【大喜利を教える】

・【大喜利を教える】


 公園近くのファミレスに入った。

 ファミレスにしては値段設定が高めのファミレスで、普段だったら自分では絶対入らないファミレスだったので、入った時、何だかドキドキしてしまった。

 女子2人に男子1人という構成以上に「ここ、高いファミレスだよな」ということにドキドキしてしまった。

 宇佐がすぐさまドリンクバーを3人分頼み、各々好きなドリンクを持ってきて、宇佐をなんとか俺の対面に座らせて、大喜利の授業を始めた。

「まず大喜利の正統法から教える」

 その言葉にすぐさま反応したのが、ザキユカだった。

「正常位ね」

「何で例えてんだよ、常用する言葉じゃないんだよ。邪魔するな」

 俺は咳払いをして空間を一旦整えてから、

「大喜利の基本はお題の真芯を捉えることだ」

 それに対して宇佐が、

「真芯ですかぁ……そう口で言われてもよく分かんないですね」

「じゃあ例えを出す」

 と俺が言うと、ザキユカが、

「正常位ね」

「その例えはもう二度と言うな。じゃあ大喜利の例えを出すか」

 俺はもうザキユカのことはある程度塩対応して進めることにした。

「俺が昔やったお題で言うと『勢い良くカーテンを開けて一言』というお題があったんだが、ここでお題の真芯を突くにはどうしたらいいと思う?」

 それに対してザキユカが、

「うわっ、クイズ形式にして興味を沸かせようとしてるじゃん」

 いや

「別にそれでやり方は合ってるだろ、嫌な感じに言うな」

 宇佐はう~んと腕組みしながら悩んでから、

「要素が少ないですよね、このお題」

「そうだな、でもその中にも要素は必ずあるだろう」

「えっとぉ、カーテンを開けるということは朝になったということですか?」

「そうそう、あとは外から何か物音が聞こえたから気になって、ということも考えられるな」

 俺がそう言うと、宇佐は手を叩いてから、

「そういう解釈もありますね! なるほど!」

「まあこの辺りの要素を使ってボケることが一番ベターかな、と」

 すると宇佐が目を輝かせながら、

「ちょっと私、一回ボケてみていいですかっ?」

 と言ってきたので、俺は頷いた。

 宇佐は持ってきていたノートをこっちに見られないように隠しながら、字を書き始めた。

 一体どんなボケをするかワクワクしていると、宇佐が、

「できました!」

 と言ったので俺はネタフリとして、

「勢い良くカーテンを開けて一言」

 と言うと、宇佐がテンポ良く喋りだした。

「何かうるさいなぁ、と思ってカーテンを開けて見たら、大蛇に見立てた縄を持って練り歩く祭りをやっていて、私も参加しなきゃと思った!」

 静かな空気が俺たちの周りにだけ流れた。

 ザキユカの顔は引きつっていた。

 俺は師匠らしく、一つ一つ批評していくことにした。

「まずお題を言われてからボケを言い始める時のテンポはすごく良かった」

 それに宇佐は嬉しそうに両手を挙げ、

「わーい! 褒められた!」

 と言った、が、

「褒めるのはここまでだ。ここからダメ出しをする」

 と俺が抑えたトーンでそう言うと、宇佐が、

「むしろそれを待っていました! ウケたとは絶対思っていないので!」

 いい心がけだと思いつつ、俺は語りだした。

「まず長い。大喜利の基本は短く端的に伝えることだ。特に口頭の大喜利は短ければ短いほどウケやすい」

 ここで宇佐がカットインし、

「逆に口頭じゃない大喜利もあるんですか?」

「ネットを使って、文字だけでボケる大喜利というのもあるが、まあ宇佐のやりたいことはそれじゃないから、これ以上の説明は割愛する」

「はい!」

「じゃあ続けるぞ。長いにも繋がる話だが、今の宇佐のボケは説明しすぎている。もっと簡潔に収めてもいいだろう。まずお題で”勢い良くカーテンを開けて一言”と言っているので『カーテンを開けて見たら』とかはいらない」

