


 隣で見ていた星太は「信長は織田でしょ。名刀なら政宗とか、虎徹だろ」とため息をついた。

 涼介は、星太の冷めた目を受け流しながら「じゃあ、名刀信長爆誕ということでいいんじゃねぇ」と笑った。



 星太は知っている。幼馴染だから。

 涼介がテンション高く、早口になっている時は、たいていの場合勢いで乗り切ろうとしている時だ。完全に明との約束を忘れていたに違いない。

 そう思いつつ、星太は助け船を出す。


 「確か、今週の日曜日だよね」

 星太の言葉に、明はさらに満足そうな笑みを浮かべる。

 「ああ、そうだ。8月4日日曜日。朝9時集合な」

 その言葉に涼介が目を丸くする。

 「え?9時?なんでそんなに早いんだ?女子との待ち合わせは11時だろ?」

 涼介の言葉に、明はゆっくりと首を横に振る。

 「涼介。まだまだだな。わかってないわぁ。何事にも入念な準備が大切なんだぜ。しかも、今回は男女4対4だ。いわゆるチーム戦。協力なしではいい成果なんて生まれない。本当は、会議を重ねたいくらいだ」

 「マジで?」

 「ああ、マジだ。高校生活で彼女がいるのと、いないとでは充実度が全然違う。この彼女がいるというステータスは大事だぜ。そして、彼女とイチャイチャしたい」



 ……まあ、そこはわかるけど。

 涼介は、うーんとうなりながら腕を組む。



 明は言葉を続ける。

 「オレは、長い人生のうちのたった3年間しかない高校生活を、燃えるようなものにしたい。後悔のないものにしたいんだ。雑誌とかに書いているのを見たことないか?彼女と一緒に楽しい高校生活って」


 ……どんな雑誌を読んでいるんだ、コイツ?

 涼介は、そう思いながらも「……お、おう」と返事をした。


 隣で聞いていた星太が「まあ明の場合は、高校4年目もありそうだけどね」と小声で言った。

 定期テストの結果が酷かった明は泣きそうな声で「そんなこと言うなよぉ」と今度は星太にじゃれつき始めた。



 明の言葉に、涼介の心を少し重くさせた。

 女子との夏祭りは楽しみだ。明の言う通り、彼女も欲しい。だけど、コロッセオに巻き込まれたという事実を考えると、憂鬱になる。


 ここ最近、参加者の人数が変動しておらず、残り42人のままであった。だが数日前、久原が倒し、アニマを食べる姿が脳裏から離れない。涼介にはこの数字が、自分のアニマが食べられるまでのカウントダウンに見えてしかたがない。


 久原に喰われた相手は、次の日ニュースに出ていた。

 見出しは「路上で意識不明。熱中症注意」だった。

 もちろん、熱中症でないことはわかっている。その後、どうなったのかは報道されていないし、知る手段もなかった。

 そのことについて、生徒会のメンバーは何も口にしなかった。

 聞ける雰囲気でもなかった。



 明とじゃれあっている星太の横顔を見た。いつもの星太にちがいなかった。

 星太には不安がないのだろうかと何度も聞きたくなる。だけど、それを聞くと、何かが壊れそうな気がして、喉元まで出てくる言葉を何度も飲み込んだ。



 明の笑顔がこちらに向く。

 「とにかくだ。8月4日日曜日、朝9時。いつものファミレスに集合。わかったな」

 明は2人に釘を刺した後、学校を後にした。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生


・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。

・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬龍之介:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス



■コロッセオ参加者

・田中一成:予備校生



■特殊武装部隊(十二神将)

・日高司:特殊武装部隊隊長

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・花村美咲:特殊武装部隊隊員

・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄

・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身

・鈴木翔:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア

・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア


■不明

・水野七海:日本刀を持つ女

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