 それに宇佐はよく頷いている。

 ちゃんと話を聞いているようで、やっぱり宇佐はやる気が満々ではあるんだな、と思った。

 チラリとザキユカのほうを見ると、コーラを飲みながら外を見ていたので、それでいいと思った。

 さて、続けるか。

「大蛇に見立てた縄を持って練り歩く祭りも長い。もしホワイトボードに書くなら、ここは絵にしたほうがいいな」

「ナカテンさん、私、絵は下手なんです……」

 そう言って申し訳無さそうに俯いた宇佐。

 ならば、

「大喜利はパワーワードで押し切るという方法も有効ではある。だからこの部分を『縄大蛇の練り歩き祭り』にしてもいいかもしれない」

 俺のその一言に吹いて笑ってくれた宇佐が、

「それ! 面白いです! 面白いし、何か伝わると思います!」

「大喜利はギリギリ伝わるか伝わらないかのラインを突くといいんだ」

「確かにそうかもしれませんっ、私も大喜利を観戦している時はそういうの好きだったかも!」

「あとはそうだな、これも状況によるが、ボケは一個のほうが笑いやすいということがある。つまりは『私も参加しなきゃ』は蛇足ということだ」

 宇佐は唸り声を上げてから、

「でもナカテンさん、ボケは多いほうが笑わせられる確率が高いんじゃないんですか?」

「それ以上に、ツッコミやすいボケが喜ばれる傾向がある」

「ツッコミやすいってどういうことですか?」

「端的に『逆だろ!』とか『嘘じゃん!』とか心の中でツッコミやすいボケは、受け手のツッコミも合わさって笑いが起きやすいんだ」

 宇佐はまだ分かっているような分かっていないような、といった感じだ。

 俺はもう少し深く切り込む。

「ボケが多いのも決して悪くは無いのだが、やっぱり簡単にツッコめるボケのほうが分かりやすくはあるよな?」

「確かに、分かりやすさはあると思います」

「この口頭の大喜利は分かりやすさも重要で、考えて面白いよりも、すぐに面白いと感じるほうが点数は高くなるんだ。何故なら次のボケがすぐにやって来るから。相手がいない、一人でボケ続けるライブなら考えて面白いのほうがいいかもしれないが、相手のいる競技大喜利の場合は絶対に分かりやすいほうが強い。特にボケてすぐ採点される形式の大会は分かりやすいほうが有効だ」

「つまり考えてもらう時間はそんなに無いということですね」

 俺は強く頷いてから、

「そうだ。そもそも相当な強者と周りが認めていなければ、自分のボケを考えてもらうことも無いからな」

「じゃあ強者のほうが有利なんですか?」

「一概にそうとは言えないが、印象スポーツでもあるから、強者のほうが有利ではあるだろうな。でも人は常に新しいスターの出現を欲しているから、新人だからってウケないわけじゃない」

「それなら安心しましたぁ」

 そう言って胸をなで下ろした宇佐。

 さて、そろそろ総括だな。

「じゃあ最後に宇佐のボケを添削すると……」

 と俺が言ったタイミングで、ザキユカが外を見ながらだが、

「勢い良くカーテンを開けて一言」

 と振ってくれたので、その流れに合わせて、

「案の定、縄大蛇の練り歩き祭りじゃん」

 すると宇佐が笑いながら、

「すごい! 何かちゃんとしたボケっぽくなった!」

 どうやら満足してくれたようで、俺もホッとした。

 あとそうだ、これも言っておくか。

「あくまでお題は『一言』だから、台詞調で終わらせたほうがウケやすいぞ。ここもお題の真芯の一つだ」

「分かりました! ナカテンさん!」

 と会話したところで、ザキユカが、

「じゃあナカテン、オマエの回答を言え。昔のお題を使ったんだからあるんだろうな」

「何か、ちょっとハードル上げるように言うなよ」

「いいじゃん。一応自信のあるボケができたお題を例に使ったんだろ」

「ガンガン、ハードルを上げにくるな。じゃあもう言うから」

 と俺が言うと、今度は宇佐が嬉しそうに、

「勢い良くカーテンを開けて一言!」

 と言ったので、俺は冷静沈着な声で、

「カーテンタイム終了」

 それに宇佐はめちゃくちゃウケてくれて、何かすごい嬉しかった。

 大喜利ライブでウケたことのある回答だけども、改めてここでウケるのもちゃんと心が躍った。

 ザキユカが言う。

「落ち着いた声で言うところも良かったよな、冷徹なキャラが朝を迎えるのってこうなんだって感じがして」

 宇佐はまだ笑いながら、

「短いのに情景が浮かびました! すごいです!」

 ストレートに『すごい』と言われて、何だかテンションが上がってきた。

 と、同時に、師匠ってクソ楽しいな、と思った。

 この調子でもう一ついくか。

「じゃあ次のお題は『カニを食べると無口になる以上に、こうなる』でいくか。この場合の真芯はどこだと思う?」

 宇佐は少し小首を傾げてから、

「やっぱり無口をどう使うかですよね、静かな方向性でいくか、それとも『逆に!』とツッコミやすいボケにするために騒ぐかぁ」

 するとザキユカがこう言った。

「カニを生かしてもいいからな、カニの気持ちを言うこともいいだろう」

「ザキユカのヤツは変化球だから、序盤の回答ではないな。でも後半は『カニが〇〇になる』とかもアリだと思う」

 それに対して宇佐は、

「大喜利っていろんな考え方をしないといけないんですねっ、考えることが楽しいです!」

 ザキユカはフフッと笑ってから、

「じゃあまずボケを考えなっ」

 と言いながら、腰を浮かせて、ドリンクバーのほうへ行った。

 宇佐が考えている間にザキユカが帰ってきて、今回はコーラじゃなくてメロンソーダを持ってきた時点で、ザキユカがかなりドリンクバーを楽しんでいることが分かった。

 宇佐は手を挙げたので、俺はお題を振る。

「カニを食べると無口になる以上に、こうなる」

「エビが喋りだす!」

 ザキユカはなるほどといった感じに頷いた。

 確かに決して悪くないボケではあると思う。

 だが、

「そのボケは最初にするボケではないな」

 俺のこの台詞に宇佐が小首を傾げながら、

「それってどういう意味ですか?」

「基本的に大喜利のライブは一問多答なわけだけども、カニの要素から発展させてエビに持ってくるのは後半に出すボケだなって感じだ」

 それに対して宇佐は驚きながら、

「ボケるにも順番があるんですかっ?」

「厳密には無いが、序盤は分かりやすいボケがウケやすいし、後半は凝ったボケがウケやすい。まあ今の宇佐のボケは分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、最初からエビはいかないほうがいいと思うな」

 するとザキユカが、

「じゃあ今ナカテンが言ったことを意識して、もう1回答してみればいいんじゃね?」

 宇佐はまたノートを隠しながら持ち、うんうんとボケを考え始めた。

 でもなかなか次が浮かばないみたいで、悩んでいると、ザキユカが宇佐のほうに手を伸ばし、

「宇佐ちゃん、ノートとペン貸して」

「あっ、分かりました」

 宇佐はザキユカに一式貸して、すぐさまザキユカは何かをさらさらと書き始めたので、

「カニを食べると無口になる以上に、こうなる」

 と俺がお題を振ると、ザキユカがノートをゆっくりと見せながら、

「偉そうな店員が指図してくる」

 それに宇佐は笑った。

 ザキユカも何だか気分が良さそうに、ノートとペンを返した。

 俺はその様子を黙って見ていると、ザキユカが俺に対して、

「いやナカテンは批評をしろよ」

「俺がザキユカに批評することは違うだろ」

「いや言えよ、今日はそういう会だろ」

「そういう会というわけじゃないんだけどもな」

 と言いつつ、俺は後ろ頭を掻きながら、何を言うか考えた。

 じゃあこれでいくか、

「ザキユカにもキャラというモノがあって、ザキユカは偉そうとかふてぶてしいというキャラがあるんだ」

 それに軽く相槌を打つようにザキユカが、

「まあ実際偉いけどな」

「そんなことないけども」

 と俺は即座に返して、続ける。

「ザキユカは横柄というキャラがあるから、そのキャラに合っているボケをしたんだ。人前で行なう大喜利ライブは、実はネタなんだ。その当人のキャラありきで大喜利を見ているんだ。だからキャラに合ったボケをすると威力が増すんだ」

 それに対してザキユカが、

「まあ筆記の匿名大喜利は純粋にボケだけ見られるけどもな。宇佐ちゃんがやりたい大喜利ライブとかは完全にアドリブのネタって感じだな」

 宇佐は深く頷きながら、

「そうだったんですかぁ」

 と感嘆の息を漏らした。

 俺は言う。

「だから宇佐は自分のキャラを意識したボケを出すといいぞ」

「私のキャラって何ですかね?」

「そりゃウザいところだろう、ガンガンくるとか、しつこいとか、そういうことを意識したほうがいいと思うぞ」

 と言ったところでザキユカが、

「いやハッキリと宇佐ちゃんのことをウザいとディスるなよっ」

 と言って笑った。

 それに対して宇佐は、

「いや! 私にとってもはやウザいは褒め言葉です! ガンガンいけている証拠でカッコイイことなんです!」

 と声を荒らげるとザキユカが、

「こりゃまたウザい反応キタなぁ!」

 と大笑いした。

 何だか照れ笑いを浮かべている宇佐。

 いや全然褒められていないんだけどな。

 宇佐はやっとペンが動いたようで、ノートに書き始めたので、頃合いを見て、

「カニを食べると無口になる以上に、こうなる」

「カニが『美味しかった? 美味しかった?』と聞いてくるので、さらに無口になる!」

 俺は”おっ”と思った。

 割かし悪くない。

 というか良いと思う。

 だから、

「ちゃんとお題の真芯を振り抜いていて良いボケだったと思うぞ」

 とハッキリ言葉にすると、宇佐が喜んだ。

 じゃあこのブロックはこれで終わりかな、と思っていると、ザキユカが、

「最後はナカテンの見本のコーナーだな」

「見本のコーナーというカスの言い方するなよ。まあ一応あるはあるけども」

 それに対して宇佐が、

「是非、拝読させてください!」

「小説みたいな言い方をするな、短いから」

 と言いつつ俺は勝手に宇佐のノートとペンを手に取った。

 宇佐はどうぞどうぞの顔と手をしたので、俺は軽く会釈してから書き始めた。

 ちょうどいいタイミングでザキユカが、

「カニを食べると無口になる以上に、こうなる」

 と言ったので、俺は少し抑えた声のトーンで、

「ウザい幼馴染が『ホント美味しいよね!』と、うるさいが好きだ」

 と答えて、宇佐が笑いながらも目を丸くした。

 笑い終えた宇佐はすぐさま、

「何かそれエモいですね! カッコイイボケだ!」

 と言ったので、すかさず俺はこう言った。

「こういうエモいことを言うこともテクニックとしてはアリだ。詩人というか、そういった感じがウケる時もある。拍手笑いみたいな感じで。意表を突けるというか」

 するとすぐさまザキユカが、

「私は嫌いだけどな、そういうボケは。ボケはちゃんとボケるべきだと思うわ。笑わせることを目的とするべきってな」

「まあこうやって好き嫌いが分かれるボケだから、審査の雰囲気を見極める必要があるけども、会場審査だった場合は意外と有効だったりする」

「そうそう、そういうボケ、会場でウケるから厄介なんだよな、アタシのボケがそういう雰囲気ボケに喰われるんだよ」

「俺に文句を言うなよ、思い出して愚痴るなよ」

 そんな会話すら吸収しようと頷く宇佐。

 本当に大喜利に対しては真面目らしい。

 じゃあここからは俺ができないボケの話をするか。

「俺はしないし、できないし、ウケないんだけども、宇佐ならウケる可能性の高いボケということを今のうちに教えとく」

 と俺が言うと、宇佐は目を輝かせながら、

「そんなボケかたがあるんですか! 教えてください!」

「それは駄洒落ボケだ。駄洒落ボケは可愛げのあるヤツしか使えないボケで、可愛げのあるヤツが駄洒落ボケすると、ほっこりしてウケるんだ」

 それにザキユカも頷きながら、

「マジでそう。これも厄介なんだよな。駄洒落ってバカバカしいからウケることが割とあるし」

 宇佐は何だかニヤニヤしながら、こう言ってきた。

「それってぇ、ナカテンさん! 私のこと可愛いと思っているんですかぁっ?」

「そういうことじゃなくて、一般論として可愛げのあるヤツじゃん。どう考えても宇佐は」

「でもぉ、私が可愛いって言ってることと一緒ですよねぇ?」

 と言いながら体をクネクネさせ始めた宇佐。

 めちゃくちゃウザいスイッチ入れちゃったなと後悔し始めたところで、ザキユカが、

「イチャイチャしたいならアタシ帰るけど」

「いやイチャイチャしたくないから居てほしいという話なんだよ」

「いやでも何かこのままホテル街を歩くテンションじゃん」

「良いホテル無いかなぁ、じゃないんだよ。そういうこと言う時は歩くで止めるなよ、もはや」

 宇佐は口角が目いっぱい上がって、

「ナカテンさん、ハッキリ可愛いとか言っても大丈夫ですよぉ?」

「じゃあ可愛くない、そういう面倒なこと言い出すヤツは全然可愛くない」

「フフッ、何そのナカテンさんの反応。可愛いっ」

 と言ってニッコリ微笑んだ宇佐に、ザキユカが、

「ナカテン、カワイイー」

 と棒読みで言ってきやがったので、ウザいの二連星じゃんと思った。

 まあそんなことは無視して、普通に本題へ切り込むか。

「最後に、宇佐の芸名でも考えるか。素人でもプロでも、むしろ素人のほうが芸名ってあるからな。本名を隠したいから」

「私は大丈夫ですけどねぇ」

「いや実際問題、高校生は芸名を使ったほうが安全だろう。まあ普通にウザナとかマテナとかでいいんだけども」

「それなら今はマテナと呼ばれているんで、マテナにしようかなぁ」

 ここでザキユカがカットインしてきて、

「マテナってどういう意味なん?」

「マテナというのは、私の本名が宇佐アテナで『構ってなぁ』と私がうるさいので、構ってな構ってなでマテナです」

「じゃあ大喜利する前、そういう自己紹介の挨拶があってもいいな、今最後に言ったヤツそのまま言えばいいだけだけど」

「構ってな! 構ってな! ウザくてしつこいマテナです! ……こんな感じですか?」

 そう宇佐が小首を傾げながら言ったので、俺は

「うん、キャッチーで分かりやすいと思う。そういうヤツなんだって伝わるし」

 ザキユカも頷きながら、

「まあ最初にそういうこと言うのがもうウザいし、全部違和感なく成立すると思うな」

 宇佐は嬉しそうに拳を握りながら、

「じゃあこれで決定ですね! やったぁ!」

 ここで妙な大団円感が流れた。

 まだ何も成し遂げていないのに、成功した感じがした。

 あとはまあドリンクバーを楽しみつつ、ちょっと大喜利以外の会話もするか、と思っていると宇佐が、

「ところでナカテンさんは何で中村天丼なんて名前なんですか?」

 そうきたか、と思った。

 でも自然な流れだなと感じたので、真面目に答えることにした。

「まず中村は本名の苗字」

 と言った刹那、すぐさまザキユカが、

「それは分かるわ」

「すぐ言うから黙っててくれ。天丼はお笑いの技術で天丼というのがあることは知っているよな?」

 宇佐というかマテナはニコニコしながら、

「はい! 同じボケを繰り返すことですよね!」

「そう、その天丼をしつこくしても違和感なく、さらにはプラスに感じられるためにそういう名前を付けた」

 と言ったところでザキユカが、

「ズルっ」

 と呟いた。

 いや

「いいんだよ、俺はズル賢くありたいんだから。で、他にも理由があって食べ物の天丼がそこそこ好きなので、売れたら天丼のロケがしたいから、ってとこかな」

 それに対してザキユカが、

「そこそこってなんだよ」

「まあそこそこだな、そんな大好きというわけじゃないけども、三杯くらいなら食べられるから」

「ナカテン、天丼のデカさ舐めんなよ」

「誰目線の台詞なんだよ」

 とボケ・ツッコミしていると宇佐が、

「やっぱりナカテンさんも売れたいんですね!」

 と言ってきたので、俺は少し考えてから、

「まあ大喜利で有名にはなりたいかな、日本一の大喜利プレーヤーになることが夢だから」

「私はナカテンさんのこと応援していますよ!」

「まあ俺は俺で、宇佐……いやマテナの大喜利を応援するけどな」

「あっ! マテナって呼んでくれるんですね!」

 と俺のことを指差しながら言ってきたマテナ。

 いやだって

「芸名で言ったほうがいいだろう」

 と俺は当たり前のように言ったんだけども、マテナは妙に嬉しそうに、両腕をウキウキしているように動かした。

 こんなアニメみたいな動きを本当にするヤツいるんだと思った。

 そのあとは、俺とマテナとザキユカで大喜利の話も、大喜利以外の話もたくさんした。

 ……とは言っても、全部お笑いの話だったけども。

 さて、午後からは早速、フリーエントリー制の大喜利ライブだ。

 マテナの初戦は果たしてどうなるのだろうか、と、ドリンクバーでたぷたぷになったお腹で少し考えた。

 ちなみにマテナは普通にステーキ食ったし、付け合わせのポテトはもらった。

 どんな師匠だよ、と、心の中でツッコんだけども、声には出さなかった。悲しくなるから。

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